2011年06月01日

フォトレポート/セルビア・リーグ最終節「ヴォイヴォディナvs.ツルヴェナ・ズヴェズタ」

クロアチアに続いて隣国セルビアの国内リーグが終了。スポンサーのビール会社を冠にした「イェレン・スーペル・リーガ」はパルチザン・ベオグラードの連覇に終わりました。私が取材したのは最終節(第30節)「ヴォイヴォディナvs.ツルヴェナ・ズヴェズダ」。勝点が67で並ぶ両クラブは直接対決で2位の座を争いました。

なぜ2位の座が重要かというと、ヨーロッパ・リーグ予備戦の参戦ラウンドが異なるため。2位になれば予備戦三回戦(7/28,8/4)、3位になれば予備選二回戦(7/14,7/21)からスタートします。二週間の差はシーズン準備再開までの休暇の長さにも直結するため、選手にとっても勝ち負けは重要。ズヴェズダのホーム試合では2-2のドローだったことから、ヴォイヴォディナは「0-0」「1-1」でも2位が確定します。大いに盛り上がった最終節を写真と共にレポートします。

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セルビア風の三本指ピースをするヴォイヴォディナ・ユースの子供達。 ヴォイヴォディナはセルビア共和国内にある自治共和国で、あらゆる民族が占領・移住を繰り返したころから「人種のるつぼ」になっています。同じ自治共和国だったコソボと違い、セルビアと離れなかったのはセルビア人が国民の半数を占めるため。国内の主要民族を大きく分けると10、細分化すると28も数えられ、民族間の結婚も当然のように行われたことから「○○人」と断定するのは極めて困難です。「ここは民族的に寛容な土地なのさ」-地元の人がそう語ってくれたように、日本人の私に対し、スタジアムで汚い言葉を掛ける人はおらず、何かと愛想を振る舞ってくれました。
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ズヴェズダの監督、ロベルト・プロシネチュキ。 今季のセルビア・リーグで最もセンセーショナルな話題となったのが、プロシネチュキのズヴェズダ監督就任でしょう。クロアチア人の父とセルビア人の母の間に生まれ、現役時代はズヴェズダの欧州制覇に貢献した彼とはいえ、ユーゴ崩壊後はクロアチア代表を選択しました。それでもズヴェズダの関係者やサポーターはかつての英雄を熱狂的に迎え、名門ズヴェズダの復活に向けて邁進中。宿敵パルチザンを一時は追い上げ、3年ぶりの勝利を収めたものの、リーグもカップも優勝に手が届きませんでした。彼の名前がスタジアムで読み上げられた時、ズヴェズダのサポーター「デリエ」だけでなく、スタジアム全体から拍手が送られる、なんて光景も。昨年末に私はプロシネチュキにインタビューしており、キックオフ直前にベンチへ向かう彼を撮影していると、笑顔で私の頭を撫でていきました。
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ヴォイヴォディナのラトコ・ブトロヴィッチ会長。 見ての通り、奇抜なファッションが特徴の名物会長です。モンテネグロ人の彼はあらゆるビジネスで財をなし、財政難に苦しむヴォイヴォディナの会長に2006年就任。モンテネグロ元大統領ジョカノヴィッチの親戚であり、同時に黒い繋がりも噂される彼は、2008年に審判買収で逮捕されるなど幾分と問題を起こす人物であるものの、クラブが抱えていた借金を返済させ、古豪復活の野望を燃やしています。エキセントリックな面があり、相手選手の胸倉を掴むこともあれば、先日のパルチザンのカップ戦決勝では二度の誤審で84分にチーム引き上げを認めたことも。ただ、関係者曰く、本人は好漢らしいです。
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ヴォイヴォディナのサポーター「フィルマ」 北側のゴールを裏を占めるのが、熱狂的なサポーター「フィルマ」。1989年に結成された"会社"という意味のグループで、ズヴェズダの「デリエ」、パルチザンの「グロバリ」と並ぶサポーター組織です。ただし、両クラブに顕著なフーリガニズムやレイシズムとは距離を置き、掲げられる横断幕も「玉葱とベーコンを食べる俺はヴォイヴォディナのサポーターだ」というシニカルな言葉が書かれています。
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キックオフ。バックスタンドにはズヴェズダのサポーター「デリエ」が構える。 試合が行われた2011年5月29日は、ズヴェズダがチャンピオンズ・カップ(現在のチャンピオンズ・リーグ)を制覇してからちょうど20周年。昨年はそのチームが「第六星人」としてクラブで表彰され、プロシネチュキがセレモニーに出席したのがきっかけで両者が再接近しました。デリエは、ビッグイヤーを手にする選手達を描いた横断幕と「チャンピオン」の文字を掲げました。
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オーバーヘッドを試みるヴォイヴォディナのFWウマル。 セルビア・リーグで顕著なのが、ブラックパワーの台頭です。今季10ゴールとヴォイヴォディナで最多得点のアブバカル・ウマル(24歳)もその一人。カメルーン人の彼は、2009年に中国の深圳からズヴェズダに加入すると、翌年はOFKベオグラード、そして今季はヴォイヴォディナに移籍し、ここでブレイクしました。ディナモ・ザグレブが視察に訪れたものの、来季は中東のクラブに引き抜かれるという噂です。
