2009年10月31日

UEFAがディナモ・ザグレブに重い処分/無観客2試合+EL勝点3没収

ディナモ・ザグレブのサポーター、バッド・ブルー・ボーイズ(BBB)の暴れっぷりに関してはよく話題にしていますが、とうとう強烈なツケをクラブが払わされることになりました。
ヨーロッパ・リーグの対ティミショアラ戦で、BBBがティミショアラ市内とスタジアムで暴れ、131人が逮捕された事件を受け、29日にUEFAの罰則委員会がディナモに対して「この先ホーム2試合は無観客」に加えて「勝点3を没収」という処分を発表しました。
これまでディナモは3試合を終えて勝点3。まだホームでアヤックス戦とティミショアラ戦を残していることを考えれば、現在勝点5で首位に並ぶアンデルレヒトとアヤックスを抜くチャンスがあったのですが、この処分で勝点が0になったことで、グループリーグの敗退は濃厚となりました。3日間のうちに控訴は可能なものの、処分が軽減される望みは薄いとされています。

nogomet-120826.jpgUEFAがこれだけの重い罰則を与えたのも、BBBには多数の前科があるためです。国外に出る度に何かしらのトラブルを引き起こる彼らは、まるで「フーリガニズム」の宣伝カーのような存在。昨年のUEFAカップ・対ウディネーゼ戦では、ウディネ市が試合前に無料で料理とワインを振る舞うなど温かいもてなしをしたのにもかかわらず、試合中に大量の発炎筒を投げ入れて試合を中断させました。その時はUEFAに対してロビー活動したこともあって、処分は1試合の無観客試合+罰金20万ユーロ(この額も過去最高ではありますが)で済んだのですが、「この先3年間に問題を起こしたら、次こそは…」という執行猶予もついておりました。しかしながら、ディナモのフロントに打つ手はなく、ティミショアラでの事件、そして今月22日にはアムステルダム(対アヤックス戦/結果は1-2)でも26人が逮捕されました。

ディナモのディレクターであり、同時にUEFA委員の立場としてロビー活動を行ったダミール・ヴルバノヴィッチ氏も、今回は大きな処分は免れないと覚悟を決めていたものの、蓋を開けたら余りに重い処分に深く嘆いています。
「これほどの処分に私はかなり驚愕している。ティミショアラの事件に関しては全く責任のないクラブにUEFAがここまで罰するとは予想もしていなかった。自分達をディナモのサポーターと呼び、国外に出る度にクラブとクロアチア国家に恥をかかせるようなフーリガンに責任があるのだが…。
これまでUEFAも辛抱してきたが、ティミショアラはコップから水が溢れる最後の一滴となった。残念だ。ディナモを心から愛し、どこでも応援に駆けつけるようなサポーターが95%なのに、そんな彼らが気の毒でならない。少数派のフーリガングループに対して国家が何も押さえることができなかった事実のせいで、サポーターの大多数が我々と一緒に損害を被ることになるのだから」

もちろん、ズドラヴコ・マミッチ副会長のリアクションも予想されたものでした。メディアから処分内容を聞かされると「驚愕だ!」と述べたのち、しばらく言葉を失いました。
「分からない、何を言ったらいいのか分からない…。恐ろしすぎる。全くもって信じられない。そんな罰則は過去に聞いたことがないし、最悪な処分だ」

クルノスラフ・ユルチッチ監督は
「最初に処分内容を聞いた時は全く信じられなかった。処分は予想していたものの、これほど強烈で悲しく、反スポーツ的な罰則になるとは思ってなかった。無観客試合はクラブの存続に関わるが、勝点まで没収されるのならば、"なぜサッカーをやるのか"という問題にまで進展してしまう。
我々はUEFAで良い扱いを受けてないことは以前より知っている。ヨーロッパ・リーグでは、第4審判の(私に対する)振る舞いやその他あらゆる点で、UEFAの扱いの悪さを常に感じていることを言わねばならない」
と不満を述べつつも、
「それでもこの先3試合に勝利できると信じている。私はオプティミストだし、我々全員が望む目標を実現させようと選手に自信を持たせられることを望んでいるよ」
と答えています。

