2011年06月01日
クロアチアに続いて隣国セルビアの国内リーグが終了。スポンサーのビール会社を冠にした「イェレン・スーペル・リーガ」はパルチザン・ベオグラードの連覇に終わりました。私が取材したのは最終節(第30節)「ヴォイヴォディナvs.ツルヴェナ・ズヴェズダ」。勝点が67で並ぶ両クラブは直接対決で2位の座を争いました。
なぜ2位の座が重要かというと、ヨーロッパ・リーグ予備戦の参戦ラウンドが異なるため。2位になれば予備戦三回戦(7/28,8/4)、3位になれば予備選二回戦(7/14,7/21)からスタートします。二週間の差はシーズン準備再開までの休暇の長さにも直結するため、選手にとっても勝ち負けは重要。ズヴェズダのホーム試合では2-2のドローだったことから、ヴォイヴォディナは「0-0」「1-1」でも2位が確定します。大いに盛り上がった最終節を写真と共にレポートします。
セルビア風の三本指ピースをするヴォイヴォディナ・ユースの子供達。
ヴォイヴォディナはセルビア共和国内にある自治共和国で、あらゆる民族が占領・移住を繰り返したころから「人種のるつぼ」になっています。同じ自治共和国だったコソボと違い、セルビアと離れなかったのはセルビア人が国民の半数を占めるため。国内の主要民族を大きく分けると10、細分化すると28も数えられ、民族間の結婚も当然のように行われたことから「○○人」と断定するのは極めて困難です。「ここは民族的に寛容な土地なのさ」-地元の人がそう語ってくれたように、日本人の私に対し、スタジアムで汚い言葉を掛ける人はおらず、何かと愛想を振る舞ってくれました。
ズヴェズダの監督、ロベルト・プロシネチュキ。
今季のセルビア・リーグで最もセンセーショナルな話題となったのが、プロシネチュキのズヴェズダ監督就任でしょう。クロアチア人の父とセルビア人の母の間に生まれ、現役時代はズヴェズダの欧州制覇に貢献した彼とはいえ、ユーゴ崩壊後はクロアチア代表を選択しました。それでもズヴェズダの関係者やサポーターはかつての英雄を熱狂的に迎え、名門ズヴェズダの復活に向けて邁進中。宿敵パルチザンを一時は追い上げ、3年ぶりの勝利を収めたものの、リーグもカップも優勝に手が届きませんでした。彼の名前がスタジアムで読み上げられた時、ズヴェズダのサポーター「デリエ」だけでなく、スタジアム全体から拍手が送られる、なんて光景も。昨年末に私はプロシネチュキにインタビューしており、キックオフ直前にベンチへ向かう彼を撮影していると、笑顔で私の頭を撫でていきました。
ヴォイヴォディナのラトコ・ブトロヴィッチ会長。
見ての通り、奇抜なファッションが特徴の名物会長です。モンテネグロ人の彼はあらゆるビジネスで財をなし、財政難に苦しむヴォイヴォディナの会長に2006年就任。モンテネグロ元大統領ジョカノヴィッチの親戚であり、同時に黒い繋がりも噂される彼は、2008年に審判買収で逮捕されるなど幾分と問題を起こす人物であるものの、クラブが抱えていた借金を返済させ、古豪復活の野望を燃やしています。エキセントリックな面があり、相手選手の胸倉を掴むこともあれば、先日のパルチザンのカップ戦決勝では二度の誤審で84分にチーム引き上げを認めたことも。ただ、関係者曰く、本人は好漢らしいです。
ヴォイヴォディナのサポーター「フィルマ」
北側のゴールを裏を占めるのが、熱狂的なサポーター「フィルマ」。1989年に結成された"会社"という意味のグループで、ズヴェズダの「デリエ」、パルチザンの「グロバリ」と並ぶサポーター組織です。ただし、両クラブに顕著なフーリガニズムやレイシズムとは距離を置き、掲げられる横断幕も「玉葱とベーコンを食べる俺はヴォイヴォディナのサポーターだ」というシニカルな言葉が書かれています。
キックオフ。バックスタンドにはズヴェズダのサポーター「デリエ」が構える。