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FWブラナ・イリッチ(左)の突進を食い止めるズヴェズダの17歳、スルジャン・ミヤイロヴィッチ(右)。 立ち上がりから主導権を握るヴォイヴォディナ。その中でも最も危険な選手は、左サイドからドリブルを繰り返すイリッチでした。13分にズヴェズダの右ストッパー、ミラン・ヴィロティッチが頭を負傷して退場すると、彼の代わりを務めたのがボランチからシフトしたミヤイロヴィッチ。ユースだった彼を見出したのがプロシネチュキで「ズヴェズタの未来」と期待を寄せ、ほとんどの試合で起用してきました。この瞬間もイリッチの突破するところを背後から上手くクリアしました。
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ズヴェズダのトレーナーとマフラーを燃やすフィルマの面々。 前半はデリエがヴォイヴォディナのマフラーやTシャツを燃やす光景があったのですが、後半は逆にフィルマがやり返す場面。互いに相手チームのグッズを準備しているのはさすがです(笑) このカードはベオグラード・ダービーに続く危険なダービーとされ、カラジョルジェ・スタディオン内外の警備も厳重体制が取られました。スタジアム周辺一キロ圏内は、試合の前後3時間でアルコール販売禁止。代表戦のジェノバ暴動も相成ってUEFAはセルビア・サポーターを問題視しているため、セルビア警察はあらゆる手で暴動を阻止する体制を取っています(実際にこの試合も暴動は起こらず)。反目する両サポーターですが、このほど逮捕されたボスニア紛争におけるセルビア人戦犯ラトコ・ムラディッチのコールだけは一緒に行っていました。
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ズヴェズダの先制点を決めたMFダルコ・ラゾヴィッチ。 4-3-3のバルサシステムを採用するズヴェズダで、ガーナ人のイサフ、ブラジル人のカドゥと中盤でトライアングルを形成するのが20歳のラゾヴィッチ。17歳でプロデビューし、18歳にはA代表デビュー。2009年からズヴェズダで活躍する彼は、柔らかいボールタッチが特徴の旧ユーゴ系譜を継ぐMFです。54分、左サイドからカルジェロヴィッチ、イェフティッチから繋がれたボールを右からシュートを叩き込み、ズヴェズダに先制点をもたらしました。
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71分、アンドリヤ・カルジェロヴィッチが追加点を決め、選手を祝福するプロシネチュキ監督。 後半のズヴェズダはパスが繋がり、綺麗に相手守備を崩す場面が増えてきました。勝利を決定付ける追加点はカウンターから。最後はFWイェフティッチからスルーパスを受けたFWカルジェロヴィッチがゴール。パルチザンのイリエフと並ぶ13得点で初のリーグ得点王に輝きました。選手達が次々とベンチのプロシネチュキ監督に向かっていくのが印象的でした。
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発煙筒が原因で炎がシートに燃え移る。 ズヴェズダが2点目を決めた直後、デリエが炊いた発煙筒をシートに置いたがため、周囲のシートにも炎が燃え移りました。待機する消防車は動かず、鎮火を待つのみ。カラジェルジェ・スタディオンはこの5月にU-17欧州選手権の決勝会場となり、スタンドも綺麗に整備されていたのですが、相手サポーターの不始末で損害を被っていました。
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試合が終わり、サポーターに挨拶するヴォイヴォディナの選手達。 ホームで11勝3分と負けなしを続けていたヴォイヴォディナでしたが、最後の最後で決戦を落としてしまいました。それでも今季はリーグで首位パルチザンに2戦2勝、カップ戦でもファイナリストになるなど素晴らしい一年を過ごしました。その強さの秘密は16失点という堅いディフェンス。昨年の親善試合「日本vs.セルビア」でもスーパーセーブを魅せたGKジェリコ・ブルキッチ(24)は、この試合を最後にウディネーゼに移籍するため、フィルマとの別れを惜しんでいました。 試合後、ヴォイヴォディナの関係者の方々と飲む機会がありました。長くヴォイヴォディナを追う記者の方がこう述べていました。 「いつもズヴェズダとパルチザンが我々の前にいる。またして三番手に終わるのが悔しいんだ」 しかし、酒の席はしみじみすることなく、次へと切り替えます。 「まあいいさ。来季はヨーロッパの戦いもあるし、10日後には新たな照明塔も2台立つからな」 強豪がひしめいたユーゴラスラビア時代は二度のリーグ優勝にも輝いたヴォイヴォディナ。セルビア・リーグで王者パルチザンの五連覇を食い止めるのは彼らか、それともプロシネチュキ率いる新星ズヴェズダか。「判官贔屓」をしがちな日本人の私としては、今後はヴォイヴォディナを応援しようと思います。


