2010年07月18日
創立100周年を機に復権を目指すハイドゥク・スプリト
ディナモ・ザグレブの開幕前の現状を取り上げたのに続き、今回はライバルのハイドゥク・スプリトを取り上げましょう。「スパルタ・プラハvs.スラヴィア・プラハ」のダービーマッチを観戦したスプリト出身の4人の留学生が、プラハ一有名なビアホール「ウ・フレク」でビールを飲みながら、「我らの手で地元スプリトにサッカークラブを作ろう」とのアイデアが生まれました。1911年2月13日、オスマン・トルコの戦った義賊名にちなんで名づけられたサッカークラブ「ハイドゥク・スプリト」が正式登録。あらゆる時代を経て("ユーゴ建国の父チトーが愛したクラブ"とも言われます)、いよいよ来年にクラブ創立100周年を迎えます。 ナンバーや縁には金色をほどこした特別ユニフォームを制作し、来年2月にスラヴィア・プラハ、来年夏にはバルセロナを親善試合に召集するなど、クラブは100周年に特別な熱の入れようです。クラブの今季の命題の一つが、6年ぶりのリーグ優勝。もちろん倒すべき相手は、5連覇中のディナモ・ザグレブとなります。 (写真は、プラハの"ウ・フレク"を訪れた際に店内で発見した、ハイドゥク発祥地を記念するプレート) しかしながら、クラブを取り巻く状況は芳しくありません。財政難を克服する最後の手段として、借金を株式化したのが2008年。地元の富豪が次々と株を買占めたことで、負債を解消し、一時は潤沢な資金を得ました。しかしながら、複数の大口株主が経営や補強に口出しするようになり、高額な給与に見合わないベテランを次々と獲得したと思えば、株主のコネでプロ契約した若手も続出。かつては欧州屈指の評価を得ていたユーススクールも落ちぶれ、手塩に掛けたユース選手が横取りされたり、親や親戚によるコーチ収賄や暴力事件までも発生しています。
今年2月にイタリア人監督エドアルド・レーヤがラツィオを指揮するために退団し、急遽チームを率いることになったのはスプリト出身のスタンコ・ポクレポヴィッチ(写真)。特殊な地元のメンタリティをよく理解している彼は、持ち駒をフルに活かしながら実利と結果を重んじるサッカーを展開。シーズン前半の低迷ぶりをチームは払拭し、目標とされていたカップ戦優勝と2位を実現したのでした。 ポクレポヴィッチ監督は72歳の高齢ということで、フロントも当初は続投をためらったのですが、代わりを務められる指導者は見当たらず、2010/11シーズンもポクレポヴィッチが続投することになりました。 しかしながら、フロントはポクレポヴィッチに"美しいサッカー"も要求する一方で、選手を次々と整理。60人という異常な数の契約選手を40人ほどまで減らし、高額選手は放出か給与削減を呑ませることで財政を緊縮させました。以下が今季の主な選手の出入りです。 (加入) MFマリオ・ブルクリャチャ(25) 【←カリアリ、レンタルから帰還】 GKボジダール・ラドシェヴィッチ(21) 【←ジェリェズニチャール、レンタルから帰還】 (放出) MFヨシップ・スココ(34) 【→メルボルン・ハート、移籍金0】 DFアンソニー・シェリーッチ(31) 【→カラブクシュポール、移籍金0】 DFイヴォ・スモイエ(31) 【→オシエク、移籍金0】 MFフロリン・ツェルナト(30) 【→カラブクシュポール、移籍金0】 DFゴラン・ルビル(29) 【→アステラス・トリポリス、移籍金0】 GKヴィエコスラフ・トミッチ(26) 【→カラブクシュポール、移籍金0】 DFムラデン・ペライッチ(26) 【→オシエク、移籍金0】 FWイヴァン・ロディッチ(24) 【→リエカ、移籍金0】 MFダリオ・イェルテツ(24) 【→アル・フィサリ、移籍金0】 DFボリス・パンジャ(23) 【→メケレン、移籍金35万ユーロ】 FWマルコ・リヴァヤ(16) 【→インテル?】