かなり重い処分とはいえ、UEFAはヨーロッパの大会から追放という最悪のカードを引き抜いていません。
nogomet-120827.jpgここ3年間ではフェイエノールト、レギア・ワルシャワ、パルチザン・ベオグラードがサポーターの暴動で一年間の追放処分を受けています。12月2日のアウェーのアンデルレヒト戦で何かしらの対処をしなければ、BBBの過激派は意図的にトラブルを起こす可能性は避けられません。となると、いよいよ一年間のヨーロッパ大会追放処分を受けることになるでしょう。ちなみに1994年のオーゼール戦における暴動で、ディナモは一年ヨーロッパの大会から追放された過去があります。
BBBの中にはマミッチ副会長を好ましく思わないサポーターが多く、フロントが手を加えるのは無理な状況。国家レベルで対処しなければならないのですが、スタジアムの入場禁止や国外移動の禁止をしたところでも、フーリガニズムが一種のモードと考えるような輩が多くて歯止めが利かないのも事実です。人の迷惑も省みずに自己存在を暴力という形でアピールするような、大人に成りきれないガキの集団。「Boys」という響きが本当に陳腐に聞こえます。


posted by 長束恭行 |17:30 | サッカーニュース | コメント(0) |
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2009年10月19日

ザグレブ初勝利がディナモ初敗北~恐るべきシュティマッツ監督の手腕

「ダビデとゴリアテ」。聖書に登場するこの逸話は、小が大を呑む例としてクロアチアでも頻繁に引き合いに出される表現です。国外のビッグクラブと戦う欧州カップの舞台ならば、ディナモ・ザグレブは"少年ダビデ"でありますが、国内リーグの舞台ならば"巨人戦士ゴリアテ"の役回りとなります。開幕から10節で実に9勝1分。得点37に対し失点は4。ダントツの首位で既にリーグ5連覇は堅いとされています。

nogomet-118520.jpg17日、そんなディナモ相手に相対したのが、ザグレブ第二のクラブである「NKザグレブ」(以下、ザグレブ)でありました。戦力を考えれば国内で5本の指に入っても可笑しくないザクレブですが、スパイラル状態で落下してダントツの最下位。その経緯は以前のレポート「泥沼の開幕9連敗~NKザグレブ」を参照して頂きたいのですが、第8節からザグレブを率い始めたイゴール・シュティマッツ監督(写真)の強烈なパーソナリティが負け犬と化したチームを蘇らせつつあります。

10月3日、第10節でリーグ3位のカルロヴァッツ相手にスコアレスドローに持ち込み、勝点1をもぎ取ると、シュティマッツ監督は代表活動のリーグ中休みを利用して8日間の合宿を敢行しました。場所はボスニア・ヘルツェゴビナのメヂュゴリエ。聖母マリア出現の町として知られ、バチカンに承認されなくとも多くのカトリック信者が訪れる土地でありますが、信者向けの宿泊施設が多くあるのと温暖な気候から、サッカーチームの合宿地としてもよく使われています。シュティマッツ監督は超ハードな練習を選手達に課し、徹底的に鍛え上げました。新加入のブラジル人DFジェフトンは「三日間の休みが欲しい」と漏らしたところ、「ならばブラジルに帰るか?」と脅すシュティマッツ監督。選手達は戦う集団として生まれ変わっていました。

一方のディナモは国内組の主力をごっそりA代表・U-21代表の活動に引き抜かれ、クルノスラフ・ユルチッチ監督にとってはほぼ無益な二週間となりました。今週木曜日にはヨーロッパ・リーグでアヤックス・アムステルダムと対戦。このザグレブ戦はアヤックス戦のスパーリングと位置づけ、普段の4-4-2ではなく、アヤックス戦を想定した4-2-3-1の布陣で挑みました。しかしながら、罠がしっかりと待っていたのです。

nogomet-118521.jpgディナモが攻撃的なタレントを並べたオフェンシブな4-2-3-1ならば、ザグレブはワントップのヴグリネツも含めて守備に奔走するディフェンシブな4-2-3-1。とりわけ中盤を密集させることで、コンビネーション・サッカーを標榜するディナモのパスコースを遮断します。ミドルシュートを警戒すべく、ザグレブのダブルボランチはしっかりとバイタルエリアでブロックを築き、ボールを奪えばリスクを考慮し、ロングボールを前に蹴り出すリスク少ないカウンター攻撃に転じました。
「ヨーロッパリーグでディナモと戦ったアンデルレヒトのやり方はコピーしたんだ。選手達にはビデオは何回となく見せた。今日の朝もね」
ディナモvs.アンデルレヒト戦は、守り一辺倒のアンデルレヒトに散々苦しんだ挙句、最後はディフェンスの集中が切れてディナモが0-2で敗れ去った試合です。策士であり、リアリストなシュティマッツ監督ならではの手法でありました。もちろん、試合はスペクタルな内容から程遠いのですが、アンデルレヒトはディナモに決定機を許したのに対し、ザグレブは一度も決定機を作らせることなく守り切ります。私はザグレブのゴール裏でカメラを構え、ディナモが攻め込むシーンを待っていたのですが、一向にカメラのファインダーに選手が入って来ません。それほど完璧な守備ブロックをザグレブを引いていることを体感し、私自身は飽きることなく新鮮な感動を覚えたものでした。

