クロアチア・サッカーニュース

誤訳で捻じ曲げられたオシムのクロアチア紙インタビュー

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既に日本の一部メディア(スポーツニッポン)が報じていますが、7月22日のクロアチアの日刊紙ヴェチェルニ・リスト紙で、イヴィツァ・オシムのインタビュー記事が掲載されました。

ボスニア・ヘルツェゴビナ代表に関する話、ユーロのクロアチア代表の話など非常に興味深い内容なのですが、残念ながら日本代表に触れた後半部分だけを取り上げたスポーツニッポンの記事は誤訳をしており、まるでオシムが日本代表監督を熱望しているかのように書き立てました。翻訳された方の能力の問題か、それともセンセーショナルな記事を求める編集側の問題なのかは分かりませんが、ここで改めて記事の全文を翻訳してみました。


日本サッカー協会のアドヴァイザーを務める、栄光あるサッカーの指導者イヴィツァ・オシム(67)は、グラーツで脳梗塞の後遺症から回復しつつある。豪華なジグムント・フロイト・クリニックにて、毎日全力にて練習をしているのだ。まだ彼の足並みはクレイ(モハメド・アリ)のように遅く、左手を使いこなすことはできず、彼の声はまるでドン・コルレオーネかのように抑えが利いている。しかし、会話は全くもって完璧だ。体力は毎日良くなっているし、一日に10km以上走っている…。

「7月30日まではここに残る。それからヴォディーチェ、そしてサラエボだ。日本への戻りは9月となる。健康面が充足すればの話だが」
-今日、ジグムント・フロイト(・クリニック)のカフェのインタビューでオシムは我々に語った。

-貴方の息子、アマルが競争相手だったとはいえ、チーロ(ミロスラフ・ブラジェヴィッチ)がボスニア・ヘルツェゴビナへとやってきたこと(代表監督になったこと)を支持しているのか?
「アマルにとってはチーロの対立候補になったことが賛辞といえる。彼が選ばれなかったことは私にとって残念じゃない、なんてことはなく、むしろ私は幸せなのだよ。私の息子はオープンで、思っていることをいつも口にしてしまう。しかし、それは決して良くはない。とりわけボスニアではね」

-ボスニア・ヘルツェゴビナはヨーロッパで最高齢の代表監督を持つことになるが。
「あのような年代で監督に選ばれたのならば、それはハンディキャップではなく、むしろ賛辞だ。今は選手たちも不平を述べることはできない。誰もがチーロに応えるのが当然だろう。サッカー協会はやれるだけの最高のことをした。モウリーニョを連れてくることはできなかっただろうしね」

-チーロは成功するだろうか?
「自分の首にレンガを置く必要など私にない。"ボスニアをワールドカップに連れていく"との彼の声明にどう言えばいいんだね。まあ、ゆっくりと。人々はそれ(声明)を読み、それに束縛される。それ(ワールドカップ出場)が起こらなかった時には批判を始めるだろう。そして彼らには罪はなく、むしろそれを発言した人物が罪となるのだ」

-期待は大きい。
「ボスニア・ヘルツェゴビナではいつもそうだ。一人のジャーナリストが私に対して、ボスニアの我々は勝利を望んでいると口にする。分かっているよ。しかし、世界でボスニアに勝利させてくれる代表チームがあるのかどうか私に言ってくれ。スペインだってトルコだって赤十字じゃないんだ!」

-クロアチアもユーロではトルコに止められてしまった。
「おそらく貴方たちはそれに失望したことだろう。願望がどんなものかが分かっていたり、"天才たち"とか"我々より良いチームはない"なんて書かれていただけに、それ(失望)は当然のことだ」

-イングランド戦での勝利が我々を(熱狂へと)さらっていった。
「それも理解できる。しかし、問題なのはイングランドがまだサッカーにおける何かの基準なのか、ということだ」