フロントが課す命題とは裏腹に、ご覧の通りに戦力は流出しっ放し。更にクラブの最年少記録を次々と塗り替えたU-19代表MFマリオ・ティチノヴィッチ(18)に対しては、代理人の要求する65%の試合出場の条件を呑めないとして二軍行きを通告。ポクレポヴィッチ監督の手元で計算できる戦力は決して多くありません。 そんな中、昨季はことごとく勝負を決めるゴールを決めてきたFW/MFセニヤド・イブリチッチ(24・写真)は、ルビン・カザンからの好オファーが届いたものの残留を決意。レギュラー取りに意欲を燃やすユース出身の若手に競争を促すことで、ひとまず各ポジションに2人ずつの選手を揃えました。 問題を挙げるとしたら、点取り屋というべきストライカーがいないこと。昨季17ゴールのイブリチッチは1.5列目、もしくは2列目から飛び出してくるアタッカーです。また昨季、鳴り物入りで加入したFWアフマド・シャルビーニ(26)は期待に応えられず、もったりとした動きから干され気味。一緒に加入した弟のMFアナス・シャルビーニ(23)も不本意な一年を過ごしましたが、彼が最大の力を発見できる左MFに固定されたことで調子を上げています。左から内に切れ込んで打つ得意のミドルが決まるようになれば、イブリチッチとの二枚看板は誰に対しても脅威になりえるでしょう。 あとはスココが去った後のボランチの一角、ルビルが去った後の右サイドバックも固定されていないのも問題です。レーヤ前監督がイタリア仕込みで整備した守備力には定評があつただけに、これらのポジションにも若手の台頭を待つしかありません。 ハイドゥクは15日、本拠地ポリュウド・スタディオンにハンブルガーSVを招待し、3-3の好試合を演じました。前半はMFイブリチッチ、MFシャルビーニ弟、MFオレムシュ(21)、FWチョップ(20)による鋭いカウンターが次々と決まり、ハンブルガーの選手、とりわけFWペトリッチはその若い攻撃力を絶賛。クロアチア代表の左SBのポジションに名乗りを挙げたストゥリニッチも、フィジカルとスピードを活かした攻撃参加を幾度となく見せました。攻撃陣は昨季と変わらぬ分、連携面で更なる深みを期待できましょう。 (ダイジェスト動画はこちら)
そんな中、17日に「クロアチア・スーパーカップ」が4年ぶりに開催。リーグ王者のディナモとカップ戦王者のハイドゥクが直接対決しました。私もそれなりの期待をしてマクシミール・スタディオンに足を運んだのですが、リーグ戦やカップ戦とは異なる「レビュー」的な試合に終わってしまいました。 高い気温と湿度、合宿後の疲れなどもあって両チームもコンディションは優れず、ミスが目立つ試合に。それでも前半はハイドゥクが幾度とカウンターを発動させ、ディナモ守備陣を混乱に追い込みました。昨季のハイドゥクはディナモに分が良く、2勝2分の負けなし。強い相手には辛抱して守り、相手のミスを待つ戦い方は今季も変わりありません。 しかしながら77分、GKスバシッチがFWドドーと交錯して手を傷めて倒れこんだのにもかかわらず、コーナーからプレーは再開され、隙を突いた形でビシュチャンがヘディングシュート。そんな疑惑のゴールを守り切り、ディナモが4度目となるスーパーカップを手にしました。 (ダイジェスト動画はこちら) ポクレポヴィッチ監督はライバルに敗れようとも、視点は別に向いているようです。試合後の記者会見で彼はこう述べました。 「もちろん今日の内容には満足してないよ。今日はディナモが良かっただろうが、今日の試合はリーグ開幕後にどちらがスタートダッシュをするかの本当の物差しにはならないだろう。 うちらにはスココが欠けた、ディナモにはマンジュキッチが欠けた、なんてレベルじゃなく、双方ともプレーそのものが欠けていたのさ。しかし、プレー云々とは別に、今は欧州カップに挑戦中のディナモ、シベニク、チバリア、そして我々が欧州カップの舞台で多くの運があることを個人的に望んでいるんだ。いかなる勝利、そして先に進むことがクロアチアのリーグランキング上昇に繋がるのだから」
過去5シーズンのポイント累積で決まる現在、クロアチアはUEFA加盟国53ヶ国中27位。この停滞ぶりの一番の要因となったのがハイドゥクです。15年前にはチャンピオンズ・リーグ準々決勝に進んだ名門も、今では欧州カップで泣かず飛ばずの存在。昨季はヨーロッパリーグ予備戦3回戦から登場したものの、スロバキアのジリナ相手に即敗退し、ここ10年を振り返れば欧州カップで8勝12分12敗と揮いません。 今季もハイドゥクはヨーロッパリーグ予備戦3回戦から出場。相手はルーマニアの名門ディナモ・ブカレストです。かつての栄光を欧州でも取り戻せるかどうか。15年前にチャンピオンズ・リーグ準々決勝進出した際には、同じ街のステアウア・ブカレストをグループリーグで倒したこともあり、縁起は悪くありません。 憎き名前でもある"ディナモ"を下し、続くプレーオフを乗り越えて"ディナモ・ザグレブ"と一緒にリーグラウンドに進もうならば、クロアチアのサッカークラブ復権の時代が再び訪れるかもしれません。