posted by 長束恭行 |21:19 | サッカーニュース | コメント(0) |
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2011年05月26日

フォトレポート/クロアチア・カップ決勝~ディナモが二冠達成

クロアチア・リーグ最終節に続いて取材したのが、25日のクロアチア・カップ決勝第二戦「ヴァラジディンvs.ディナモ・ザグレブ」。前回報じたリトアニア・カップ決勝と同様、今回もフォトレポートと参りましょう。

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重さ25kgもある優勝カップ「ラブジンの太陽」。 イヴァン・ラブジン(1921~2008)はクロアチアを代表するナイーブアートの芸術家で、試合会場となったヴァラジディン出身。淡いタッチで描く彼の自然画は日本でも知られ、宝塚劇場の緞帳を制作したことがあります。クロアチア・カップは1992年に第1回が行われ、今年が第20回。これまで10回に渡ってディナモが「ラブジンの太陽」を頭上に掲げています。
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ヴァラジディン市内にあるサポーター「ホワイトストーンズ」の落書き。 人口4万人余りのヴァラジディンを支えるアパレルメーカー「ヴァルテクス」が経営に行き詰まり、地元のサッカークラブ「NKヴァルクテス・ヴァラジディン」にスポンサー料を納められなくなったことから、経営陣は52年間掲げてきた「ヴァルテクス」の看板を下ろし、昨年6月に「NKヴァラジディン」と名称を変更しました。これにはサポーターグループの「ホワイトストーンズ」が反発。愛着あるヴァルテクスの名称を取り戻すべく、応援ボイコットを続けています。
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話をするディナモ副会長ズドラヴコ・マミッチとクロアチア代表監督スラヴェン・ビリッチ。 あらゆる要人が集まるのが決勝戦。クロアチア・サッカー界の中心人物となるこの二人も現れました。マミッチ副会長はMFサミールとGKケラヴァの代表召集をビリッチ監督に働きかけているとも言われ、前日にも2時間ほど話をしたよう。それぞれに面識のある私は、ピッチ上で彼らに見つけられるや大きく手を振られました。観客は3500人。
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ヴァラジディンの選手達。バックスタンドにはサポーターによる名称変更の抗議の横断幕が。 ヴァラジディンはスポンサー難で経営が苦しく、選手は6ヶ月に渡って給与が貰えていません。準決勝でチバリア・ヴィンコヴチを下し、ファイナリストと共に来季のヨーロッパ・リーグ進出も決めた直後には、選手達が給与を催促するため練習をボイコットする、なんて事件も起きました。 そんな悪環境にもかかわらず、今季のヴァラジディンは次々と若い選手が台頭。ほとんどが20歳前後のユース上がり。それに昨季得点王のFWダヴォール・ヴグリネツ(36)、主将を務める司令塔ニコラ・シャファリッチ(30・一番右)といったベテランが帰還しています。
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開始6分、ヴァルテクスが先制。得点はシャファリッチ。 スピーディーな攻撃サッカーを展開し、今季のクロアチア・リーグでも王者ディナモと二度の引き分けを演じたヴァラジディン。しかし、二週間前に行われたアウェーの決勝第一戦は前掛かりになった分、守備でミスが連発。「1-5」と大敗してしまいました。 エースのヴグリネツは負傷でベンチスタート。スタメンの平均年齢が21歳と若いヴァラジディンですが、試合開始と共に相手陣内に襲い掛かります。6分、左サイド20mの位置からシャファリッチがFKを蹴り込むと、GKケラヴァのまずい処理も手伝い、ボールがネットに吸い込まれました。
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「右サイドの矢」イヴァン・トメチャク(左)が何度も突破を仕掛ける。 クロアチア代表で怪我人が続出し、このほど追加召集ながらクロアチア代表に初選出されたディナモのMFトメチャク(21歳)。スピードと積極性に優れたサイドアタッカーで、ローマも関心を寄せる逸材です。昨年に悩まされた内転筋と腹壁の負傷も克服。同じく代表のSBヴルサリコと組む右サイドはディナモが圧倒します。
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後半62分、ディナモが追いつく。ゴールはアルゼンチン人SBイバネス。 先制点を奪われた前半、二度に渡ってシュートがクロスバーに叩かれたディナモ。守備的な相手にはとことん苦戦するものの、攻撃サッカーを信奉するヴァルテクスは真っ向に挑んでくれたことから、いつも以上にゴールチャンスが生まれます。ただし、同点弾は意外な形からでした。62分、30mの距離からイバネスがFKを思い切り蹴ると、ヴァラジディンの壁の作り方が甘かったこともあって隙間を抜け、反応に遅れたGKクルクレッツの手元でバウンドしてネットに突き刺さりました。
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ブルレチッチ(左)をチェックするバデリ(右)。 ディナモのキャプテンマークをつけるMFミラン・バデリ(22歳)は、国外クラブの注目を浴びる存在です。この日はミラン、アーセナル、シャルケ、エバートン、シャフタールといったクラブがスカウトを送り込んでおり、クロアチア代表に名を連ねる彼もチェック対象。シーズン前半は右MFで使われて不調に陥りましたが、得意なボランチに固定されてからは復調。相手の攻撃を積むだけでなく、あらゆる好機を演出しました。逆転ゴールは70分、ゴール前にこぼれたボールをバデリが押し込みます。
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選手からユニフォームをねだるバッド・ブルー・ボーイズ(BBB)たち。 ディナモは82分、MFサミールのクロスにFWベチライが押し込んで3-1。トータルスコア8-2という大差でカップ戦優勝を決めました。マミッチ副会長を敵視するBBBはボイコットを決め込んでいるものの、中にはボイコット不支持派もいて、150人ほどのBBBが駆けつけました。「せっかく応援に来てやったんだから、お土産ぐらい寄越せ」というのが彼らのスタイルで、試合後もユニフォームをこうしてねだっていました。
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シャンパンを浴びるディナモの選手達。 メダルが首に掛けられたあと、「ラブジンの太陽」がキャプテンのバデリに手渡されると、ムードメーカーのGKケラヴァがシャンパンの瓶を振り回します。写真を撮る側としては逃げ回るしかありません…。リーグ戦優勝のセレモニーは少し遠慮がちな選手達も、この試合が今季最後のためにテンションが高めでした。
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「ラブジンの太陽」を中心に。 これでディナモは11度目のカップ戦制覇。逆にヴァラジディンは6度目の決勝も準優勝に終わりました。リーグとカップの二冠を制したディナモが改めてその強さを見せつけた一年。ハリルホジッチ前監督との違約金問題も解決し(残り一年半の年俸破棄)、監督代行を務めたコーチのマリオ・トットも監督続投を希望すれど、昨年までディナモを指導したクルノスラフ・ユルチッチを新監督に迎えることがほぼ決まっています。 リーグ優勝とカップ優勝は当たり前。今のディナモはチャンピオンズ・リーグ出場、もしくは欧州カップ冬越しという目標を掲げ、新たな補強を進めています。もちろん、一年を平穏に乗り越えられるかどうかはマミッチ副会長の堪忍袋次第、というところです。


posted by 長束恭行 |20:41 | サッカーニュース | コメント(1) |
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2011年05月23日

亡霊が制したリーグ/クロアチア・リーグ全日程終了

慣れ親しんだクロアチアに取材で戻ってきました。"帰国"翌日の最初の試合はクロアチア・リーグ最終(第30)節「ディナモ・ザグレブvs.スプリト」。試合後にリーグ優勝セレモニーが準備されていたのにもかかわらず、喜ぶ選手達と相反してスタジアムは白け気味に終わりました。最後を勝利で飾れなかったのも一因ですが、ディナモ内部でうずめいていたマグマが爆発し、大団円とは程遠い終わりを迎えてしまったからです。

nogomet-240194.jpg第26節のオシエク戦でリーグ6連覇を決めたにもかかわらず、ヴァヒド・ハリルホジッチ監督(写真)の首が危ういことは以前のレポートで紹介しました。事件が起きたのは次節5月6日のインテル・ザプレシッチ戦のハーフタイム。ホームの試合でシュートにすら持ち込めないチームの不甲斐なさに怒ったズドラヴコ・マミッチ副会長が、ドレッシングルームへと乱入を図ります。ハリルホジッチ監督に対して「選手達に活を入れさせてくれ」と懇願するも、介入を事嫌うハリルホジッチ監督から袖にされてしまうと、マミッチ副会長は烈火の如く怒り、「お前の母親を~」という定番の罵り言葉を吐きかけてしまいました。これにはハリルホジッチ監督も激しく反応し、一説には両者が揉みあったとも。選手の元へと戻ったハリルホジッチ監督は「これが私にとって最後の試合だ」と述べ、勝利後(1-0)の記者会見には出ることなく、スタジアムを去ってしまいました。