-クラーゲンフルトでの二試合(クロアチアvs.ドイツ、クロアチアvs.ポーランド)戦を貴方は観戦した。クロアチアからはもっと期待をしていたのか?
「ああ。選手たちに関して全てを読んでいた後だっただけにね。もっと洒落の利いたプレーを期待していたし、もっとアイデアを期待していた」

-クロアチアは準々決勝で最弱の相手を引いたわけだが?
「それはワールドカップ2002での日本もそうだった。間違いなく先へ進めるという雰囲気が作られていたが、トルコが彼らを倒してしまった。トルコはそこら辺の相手ではないのだよ。彼らはある時代にヨーロッパを支配し、あらゆる面で大国なのだ」

-あの試合の采配にミスはあったのか?
「ビリッチが何をする必要があったのかね? 自分をピッチへと投入することか?」

-クラスニッチがゴールを決めた時はピッチへと入っていった。
「ああ、事実だ。コーナーまで走り、そして戻った。あれはコンディション用のトレーニングだったよ。ビリッチとアシスタント陣は一緒になって相当数の試合をこなしていただけに、あのように反応する必要はないと知らねばならなかった。自分や他人を乱してしまい、あのように振舞う権利を選手たちに与えてしまった挙句に危険を忘れてしまった。あれは余りにも早くに始めたお祝いだった」

-ワールドカップ予選の対イングランド戦におけるクロアチアをどのように見込んでいるか?
「既に貴方たちはイングランド相手の経験がある。今も彼らはより優れてはいない」

-カペッロが一緒でも?
「ファビオは選手時よりもずっと優れた監督だ。しかし、監督がプレーすることはない」

-モドリッチはユーロの理想イレブンの候補となったが?
「何においてなのかが私には分からない。モドリッチがプレーで見せた全ては予想の範囲内だった。彼は最もボールを持ってはいたが、彼が"通した"パスはどれだけあったのか、プロシネツキやボバン、アリョーシャ(アサノヴィッチ)が出していたようなパスがどれだけあったのか私に言ってくれ」

-ルカはそのクラスではないと?
「それ(そのクラス)へと発展することは可能だ。イングランドで成長することだろう。まあ、イングランドに全ての選手を売った人物は芸術家だよ! そう認識する必要がある。見事だ! ディナモはヨーロッパにて何かしら大きな結果を残せなかったものの、マミッチは同様に巨大な額で彼らを売却したのだから」

-ベンチ(監督)へと戻るのか?
「それが私の願望だ。なぜなら、望んでいた全てを成し遂げてはいないからだ」

-日本をワールドカップ2010に導くことは?
「まず第一に、私は彼ら(日本)のそれ(ワールドカップ2010出場)を本当に望んでいる。けれども一方で、もし私が彼らを導くのならば、それは完全に私が回復したという意味になるのだろうがね」
 [※仮定法でも現実的ではない時の表現]

-脳梗塞が起こった日がどのようだったか覚えているか?
「その時まで私には多くのものが溜まっていた。あの日、ジェフユナイテッドとある大学チームとの試合に訪れた。私がジェフの監督だった時はいつもあっさりと勝利していた相手だ。その試合において私の5~6人の代表選手がどれだけ苦しみ、彼らがプレーしたいのかしたくないのか(はっきりしない)、という光景を眼にした。私にはそれが不愉快で、ジェフを指揮していた息子のアマルを非難した。しかし、彼にとってはどうでも良いようだった。我々は少しやり合い、それから夜にプレミアリーグの試合を見た。そして私にあれ(脳震盪)が起こったのだ」

-以前に健康面の問題を抱えていたのか?
「心臓に不整脈を持っており、注意はされていた。病院へと運ばれた時、医者たちは私を人工的な昏睡状態へともたらした。幸運なことに病院は家から近く、直ぐに私を装置へと繋いでくれ、私の命を救ってくれたんだ」


オシムの手記「日本人よ!」(新潮社)を制作した際も、「それ」という言葉の使い回しが多く、何が「それ」なのかを前後から見極める必要があったのですが、日本代表のコメントはジャーナリストが一枚噛んでいるとはいえ、きちんと訳せば「日本代表熱望」には繋がらない発言でありました。