しかし、ホームでスコアレスドローに終わるつもりがないザグレブは一発必中のチャンスを狙います。
nogomet-118522.jpgディナモのSBクフレが負傷でピッチの外に出ていた60分、MFユーゴヴィッチが中盤の底からクフレのいない右サイドへとオーバーラップしたSBツェリャクにパスを通すと、ツェリャクはGKとDFの間へと綺麗にグラウンダークロス。そこには老獪なベテラン、ヴグリネツが。滑り込みながらのシュートは左へと吸い込まれます。
今年で34歳となった元クロアチア代表のダヴォール・ヴグリネツ(写真左)は、若い選手の多いザグレブにおいて精神的なリーダーです。2006~2008年にはディナモに所属し、逆境に立たされた時こそゴールを決めてきた彼ですが、昨年、年齢を理由にあっさりと放出してしまいました。
「ディナモ相手に決めるゴールは最も気分の良いものだね」
彼のクロアチア・リーグで記念すべき100ゴール目は、そんな恩知らずのディナモに対する復讐と言えるものでしょう。

nogomet-118523.jpgけれども、ザグレブには試練が続きます。67分、DFオルシュリッチが接触プレーで倒れたものの、ディナモはプレーを続けたため、ボールを持つクフレに対してクルスタノヴィッチが背後からタックル。それでクルスタノヴィッチが一発レッドで退場に追い込まれます。近くで見ていたのですが、オルシュリッチはエンドラインの外で倒れていたのにもかかわらず、試合を中断させようと身体を回転させ、ペナルティエリアへと転がり込み、審判に試合ストップをアピールしました。それほどザグレブの選手達は勝負にこだわった、という証拠です。両チームが揉み合う中、シュティマッツ監督(写真右)がどやどやとピッチ内に入ってきたことで、審判はシュティマッツ監督に対しても退場を宣告します。
そんな状況下でもロスタイム4分を含めた27分間、ザグレブは難なくディナモの猛攻を防ぎ切りました。今季のザグレブ初勝利が、ディナモの初敗北。試合が終わってグラウンドへと現れたシュティマッツ監督に選手達が抱きつきに行く光景が非常に印象的でありました。
「俺だったらビリッチと違って、もっと選手に厳しく接する。合宿中に選手が宴会するなんて起こりえない」
と語っていたシュティマッツですが、いずれはクロアチア代表監督を目指す彼としては満点でテストに合格したとも言えましょう。
(試合のダイジェスト動画はこちら)

シュティマッツはハイドゥクの中枢を担った人物としてディナモにおける天敵であり、かつディナモのズドラヴコ・マミッチ副会長とは犬猿の仲であるわけですが、ディナモ相手の勝利はシュティマッツ監督にとって最高の味でした。
「クロアチアで最も自分は幸せな人間だと思うよ」
nogomet-118524.jpg試合後にそう勝利を噛み締めるシュティマッツ監督は、かつてのクロアチア代表のチームメイトであるディナモのユルチッチ監督に対しての配慮も忘れず、
「この試合を前に一番辛い立場だったのはユルチッチだ。ディナモのみならず、クロアチア・サッカー界にとって非常に重要なアヤックス戦を前にして、選手達にモチベーションを植えつけることは本当に難しかったはずだ。でも私はディナモがアヤックスに素晴らしい戦いをやってくれるものだと信じている」
と語りました。ディナモの敗北はリーグ優勝の行方を左右するものではないにしろ、精神的なダメージは必至。修正能力は高いユルチッチ監督がどこまで選手個々に自信を持たせ、アヤックスに挑んでいくかが興味深いところです。過去は二度に渡ってアヤックス・アレーナで勝利しているディナモ。今度はディナモがダビデとなる番です。

「今のザグレブにとっては精神的なバリアを破ることが最重要なんだ。最初の勝利は実現した。今からは楽観的にシーズンの続きを見ることができるよ」
ヴグリネツがそう語るように、これから本当のザグレブの復活劇が始まっていくことでしょう。


posted by 長束恭行 |18:09 | サッカーニュース | コメント(2) |
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2009年10月17日