事件から3日後、両者がそれぞれ記者会見を行い、ハーフタイムでやり合った事実はお互いに認めたものの、「もうお前は監督じゃない」と解釈して"解任"されたと主張するハリルホジッチと、「もう辞める」と解釈して勝手に"辞任"したと主張するマミッチ副会長と見解が食い違います。クラブによる解任ならばハリルホジッチは残る一年半の年俸(135万ユーロ)を手にしますし、自発的辞任ならば違約金は発生しません。就任当初のマミッチ副会長はハリルホジッチを絶賛してきたものの、強烈な二人の個性が共存するのは難しく、物別れも時間の問題でした。

nogomet-240196.jpg物別れのきっかけになったのが、昨年12月のヨーロッパ・リーグ最終節の「ディナモvs.PAOK(ギリシャ)」戦。勝利すればディナモにとって念願だった41年ぶりの欧州カップ冬越しを実現したにもかかわらず、氷結したピッチで敗れたのはハリルホジッチの戦術選択ミスと捉えられました。国内二冠と来季のCL本大会出場に向けたチーム作りに照準を改めたものの、「1-0」ばかりで終わる試合結果にメディアが叩き始め、ハリルホジッチは神経質になっていきます。
また、マミッチ副会長が溺愛するブラジル人MFサミール(写真)がシーズン後半に不調を極め、相次ぐ夜遊びに我慢し切れないハリルホジッチが彼を冷遇したのも対立の一因でした。パリSJ監督時代にはロナウジーニョの夜遊びで頭を痛め、最後には放出したハリルホジッチにとって規律やルールは当然のこと。しかし、年内にサミールを高く売却して利益を得たいマミッチ副会長との間に溝は深まるばかり。更にハリルホジッチがフランスのメディアに対し、ディナモの契約を切ってでも"帰国"の未練を語ったことも問題視されました。マミッチ副会長が裏で糸を引いてハリルホジッチに対するネガティブキャンペーンを創り出し、そしてハーフタイムの事件に繋がったのが真相です。

nogomet-240199.jpg「奴と協力し合うのは無理だ。我々はこの9ヶ月間、ハリルホジッチの執事みたいなものだった。奴の仕事ぶりは賞賛されるのに、奴自身は選手やフロントの誰一人も受け入れようとしない。これじゃ単なる奴のワンマンショーだ。この春、ディナモはプレーもなければ、チームもなかった。今のディナモは没落したクラブだ」
と、2時間にも及ぶ記者会見で演説したマミッチ副会長(写真)ですが、高額な違約金を払いたくがないため解任の事実は否定。"職場拒否"中のハリルホジッチの代わりに、アシスタントコーチのマリヨ・トットが指揮することになりました。トットは現場経験が極めて少なく、しばらくサッカー協会のアカデミーで教官を務めた青年指導者です。最初のクロアチア・カップ決勝第一戦は5-1で快勝したものの、続く国内リーグのザダール戦はスコアレスドローに終わり、トットはディナモを率いる器じゃないことを露呈しました。後任監督の名前にズラトコ・クラニチャール(現モンテネグロ代表監督)、ブランコ・イヴァンコヴィッチ(山東魯能前監督)、ヨシップ・クジェ(現アルバニア代表監督)らの名前も挙がりましたが、表向きに後任監督探しに動くとハリルホジッチ解任と取られてしまい、裁判に発展した際には不利になるため、フロントは静観しています。ハリルホジッチも"病気療養"を理由に閉じこもっており、弁護士を通して両者の契約問題が解決しない限り来季の監督も決まりそうにありません。

国内無敵の存在でありながら、毎年のように繰り返される監督更迭。サポーターはクラブを我が物とするマミッチ副会長に反発し、行く末の決まった残り試合では選手達のモチベーションも低いとあれば、観客増など到底見込めません。チケット購入者(約600円~1100円)にはクラブ創立100周年記念のポロシャツがプレゼント、もしくは新聞購入者(約50円)はバックスタンドのタダ入場券、南スタンドは無料開放されたにもかかわらず、最終節のスプリト戦に集まった観客は3000人余り。試合前に大雨が降ったのも客足に影響しましたが、優勝を祝うには余りに寂しい客の入りでした。