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posted by 長束恭行 |22:50 |
サッカーニュース |
コメント(2) |
この記事に対するコメント一覧
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創立100周年を機に復権を目指すハイドゥク・スプリト
コメント投稿者ID : OOH00013555
いつも記事を読んでいます。
大した事ではないのですが、記事中の「メルボルン・ハーツ」は正しくは「メルボルン・ハート」です。スコットランドにハーツというクラブがあり、また出来て日が浅い新しいクラブなので間違えやすいですが(私もたまに間違えますw)。
細かい指摘かとは思いますが、気になったもので。
posted by のの | 2010-07-21 06:36
創立100周年を機に復権を目指すハイドゥク・スプリト
コメント投稿者ID : NID00000858
> ののさん
ご指摘ありがとうございます!
早速、「メルボルン・ハート」へと訂正しました。
昔はクロアチア人が中心の「メルボルン・ナイツ」というクラブがあったのが記憶に強かったせいか、複数形にしてしまったかもしれません。
また一つ、勉強になりました。
posted by 長束恭行 | 2010-07-21 16:27
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ナンバーや縁には金色をほどこした特別ユニフォームを制作し、来年2月にスラヴィア・プラハ、来年夏にはバルセロナを親善試合に召集するなど、クラブは100周年に特別な熱の入れようです。クラブの今季の命題の一つが、6年ぶりのリーグ優勝。もちろん倒すべき相手は、5連覇中のディナモ・ザグレブとなります。
(写真は、プラハの"ウ・フレク"を訪れた際に店内で発見した、ハイドゥク発祥地を記念するプレート)
しかしながら、クラブを取り巻く状況は芳しくありません。財政難を克服する最後の手段として、借金を株式化したのが2008年。地元の富豪が次々と株を買占めたことで、負債を解消し、一時は潤沢な資金を得ました。しかしながら、複数の大口株主が経営や補強に口出しするようになり、高額な給与に見合わないベテランを次々と獲得したと思えば、株主のコネでプロ契約した若手も続出。かつては欧州屈指の評価を得ていたユーススクールも落ちぶれ、手塩に掛けたユース選手が横取りされたり、親や親戚によるコーチ収賄や暴力事件までも発生しています。
今年2月にイタリア人監督エドアルド・レーヤがラツィオを指揮するために退団し、急遽チームを率いることになったのはスプリト出身のスタンコ・ポクレポヴィッチ(写真)。特殊な地元のメンタリティをよく理解している彼は、持ち駒をフルに活かしながら実利と結果を重んじるサッカーを展開。シーズン前半の低迷ぶりをチームは払拭し、目標とされていたカップ戦優勝と2位を実現したのでした。
ポクレポヴィッチ監督は72歳の高齢ということで、フロントも当初は続投をためらったのですが、代わりを務められる指導者は見当たらず、2010/11シーズンもポクレポヴィッチが続投することになりました。
しかしながら、フロントはポクレポヴィッチに"美しいサッカー"も要求する一方で、選手を次々と整理。60人という異常な数の契約選手を40人ほどまで減らし、高額選手は放出か給与削減を呑ませることで財政を緊縮させました。以下が今季の主な選手の出入りです。
(加入)
MFマリオ・ブルクリャチャ(25) 【←カリアリ、レンタルから帰還】
GKボジダール・ラドシェヴィッチ(21) 【←ジェリェズニチャール、レンタルから帰還】
(放出)
MFヨシップ・スココ(34) 【→メルボルン・ハート、移籍金0】
DFアンソニー・シェリーッチ(31) 【→カラブクシュポール、移籍金0】
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FWマルコ・リヴァヤ(16) 【→インテル?】
