2010年03月16日
先月末にウィンターブレイクが空け、再開されたクロアチア・リーグ。この二週間余りで18~20節を終えました。私は計4試合を撮影取材しましたが、18節のザグレブvs.リエカ戦は90分間を通して雨に祟られ、20節のザグレブvs.ヴァルテクス戦は大雪の除去で生まれた泥んこの上で撮影を強いられるなど、この時期ならではの悪環境を味あわせられています。内陸部が雪ならば、海岸部は強風。そんな自然条件でもプレーしなければならない選手が一番大変ではありますけどね。
いつもならば冬に選手の入れ替わりが多く、戦力の変化が顕著に見られる春ですが、ここのところの不況の影響もあり、国外への選手売却も滞れば、新たな選手獲得もさほど行わませんでした。ですので順位にも変化は起きてませんが、3節を終えた二強の様子をピックアップしましょう。まずは順位からです。
(【 】内はウィンターブレイク前の順位、そして今の順位とのアップダウン)
1. ディナモ・ザグレブ (勝点46) 【 1 -】
2. チバリア・ヴィンコヴチ (40) 【 2 -】
3. シベニク (36) 【 3 -】
4. ハイドゥク・スプリト (35) 【 7 ↑】
5. カルロヴァッツ (34) 【 5 -】
6. オシエク (32) 【 4 ↓】
7. ロコモティーヴァ (31) 【 8 ↑】
8. スラヴェン・ベルーポ (31) 【 6 ↓】
9. リエカ (26) 【 9 -】
10.インテル・ザプレシッチ (21) 【10 -】
11.ザダール (21) 【12 ↑】
12.メヂムリエ (21) 【13 ↑】
13.ヴァルテクス・ヴァラジディン (20) 【11 ↓】
14.イストラ1961 (19) 【15 ↑】
15.ザグレブ (18) 【14 ↓】
16.クロアチア・セスヴェッテ (10) 【16 -】
●半年後のヨーロッパ・カップに向けて~ディナモ・ザグレブ
シーズン終了まで12試合残されているとはいえ、既にリーグ五連覇は手中にあるといっても過言のないディナモ・ザグレブ。彼らの目標は、来季のチャンピオンズ・リーグ本大会出場、もしくはヨーロッパ・リーグにおける決勝トーナメント進出にあります。近い将来を見据えたチーム作りを進めらようと、クルノスラフ・ユルチッチ監督は若手を積極的に活用し始めました。
例えば、右サイドバックは6年目のブラジル人エトー(29歳)ではなく、ユース出身の18歳、シーメ・ヴルサリコ(写真)を全試合に先発起用。上下の運動量とクロスに優れることで「スルナの再来」とも呼ばれる彼はシーズン前半、レンタル先のロコモティーヴァで実力を認められ、今年からディナモのトップチームに加わりました。20節のザダール戦はプレーが冴えずに65分で下げられたものの、他の試合では合格点の働き。同じくディナモ・ユース出身で右サイドを主戦場とするMF/DFイヴァン・トメチャク(20)とどう併用するかが課題となりますが(ザダール戦は同時起用で失敗)、この先のディナモは右からの突破が武器となるはず。今まで右MFのポジションにはズドラヴコ・マミッチ副会長が溺愛するブラジル人MFサミール(22)の起用が多いのですが、調子の波が大きく、ヨーロッパ・カップでも3シーズンを通して活躍できてません。覇気のない選手を徹底的に嫌うサポーターのBBBも頻繁にサミールへブーイングを浴びせており、あらゆる批判を承知で使い続けていくかも注目されています。
シーズン再開前の悩みの種だったのが、FWマリオ・マンジュキッチ(23歳・写真)。欧州で戦い抜くため、彼の年俸を大幅に上げることで移籍を慰留させたものの、シーズン前半は調子が優れませんでした。一時は1500万ユーロと言われていた市場価格も半額近くに下がっていますが、これ以上留まらせたところでも"腐って"しまいます。この冬は売却しようにも買い手が見つからず。上層部は次の夏こそ彼を売却する予定で、マンジュキッチ本人は自分の価値を上げるため、この半年間はクロアチア・リーグを過小評価することなくアピールに徹しなくてはなりません。
そんなモチベーションの下、今年の初戦となる第18節クロアチア・セスヴェッテ戦ではハットトリック(結果は6-0)。国内リーグでの得点は第10節のヴァルテクス戦以来、実に146日振り。続く第19節のオシエク戦では決勝ゴールを決めるなど(結果は1-0)、ようやくエンジンが掛かってきました。彼を獲得しようとスカウトも次第に増えているようです。またマンジュキッチは批判を交わそうと今までメディアに沈黙を続けてきたものの、3月6日のスポルツケ・ノヴォスティ紙で沈黙後初のインタビューに答えました。"俺様"的な態度は変わらないですが、国内でも影響力あるインタビュアーから"試合後にコメントも出さないのはプロとしてどうなのかね?"と釘を刺され、以来、試合後のミックス・ゾーンは報道陣の前に立つようになりました。