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ハイボールを競り合うディナモFWベチライとスプリトDFミロヴィッチ。フィジカルが強いモンテネグロ代表FWも、ピッチの悪条件には勝てなかった。開放された南スタンドの観客もまばら。 nogomet-240201.jpg相手のスプリトは古豪ながら、長く低迷してきたクラブです。建設業で財を成すジュジュル兄弟がオーナーになると、3年前は4部リーグだったクラブが毎年のようにステップアップ。一部昇格した今季は重鎮のイヴァン・カタリニッチ監督を呼び寄せ、確実に勝点を重ねてきました。冬に獲得した元クロアチア代表DFクリジャナッツは累積警告、チャンスメーカーのMFセルダルシッチは怪我で欠場したものの、結果次第では同じ街のハイドゥク・スプリトを抜いて2位に浮上します。 水はけの悪いピッチは、コンビネーションを重視するディナモに不利に働きました。2日前に飲酒運転で警察に捕まり、ブタ箱で一夜を過ごしたサミールがブラジル仕込みの足技を見せると、観客はわんやわんやと盛り上がりますが、このピッチではラストパスが繋がりません。ミドルレンジからの惜しいシュートが何本も続く中、40分にMFバデリ(写真)が25mの位置から右足を振り抜くと、グラウンダーのシュートは水切りの石のようにスピードを増しながらゴール左下隅に突き刺さり、ディナモが先制に成功します。 後半もディナモがボールを支配しますが、ゴール前を固めてカウンターを狙うスプリトに手を焼きます。マミッチ副会長の肝煎りで獲得し、ハリルホジッチには冷遇されたFWルカビナもブレーキ。リーグ30戦で52得点という数字を見ても、いかに得点力不足に泣いたのが分かります。後半から入った新戦力MFブレゾベツは周囲とかみ合わず、ミスから次々にカウンターを作られます。83分、左サイドを駆け出した17歳のスプリトFWレビッチにボールが渡ると、そのまま持ち込こまれて対角線にシュート。デビュー戦で初ゴール、それがスプリトの同点弾となりました。1-0で逃げるディナモのプランは狂い、成す術なくドローで終了。SBヴルサリコのハンドを審判に見逃してもらわなければ、ディナモの敗北もありえた試合でした。試合後に仲の良いディナモ番が自虐的に発した「1-0で終わらなかった分、まだハリルホジッチ時代とは違うよ」との皮肉が今のディナモのもどかしさを表現しています。
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中央で優勝トロフィーを掲げるのは、不祥事のサミールに代わってキャプテンマークをつけたバデリ。 フランスW杯得点王のダヴォル・シュケルが選手達にメダルを授与し、ヴラトコ・マルコヴィッチ協会長が優勝トロフィーを主将のバデリに渡されます。トロフィーがバデリの両手で高く掲げられると、選手達は一様に喜びを爆発させましたが、ここでは他国のリーグのように大勢のサポーターと祝うことはありません。スピーカーから優勝メンバーの名前が呼び上げられるものの、ハリルホジッチの名前はありませんでした。監督記者会見の終わり際にマミッチ副会長がいきなり登場し、白々しく釈明します。 「(彼の名前がなかった)ミスを誤らなければならない。ハリルホジッチはこのタイトルに貢献してくれた。それには感謝している」 テレビですら試合を観ることなかったというハリルホジッチは 「"亡霊"がリーグタイトルを制したということは聞いている。監督抜きでディナモは優勝に至ったというのかね? それが何なのかね? 私はどこにいたのかね? 全く分からないな…」 と苦々しく語りました。マミッチ副会長は違約金を巡る裁判を有利に運ぶため、ドレッシングルームでの事件に立ち会った選手、チームスタッフから「ハリルホジッチが自ら辞任発言をした」ことを認めるよう書面に署名を求めているらしく、両者の綱引きに巻き込まれたチームの中には暗雲が漂っています。 残るタイトルはクロアチア・カップ。既に初戦を5-1で大勝しているため、ヴァラジディンで行われる第二戦は半ば消化試合のようなもの。本当に亡霊が率いたところでもディナモの国内二冠は確実です。


最後に今季のクロアチア・リーグ最終順位はこちら。優勝したディナモがCL予備戦に進出。2位ハイドゥク・スプリトと3位スプリト、カップ戦ファイナリストのヴァラジディンがEL予備戦へと進みます。
降格に関しては、最下位のフルヴァツキ・ドラゴヴォリャッツが二部へ。14位のロコモティーヴァ、15位のスプリトも降格対象ですが、一部昇格対象のクラブがライセンス問題や財政難を抱えており、昇格そのものを見送る可能性も出ています。これを機に12クラブに削減する噂も出ており、まだまだ話は流動的です。
また、得点王はザグレブのイヴァン・クルスタノヴィッチで19ゴールでした。

優勝 ディナモ・ザグレブ   勝点72
2位 ハイドゥク・スプリト     55
3位 スプリト             53
4位 チバリア・ヴィンコヴチ    44
5位 インテル・ザプレシッチ   42
6位 カルロヴァッツ        41
7位 スラヴェン・ベルーポ    40
8位 オシエク           39
9位 リエカ             39
10位 ザダール          38
11位 ヴァラジディン        36
12位 シベニク           35
13位 ザグレブ           35
14位 ロコモティーヴァ       33
15位 イストラ1961         31
16位 H・ドラゴヴォリャッツ    23


posted by 長束恭行 |17:25 | サッカーニュース | コメント(2) |
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2011年04月26日

ディナモ・ザグレブ六連覇の裏に~ネガキャンを浴びるハリルホジッチ監督

先週土曜のクロアチア・リーグ第26節で、ディナモ・ザグレブがオシエクに勝利したことでリーグ六連覇を達成。20勝4分2敗の得失点差37(得点48:失点11)、4節残して2位ハイドゥクと勝点差13広げた『ぶっちぎり優勝』なわけですが、ディナモに漂う雰囲気は暗黒に近いものがあります。ホームの試合ながら、優勝を見届けたスタジアムの観客も2000人余り。ハリルホジッチ監督が『自腹で高級シャンパンを~』なんて薄っぺらい話題にしか触れないGoal.comの記事だけでは読み取れぬ深部に触れていきましょう。

nogomet-234156.jpgボスニアの名将ヴァヒド・ハリルホジッチ(写真)がディナモ監督を引き受けたのは昨年8月16日。チャンピオンズ・リーグ予備戦三回戦でモルドバのシェリフに足元をすくわれ、開幕3節で8位に甘んじていたディナモはヴェリミール・ザイエッツ監督を解任。三顧の礼で迎え入れられたハリルホジッチ新監督は、『ルール・練習・規律』のモットーでチームを常勝軍団に変えさせました。ヨーロッパ・リーグでは格上のビジャレアルやクラブ・ブルージュを撃破。国内リーグではハイドゥクを抜き去って首位に立つと、そのまま独走します。ヨーロッパ・リーグは最終節でPAOKに2位争いで敗れ、41年ぶりの欧州冬越しは失敗したものの、既にリーグ優勝を手にし、カップ戦もヴァラジディンとの決勝を残すのみ。
「私の目標は国内二冠、そして来季のチャンピオンズ・リーグ本選出場だ」
ハリルホジッチ監督は何度もこのセリフを口にしてきましたが、三つ目の目標を果たすままに終わる可能性が出てきました。国内メディアが一大ネガティブ・キャンペーンを張り出したのです。

最初は救世主のように持ち上げておきながら、最後はボロクソにこき下ろすのは、どこの国であろが大衆メディアの常套手段。ハリルホジッチはパリ・サンジェルマン監督時代にレキップ紙を敵に回し、最後は辞任に追い込まれた苦い経験があります。そんな失敗を糧にしてからというもの、クロアチアではメディアのコントロールに細心の注意を払い、それまで非公開だった練習も公開。記者会見では饒舌に語り、見出しになる言葉が欲しいジャーナリストを喜ばせました。一時はメディアの寵児となった彼ですが、国内のみの戦いになってしまえば、幾らディナモが勝利しても報道的に面白くありません。すると彼らはこう吊るし上げ始めたのです。
「ハリルホジッチ監督になってスコアは1-0ばっかり。試合が面白くないから、観客も来ないんだ!」