試合が行われた2011年5月29日は、ズヴェズダがチャンピオンズ・カップ(現在のチャンピオンズ・リーグ)を制覇してからちょうど20周年。昨年はそのチームが「第六星人」としてクラブで表彰され、プロシネチュキがセレモニーに出席したのがきっかけで両者が再接近しました。デリエは、ビッグイヤーを手にする選手達を描いた横断幕と「チャンピオン」の文字を掲げました。
オーバーヘッドを試みるヴォイヴォディナのFWウマル。
セルビア・リーグで顕著なのが、ブラックパワーの台頭です。今季10ゴールとヴォイヴォディナで最多得点のアブバカル・ウマル(24歳)もその一人。カメルーン人の彼は、2009年に中国の深圳からズヴェズダに加入すると、翌年はOFKベオグラード、そして今季はヴォイヴォディナに移籍し、ここでブレイクしました。ディナモ・ザグレブが視察に訪れたものの、来季は中東のクラブに引き抜かれるという噂です。
FWブラナ・イリッチ(左)の突進を食い止めるズヴェズダの17歳、スルジャン・ミヤイロヴィッチ(右)。
立ち上がりから主導権を握るヴォイヴォディナ。その中でも最も危険な選手は、左サイドからドリブルを繰り返すイリッチでした。13分にズヴェズダの右ストッパー、ミラン・ヴィロティッチが頭を負傷して退場すると、彼の代わりを務めたのがボランチからシフトしたミヤイロヴィッチ。ユースだった彼を見出したのがプロシネチュキで「ズヴェズタの未来」と期待を寄せ、ほとんどの試合で起用してきました。この瞬間もイリッチの突破するところを背後から上手くクリアしました。
ズヴェズダのトレーナーとマフラーを燃やすフィルマの面々。
前半はデリエがヴォイヴォディナのマフラーやTシャツを燃やす光景があったのですが、後半は逆にフィルマがやり返す場面。互いに相手チームのグッズを準備しているのはさすがです(笑)
このカードはベオグラード・ダービーに続く危険なダービーとされ、カラジョルジェ・スタディオン内外の警備も厳重体制が取られました。スタジアム周辺一キロ圏内は、試合の前後3時間でアルコール販売禁止。代表戦のジェノバ暴動も相成ってUEFAはセルビア・サポーターを問題視しているため、セルビア警察はあらゆる手で暴動を阻止する体制を取っています(実際にこの試合も暴動は起こらず)。反目する両サポーターですが、このほど逮捕されたボスニア紛争におけるセルビア人戦犯ラトコ・ムラディッチのコールだけは一緒に行っていました。
ズヴェズダの先制点を決めたMFダルコ・ラゾヴィッチ。
4-3-3のバルサシステムを採用するズヴェズダで、ガーナ人のイサフ、ブラジル人のカドゥと中盤でトライアングルを形成するのが20歳のラゾヴィッチ。17歳でプロデビューし、18歳にはA代表デビュー。2009年からズヴェズダで活躍する彼は、柔らかいボールタッチが特徴の旧ユーゴ系譜を継ぐMFです。54分、左サイドからカルジェロヴィッチ、イェフティッチから繋がれたボールを右からシュートを叩き込み、ズヴェズダに先制点をもたらしました。
71分、アンドリヤ・カルジェロヴィッチが追加点を決め、選手を祝福するプロシネチュキ監督。
後半のズヴェズダはパスが繋がり、綺麗に相手守備を崩す場面が増えてきました。勝利を決定付ける追加点はカウンターから。最後はFWイェフティッチからスルーパスを受けたFWカルジェロヴィッチがゴール。パルチザンのイリエフと並ぶ13得点で初のリーグ得点王に輝きました。選手達が次々とベンチのプロシネチュキ監督に向かっていくのが印象的でした。
発煙筒が原因で炎がシートに燃え移る。
ズヴェズダが2点目を決めた直後、デリエが炊いた発煙筒をシートに置いたがため、周囲のシートにも炎が燃え移りました。待機する消防車は動かず、鎮火を待つのみ。カラジェルジェ・スタディオンはこの5月にU-17欧州選手権の決勝会場となり、スタンドも綺麗に整備されていたのですが、相手サポーターの不始末で損害を被っていました。
試合が終わり、サポーターに挨拶するヴォイヴォディナの選手達。