クロアチアU-21代表レポート(後編)/誇るべきセルビア戦の勝利

クロアチアU-21代表のレポートの後半です。

クロアチアとセルビアの対戦会場となったのは、ヴァラジディンのヴァルテクス・スタディオン。戦争当事国である両国の憎しみの深さは改めて語る必要性はないでしょうが、戦地とならなかったヴァラジディンでさえも未だに憎しみは消えないようです。
セルビアのサポーターは来ないと事前に聞いていたものの、試合数時間前、一人でセルビア代表のジャケットを着て街中を歩いていた男性がクロアチア・サポーターに襲われる事件が発生しました。そしてスタジアムでは観客は3000人に留まったとはいえ、彼らの多くが試合中にセルビアに向けた汚いコールを続けたのです。
nogomet-118054.jpg戦争終結から14年が経ち、随分と時代は変わりました。クロアチアの海岸リゾートにはセルビアからの観光客も戻って来るような時代です。しかしながら、戦争をリアルタイムで知らず、セルビア人と接したこともない世代が「死ね、セルビア人」と叫ぶのを見ると、ステレオタイプな憎しみが次の世代に伝播していくことに悲しみさえ覚えます。ましてやこの世代は、誰に対しても敬意を払うことを知らない若者ばかりですから。
試合前、クロアチア・サッカー協会でU-21担当のドラゴ・カタレニッチ氏はこう強調していました。
「セルビアとの試合は特定のリスクを抱えている。最後にセルビアで試合をした時(2005年)、我々は礼儀にかなった迎え方をされた。セルビア人は我々に対して適切な振る舞いをしてくれただけに、我々の側もそうであって欲しいと願っている。サポーターには大きな応援を期待しているが、相手に対する侮辱をせずに正しい応援をして欲しい。クロアチア人がバルカン人でないことを示して欲しいんだ」
バルカン・コンプレックスが根強いクロアチア人は、やっぱりプリミティブなバルカン人であることを試合で証明してしまいました。バックスタンドには「許しはしないぞ(NEMA OPROSTA)」の横断幕(写真)。サポーター法の成立を進めるクロアチアの首相ヤドランカ・コソル、そしてクロアチア五輪委員会は試合後に声明を出し、「もしこのような反スポーツ的な行動があったならば、新たな法律の下では試合を中断し、スタンドを空にする」と警告しています。

nogomet-118055.jpg話がサッカーから逸れてしまいました。クロアチアとセルビア(新ユーゴスラビア、セルビア・モンテネグロ時代を含む)がU-21世代で直接対決するのは5度目で、これまでの通算成績はクロアチアの1勝1分2敗。直近はプレーオフで戦った2005年です。モドリッチ、エドゥアルド、チョルルカ、ヴコイェヴィッチ、最後はA代表のクラニチャールまでも投じた戦いでしたが、ビリッチ監督がヘルニアの手術で指揮が取れなかったこともあり、1-3、1-2と敗れてしまいました(詳しくは過去の記事にて)。
セルビアとクロアチアではそのサッカースタイルに差があります。中盤を支配下に置きながら、アタッキングサードでは個々のひらめきに頼るのがクロアチアだとすると、足元でショートパスを通しながら鋭いカウンターや速いクロスで手数を掛けずに攻め込むのがセルビアです。スロベニア、ボスニアにもそれぞれのスタイルがあり、「東欧のブラジル」と呼ばれた時代は他民族国家ならではのものでしょう。しかし、このボーダーレスの世の中、スタイルを一括りで語れないのも事実でありますが。

nogomet-118056.jpgこの試合もクロアチアがボールポゼッションで上回りました。開始3分、ヤヤロが右サイドからクラマリッチとのワンツーを加えてドリブルで突進。相手の守備網を抜け、ペナルティエリアでもDFを交わしてシュートを放ちますが、GKの正面に終わります。
7分にはヤヤロの左CKはクリアされるものの、逆サイドからの放り込みにペシリッチが倒れ込みながら高さのあるボレーシュート。これもGK正面に終わりますが、ペリシッチのポテンシャルが伺えるプレーでした。ペリシッチ(写真)のプレーを初めて生で見ましたが、運動量もあれば闘争心も強く、球際の強さが目立ちました。187cmと身長も高く、ヘディングの競合いも強し。これから精度と経験値を高めていけば、恐るべきトップ下もしくはセカンドトップになれる逸材だと思います。
パスミスを中心にちぐはぐな攻撃が目立ったセルビアでしたが、10分にトミッチの左CKからスレイマニがニアで合わせるものの、ボールはわずかに右ポストを逸れていきます。クロアチアの弱点はセットプレーでの守備。失点ケースはセットプレーによるものが多く、この場面では上背の無いスレイマニに二人で行きながらも競り負けてしまいました。
もう一つのクロアチアの弱点はボール運び。時間が経つにつれて中盤で単純なパスミスが頻繁に起こり、互いに苦しい展開になりますが、32分に試合が動きます。ヤヤロからボールをもらったオレムシュがドリブルで右から中央に切れ込むと、利き足とは逆の左足を一閃。20mのミドルシュートは左ネットに突き刺さり、クロアチアが先制点を奪います。
これをきっかけにクロアチアはゲームを支配し、38分にもヨジノヴィッチの左の折り返しにペシリッチがシュート。これは相手DFのミラノヴィッチに寸前でブロックされましたが、好印象で前半を終えました。
(前半のダイジェスト動画はこちら)