スポーツニッポンはワールドカップ2006の時にも、クロアチア代表チームのスタッフが「日本と言えばイチローだな。彼がイチバンだ」と見下した発言をした、なんて大っぴらに報道をしましたが(参考記事)、野球の認知度が極めて低いクロアチアの人がイチローを知るわけがなく、日本の某テレビ局で通訳コーディネートをしていたクロアチア在住のアメリカ人の発言であるのは間違いありませんでした。彼はサッカーの「サ」の字も知らず、むしろ野球が好きなことからイチローのことを知っており、彼とはザグレブで野球談義をしたことがあります。多分、キャンプ地でたまたま知り合った彼との雑談を、まるでクロアチア代表スタッフが言ったかのように記者が捏造した悪しき例といえましょう。



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誤訳で捻じ曲げられたオシムのクロアチア紙インタビュー

ありがとうございます!
ほんとーーにありがとうございます!!
取り急ぎ、お礼まで。。。

誤訳で捻じ曲げられたオシムのクロアチア紙インタビュー

オシムさんの自嘲気味のクロアチア観、一本の太い心棒が感じられるトルコ観、相変わらず奥が深く、懐かしい響きのオシム節ですね。
加えて、現地のジャーナリストも、なかなか格調高いものをお書きになる。このように素晴らしいものを書ける人、読める人は幸いです。
また一つ、日本の新聞を私の子供達に読ませない理由が見つかりました。

誤訳だらけの翻訳文化

フリーダムとリバティ。
これをともに自由と翻訳し、無反省につかっているニッポン。ひょっとして、デモクラシー(民主主義)もインディビデュアル(個人)も、誤訳で捻じ曲げているのかもしれません。

誤訳で捻じ曲げられたオシムのクロアチア紙インタビュー

貴重な記事を有難うございます。 私も似たような経験をした事があります。モウリーニョのインテル監督就任の記者会見内容の報道を、まず、イタリア人記者がおこしたイタリア語の記事で読み、次いで、ある日本のサッカー雑誌で和文で読む機会がありましたが・・・「これが本当に同じ記者発表の報道か??」と首をかしげまくる内容でした、日本のサッカー雑誌の記事の方は。日本の読者のツボにおさまるよう、かなりモゥリーニョの発言がマニピュレートされていました。

日本のメディアが欧州サッカー報道でたびたび起こす誤訳は、そのほとんどが確信犯的な犯行ではないかと、私は思っています。日本のメディアの志が低い事も問題ですが、そういった報道に群がる、報道の受け皿である我々にも、隙があるのでしょうね。だからそこを狙われて、人々が知らないうちに踊らされている、メディア側は汗もかかずにテキトウな記事を出して、その結果、してやったり、という感じなのでしょうか。

グローバリズムや情報化が進んだ今でさえ、日本の欧州サッカーファン達は、地理的にも、時間的にも、文化的にも、言語的にも、「ギャップ」を懸命に埋めながら、欧州サッカーを追いかけている訳です。そういう人たちを、裏切ってほしくないですよね、日本のメディアには。Jリーグ発足以前の日本のサッカー雑誌等の記事には、誤訳は在ったとは思いますが、真実を究めようとする記者達の美学が記事内容に滲み出ていたように記憶しています。

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長束 恭行(ながつか やすゆき)
クロアチア・サッカーを専門とするジャーナリスト・通訳。
1997年、クロアチア初訪問でディナモ・ザグレブの試合に感銘を受け、銀行を退職。のちも渡航を繰り返し、2001年よりクロアチアの首都ザグレブに移住して現地のサッカーを追う。クロアチアのネットメディア「Sport-net」にも所属。2011~2015年はリトアニアの首都ビリニュスに滞在。
訳書に「日本人よ!」(著者:イビチャ・オシム、新潮社)、著作に「旅の指さし会話帳 クロアチア」(情報センター出版局)、共著に「ハリルホジッチ思考」(東邦出版)がある。
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