2008年07月01日
想い出(3)/険悪なスロベニア越え~ユーロ2008取材より
月も変わり、喧騒と熱気に包まれたユーロ2008もあっという間に過去の話となりそうな勢いです。大会中はクロアチアの国旗をつけた車があちこちに見られたものですが、最近はそんな車は滅多に目にすることもなくなり、クロアチアのユニフォームや国旗を使ったショーウインドウの飾り付けも次第に無くなりつつあります。国民の関心事は夏のバカンスをどこで過ごすか、もしくは外国からの観光客が押し寄せるこの時期にいかに儲けるかの二点に絞られてくるものです。 不定期に書く「想い出」コラムですが、まだ記憶が新しいうちにユーロ2008を触れようと思います。今回は移動にまつわる話、それもスロベニアに対するクロアチア人感情がテーマです。 私はクロアチア代表の試合を中心に計6試合を取材した中で、クロアチアからオーストリアもしくはスイスまでの移動は列車を使用しました。アクレディ(取材証)を持っている人はオーストリアとスイスの一等車を無料乗車できる特典があるわけですが、入国するまでの切符は必要となります。ただし、アクレディはオーストリアとスイスでしかピックアップできないので、まずは試合開催地まで足を運ぶ必要がありました。初戦のクロアチアvs.オーストリアの開催地はウィーン。ウィーン往復に選んだ手段は地元旅行社が企画した「Vatreni Vlak("炎の列車"という意)」というサポーター専用列車でした(写真)。 朝5時55分にザグレブ発で、6時間掛けてウィーンに到着。戻りは試合後、夜行列車になります。価格は549クーナ(約1万2600円。)この試合は10万人ほどサポーターが駆けつけたといいますが、多くは自動車で移動しました。それでも列車内はクロアチアの赤白チェックのユニフォームを着込んだサポーターでほぼ満員となりました。そんな中、私はコンパートメントで有給を取って試合に行く現職警官4人と一緒になり、日本人という珍しさもあってすっかり打ち解けたのでありました(写真下)。 客車には定番のサポーターソングがかかり、ビールを飲みながらの合唱。しかし、30分もすれば緊張が走ります。 「さあ、これからヨーロッパだ」
クロアチアもヨーロッパの国でありますが、彼らの中には潜在的に「ヨーロッパ=西側の先進国=EU」というイメージがあります。スロベニアは早々と2004年にEUに加盟したのですが、クロアチアは戦犯問題もあってEU加盟に出遅れてしまいました。そんな中、クロアチアに住む人々は"旧ユーゴの優等生"スロベニアを通らない限り、どうしてもオーストリアに辿り着けないのです。 EU加盟後にすっかり大きくなったスロベニア国境のドボヴァ駅に入ると、駅のホームに特別警官隊がずらりと並んでいます。 「なんだ、あいつの面構えは! あのヒゲはまるでユーゴのおっさんみたいだぜ」 既にビールでほろ酔いのクロアチア人警官は隣国の同業者の悪口を言います。 クロアチアとスロベニアは犬猿の仲。先にEU入りしたことへのヤッカミもあるのですが、漁業水域問題や国境問題をはじめ両国間には数多くの国際問題を抱えており、その民族間感情の悪さはクロアチア~セルビアと匹敵するほど。ちなみにクロアチアの国旗をかざしてスロベニア国内を車で走り、もしスロベニア警察に検挙されると41ユーロの罰金が取られるそうで、ここまで来るともう嫌がらせです。ネット上ではこんなクロアチア人の皮肉があります。 「スロベニア人と蚊の違いは何かって? 蚊に神経質になるのは夏だけ、ってことさ」 パスポートは念入りにチェックされ、手荷物も開かなくてはなりません。もちろん、発炎筒などがあればそこで没収。なにせ完全武装した警官隊も構えているので抵抗などできません。相当な時間が経過し、ようやく客車が動き出すと、クロアチア人警官は禁煙のコンパートメントを出て車両の廊下でタバコに火をつけました。そこで同僚が言います。 「スロベニアは公共の場所でのタバコが禁止されているらしいぜ」 「はあ。知るか、そんなもん!」 ユーロ2008とは無縁のスロベニアを列車が走る中、サポーターたちが歌います。 「Trazim je na karti, nema je, Slovenije! Slovenije!」 (地図で探したところでも無いんだぜ、スロベニア! スロベニア!)