nogomet-118057.jpg後半序盤もクロアチアがゲームを支配します。開始直ぐのセットプレーでオレムシュ(写真)のヘディングシュートはGKに防がれたものの、51分、バデリが右のスペースに展開したボールがエンドラインを割りそうなところをオレムシュが追いつき、滑り込みながらのクロス。セルビア守備陣が足が止まったところをクラマリッチが巧みにボールを受け、GKをかわしてシュートを流し込みます。これで2-0とリードを広げました。
このままで引き下がれないセルビアは53分にMFリャイッチを投入。既に46分にFWアレクシッチを投入していたセルビアは、62分にも最後の攻撃カードとしてMFタディッチを送り込みます。積極的な交替の甲斐もあって、69分、タディッチの右クロスに逆サイドのリャイッチがワンタッチで折り返し、中央からトミッチがボレーシュートを決めて1点差に縮めます。トミッチは得点後、バックスタンドのクロアチア・サポーターに向けてマシンガンを打つような挑発ポーズを見せたためにスタンドは更に殺伐とした雰囲気になりました。
nogomet-118058.jpgそんな雰囲気がピッチにも伝染したのか、75分にオレムシュが両足でボールを奪った際のタックルが危険と判断され、二枚目のイエローで退場。マン・オブ・ザ・マッチ級の活躍だったオレムシュの退場で、クロアチアは瀬戸際に追い詰められます。
しかしながら、選手達は動揺することなく体勢を立ち直し、83分、ヨジノヴィッチのパスをペナルティエリア左でもらった途中交替のリュビチッチ(写真上)が左足でシュート。強くはなかったものの、ここしかないコースでボールはネットに吸い込まれて3-1。これで勝負が決まりました。
クロアチアは貴重な勝点3を奪い、セルビアを上回って2位に浮上。まだまだ予選は来年9月まで続きますが、チームの士気を高める大きな勝利を収めました。
(後半のダイジェスト動画はこちら)

タイムアップ後は選手達と歓喜の輪に加わるも、さほど表情は崩れなかったラディッチ監督(写真)は
「ここぞという時間帯に男らしいプレーをしてくれた選手達を誇りに感じている。チームが集合した最初の瞬間から勝利者たる雰囲気を感じていた。自分たちが優れたチームであることは知っていたし、強い相手にこれほどのプレーをしてくれたことには特別に満足しているよ。とりわけ(ワールドカップ敗退が決まる)クロアチア・サッカー界での気まずい雰囲気の中で、このような勝利が収められたのだから」
と会見で喜びを見せました。翌日のインタビューでは
nogomet-118059.jpg「この勝利は私の監督キャリアで最も嬉しく、最も大きい勝利だ。別にセルビアに勝利したからというわけではない。我々が置かれている状況、つまり注目の外に置かれた状況下での勝利だったからだ。うちの選手達はもっと注目に値すべきはずだった」
は無関心な世論にチクリとやり、
「なるべく早く選手を集めて、一緒にトレーニングする必要がある。彼らがA代表を背負っていくことも避けられないからね。今のグループ以外に選手が出てくる場所などなく、どのレベルで彼らがA代表に連れて行かれるかが問題だ」
と、自らのチーム作りに対してA代表からの横槍が入ることも牽制しました。それと同時に「A代表に値する選手がうちには5人いる」と誇らしげにラディッチ監督は語っています。

クロアチアA代表がワールドカップ予選に敗れた今、続投を表明したビリッチ監督は「95%は今のままで行く」と語りましたが、今のチームにU-21代表から新たな血を入れていくのは間違いありません。ペシリッチ、バデリ、ヤヤロなどは時間の問題でしょう。しかしながら、ビリッチとラディッチのコミュニケーションが希薄な中、これまで選手の取り合いを巡ってトラブルが生じてきたのも事実。今回もDFロヴレンを巡って両者の綱引きが繰り返されました(カタール戦後にU-21代表に戻されるはずが、最終的には戻されず)。
ここはもう一度、両監督がしっかりと話合い、代表強化にとって優先すべき事柄を整理していくべきだと思います。U-21代表が軽視される傾向をまず無くし、A代表入りさせるしても誰に経験を積ませ、誰を即戦力として計算していくか、等々。もちろん、U-21代表のステータスを上げるためにも、ラディッチ監督のU-21代表は7年ぶりの欧州選手権の本大会に進ませなければなりません。クロアチアのユース世代の落ち込みは激しく、U-19代表は2000年を最後に、U-17代表も2005年を最後にそれぞれの欧州選手権に進んでいないという事実があります。