ホームで11勝3分と負けなしを続けていたヴォイヴォディナでしたが、最後の最後で決戦を落としてしまいました。それでも今季はリーグで首位パルチザンに2戦2勝、カップ戦でもファイナリストになるなど素晴らしい一年を過ごしました。その強さの秘密は16失点という堅いディフェンス。昨年の親善試合「日本vs.セルビア」でもスーパーセーブを魅せたGKジェリコ・ブルキッチ(24)は、この試合を最後にウディネーゼに移籍するため、フィルマとの別れを惜しんでいました。
試合後、ヴォイヴォディナの関係者の方々と飲む機会がありました。長くヴォイヴォディナを追う記者の方がこう述べていました。
「いつもズヴェズダとパルチザンが我々の前にいる。またして三番手に終わるのが悔しいんだ」
しかし、酒の席はしみじみすることなく、次へと切り替えます。
「まあいいさ。来季はヨーロッパの戦いもあるし、10日後には新たな照明塔も2台立つからな」
強豪がひしめいたユーゴラスラビア時代は二度のリーグ優勝にも輝いたヴォイヴォディナ。セルビア・リーグで王者パルチザンの五連覇を食い止めるのは彼らか、それともプロシネチュキ率いる新星ズヴェズダか。「判官贔屓」をしがちな日本人の私としては、今後はヴォイヴォディナを応援しようと思います。
posted by 長束恭行 |21:19 |
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2011年05月26日
クロアチア・リーグ最終節に続いて取材したのが、25日のクロアチア・カップ決勝第二戦「ヴァラジディンvs.ディナモ・ザグレブ」。前回報じたリトアニア・カップ決勝と同様、今回もフォトレポートと参りましょう。
重さ25kgもある優勝カップ「ラブジンの太陽」。
イヴァン・ラブジン(1921~2008)はクロアチアを代表するナイーブアートの芸術家で、試合会場となったヴァラジディン出身。淡いタッチで描く彼の自然画は日本でも知られ、宝塚劇場の緞帳を制作したことがあります。クロアチア・カップは1992年に第1回が行われ、今年が第20回。これまで10回に渡ってディナモが「ラブジンの太陽」を頭上に掲げています。
ヴァラジディン市内にあるサポーター「ホワイトストーンズ」の落書き。
人口4万人余りのヴァラジディンを支えるアパレルメーカー「ヴァルテクス」が経営に行き詰まり、地元のサッカークラブ「NKヴァルクテス・ヴァラジディン」にスポンサー料を納められなくなったことから、経営陣は52年間掲げてきた「ヴァルテクス」の看板を下ろし、昨年6月に「NKヴァラジディン」と名称を変更しました。これにはサポーターグループの「ホワイトストーンズ」が反発。愛着あるヴァルテクスの名称を取り戻すべく、応援ボイコットを続けています。
話をするディナモ副会長ズドラヴコ・マミッチとクロアチア代表監督スラヴェン・ビリッチ。
あらゆる要人が集まるのが決勝戦。クロアチア・サッカー界の中心人物となるこの二人も現れました。マミッチ副会長はMFサミールとGKケラヴァの代表召集をビリッチ監督に働きかけているとも言われ、前日にも2時間ほど話をしたよう。それぞれに面識のある私は、ピッチ上で彼らに見つけられるや大きく手を振られました。観客は3500人。
ヴァラジディンの選手達。バックスタンドにはサポーターによる名称変更の抗議の横断幕が。
ヴァラジディンはスポンサー難で経営が苦しく、選手は6ヶ月に渡って給与が貰えていません。準決勝でチバリア・ヴィンコヴチを下し、ファイナリストと共に来季のヨーロッパ・リーグ進出も決めた直後には、選手達が給与を催促するため練習をボイコットする、なんて事件も起きました。
そんな悪環境にもかかわらず、今季のヴァラジディンは次々と若い選手が台頭。ほとんどが20歳前後のユース上がり。それに昨季得点王のFWダヴォール・ヴグリネツ(36)、主将を務める司令塔ニコラ・シャファリッチ(30・一番右)といったベテランが帰還しています。
開始6分、ヴァルテクスが先制。得点はシャファリッチ。
