2010年08月19日

最後の救世主となるか?/名将ハリルホジッチ、ディナモ新監督に就任

先週にヴェリミール・ザイェッツ監督を在任76日で解雇したディナモ・ザグレブは、16日、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のヴァヒド・ハリルホジッチ(58)と2年半の監督契約を結びました。年俸はディナモ史上最高の80万ユーロと推定。しかし、誉れ高い名将の一人ということもあり、今ある危機を救うだけでなく、ディナモをヨーロッパの大舞台で戦えるクラブに育てることも期待されています。

nogomet-182798.jpgズドラヴコ・マミッチ副会長が牛耳る10年間で、ディナモは13人の監督を費やしてきました。後任候補としてカルロヴァッツを3部リーグから1部リーグに昇格させたイゴール・パミッチに接触したものの、パミッチ本人が拒否。もうこれ以上、国内でディナモを任せられる指導者が見つからない中、「個人的に外国人監督の雇用は反対だが、可能性はある」とマミッチ副会長は方向転換を認めました。
そんな中、いきなりビッグネームのハリルホジッチの名前が浮上。クロアチアのマカルスカの別荘で保養する彼の下にマミッチ副会長と弟ゾラン(スポーツディレクター)が訪れ、粘り強く5時間に渡って交渉した結果、ディナモの監督を引き受けることを決断しました。

現役時代はユーゴスラビア・リーグのヴェレズ・モスタル、フランス・リーグのナントで決定力あるFWとして知られたハリルホジッチ。指導者に転じた当初はボスニア紛争に巻き込まれ、また仕事にも恵まれない不幸な時代を過ごしましたが、1997年にラジャ・カサブランカをアフリカ・チャンピオンズリーグ優勝に導くと、1998年には二部リーグで降格争いをするリールへ。ここで彼は革命的な成功を収めます。
あっという間にチームを建て直し、2000年にリールを一部に昇格させると、直ぐに一部で優勝争いを演じます(結果は3位)。その翌シーズンはプレーオフでパルマを倒してチャンピオンズ・リーグ本戦にコマを進めました。2003~2005年はパリ・サンジェルマンを指導し、フランスカップを制覇。しかし、レキップ紙のジャーナリストを練習から締め出したことがきっかけで、フランスの全メディアを敵に回して失脚してしまいます。
その後はフランスとの縁が切れ、トラブゾンシュポール(トルコ)、アル・イティハド(サウジ)を経てから2008年にコートジボアール代表監督に就任。同国のワールドカップ出場をもたらし、23戦負けなしが続いていたものの、延長までもつれたアフリカ・ネーションズ・カップの準々決勝・対アルジェリア戦で喫した1敗が政治的に利用されてしまい、ワールドカップ開幕の3ヶ月前に解任されてしまいました。

nogomet-182799.jpg「ルール、規律、練習」をモットーとし、ロナウジーニョやドログバといったスター選手だろうと妥協を許さぬスタイル。世界を渡り歩き、大舞台で獲た経験。そして滲み出る知性とカリスマ。17日の最初の練習と就任記者会見に私も行ってきましたが、ハリルホジッチは並々ならぬオーラを漂わせる人物でした。メディアへの対応は良くないと噂されてたものの、実際は語りだすと止まらないオープンな性格で、記者陣に対しても「どんなテーマでも質問してくれ」「もちろん目の前の仕事が最優先だが、いつでも私はインタビューに応じるつもりだ」と近寄り、ディナモが二年近くメディアに非公開にしていた練習も基本は公開されることになりました。民族の出を理由にハリルホジッチを攻撃するメディアは一つもなく(彼はムスリム人)、むしろ、どのメディアも彼の到来をポジティブに捉えています。

報道陣で溢れかえった会見場のトロフィールームで、ハリルホジッチ新監督はこのように述べました。
「私の仕事は批判を受けるべきものなのは分かっている。しかし、貴方たちとはお互いに敬意を払う存在でありたい。個人を簡単に攻撃するのではなく、スポーツという側面を重きに置いてもらうことでね。課題を目の前に置かれたクラブに私はやってきた。信用してくれたことには感謝しているし、掲げられた目標は達成するつもりだよ。その目標とはディナモをチャンピオンズ・リーグに出場させること。その前に今季はヨーロッパ・リーグ本戦の出場を決め、そこで冬を越すことだ。長く実現できてないんだろ? もちろん、クロアチア・リーグ制覇も目標だ。今は6位に甘んじているが、トップに立たねばならぬ。

nogomet-182801.jpg私は既に十分に金持ちになったが、ディナモに来たのは金のためではなく、このクラブを助けるためだ。ズトラブコ(・マミッチ)に『ディナモはヨーロッパで何も演じてないじゃないか!』と言ったら、彼は怒っていたけどね。しかし、ディナモはこの地域を代表するクラブだよ。
マミッチと私のどちらがボスかって? ピッチとドレッシングルームでは私がボスだ。私が物事を決めるのさ! 5時間に渡って彼と会話する中で、私が望むことは全て口にした。マミッチはディナモを愛し、自分のことよりもディナモを愛してるのは目に見える。しかし、彼が信用を寄せる私がこのチームを率い、どの選手が出るかを決める。そのために彼は私に給料を払っているんだ。ディナモやフロントに関するネガティブな話は色々と耳にしている。しかし、実際にここで働く人々と知り合うと、見方は変わったよ。だから、私はサインをした。じゃなかったらサインなんてしないさ。