ちょっと待ってくれ、観客が来ないのとハリルホジッチ監督は無縁じゃないのか?

nogomet-234157.jpg記事を目にした瞬間、私はその暴論に腹立たしさを覚えました。観客が来ない理由は、ズドラヴコ・マミッチ副会長と対立しているサポーターグループ「バッド・ブルー・ボーイズ」が応援をボイコットしているからであり、スタジアムのインフラがお粗末すぎるからです。僅差で終わるのは対戦相手が90分間守り倒すからであり、引き分けでなく「1-0」で勝利できること自体が今のディナモの強さを示しています。
「新聞なんか読まなくていい」
そう、ハリルホジッチ監督が選手達に指示することを知るや、メディアのネガティブ・キャンペーンは一層強まりました。出場機会に恵まれない選手やその親(!)、仕事に飢える指導者連中を巧妙に利用し、批判を吐かせるのです。
「もし監督が他のFWを贔屓するならば、うちの息子(クラマリッチ)を放出してやってくれ!」
「ハリルホジッチの年俸は他の全監督の総額よりも多い。90万ユーロもの年俸を払って、あんな守備的サッカーしかできないのか?」
「国内二冠なんて、彼よりも遥かに安い監督ですら成し遂げただろ!」
ハリルホジッチ監督は自信家であり、妥協を許さぬ人物でもあるため、批判に一つ一つ真っ向に立ち向かったものの、メディアとの関係は冷めていくばかり。今から一年前、シーズン終了と共に辞任に追い込まれたクルノスラフ・ユルチッチも、言われなき批判を毎日のように書きたてられ、リーグ優勝した日にはメディアを前にブチ切れ会見したものです(当時の記事)。

リーグ優勝がシーズン前半で十中八九決まり、閑古鳥の無くスタジアムの下、選手がモチベーションを維持するのは並大抵のことではありません。来季のチャンピオンズ・リーグ挑戦に向けた戦力を見極めるため、そしてフロントの意向で夏に売却したい選手をスカウトにアピールさせるため、ハリルホジッチ監督は毎試合のように先発メンバーを入れ替えたことも批判対象になりました。それでも彼が率いるチームは「20戦17勝3分」という文句なしの成績を収めてきたのです。しかし、そんな彼に落とし穴が待っていました。4月16日の第25節、2位ハイドゥクが夕方のカルロヴァッツ戦で敗れ、ディナモはナイターのイストラ戦に勝利すれば優勝が決定。その時間差が悪影響を与えたか、選手達の緊張の糸はぷっつりと切れてしまい、開始2分の失点を含む「1-2」のスコアで初敗北。これに"あの"人物が怒髪天を衝きます。そう、エキセントリックなマミッチ副会長です。
「あんなプレーを見るのすら私にとって恥ずかしかった。これは本当に恥辱だ。優勝を祝う代わりにサポーターには恥ずかしい思いをさせてしまった」

nogomet-234158.jpgマミッチ副会長(左)が「恥」という言葉を使うのは一種の解任のサイン。ブラジェヴィッチ、クジェ、イヴァンコヴィッチ、ソルド、ザイエッツ、ユルチッチ…。ほぼ全ての監督がマミッチ副会長に愛想を尽かされ、退団することになったのですが、メディアは仮想対立を作ってまで「解任だ」と畳み掛けました。

「私はそこまでナイーブじゃない。レイ・チャールズじゃないのだから、私にだって見えるものは見える。メディアが解任するかどうかとフロントに尋ねてきているそうだが、誰かにとったら私が解任されることが適切なのだろう。もしや、君達ジャーナリストにとって私の解任は歓迎すべきかもしれない。そうやって君達はお祭り騒ぎを作りたいのではないのかね。それとも、私がディナモを去るよう誰かが君達にお金を払っているのかね?」

19日の記者会見で、こうこぼしたハリルホジッチ監督。彼自身、退団希望のシグナルは既に発しています。彼にとって第二の祖国フランスのメディアに対しては
「パリ・サンジェルマンでの失敗のまま、フランスでのキャリアを終えたくない。ディナモとの契約は残っているが、私の心はフランスに戻りたがっている」
と述べました。フランスの幾つかのクラブが彼に打診をしているらしく、またディナモ・モスクワなどの高額オファーも届いているとも言われます。更に彼は祖国ボスニアのメディアに対し、こう本音を漏らしています。
「私は誰かにとって完全に邪魔なようだ。多くの指導者が私のポストを狙っていて、メディアに批判記事を注文しているかのように思える。選手の一人は"あの記事はラム肉やワインの臭いがする"(買収されている)と言ってくれたけど、それほど私叩きの傾向があるのだよ。
私の年棒がメディアにおいて大きな嫉妬を生んでいる。しかし、それはフロントが私に対して出した評価だと彼らも知らねばならない。もし今、私がディナモを去るとしたら、それは金銭が理由ではなく、メディアの卑劣なキャンペーンによるものだ。
オシエク戦後のドレッシングルームで、我々はドン・ペリニヨンで優勝を祝っていたのだが、マミッチ副会長は中に入って私にこう勧告したんだ。
『ヴァハ(ハリルホジッチの愛称)、これからも監督でいてくれるよう、ここで選手達に言ってくれないか?』
しかし、私はわざと返答を避けた。彼とは良い関係を築いている。全てには同意できないが、それは当然さ。お互いが強烈な個性なのだから。だけれども、メディアは我々二人の関係を裂こうとしてくるんだ」

優勝を決めた土曜日、国内最大のスポーツ紙「スポルツケ・ノヴォスティ」一面はハリルホジッチ監督とマミッチ副会長の写真と共にセンセーショナルな見出しを載せました。
nogomet-234159.jpg「マクシミール(ディナモの本拠地)における愛は終わった。ハリルホジッチとマミッチはもう一緒にやれない。『ディナモはヴァハが去るのを待っている』」
ネガティブ・キャンペーンの先鋒役となる同紙のオリヴァーリ記者はここまで書き散らします。
「今、ハリルホジッチ監督を解約すると残る1年半の給与、135万ユーロをディナモは払わなくてはならない。がめつい彼はそのお金を放棄することはないだろう。だからこそ彼をどこかに売ってしまえばいい。もし去ってしまえば、ディナモだけでなくクロアチア・サッカー界の慣習や関係までも完全にぶち壊した人物として彼を記憶に留めるだろう。もし監督に居座ったならば、運を持ってしてディナモをチャンピオンズ・リーグに連れていってくれよ」

