2010年08月29日
ハリルホジッチ新監督率いるディナモ・ザグレブ、4年連続ヨーロッパ・リーグ本戦へ
ディナモ・ザグレブとハイドゥク・スプリトがそれぞれヨーロッパ・リーグの予備戦プレーオフを通過。クロアチア・サッカー史上初めて、2クラブが欧州カップ戦のリーグラウンドに勝ち進むことになりました。まずはディナモの近況についてレポートしましょう。 思わぬ形で名将ヴァヒド・ハリルホジッチを監督として手に入れたディナモ。チャンピオンズ・リーグ予備戦でモルドバのシェリフ相手に敗れ去り、国内リーグでも8位と揮わぬ選手達は「まるでスノードロップの花のように選手の顔は下を向いていた」(ハリルホジッチ談)ほど落ち込んでいた中、ハリルホジッチ監督はまず選手一人一人と対話の場を持ち、同時に全体ミーティングと厳しいトレーニングにて意識改革とプレー向上を図りました。就任3日目で迎えたヨーロッパ・リーグ予備戦プレーオフ、アウェーでのジェールETO(ハンガリー)との第一戦。スタメンと布陣はこれまでと変わらないのにもかかわらず、選手全員がアグレシッシブな働きを見せます。前半20分、右のエトーからルカビナ(写真)がボールをもらいながらマーカーを振り切ると、アウトサイドでGKの左脇を抜けるシュートを決めて先制。その8分後には、エトーの右からの折り返しがこぼれ球になったところをルカビナが拾って再びゴールへと流し込み、2-0とリードを広げます。(ゴールの動画) ハリルホジッチ監督がベンチから立ち上がって指示することは少なく、殆ど把握してない選手達の動きをチェックしながら戦況を眺めます。後半はジェールに押され、FKがクロスバーに当たったり、完全にゴールを割られそうになる場面もありましたが、必死の守備で防ぎ切り、自信を取り戻す2-0の勝利を収めました。 ハリルホジッチ監督は試合後、こう試合を振り返ります。 「私は監督として今のディナモを引き受ける大きなリスクを負った。しかし、リスクを追わないものは利益を得ることもない。これは我々にとって非常に重要な勝利だし、現時点で我々を止められやしないだろう。まだまだもっと実力を出せる。しかし、そのためには充分な時間が必要だ」 そして現役時代はユーゴ最高のFWの一人だったハリルホジッチが、試合前にルカビナへ放ったアドバイスとはこうでした。 「プレー中は遠慮しなくていいし、もっと"壊れて"しまうべきなんだぞ。相手のゴールに対して背中を向けるな。ゴールに向かって縦に貫け!」
本人曰く、「ビタミン剤を飲みながら一日20時間働く」ほどのワーカホリック。試合当日は午前練習に加え、試合直後も疲労回復を目的に練習を課すほど厳格な指導者。これまでゴシップな話題ばかり振る撒いていたディナモですが、ハリルホジッチ監督(写真)の到来であらゆることが変わりつつあります。これまで選手やスタッフの尻を叩き続けたマミッチ副会長が声を荒げる必要はなくなり、監督の仕事にも口出しをしなくなりました。また、マミッチ副会長が去るまではボイコット続投を宣言するサポーターのバッド・ブルー・ボーイズに対しても 「サポーター抜きのディナモはディナモじゃない。私にとっても最も辛いのはBBBのボイコットだ。いつでも私自身は彼らと話し合う準備はできているし、分かり合える点もあるだろう。マミッチはディナモじゃないし、私もディナモじゃない。ディナモとは彼らサポーターのことなのだよ! ただし、彼らが敵視する人々がこの不況下、高いレベルでクラブ経営を維持していることを理解せねばならぬ。おそらくフロントはミスも犯しただろうし、もっと成果を残せたかもしれない。しかし、ディナモをボイコットすることは許されないんだ。ディナモはサポーターにとって聖なるものじゃないか。かつて私は旧ユーゴのクラブはどこも引き受けることはしないと自分に誓った。しかしながら、ディナモは何か特別な存在なんだ!」 とディナモの価値を認めながら、BBBとの対話路線を強調しました。