この春から新たにマンジュキッチとコンビを組むのが、インテル・ザプレシッチから獲得したブラジル人FWルイス・パウロ・イラーリオ・"ドドー"(22歳)。チーム内のブラジル・コミュニティよりも、アルゼンチン-チリ・コミュニティと親しい不思議な選手です。そんなドドーは、デビュー戦となるセスヴェッテ戦にて開始53秒で初ゴール。21分には前述のマンジュキッチのゴールをアシストするなど鮮烈なデビューを果たしました。しかし、28分には相手のタックルを受けて右膝の靭帯を損傷してしまい、退場するはめに。復帰まで一ヶ月は掛かると見られていますが、ユルチッチ監督は守備にも献身的なドドーの働きぶりに惚れ込んでおり、復帰次第、直ぐに再起用するでしょう。心配なのは、アンドレイ・クラマリッチ(18歳)、ミロスラフ・スレピチュカ(元チェコ代表・28歳)といった控え組に元気がないことで、しばらくはマンジュキッチ頼りとなりそうです。
クロアチア・セスヴェッテ、オシエクを順調に下したディナモですが、第20節ではザダールをホームに迎えてのスコアレスドロー。不甲斐ない内容にマミッチ副会長(写真)は開始20分で席を立ってしまいました。
「試合があった夜、窒息死しそうになった。51年の人生の中で私は大きな理由もなく泣いたことはないが、この時は涙が流れた。あれが私が愛するディナモ、誰が愛するディナモなのかね? あんなプレーのためにどんな準備をしてきたのかね? 私が試合中に去ったのはおおっぴらな抗議だ。あんなプレーに対する抗議なのだよ!
考えてくれ。ディナモは昨年12月から8ヶ月間は国内リーグを気楽に戦いながら、ヨーロッパに向けた理想的なチーム作りができるんだ。これらの試合で連携を深めずして、いつやれると言うのだね? 選手自身が試合を選んでいるとしたら、いつやれるのだね? いつチームができると言うのかね? あの試合では自分が副会長であることに恥に思ったよ!」
と怒り心頭。いくら国内に敵無しのディナモであっても、悪い日はあるわけであって、それすら理解しようとしないマミッチ副会長の機嫌一つで雰囲気が荒れてしまうのがディナモの不安要素でしょう。
●新監督効果で復調の兆しあるも…~ハイドゥク・スプリト
リーグ再開を前にエドモンド・レーヤがラツィオ監督に就任したため、71歳のスタンコ・ポクレポヴィッチに指揮を任せたハイドゥク・スプリト。シーズン直前のジェリェズニチャールとの親善試合は不安を残す内容でしたが、さすが経験のある指導者だけあって調子を合わせてきました。
「攻撃的なサッカーで結果を残せ」というのがスプリトのメンタリティ。レーヤのサッカーは、"1-0"を良しとするイタリア人ならではのものだったため、サポーターは幾らか不満を抱いていたのですが、過去に二度ハイドゥクを指揮し、スプリト生まれのポクレポヴィッチは早くに選手とサポーターの心を掌握しました。ポクレポヴィッチはクロアチア最大の知将とされるトミスラフ・イヴィッチと最も親しい指導者であり、1980年代末にはモンテネグロのブドゥチノストの監督としてデヤン・サヴィチェヴィッチやプレドラグ・ミヤトヴィッチといった将来のスターを見出した人物であります。3ヶ月契約ながら彼に任されている仕事は、シーズン前半の不振で失った選手の自信を回復させること。とりわけハイドゥクに移籍し、萎縮した選手達を叩き直すことでした。
初戦となる第18節のスラヴェン・ベルーポ戦、前半は攻めながらも得点を奪えない戦いでしたが、後半直ぐにMFスルジャン・アンドリッチ(28歳、元クロアチア代表)のミドルシュートが炸裂し、それから堰を切ったかのように得点が生まれます。4-2-3-1の右MFを務めるマリン・トマソフ(22歳・写真)は昨年に鳴り物入りでザダールから移籍したものの、決定機をことごとく外し、シーズン前半は戦犯の一人に祭りたてられました。春からポジションを左から右へと移してから、レフティーならではの内への動きも見せるトマソフ。その彼が53分、右から25mのFKを叩き込み、今季初ゴールを記録しました。64分にはトマソフのFKからFWアンテ・ヴクシッチがこぼれ球に食らいついてゴール。とりわけ層の薄いFW陣でポクレポヴィッチが「弾丸のよう」と評価し、全試合で先発起用するヴクシッチはまだ18歳です。
73分にはクロアチア代表の左SBのポジションに名乗りを挙げると期待されるイヴァン・ストゥリニッチ(22歳)が、果敢なオーバーラップから4点目。82分にはMFアナス・シャルビーニ(22歳)とのパス交換で、途中交代のMFフロリン・ツェルナト(30歳、元ルーマニア代表)がゴールを決め、5-0と文句なしの快勝を果たしたのでした。