ここまで狂騒的にハリルホジッチを追い立てるクロアチア・メディア。ジャーナリズムと程遠い破壊的行為には辟易せざるを得ません。ディナモやクロアチア・サッカー界を破壊するのはフロントやサポーターだけでなく、メディアも「マッチポンプ」として一端を握っています。ハリルホジッチ監督までもがメディアの餌食になったならば、それこそチャンピオンズ・リーグ本選なんて夢のまた夢になってしまうでしょう。


posted by 長束恭行 |02:59 | サッカーニュース | コメント(0) |
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2011年03月29日

グルジア、クロアチア相手に歴史的勝利/ユーロ2012予選

3月26日、グルジアの首都トビリシでユーロ2012予選「グルジアvs.クロアチア」が行われ、クロアチアは終了間際の失点で0-1で敗北。2009年9月のイングランド戦以来15試合ぶりの敗北であり、同時に今予選最初の敗北を喫しました。ギリシャとのマッチレースの様相がグルジアを加えた三つ巴の展開となり、本大会にストレートインの1位どころかプレーオフに周る2位の地位すらも危うくなってきました。

nogomet-228164.jpg私自身も取材を機にグルジアを初めて訪れ、グルジアやグルジア・サッカーに関する見聞を広めてきたのですが、これはまた別の機会に書きたいと思います。ここはあくまで試合に特化したレポートとします。

(もし関心があれば、私が所属するクロアチア・メディア「Sportnet」で試合前レポートを書いています。全文がクロアチア語のため、Google翻訳を使って読んで頂くことが可能です)

クロアチアはこれまでの4試合を3勝1分で終え、2位のギリシャとは勝点差2を広げて単独首位。2月のチェコ戦との親善試合で初先発したFWカリニッチが2ゴールでビリッチ監督の期待に応え、W杯予選以降から模索する4-2-3-1システムの「1トップ」に入るフィジカル系FWとして信用を高めました。
しかし、トップ下にポジションを移すエドゥアルドが足首の怪我で欠場。またチェコ戦では右の高速ウィンガーとして活躍したMFイリチェヴィッチも試合前日の練習で太股の付け根を傷めて欠場となりました。それでも余り余る戦力を抱えるクロアチアは中盤を支配するべくテクニシャンをずらりと並べました。ボランチはハードワーカーのヴコイェヴィッチを使わず、パスセンスを備えたドゥイモヴィッチ一枚で対応。4-1-4-1というシステムで挑みました。
GKルニェ-(右から)DFスルナ、チョルルカ、ロヴレン、ストゥリニッチ-MFドゥイモヴィッチ-ラキティッチ、ペトリッチ、モドリッチ、クラニチャール-FWカリニッチ

nogomet-228166.jpg一方のグルジアは、手堅いディフェンスを武器にここまで1勝3分。ジレス、トップメラー、クーペルといった外国人監督を高額な年俸で雇ったものの誰もが成績を残せずに失敗。クーペルが率いたW敗予選に関しては「0勝3分7敗」という散々な結果で終わりました。外国人監督ではグルジア人特有のメンタリティを理解できないと判断し、グルジア・サッカー協会が新たに呼び寄せたのが、自国人の若き才将テムリ・ケツバイア(写真)。現役時代はプレミア・リーグ(ex.ニューカッスル)でプレーし、監督としては欧州で無名のキプロスのファマグスタ・アノルトシスをCL本戦に導きました。その後、オリンピアコスで失敗したものの、祖国は彼を諸手で迎えました。
待遇に不満を持つベテラン選手の士気を入れ替えさせ、チーム内の雰囲気を健全化させたグルジア代表は、ケツバイア監督到来から4勝5分の負けなし。試合を重ねるごとに自信を高め、国民の支持を集めてきました。グルジア・ナンバー1のスター選手で主将を務めるDFカラーゼは太股の怪我で危ぶまれたものの先発出場。しかしながら、グルジアで最も危険なアタッカーであり、アーセナルらビッグクラブも注目する18歳の天才MFアナニーゼ(スパルタク・モスクワ所属)が足首の怪我で欠場。ケツバイア監督は守備的な布陣でクロアチアに挑んできました(4-4-1-1)。
GKレヴィシュヴィリ-DFサルクヴァーゼ、フブティア、アミスラシュヴィリ、カラーゼ-MFコビアシュヴィリ、ダアシュヴィリ、ヒザニシュヴィリ、イアシュヴィリ-カンカヴァ-FWドヴァリシュヴィリ

昨年一年間を無敗で終えた両国の対決。グルジア国内でもこの試合の注目度は一際高く、会場のボリス・パイチャーゼ・スタジアムは5万5000人が入る超満員となりました。試合前の練習でベンチに座るケツバイア監督が電光掲示板に映るとスタンドから大歓声。似たようなメンタリティ、戦争を経た小国同士(人口・面積もほぼ同じ)ということでグルジア人はクロアチアにシンパシーを抱いているわけですが、そんなクロアチアに敵意むき出しになるのではなく、祖国グルジアの選手達を熱狂的にサポートしようというポジティブな雰囲気にスタジアムは包まれました。