ラディッチ監督はこうも訴えます。
nogomet-118060.jpg「U-21代表が本大会に進めないことは、もう極限に達してきた。これはU-21代表だけでなく、U-19代表、U-17代表にとっても同じ話だ。そういった世代が本大会に進めない状況下で、我々U-21代表が輝くなんて期待はできない。A代表が強くなるのも期待できなければ、ユース代表からA代表に選手を送り込むことも期待できないのだよ。全てが繋がっているのだから。
各代表で働く私達コーチ全員、そしてクラブで働く監督達はもっともっと働かねばならない。最後に本大会に進出した日から余りにも時間が経ちすぎた。どこで間違えているかは明白だ。長年に渡って本大会に進めていないという結果は偶然ではないんだよ」

おっしゃる通り。ラディッチ監督にとってみれば「勝てば官軍」でしょうが、セルビア戦を視察に来ていたディナモのスポーツディレクター、ゾラン・マミッチはこう皮肉を語りました。
「所属クラブの指導ぶりが悪いのかどうか、たった今、ラディッチに聞いてやってくれ。キプロスに負けた時はクラブのせいにしていたのだから。今は何を言うんだろうね」


posted by 長束恭行 |16:36 | サッカーニュース | コメント(0) |
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2009年10月17日

クロアチアU-21代表レポート(前編)/模索したラディッチ監督の3年間

ここしばらくはクロアチアのA代表に関する話題が続きましたが、久しぶりにクロアチアのU-21代表に関する話題を取り上げましょう。ちょっと長くなるので、前半と後半に分けます。

nogomet-117988.jpg現在、2011年にデンマークで開催されるU-21欧州選手権の予選が行われています。ちなみにクロアチアは2004年ドイツ大会に出場した以降、3大会続けて本戦出場を逃しています。個人的にはクロアチアが出場した2000年スロバキア大会を現地観戦、また2004年ドイツ大会を現地取材してきたこともあり、この世代への関心は少なからずあったのですが、いかんせん、ここ最近のユース代表は全世代を通して冴えない結果ばかりで取材の範疇外となっていました。まずはここ最近のU-21代表事情を説明していきます。

90年代のクロアチア代表の絶対なる守護神だったドラジェン・ラディッチ(写真)が、スラヴェン・ビリッチから引き継ぐ形でU-21代表の監督に就任したのは2006年8月。ビリッチは選手達にとって兄貴分となるタイプであるのに対し、ラディッチは父権を振りかざすかのように直ぐに苦言を呈するタイプ。世界どこでも同じでしょうが、クロアチアの若者の間でもモラルが低下しており、ラディッチはそんな世代格差に悩まされ、振り回された3年間でした。
nogomet-117989.jpgMFシャルビーニは2007年に脱走事件、2008年に無断で合宿所に現れない事件を引き起こし、FWマンジュキッチとGKロンチャリッチも2007年に合宿所を抜け出して酒盛りをやり、スピード違反で捕まるという事件を引き起こしました。
もちろん彼らはチームから追放されたのですが、シャルビーニやマンジュキッチ、またU-21代表参加をしばしば拒否してきたカリニッチらを、ビリッチが飛び級でA代表に呼んでしまったがために、ビリッチとラディッチの関係は急速に悪化。両者が直接に連絡を取り合うことはなく、本来あるべきA代表とU-21代表の連携はないとされています。
またディナモ・ザグレブやハイドゥク・スプリトは偽りの怪我で選手をU-21代表に送らないことも頻繁にあり、それにラディッチがマスコミを通して批判を展開。ディナモとハイドゥクの幹部との関係も宜しくありません。今年3月のモンテネグロとの親善試合(結果は1-1)の試合後、
「選手達の個々の能力は素晴らしいのだが、彼らには一つ問題がある。所属クラブの指導ぶりが悪いということだ。だから彼らはここ最近、クラブでの出場機会がなく、それがこの代表にとって大きな問題となっている」
とおおっぴらに公言。これには各クラブから反発が生まれました。しかしながら、クラブに然り、選手達に然り、U-21代表を軽視している事実は大きな問題だと言えます。この傾向に関してはニコ・クラニチャールは
「ユース代表であろうとも、クロアチア代表のユニフォームを着てプレーするのは名誉でもあるのに、僕には召集を断る理由がさっぱり分からない」
と釘を刺しています。