フロントが課す命題とは裏腹に、ご覧の通りに戦力は流出しっ放し。更にクラブの最年少記録を次々と塗り替えたU-19代表MFマリオ・ティチノヴィッチ(18)に対しては、代理人の要求する65%の試合出場の条件を呑めないとして二軍行きを通告。ポクレポヴィッチ監督の手元で計算できる戦力は決して多くありません。
そんな中、昨季はことごとく勝負を決めるゴールを決めてきたFW/MFセニヤド・イブリチッチ(24・写真)は、ルビン・カザンからの好オファーが届いたものの残留を決意。レギュラー取りに意欲を燃やすユース出身の若手に競争を促すことで、ひとまず各ポジションに2人ずつの選手を揃えました。
問題を挙げるとしたら、点取り屋というべきストライカーがいないこと。昨季17ゴールのイブリチッチは1.5列目、もしくは2列目から飛び出してくるアタッカーです。また昨季、鳴り物入りで加入したFWアフマド・シャルビーニ(26)は期待に応えられず、もったりとした動きから干され気味。一緒に加入した弟のMFアナス・シャルビーニ(23)も不本意な一年を過ごしましたが、彼が最大の力を発見できる左MFに固定されたことで調子を上げています。左から内に切れ込んで打つ得意のミドルが決まるようになれば、イブリチッチとの二枚看板は誰に対しても脅威になりえるでしょう。
あとはスココが去った後のボランチの一角、ルビルが去った後の右サイドバックも固定されていないのも問題です。レーヤ前監督がイタリア仕込みで整備した守備力には定評があつただけに、これらのポジションにも若手の台頭を待つしかありません。
ハイドゥクは15日、本拠地ポリュウド・スタディオンにハンブルガーSVを招待し、3-3の好試合を演じました。前半はMFイブリチッチ、MFシャルビーニ弟、MFオレムシュ(21)、FWチョップ(20)による鋭いカウンターが次々と決まり、ハンブルガーの選手、とりわけFWペトリッチはその若い攻撃力を絶賛。クロアチア代表の左SBのポジションに名乗りを挙げたストゥリニッチも、フィジカルとスピードを活かした攻撃参加を幾度となく見せました。攻撃陣は昨季と変わらぬ分、連携面で更なる深みを期待できましょう。
(ダイジェスト動画は
そんな中、17日に「クロアチア・スーパーカップ」が4年ぶりに開催。リーグ王者のディナモとカップ戦王者のハイドゥクが直接対決しました。私もそれなりの期待をしてマクシミール・スタディオンに足を運んだのですが、リーグ戦やカップ戦とは異なる「レビュー」的な試合に終わってしまいました。
高い気温と湿度、合宿後の疲れなどもあって両チームもコンディションは優れず、ミスが目立つ試合に。それでも前半はハイドゥクが幾度とカウンターを発動させ、ディナモ守備陣を混乱に追い込みました。昨季のハイドゥクはディナモに分が良く、2勝2分の負けなし。強い相手には辛抱して守り、相手のミスを待つ戦い方は今季も変わりありません。
しかしながら77分、GKスバシッチがFWドドーと交錯して手を傷めて倒れこんだのにもかかわらず、コーナーからプレーは再開され、隙を突いた形でビシュチャンがヘディングシュート。そんな疑惑のゴールを守り切り、ディナモが4度目となるスーパーカップを手にしました。
(ダイジェスト動画は
過去5シーズンのポイント累積で決まる現在、クロアチアはUEFA加盟国53ヶ国中27位。この停滞ぶりの一番の要因となったのがハイドゥクです。15年前にはチャンピオンズ・リーグ準々決勝に進んだ名門も、今では欧州カップで泣かず飛ばずの存在。昨季はヨーロッパリーグ予備戦3回戦から登場したものの、スロバキアのジリナ相手に即敗退し、ここ10年を振り返れば欧州カップで8勝12分12敗と揮いません。
今季もハイドゥクはヨーロッパリーグ予備戦3回戦から出場。相手はルーマニアの名門ディナモ・ブカレストです。かつての栄光を欧州でも取り戻せるかどうか。15年前にチャンピオンズ・リーグ準々決勝進出した際には、同じ街のステアウア・ブカレストをグループリーグで倒したこともあり、縁起は悪くありません。
憎き名前でもある"ディナモ"を下し、続くプレーオフを乗り越えて"ディナモ・ザグレブ"と一緒にリーグラウンドに進もうならば、クロアチアのサッカークラブ復権の時代が再び訪れるかもしれません。