クロアチア・リーグ第5節のスラヴェン・ベルーポ戦(A)も2-0で勝利し、マクシミール・スタディオンで迎えたジェールとの第2戦。BBBが構える北スタンドはガラガラでしたが、メインスタンドとバックスタンドを中心に1万人の観客が集まりました。前売りで200枚ほどしかチケットが捌けず、「どうせ観客はいて1000人だろう」と高をくくって試合開始30分前に私はスタジアムを訪れたものの、周囲に駐車スペースを探せぬほどの状況でした。いわゆる良心派の観客がスタジアムに戻ってきたのです。 ハリルホジッチ監督の名前が呼び上げられると大きな拍手が湧き、試合中には「ヴァハ(ハリルホジッチの愛称)、マイストーレ!」のコールも。また、ライバルのハイドゥクがウニレア・ウルジチェニを破ってリーグラウンド進出を決めたことがアナウンスされると、ブーイングは一つも起こるどころかスタンド全体から拍手が起こりました。これまでハイドゥクに対する憎悪ばかりを目にしたきただけに、この現象は一つの奇跡であり、新たなムーブメントの可能性を感じさせるシーンでもありました。 (写真:バックスタンドに掲げられる横断幕には「マミッチ、我々がついている」の文字が)
ポジティブな応援を前にしながらも、ピッチ上の選手達は緊張で固まってしまい、パスも思うように繋がりません。ガツガツと当たりに来るジェールの選手に押され、17分にMFヴェルジーの左クロスからFWセオリンのボレーシュートを食らって先制を許してしまいました。 これまでと違い、何度も立ち上がって選手を鼓舞するハリルホジッチ監督。集中力の薄い左SBメシャリッチを33分に下げて体制を整えると次第に攻勢を強め、前半終了間際にモラレス(写真)が左からの突破で倒されてPKをゲット。これをサミールが決めて同点に追いつきます。 これで精神的に取り戻したディナモは、ジェールの猛攻を交わしつつ五分以上の展開に。ジェールは82分、元オシエクのDFバビッチのヘディングシュートを放つもGKロンチャリッチにセーブされます。そして84分、FWドドーがエリア内で倒されて再びPKの判定。これをサミールが冷静に決めて2-1とディナモが逆転勝利。トータルスコア4-1で勝ち抜け、4シーズン連続のリーグラウンド進出を決めました。 (ゴール動画) 試合後、会見場に現れたハリルホジッチ監督は興奮した様子もなく、冷静に語り始めました。 「難しい試合だった。相手の最初のシュートで失点した時は、私に起こりうる仕事の重さを感じたよ。何としても勝たねばならぬという精神的なプレッシャー下にチームは置かれていたからね。我々は勝利に完全に値したし、納得もできるものだろう。 しかし、ピッチの内外において多くの仕事が残されている。恐怖心が選手だけでなく、選手を囲む人々にもあるのは明白だった。私が何度も立ち上がったのは、選手達が余りに恐れ、失点後には脅えた顔をしていたからだ。私がついているぞ、と選手達に示したかったんだよ。 ヨーロッパ・リーグ本戦進出という最初の目標は達成した。それがとても重要だ。いつか満員のスタジアムで我々を応援する日が来るだろう。しかし、そうなるためにはもう少し待たねばならない」