nogomet-228171.jpg
そしてグルジア・サポーターの間にもクロアチア・サポーターの間にも日本国旗が掲げられ、選手入場の際には両国の先発メンバーと連れ添う子供達の計44人が「日の丸」と「Stand Together for JAPAN」がデザインされたTシャツを着て登場。震災に苦しむ日本のその被害者に対して哀悼と黙祷が捧げられたのです。ここまで日本を気遣ってくれたことに私の胸は熱くなり、頭の下がる想いがしました。 nogomet-228167.jpg試合はクロアチアが中盤を支配するも、しっかりと引いたグルジア相手に攻めあぐねる展開に。ドリブルでゴール前に近づこうにも、パス交換で突破を図ろうとも二人・三人がかりで激しく寄せてくる守備の網にかかってしまいます。スピード抜きでは相手の裏すら取れないわけですが、テクニシャンを並べた中盤の個人能力のみだけでは難しく、頼みのモドリッチ(写真)もこの日はブレーキ。モドリッチ一人が、というよりも選手全員が不調といって過言のない状況で、ビリッチ監督も試合後にこう嘆くほどでした。 「トレーニングではこれまで最高のコンビネーションを見せていたのに、試合になるとそれが消えてしまった。単に選手が本来の姿じゃなかったんだ。ゲームを支配したかったから、これだけのMFを揃えたわけだが、相手ゴールに近づいてもセンタリングの精度が良くなかったし、ペナルティエリアの反応も良くなかったんだ」 前半はペトリッチのシュート(28分)以外、これといった見せ場を全く作れなかったクロアチアは後半もメンバーをいじらずにスタート。開始早々にクラニチャールが左から二アの隙間を狙ってシュートを狙いますが、これは相手GKレヴィシュヴィリの好反応で防がれます。 しかしながら、このチャンス以降、再びクロアチアは消沈。61分にラキティッチに代えて代表デビューとなるMFペシリッチを投入するも、若さばかりが目立って空回りするだけに終わります。70分にはクラニチャールに代えてFWイェラヴィッチを投入。カリニッチとイェラヴィッチのツインタワーを試みたものの、逆に相手へスペースを許す結果になってしまいました。 nogomet-228163.jpg鋭いカウンターを連発し始めるグルジア。ドゥイモヴィッチ一枚では中盤を押さえることができず、ビリッチ監督が攻撃のカードを切れば切るほど穴が生まれていきます。73分、コビアシュヴィリの右CKからカンカヴァがヘディングシュートを放つも惜しくも右へ。76分は途中交代のMFゴグアが強烈なFKを放つも枠の外へ。その直後もヒザリニュヴィリが果敢にロングシュートを狙います。 84分、クロアチアが切った最後のカードは、ペトリッチに代えてMFプラニッチ。ビリッチ監督が効果的な手を打てないまま、引分けに持ち込むのが精一杯のクロアチアに一瞬の油断が生まれました。ロスタイムに入る直前、途中交代のFWマルツヴァラーゼがオフサイドラインをかいくぐって左サイドでボールキープ。追いかけたスルナをかわして中央フリーのコビアシュヴィリにパスします。シャルケをはじめ、長年ブンデスで活躍するベテラン・レフティーはこのチャンスを見逃すことなく、GKルニェの裏を取るシュートを叩き込みました。このグルジアの唯一の枠内シュートが決勝点に繋がり、スタジアムは熱狂のるつぼに変わります。 ロスタイムの3分間、クロアチアは猛攻を仕掛け、ゴール前の混戦の中からプラニッチがシュートするもGKレヴィシュヴィリがセーブ。その後のCKも続けて防ぎ切ったグルジアが歴史的な勝利を収めました。呆然とピッチを引き上げるクロアチアの選手に対し、ピッチに膝まずいて両手でガッツポーズを見せた主将カラーゼの姿が印象的でした。 (グルジア放送による得点シーンの動画はこちら) 試合後の記者会見は、報道と関係ないグルジア人が多数入り込み、揃って勝利の雄叫びを挙げるほどの雰囲気に。そんな会見場に現れたビリッチ監督(写真)は、喧嘩腰なクロアチア報道陣に歯切れの悪いコメントを出したのち(上記参照)、グルジア報道陣向けにこう語りました。 nogomet-228170.jpg「まず勝利した貴方達を祝福したい。サッカーは最強が常に勝つことがないゲームだけに面白いんだ。我々は勝利するために来たが、グルジアは6万人ものサポーターを背にファナティックなプレーした。守備的なサッカー相手に戦うのは難しかったよ。グルジアはよく守ったし、チャンスが来るのを持っていた。そのチャンスが来た時、しっかりとゴールを決めたんだ。我々が敗北したらグルジアが本大会に進む可能性が出てくるぞ、と試合前から私は口にしていた。こう実際に敗北すると、我々は厳しい状況に置かれてしまったよ」 グルジア人はインタビューを終えた敵将を拍手で見送ったあと、「英雄」ケツバイア監督をエモーショナルに迎えました。 「グルジアのサッカー界には未来がある。誰もがグルジア代表をサポートし、グルジア・サッカー界を助けてくれているからだ。人々が失望したままスタジアムを後にすることなど私は想像できなかった。グルジア全土、そしてスタジアムに訪れた人々やテレビの前で観戦した人々に感謝したいね。緊張の張り詰めた難しい試合だったよ。なぜなら世界最強の一つと戦ったんだからね。でも、選手達はベストを尽くしたし、おとぎ話の中でか想像できないことをやってのけたんだよ」 よもやの敗北でクロアチア国内はヒステリック状態に陥っています。矛先はビリッチ監督一人に向けられており、W杯予選敗退直後のアンケートでは75%近くが「ビリッチ残留」に賛成したものの、グルジア戦直後のアンケートでは77%が「ビリッチは代表監督の仕事をよくこなしている」にノーを突きつけました(スポルツケ・ノヴォスティ紙、投票数約1700)。 追求する布陣を見つけたはずのチェコ戦からわずか一ヶ月半、ビリッチ監督は十字架に貼り付けられた状況になってましいました。「選手が不調だった」で片付けるにしては、これまで頻繁にシステムとメンバーをいじりすぎてきました。この試合がビリッチ監督にとって記念すべき50試合目だったのですが、これまで同じ先発メンバーだった試合は2試合しかありません。選手層が厚くなったものの、「ベストイレブンを作るのはいつ何時なんだ?」というのがクロアチア国民の抱く不満のようです。 ギリシャがアウェーのマルタ戦でロスタイムに何とか勝ち越し、新たに首位は立ちました(勝点11)、クロアチアは2位に転落し(勝点10)、グルジアが3位に続きます(勝点9)。29日にフランスとの親善試合を行いますが、安泰と思われた予選が混乱の様相をなしてきたことで気持ちはパリにあらず、といったところでしょうか。なぜなら、予選の次戦はまたしてグルジア(6月6日)。それも過去に一度もクロアチア代表が勝利したことのないスプリトで開催が予定されているのですから。


posted by 長束恭行 |04:03 | サッカーニュース | コメント(0) |
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