これは小国かつEUに飲み込まれたスロベニアに対しての皮肉ソングです。今年はEUの議長国を務め、平均年収は二倍近くと、すっかり水を空けられたクロアチアにとっては、こうでも言わないと溜飲が下がらないようです(笑) 思い返せば、4年前のユーロ2004予選プレーオフで両国が戦い、あのプルショのゴールが無ければ格下スロベニアに沈められていました(ちなみに今回のスロベニアは予選グループで7チーム中6位)。もし、あそこで敗北していたらクロアチアは面目丸潰れだったことでしょう。だからこそ、プルショはクロアチア人にとって永久に英雄であり続けるのです(彼がセルビア人とはいえ)。 ちなみにチャンピオンズ・リーグ2008/2009シーズンの抽選会が今日行われ、ディナモ・ザグレブは予選一回戦のリンフィールド(北アイルランド)を下せば、次の二回戦は昨年に引き続いてスロベニアのドムジャレと対戦することが濃厚となりました。 二回戦に出てくる普通のチーム相手ならば1万人も観客がスタジアムに集まらないところですが、昨年は2万人以上が集まり、敵意むき出しに汚いコールを連発(映像はこちら。53秒ぐらいから上のフレーズが出てきます)。何かと「目の上のたんこぶ」なスロヴェニアとの宿命はまだまだ続きそうです。 気になるのは列車で一緒だったクロアチア警官の皆さん。クロアチアのサポーターはあれでもまだまだ手緩いところがありますが、今度は熱く暴れるディナモ・サポーター「BBB」相手に警備として彼らも借り出されることでしょう。確かハイドゥク・スプリトのファンだと言っていた記憶が。
posted by 長束恭行 |20:05 |
サッカーコラム |
コメント(7) |
この記事に対するコメント一覧
想い出(3)/険悪なスロベニア越え~ユーロ2008取材より
思ったよりも隣国スロヴェニアとの国民感情は悪いんですね。
クロアチア側のやっかみが大部分のように感じますが。
プルショがセルビア人なのは、知りませんでした。
あのプレイオフの試合は、自分も見てましたが、ショコタが、ポストとして凄く効いていた印象があります。
そういえば、今回のユーロで、赤白のホームユニで臨んだ試合って、ありましたっけ??
posted by alena | 2008-07-01 22:40
想い出(3)/険悪なスロベニア越え~ユーロ2008取材より
こんにちは。その後、体調はいかがですか?
風邪、治ってきてますか?
このシリーズ、めちゃくちゃおもしろいですね。
爆笑しながら読みました。
バーバラはスロヴェニア人のお母さんを持つハーフなの
で微妙な存在ですね(苦笑)。
posted by yuki | 2008-07-02 00:08
想い出(3)/険悪なスロベニア越え~ユーロ2008取材より
ちょっと真面目な話を。
領土問題の件は色々と聞いていますが、ちょっとした火種になりかねないですね・・・。
平和裏に解決の方向に進むことを祈るばかりです。
スロベニアは平均所得が大きく増加する中で、
自殺率も激増して日本も超えてしまっているところを見ると、
社会として大きなストレスを抱えてしまっているように感じます。
クロアチアとしても、他の旧ユーゴ連邦の国にとっても、果たしてスロベニアが成功の道をたどっているのか、問いかける必要があるかもしれませんね。
戦争はどんな場合でも回避できる状況を回避できずもしくは回避せず、起こってしまうものだと思っています。
まだ戦後間もない状況なので、クロアチアとセルビア間含め敵対的感情が強いのはやむをえないのは理解できます。
その感情が歴史的な対立を材料に、政治的に「作られた」感情であるという認識が進む日が早く来ることを願っています。
そのことによって不幸になるのは、政治家ではなく、その地域に住む一般市民なのは間違いないので。
また融和に向けての動きを進めるのに大切なのは、国内政治を後押しするような、国際機関、独立メディア、研究者の力添えだと感じています。
微力ながら、僕も何かの形で力添えができればと思っています。
posted by タカ | 2008-07-02 07:21
想い出(3)/険悪なスロベニア越え~ユーロ2008取材より
以前すこしうかがったスロベニアとの関係ですね。
なるほど、想像以上に仲が悪いようで(笑)
われわれ日本人も“旧ユーゴ”といっしょくたにしないよう気をつけんとなぁ。怒られます。
プルショはたしか…ダルマチア出身でしたっけ?海のほうの。
クライナ・セルビア人共和国に近かったこともあり、この地方はクロアチア側からの砲撃を受けたとも聞きます。