ハリルホジッチ監督就任後、これで3連勝。チームを取り巻く雰囲気も随分と良くなってきました。27日、モンテカルロでヨーロッパリーグのグループ抽選が行われ、ディナモはグループDでヴィジャレアル(スペイン)、クラブ・ブルージュ(ベルギー)、PAOK(ギリシャ)と同じ組になりました。 1970年以来の欧州カップ年越しを目標に掲げながら、何度も弾き返されてきたディナモ。それこそエドゥアルド、モドリッチ、チョルルカ、ヴコイェヴィッチら現クロアチア代表を支えるメンバーを一同に揃えながらも実現できなかった目標です。ハリルホジッチ監督の下ならば…と期待を寄せずにいられませんが、抽選後に放たれる指導者の言葉は力強いながらも地に足がついたものでした。 「ヴィジャレアルがグループ突破の本命で、残る3チームは同等に二位のポジションを賭けて戦うだろう。クラブ・ブルージュはホームで強いし、ギリシャのクラブもどれだけホームで熱狂的な雰囲気かは知られた話だ。このグループは何でも起こりえる。対戦相手はどこもクオリティが高いだけに、最高の形で我々も準備しなければならぬ。 我々は春もヨーロッパ・リーグの戦いを続けるというプロジェクトを実現させたいんだよ。今よりもクオリティが高く、優れた個人がいたチームでも実現できなかったプロジェクトをね。このチームに必要なものが何か私は分かっている。だから、これまで不可能だったことをチャレンジしていくんだ。ジェールと戦った時よりも間違いなく我々は強くなるだろう。ヨーロッパ・リーグが始まる20日後にはもっとチームはクオリティが高くなるはずだ。 大きな口を叩くつもりはない。私は思慮分別のある楽天家だからね。信じる必要があるんだよ。コレクティブな成功には多くのパラメーターが影響する。私はディナモが成功するために全てをやり遂げるつもりだ」 ディナモは層の薄いディフェンス陣を強化すべく、ポルトガル代表歴のあるDFアントニオ・レオネル・ヴィラル・ノゲイラ・ソウザ・"トネル"(30)を2年半契約で獲得。ハリルホジッチ監督がヨーロッパで戦える環境を作るべく、移籍期限ぎりぎりまでマミッチ副会長も奔走するつもりです。 クロアチア国内では巨人というべきディナモはヨーロッパの舞台では小人のような存在ですが、果たしてハリルホジッチ監督の手によってジャイアントキリングが実現するのか。初戦は9月16日、いきなりホームでヴィジャレアルを迎えます。
posted by 長束恭行 |04:13 |
サッカーニュース |
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就任3日目で迎えたヨーロッパ・リーグ予備戦プレーオフ、アウェーでのジェールETO(ハンガリー)との第一戦。スタメンと布陣はこれまでと変わらないのにもかかわらず、選手全員がアグレシッシブな働きを見せます。前半20分、右のエトーからルカビナ(写真)がボールをもらいながらマーカーを振り切ると、アウトサイドでGKの左脇を抜けるシュートを決めて先制。その8分後には、エトーの右からの折り返しがこぼれ球になったところをルカビナが拾って再びゴールへと流し込み、2-0とリードを広げます。(
本人曰く、「ビタミン剤を飲みながら一日20時間働く」ほどのワーカホリック。試合当日は午前練習に加え、試合直後も疲労回復を目的に練習を課すほど厳格な指導者。これまでゴシップな話題ばかり振る撒いていたディナモですが、ハリルホジッチ監督(写真)の到来であらゆることが変わりつつあります。これまで選手やスタッフの尻を叩き続けたマミッチ副会長が声を荒げる必要はなくなり、監督の仕事にも口出しをしなくなりました。また、マミッチ副会長が去るまではボイコット続投を宣言するサポーターのバッド・ブルー・ボーイズに対しても
「サポーター抜きのディナモはディナモじゃない。私にとっても最も辛いのはBBBのボイコットだ。いつでも私自身は彼らと話し合う準備はできているし、分かり合える点もあるだろう。マミッチはディナモじゃないし、私もディナモじゃない。ディナモとは彼らサポーターのことなのだよ!