今回の予選はセルビア、スロバキア、ノルウェー、キプロスと同組。今年6月7日、初戦となるキプロス戦がホームのコプリヴニッツァで行われたのですが、ディナモやハイドゥクの選手の怪我もあってベストメンバーが組めず、0-2で敗北。キプロスはこのグループで最弱と考えられただけに、ラディッチ監督には多くの批判が集まりました。
しかしながら、9月5日、アウェーのノルウェー戦ではディナモとハイドゥクのメンバーを中心にキプロス戦のスタメンから6人を入れ替え、3-1と見事な勝利。選手達は国際的に無名ながら、所属クラブでスタメンを張るようになり、ようやくラディッチ監督も満足するチームが誕生したのです。

そして今月13日、ホームのヴァラジディンにクロアチアが迎えたのが、隣国のセルビアでありました。
nogomet-117990.jpgセルビア・モンテネグロ時代を含め、セルビアU-21代表は欧州選手権本戦をここ3大会連続出場。うち2回は準優勝と、この世代における欧州の強豪の一角へと成長し、同じユーゴの国ながら若手育成の点では大きく差を広げられています。チームにはアヤックスのFWミラレム・スレイマニ(写真右)、チェルシーのMFネマニャ・マティッチ(写真左)、また来季からマンチェスター・ユナイテッドに加入するMFアデム・リャイッチといったタレント揃い。
しかし、そんなセルビアも今回の予選では苦戦しており、初戦のホームのスロバキア戦を1-2で落とすと、アウェーのノルウェー戦では終了間際のゴールで辛うじてゴールを拾って1-0。ホームのキプロス戦は2-0と勝利を収めており、現在はスロバキアに次いでグループ2位に付けています。試合前、ラトミール・ドゥイコヴィッチ監督はA代表がワールドカップ出場を決めたことに触れ、
「セルビアは高揚感に満ち溢れ、全土が満足感からトランス状態に陥っている。それがうちの選手達にとって新たな刺激、信用、モチベーションとなっているのは明らかだ」
と自信を覗かせました。セルビアのスタメンは以下のようになりました(4-4-2)。
GKダニロヴィッチ-(右から)DFステヴァノヴィッチ、ヨヴァノヴィッチ、ミラノヴィッチ、グラン-MFボサンチッチ、フェイサ、トミッチ、マティッチ-FWスレイマニ、ぺロヴィッチ

一方のクロアチアのラディッチ監督は
「紙の上ではセルビアが我々よりも強いチームだし、その事実から逃げるつもりはない。けれども事実と野心は別のものだ。彼らがここ3回連続して欧州選手権に出場して2度の準優勝を果たしたこと、我々と違ってセルビアU-21代表がA代表と同じ扱いを受けていることも、実際にゲームが始まれば意味をなさない。うちの選手達は個人能力でセルビアの選手達よりも劣っていないと私は確信している。たとえセルビアU-21代表の7人が国外でプレーしている事実があるといってもね」
と強気な姿勢を見せました。
しかしながら、今回、ラディッチ監督はチームのテコ入れとしてブラックバーン所属のFWニコラ・カリニッチに直接電話で召集の説得をしたものの、本人の調整不足とA代表としてのプライドが重なってか、あっさりと拒否されてしまいました。
nogomet-117991.jpgそんな中、新たに呼ばれた戦力は、MFイヴァン・ペリシッチ(20・写真)。彼については3月に「クロアチアのニュー・ジダンことMFイヴァン・ペリシッチ」として記事を書きました。シーズン終了後、所有権を持つソショーからクラブ・ブルージュに移籍。ブルージュでもレギュラーとして活躍し、ゴールも決めているペリシッチにラディッチ監督は沈黙を続けるどころか、「今必要なのはFWであり、攻撃的MFのペシリッチは必要ない」とさえ言い切りました。しかし、カリニッチの説得に失敗したことで、ラディッチ監督はようやく重い腰を上げました。2006年のU-19代表以来、3年ぶりのクロアチア代表のユニフォームを着るペシリッチは
「僕は3年間待っていたんだ。長い3年間だった。とうとう僕の願いが通じたんだよ」
と喜びを隠しません。合宿は途中参加となったペシリッチですが、いきなり練習試合の後半出場でハットトリックを達成。正真正銘の戦力であることを証明し、セルビア戦でもトップ下で起用されました。