スピーディーな攻撃サッカーを展開し、今季のクロアチア・リーグでも王者ディナモと二度の引き分けを演じたヴァラジディン。しかし、二週間前に行われたアウェーの決勝第一戦は前掛かりになった分、守備でミスが連発。「1-5」と大敗してしまいました。
エースのヴグリネツは負傷でベンチスタート。スタメンの平均年齢が21歳と若いヴァラジディンですが、試合開始と共に相手陣内に襲い掛かります。6分、左サイド20mの位置からシャファリッチがFKを蹴り込むと、GKケラヴァのまずい処理も手伝い、ボールがネットに吸い込まれました。
「右サイドの矢」イヴァン・トメチャク(左)が何度も突破を仕掛ける。
クロアチア代表で怪我人が続出し、このほど追加召集ながらクロアチア代表に初選出されたディナモのMFトメチャク(21歳)。スピードと積極性に優れたサイドアタッカーで、ローマも関心を寄せる逸材です。昨年に悩まされた内転筋と腹壁の負傷も克服。同じく代表のSBヴルサリコと組む右サイドはディナモが圧倒します。
後半62分、ディナモが追いつく。ゴールはアルゼンチン人SBイバネス。
先制点を奪われた前半、二度に渡ってシュートがクロスバーに叩かれたディナモ。守備的な相手にはとことん苦戦するものの、攻撃サッカーを信奉するヴァルテクスは真っ向に挑んでくれたことから、いつも以上にゴールチャンスが生まれます。ただし、同点弾は意外な形からでした。62分、30mの距離からイバネスがFKを思い切り蹴ると、ヴァラジディンの壁の作り方が甘かったこともあって隙間を抜け、反応に遅れたGKクルクレッツの手元でバウンドしてネットに突き刺さりました。
ブルレチッチ(左)をチェックするバデリ(右)。
ディナモのキャプテンマークをつけるMFミラン・バデリ(22歳)は、国外クラブの注目を浴びる存在です。この日はミラン、アーセナル、シャルケ、エバートン、シャフタールといったクラブがスカウトを送り込んでおり、クロアチア代表に名を連ねる彼もチェック対象。シーズン前半は右MFで使われて不調に陥りましたが、得意なボランチに固定されてからは復調。相手の攻撃を積むだけでなく、あらゆる好機を演出しました。逆転ゴールは70分、ゴール前にこぼれたボールをバデリが押し込みます。
選手からユニフォームをねだるバッド・ブルー・ボーイズ(BBB)たち。
ディナモは82分、MFサミールのクロスにFWベチライが押し込んで3-1。トータルスコア8-2という大差でカップ戦優勝を決めました。マミッチ副会長を敵視するBBBはボイコットを決め込んでいるものの、中にはボイコット不支持派もいて、150人ほどのBBBが駆けつけました。「せっかく応援に来てやったんだから、お土産ぐらい寄越せ」というのが彼らのスタイルで、試合後もユニフォームをこうしてねだっていました。
シャンパンを浴びるディナモの選手達。
メダルが首に掛けられたあと、「ラブジンの太陽」がキャプテンのバデリに手渡されると、ムードメーカーのGKケラヴァがシャンパンの瓶を振り回します。写真を撮る側としては逃げ回るしかありません…。リーグ戦優勝のセレモニーは少し遠慮がちな選手達も、この試合が今季最後のためにテンションが高めでした。
「ラブジンの太陽」を中心に。
これでディナモは11度目のカップ戦制覇。逆にヴァラジディンは6度目の決勝も準優勝に終わりました。リーグとカップの二冠を制したディナモが改めてその強さを見せつけた一年。ハリルホジッチ前監督との違約金問題も解決し(残り一年半の年俸破棄)、監督代行を務めたコーチのマリオ・トットも監督続投を希望すれど、昨年までディナモを指導したクルノスラフ・ユルチッチを新監督に迎えることがほぼ決まっています。
リーグ優勝とカップ優勝は当たり前。今のディナモはチャンピオンズ・リーグ出場、もしくは欧州カップ冬越しという目標を掲げ、新たな補強を進めています。もちろん、一年を平穏に乗り越えられるかどうかはマミッチ副会長の堪忍袋次第、というところです。
posted by 長束恭行 |20:41 |
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