ただし、彼らが敵視する人々がこの不況下、高いレベルでクラブ経営を維持していることを理解せねばならぬ。おそらくフロントはミスも犯しただろうし、もっと成果を残せたかもしれない。しかし、ディナモをボイコットすることは許されないんだ。ディナモはサポーターにとって聖なるものじゃないか。かつて私は旧ユーゴのクラブはどこも引き受けることはしないと自分に誓った。しかしながら、ディナモは何か特別な存在なんだ!」
とディナモの価値を認めながら、BBBとの対話路線を強調しました。
クロアチア・リーグ第5節のスラヴェン・ベルーポ戦(A)も2-0で勝利し、マクシミール・スタディオンで迎えたジェールとの第2戦。BBBが構える北スタンドはガラガラでしたが、メインスタンドとバックスタンドを中心に1万人の観客が集まりました。前売りで200枚ほどしかチケットが捌けず、「どうせ観客はいて1000人だろう」と高をくくって試合開始30分前に私はスタジアムを訪れたものの、周囲に駐車スペースを探せぬほどの状況でした。いわゆる良心派の観客がスタジアムに戻ってきたのです。
ハリルホジッチ監督の名前が呼び上げられると大きな拍手が湧き、試合中には「ヴァハ(ハリルホジッチの愛称)、マイストーレ!」のコールも。また、ライバルのハイドゥクがウニレア・ウルジチェニを破ってリーグラウンド進出を決めたことがアナウンスされると、ブーイングは一つも起こるどころかスタンド全体から拍手が起こりました。これまでハイドゥクに対する憎悪ばかりを目にしたきただけに、この現象は一つの奇跡であり、新たなムーブメントの可能性を感じさせるシーンでもありました。
(写真:バックスタンドに掲げられる横断幕には「マミッチ、我々がついている」の文字が)
ポジティブな応援を前にしながらも、ピッチ上の選手達は緊張で固まってしまい、パスも思うように繋がりません。ガツガツと当たりに来るジェールの選手に押され、17分にMFヴェルジーの左クロスからFWセオリンのボレーシュートを食らって先制を許してしまいました。
これまでと違い、何度も立ち上がって選手を鼓舞するハリルホジッチ監督。集中力の薄い左SBメシャリッチを33分に下げて体制を整えると次第に攻勢を強め、前半終了間際にモラレス(写真)が左からの突破で倒されてPKをゲット。これをサミールが決めて同点に追いつきます。
これで精神的に取り戻したディナモは、ジェールの猛攻を交わしつつ五分以上の展開に。ジェールは82分、元オシエクのDFバビッチのヘディングシュートを放つもGKロンチャリッチにセーブされます。そして84分、FWドドーがエリア内で倒されて再びPKの判定。これをサミールが冷静に決めて2-1とディナモが逆転勝利。トータルスコア4-1で勝ち抜け、4シーズン連続のリーグラウンド進出を決めました。
(
ハリルホジッチ監督就任後、これで3連勝。チームを取り巻く雰囲気も随分と良くなってきました。27日、モンテカルロでヨーロッパリーグのグループ抽選が行われ、ディナモはグループDでヴィジャレアル(スペイン)、クラブ・ブルージュ(ベルギー)、PAOK(ギリシャ)と同じ組になりました。
1970年以来の欧州カップ年越しを目標に掲げながら、何度も弾き返されてきたディナモ。それこそエドゥアルド、モドリッチ、チョルルカ、ヴコイェヴィッチら現クロアチア代表を支えるメンバーを一同に揃えながらも実現できなかった目標です。ハリルホジッチ監督の下ならば…と期待を寄せずにいられませんが、抽選後に放たれる指導者の言葉は力強いながらも地に足がついたものでした。
「ヴィジャレアルがグループ突破の本命で、残る3チームは同等に二位のポジションを賭けて戦うだろう。クラブ・ブルージュはホームで強いし、ギリシャのクラブもどれだけホームで熱狂的な雰囲気かは知られた話だ。このグループは何でも起こりえる。対戦相手はどこもクオリティが高いだけに、最高の形で我々も準備しなければならぬ。
我々は春もヨーロッパ・リーグの戦いを続けるというプロジェクトを実現させたいんだよ。今よりもクオリティが高く、優れた個人がいたチームでも実現できなかったプロジェクトをね。このチームに必要なものが何か私は分かっている。だから、これまで不可能だったことをチャレンジしていくんだ。ジェールと戦った時よりも間違いなく我々は強くなるだろう。ヨーロッパ・リーグが始まる20日後にはもっとチームはクオリティが高くなるはずだ。
大きな口を叩くつもりはない。私は思慮分別のある楽天家だからね。信じる必要があるんだよ。コレクティブな成功には多くのパラメーターが影響する。私はディナモが成功するために全てをやり遂げるつもりだ」
ディナモは層の薄いディフェンス陣を強化すべく、ポルトガル代表歴のあるDFアントニオ・レオネル・ヴィラル・ノゲイラ・ソウザ・"トネル"(30)を2年半契約で獲得。ハリルホジッチ監督がヨーロッパで戦える環境を作るべく、移籍期限ぎりぎりまでマミッチ副会長も奔走するつもりです。
クロアチア国内では巨人というべきディナモはヨーロッパの舞台では小人のような存在ですが、果たしてハリルホジッチ監督の手によってジャイアントキリングが実現するのか。初戦は9月16日、いきなりホームでヴィジャレアルを迎えます。