nogomet-117997.jpg4-2-3-1のシステムでワントップに入るのはディナモのアンドレイ・クラマリッチ(18・写真)。ディナモの将来を背負うゴールゲッターとして大事に育てている有望株です(彼に関しても過去に「ディナモの18歳FWクラマリッチ、鮮烈の初ゴール」で取り上げています)。
左MFはクロアチアとスロベニアのハーフで、今年になってクロアチア代表を選択したマリボル所属のデヤン・シュコルニク(20)。右MFはスピードを活かしてハイドゥクでもレギュラーに定着しつつあるミルコ・オレムシュ(21)。ボランチには攻撃センスを備えた選手を並べました。一人はディナモで活躍するミラン・バデリ(20)、もう一人は今季スラヴェン・ベルーポからセリエAのシエーナに移籍し、このチームで主将を務めるマト・ヤヤロ(21)。
最終ラインの左SBにはハイドゥクからザダールにレンタル中のゴラン・ヨジノヴィッチ(19)。右SBにはスピードに定評のあるディナモ所属のイヴァン・トメチャク(19)。CBは高さのあるハイドゥクのマリオ・マロチャ(20)とトミスラフ・バルバリッチ(20)。本来ならば一角にはディナモのデヤン・ロヴレン(20)が入るのですが、彼はA代表に召集されました。そしてGKは出場機会を求めてディナモからロコモティーバにレンタル中のイヴァン・ケラヴァ(21)。
国際的に無名な選手ばかりとはいえ、クロアチア・リーグを追っている側としては、彼らが一つのチームとしてどう機能するのか、格上のセルビア相手にどこまでやれるか気になるところ。カメラマンの取材申請をして、ザグレブからバスで2時間弱のヴァラジディンへと向かったわけでした。

試合に関しては、後半にてレポートします。


posted by 長束恭行 |01:53 | サッカーニュース | コメント(3) |
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2009年10月16日

スラヴェン・ビリッチ、クロアチア代表監督続投を表明

16日、クロアチア・サッカー協会の記者会見がザグレブのホテル・シェラトンで行われ、スラヴェン・ビリッチがクロアチア代表監督を続投、コーチ陣も揃って続投することが発表されました。当初は退任会見になると推測されたことから、この発表は喜ぶべきサプライズとして迎えられています。

会見でビリッチは
nogomet-117943.jpg「我々が将来もベンチに座るかどうかは、次の4つの事柄に左右された。我々コーチ陣の願望、選手の支持、クロアチア・サッカー協会の支持、そして国民の支持だ。
カザフスタン戦で選手達はコーチ陣に忠誠心を誓ってくれたし、今日の午前にはサッカー協会が我々の残留を希望してくれた。信じられないほどの国民の支持も感じている。とりわけ、予選最後の試合が終わった後にはね。
我々コーチ陣の願望に関して疑うことはない。なぜならこの選手達のグループを絶対的に信用しているからだ。全員に対する信用、モチベーション、モラル的な義務を私達は持っているんだ。それだけに代表の指揮を続けることに決めたのさ」
と続投の理由を答えました。次のユーロ予選ではチームに新たな変化を求めていくのか、との質問には
「ワールドカップ予選では目標は満たされなかったとはいえ、大きな変化を求めていかないつもりだ。もちろん、ある選手は代表ユニフォームと別れを告げるかもしれない。しかし、理性に基づいて我々は今回の予選を分析していくつもりだ」
と述べています。

また今回のワールドカップ予選の敗退に関しては
「不成功に終わったと言わねばならない。けれども常に我々は世界のトップクラスに位置している(現在のFIFAランクは8位)。予選のスタートから多くの怪我人とハンデキャップを抱えてしまい、敗退することとなった。しかしながら、イングランド戦を除けばどの試合でも我々は相手を上回っていたんだ」
と弁解しています。

サッカー協会の最高委員会の承認を受けたのち、ビリッチ並びにコーチ陣は新たな2年契約を結ぶことになります。この決定に大喜びしているのはきっと選手達で、屈辱をバネに次のユーロ2012に向けて全力を尽くすことになるでしょう。
ロベルト・コヴァチが代表引退し、追放したシムニッチとクリジャナッツの取扱など守備陣の再編・構成が大きな課題となりますが、しばらく時間もあるので予選敗北の分析をしっかりと進め、次の予選に向けて準備を進めて欲しいところです。ちなみにビリッチは「95%はこれまでと同じ路線で行く」と述べています。


posted by 長束恭行 |22:13 | サッカーニュース | コメント(3) |
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