ザグレブとスプリトの関係も一筋縄ではいかないんでしょうね。
もっとも以前ここでうかがったハナシでは、生身での戦争の感覚が希薄な若年層の罵詈雑言は地に足がついていないようでしたが。
想い出シリーズ第四弾もたのしみにしてます。
posted by 由比彰紀 | 2008-07-02 12:18
想い出(3)/険悪なスロベニア越え~ユーロ2008取材より
なーんか、微妙な感情を持って読みました。
長束さん、いくらあなたがクロアチアに肩入れしようが、
クロアチア人と同化したつもりでいようが、
そしてスロベニアを手を変え品を変えコケにしようが、
あなたはいつまでたってもクロアチア人にはなれませんよ。
その国の文化が好き、というなら止めません。
ですが、ここまで感覚的、盲目的なクロアチアへの愛情を表現されたら、
すこし悲しく感じるのは私だけではないはずです。
posted by ひろ | 2008-07-04 00:44
想い出(3)/険悪なスロベニア越え~ユーロ2008取材より
> ひろさん
別に私はクロアチア人になる気などさらさらありませんし。
海外に住めば分かりますよ。自分が日本人以外何者でもないってね。
ですから、クロアチアという国や民族に対して盲目的な愛情なんてこれっぽっちもないですよ。現時点でも仲良くスロベニア人と働いていますし。
宇都宮に赴任した愛知県人が栃木県人の群馬県人に対する感情をレポートした、なんてレベルで読んで頂ければ結構です(笑)
posted by 長束恭行 | 2008-07-04 01:30
想い出(3)/険悪なスロベニア越え~ユーロ2008取材より
盲目的か否かは主観的に判断出来難いと思いますよ。
周囲がその発言に対してどう受け止めるかに因るのではないでしょうか。
話は変わってプルショの親戚はスルビヤのジュニアユースに選ばれていませんでしたっけ。
posted by ビエコスラフ・ヴヤクリヤ | 2008-07-08 11:41

初戦のクロアチアvs.オーストリアの開催地はウィーン。ウィーン往復に選んだ手段は地元旅行社が企画した
クロアチアもヨーロッパの国でありますが、彼らの中には潜在的に「ヨーロッパ=西側の先進国=EU」というイメージがあります。スロベニアは早々と2004年にEUに加盟したのですが、クロアチアは戦犯問題もあってEU加盟に出遅れてしまいました。そんな中、クロアチアに住む人々は"旧ユーゴの優等生"スロベニアを通らない限り、どうしてもオーストリアに辿り着けないのです。
EU加盟後にすっかり大きくなったスロベニア国境のドボヴァ駅に入ると、駅のホームに特別警官隊がずらりと並んでいます。
「なんだ、あいつの面構えは! あのヒゲはまるでユーゴのおっさんみたいだぜ」
既にビールでほろ酔いのクロアチア人警官は隣国の同業者の悪口を言います。
クロアチアとスロベニアは犬猿の仲。先にEU入りしたことへのヤッカミもあるのですが、漁業水域問題や国境問題をはじめ両国間には数多くの国際問題を抱えており、その民族間感情の悪さはクロアチア~セルビアと匹敵するほど。ちなみにクロアチアの国旗をかざしてスロベニア国内を車で走り、もしスロベニア警察に検挙されると41ユーロの罰金が取られるそうで、ここまで来るともう嫌がらせです。ネット上ではこんなクロアチア人の皮肉があります。
「スロベニア人と蚊の違いは何かって? 蚊に神経質になるのは夏だけ、ってことさ」
パスポートは念入りにチェックされ、手荷物も開かなくてはなりません。もちろん、発炎筒などがあればそこで没収。なにせ完全武装した警官隊も構えているので抵抗などできません。相当な時間が経過し、ようやく客車が動き出すと、クロアチア人警官は禁煙のコンパートメントを出て車両の廊下でタバコに火をつけました。そこで同僚が言います。
「スロベニアは公共の場所でのタバコが禁止されているらしいぜ」
「はあ。知るか、そんなもん!」
ユーロ2008とは無縁のスロベニアを列車が走る中、サポーターたちが歌います。
「Trazim je na karti, nema je, Slovenije! Slovenije!」
(地図で探したところでも無いんだぜ、スロベニア! スロベニア!)
これは小国かつEUに飲み込まれたスロベニアに対しての皮肉ソングです。今年はEUの議長国を務め、平均年収は二倍近くと、すっかり水を空けられたクロアチアにとっては、こうでも言わないと溜飲が下がらないようです(笑)
思い返せば、4年前のユーロ2004予選プレーオフで両国が戦い、あの