第19節ではアウェーのインテル・ザプレシッチ戦をMFセニアド・イブリチッチ(24歳、ボスニア代表)の2ゴールとストゥリニッチのゴールで3-0と快勝。順位を7位から4位に上げ、ポクレポヴィッチ効果が現れてきました。「彼とは5年契約を結んでもいいぞ」と、スヴァグシャ会長もご機嫌。第20節、ホームにリエカを迎えての「アドリア海ダービー」では、強いハイドゥクを応援しようとサポーターが集まり、今季最高の観客となる1万人がポリュウド・スタジアムを埋めました。
主導権を握るものの得点が生まれない展開は第18節のベルーポ戦と同じ。しかし、自信を取り戻しているハイドゥクの選手達は後半にテンポを速め、リエカのゴールを襲います。51分にFWヴクシッチが無人のゴールを外す大失態があったものの、74分にMFヨシップ・スココ(34歳、元オーストラリア代表)のミドルシュートが炸裂して先制に成功。昨年から続く連勝記録も6まで伸ばせると思いきや、88分に油断から同点弾を奪われます。リエカが縦に放り込んだロングボールにFWヂャロヴィッチがヘディングで繋ぎ、ボールはGKダニエル・スバシッチ(25歳、クロアチア代表)の目の前に。しかしスバシッチがパンチングする直前にMFクレイラッハにヘディングで押し込まれてしまいました。盛り上がりに水を差すドローという結果にポクレポヴィッチ監督は
「非常に良い戦いをしたのにもかかわらず、不幸な形で勝点を失ってしまった。ペナルティエリアにおける不手際の失点だった。それがサッカーだと多くの人は言うが、私はそれに同意するつもりはない。残念ながら、あの場面で見せたものが我々の弱点だった」
と敗戦の弁を述べました。(試合の動画はこちら)
足踏みしたとはいえ、ハイドゥクが調子を取り戻しているのは紛れもない事実。あとはシャルビーニ兄弟をどのようにフィットさせるか、です。シーズン前半はFW起用も多かった弟のアナス・シャルビーニ(23歳)は、本職である左MFを任され、股抜きドリブルやアウトサイドキックによるクロスボールなどテクニカルなプレーを見せるようになりました。守備に脆く、ポジションを中央に絞りすぎる欠点はありますが、そのお陰で左サイドの広大なスペースをストゥリニッチが活用できています。
ハイドゥクの悩みの種となるのがいまだにハイドゥクでノーゴールの兄、FWアフマド・シャルビーニ(26歳・写真)。リエカで63ゴールを決めてきたアフマドですが、3試合ともベンチスタート。古巣のリエカ戦ではアフマドに出場機会を与えなかったことにポクレポヴィッチ監督は
「彼の練習ぶりを見れば、若手以上のアドバンテージを得ることはない。もし同じ実力ならば、私は常に若い選手にアドバンテージを与えてきた」
とメディアに説明。これにアフマドは怒りを爆発させ、
「ハイドゥクでの地位に満足することはなかったが、この発言は行き過ぎだ。リスペクトが欠けた扱いを受けることは相手が監督だろうが許せない。ようやく健康面が万全で、全力が出せるというのに、この3試合の出場時間は10~15分ほどだ。もし補強選手として高い金銭を払って僕を獲得したならば、その元が取れるよう僕に継続的なチャンスを与える必要があると思う」
とインタビューで反論。これにポクレポヴィッチ監督は
「我々に必要なFWは、走る気力のある選手だ。なぜならばディフェンスをやるFWを私は探しているからね。そういった面がアフマドには見られない。だから彼の出場時間が少ないんだ」
とこれまたメディアを通して言い返し、直接に言い争わない両者の関係は修復が難しくなっています。
昨年8月にハイドゥクがシャルビーニ兄弟を獲得するためにリエカに払った移籍金は220万ユーロ。クロアチアのクラブ間の移籍では歴代上位に入る金額です。しかしながら、ハイドゥクは彼らが内面に抱えている精神的なムラっ気(ちなみに彼らの父親はパレスチナ人)に振り回され、現時点では本物の補強とは成りえていません。一昨年の株式化でハイドゥクが得たはずの潤沢な資金もどんどんと目減りしており、トップチームから追放したベテラン組を含めた不満組の人員整理がシーズン終了後に必要となってくるでしょう。
2連勝に続く引き分けで少しトーンダウンした感のある、ライバル関係のディナモとハイドゥク。そんな両雄の対決が近づいています。舞台はクロアチア・リーグではなく、クロアチア・カップの準決勝。初戦は3月24日、ディナモのホーム、マクシミール・スタジアムにて。第二戦は4月7日、ハイドゥクのホーム、ポリュウド・スタディオンにて行われます。
posted by 長束恭行 |23:53 |
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