しかし、いきなり木曜日のジェール戦(ヨーロッパリーグ・プレーオフ)を率いるなんて狂気な役割をよくも引き受けてしまったもんだ。でも本戦に出場できないなんて異常事態を起こしてはならぬ。こんなチャンスを手放すことは許されないんだ。私は巨大なリスクを背負ってしまったよ。チームを2日間率いるだけで重要な試合を迎えるわけだからね。
選手には『勝ちに行くぞ』と伝えた。幸運なことに第二戦もある。モンペリエはビッグクラブではないが、フランスのクラブを倒すことは簡単じゃない。ジェールは三回戦でそのモンペリエを下しただけに危険なチームだ。彼らの試合を収めたビデオテープは深夜に観るつもり。その時間帯だと、異なるビデオテープを観る方が好きな人々はいるだろうけどね。そう、女性が出演するやつさ。でも私はサッカー選手が出演するビデオテープの方を好む。もちろん、私だって美しい女性は好きだけどね(笑)」

nogomet-182800.jpgフランスで20年間生活しているため、母国語であるボスニア語(クロアチア語)が時々出てこず、横に座るゾラン・マミッチや報道陣の助けを借りることもありましたが、フランス風ともボスニア風とも取れるジョークを交えながら周囲を引き寄せる語り口は独特で、イヴィツァ・オシムと相通じるものがありました。また選手達との最初のミーティングを見ていたマミッチ副会長は
「彼の話を聞いていると、まるで私がこれまでサッカーでなく、水球に従事していたかのように思えてきた」
とすっかり魅了されています。

2008年にミロスラフ・ブラジェヴィッチ(現・上海申花監督)がボスニア・ヘルツェゴビナ代表監督に就任する際、ハリルホジッチは当初反対派に回っていたわけですが、ブラジェヴィッチは彼のディナモ監督就任に関して
「(前任の)ザイエッツは監督じゃないが、ハリルホジッチは本物の監督だ。彼がディナモの監督になって私は嬉しいよ。素晴らしいサッカーの教師であるし、マミッチは最高の選択をしたと言わねばならない。ハリルホジッチに関して聞かれたら、私はプラス面しか言うことができないよ。ディナモで彼は業績を残せるものと信じている。チームで最重要なのはやっぱり監督だ。クロアチアではなかなかそうはいかず、一般的にオーナーが最重要とされてしまっているがね。私がボスニア・ヘルツェゴビナ代表監督に就任することに彼は反対したって? ああ、あれは単なる政治的な駆け引きさ。完全に和解したよ。彼に関しては良いことしか記憶にない。私がナントを率いることになったのも、彼が私を推薦してくれたからだ」
と述べています。

マミッチ副会長の蛮行で国民、メディア、サポーター、おまけにクロアチア政府まで敵に回した現在のディナモ・ザグレブ。5連覇の影で次々と監督の首が切られ、またクラブ存続のために優秀なクロアチア人選手を売却、それを補うために無駄に獲得した外国人の過多でチームバランスは崩れてしまったため、欧州でも国内でも成績は奮いません。そんな最悪な状況下で、まるで天上界から降りてきたようなハリルホジッチ。彼が最後の「救世主」となるかどうか、これからの変化に目が離れません。


posted by 長束恭行 |07:31 | サッカーニュース | コメント(0) |
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

コメントする

「他サービスID/メールアドレス」で投稿する場合は、そのID/メールアドレスは表示されず、当サービス専用の固定のコメント投稿者ID「英数+連番」に変換され表示します。

※コメント投稿手順
(1)上記リストから希望のIDを選択する。
  例: Yahoo! JAPAN IDでコメント投稿
(2)Yahoo! JAPAN上の本人確認画面でIDとパスワードを入力する。
(3)スポーツナビ+blog側のコメント入力画面が表示される。
(4)コメント本文を記入し、投稿ボタンをクリックする。
(5)コメント投稿者IDとコメントが表示される。

詳しくは以下2ページをご覧下さい
【仕様変更】PCからのコメント投稿について
ブログ利用マニュアル「コメント投稿方法」

※コメント投稿手順
(1)上記リストからログイン/メールアドレスのどちらかを選択する。
  例: ログインしてコメント投稿
(2)plus-blogのアカウントとパスワード/メールアドレスを入力する。
(3)コメント入力画面が表示される。
(4)コメント本文を記入し、投稿ボタンをクリックする。
(5)コメント投稿者IDとコメントが表示される。

詳しくは以下2ページをご覧下さい
【仕様変更】PCからのコメント投稿について
ブログ利用マニュアル「コメント投稿方法」