2008年03月19日
想い出(1)/八百長(ホイツァー)事件を起こしたクロアチア人マフィアに取材
ここ最近はニュース系のネタが多かったので、たまには趣向を変えてみましょう。 クロアチアを初めて訪れた1997年以降、それから2001年にクロアチアに移り住んでからというもの、サッカーを通して様々な経験、様々な接点がありました。それらを振り返りながら、想い出話を綴ってみようと思います。これまで取材並びにコーディネート仕事がピークだったのは、2006年ワールドカップの抽選会から日本vs.クロアチア戦までの半年間でした。様々なテレビ局や新聞社の取材に協力し、あらゆる関係者にインタビューしてきたわけですが、その中でも一二を争う印象深い取材対象者はベルリンにおりました。 その名はミラン・シャピナ(写真)。選手でもなければ、元選手でもコーチでもありません。ベルリンにカフェ「キング」を経営するクロアチア移民のオッサンです。ここでピンと来る人はさほどいないかもしれませんが、「ホイツァー」という審判の名前を聞けば、ああ、と思い出す人もいるでしょう。 「すっかりあの事件以降、ここはベルリン名物になってしまってな。観光バスすらここを通って行くんだよ。日本人も見学にやってくるぞ」 ワールドカップを前年に控えた2005年、ドイツ・サッカー界を震撼させた八百長事件が起こりました。ドイツカップ1回戦のハンブルガーSV vs.パーダーボルン戦の不自然な判定(HSVは前半にムペンザが退場した上、PK2つを取られて2-4で敗北)をきっかけに主審のロベルト・ホイツァーがクローズアップ。ブックメッカーに多額な金が賭けられたとの報告を受け、警察が取り調べをしたところ、クロアチアの賭博マフィアから金銭を譲り受けて八百長したことを白状。4試合に渡って不正な笛を吹いたことを認めました。その舞台となったのがカフェ「キング」。そして賭博マフィアだったのがシャピナ三兄弟でした。ホイツァーともう一人の審判、そして長男ミラン、次男アンテ、三男フィリップのいずれも起訴。彼らはブックメーカーで実に270万ユーロを稼ぎ出したと言われています。
あの頃、クロアチア取材というと未だに戦争と結びつけようとしたメディアが多い中、新たなテーマの切り口は「移民」にあると私は見てました。当時でもコヴァチ兄弟、クラスニッチ、シムニッチらが移民二世で、また現在でもペトリッチやラキティッチが移民二世の選手です。このテーマに同調してくれた旧知の新聞記者の方と2006年4月にベルリン取材を決行。その一つとして「キング」がスポンサーをしている地域リーグ(7部に相当)のSDクロアチアの試合を観戦。チームに三男フィリップがいることを知り、取材を申し込んだところ、カフェに行けばミランがいると知らされたのです。とはいえ、相手はマフィア。ビビりながら店内でミランの到着を待ちました。黒ずくめのミランが登場。そしてインタビューとなりました。 「オレたちのことをマフィアだ、マフィアだって言うけど、決してそんなんじゃないんだけどなあ。あの事件だってホイツァーが持ちかけたんだから。まあ、確かに悪いことはしたと思っているけど…」 意外に正直。怖そうな顔とはいえ、つぶらな瞳を持った憎めないオッサンです。大風呂敷を広げるようなタイプでもなく、またマフィアのイメージとは程遠く、単なる賭け好きなオッサンでありました。 -ところで、日本vs.クロアチア戦は賭けるのですか? 「ああ、もちろん。でも最近の日本はレベルアップしている。1998年のワールドカップでも苦戦したじゃないか。結果予想? 1-0で勝てれば充分さ」 半分冗談で切り出した質問を真面目に返答し、それも日本を高く評価してくれてことに"キング、かっけー!"と思ったものです(笑)。当初はアテがなかったとはいえ、ミラン・シャピナへの取材は成功に終わりました(新聞記事はこちら)
時は6月13日、ワールドカップのクロアチアvs.ブラジル戦当日。試合会場はベルリンのオリンピア・シュタディオンということもあって、街中には赤白の格子模様を身につけたクロアチア・サポーターが溢れていました。ベルリンはドイツでもとりわけクロアチア移民が多く、一説には18万人もいるとされています。私は2ヶ月ぶりにカフェ「キング」を訪れました。クロアチア・サポーターで埋め尽くされた店内にはすっかり有名人のミランがいて、遠方から来たサポーターたちにも記念写真をせがまれていました。声を掛けるやミランは再会に喜んでくれ、私も一緒に記念写真を撮ったのでした。ちなみにミランのブラジル戦予想はクロアチアの勝利か引分け。続く日本戦、そしてオーストラリア戦もきっと随分な金をすったことでしょう(笑) もちろん、ホイツァーと共にやらかした事件は許されることではなく、ミランは16ヶ月の執行猶予付きで有罪判決。ホイツァーが禁固刑2年5ヶ月、次男アンテが禁固刑2年11ヶ月、三男フィリップが執行猶予12ヶ月となりました。それでもカフェはすっかり有名となり、経営も順調のようです。ちなみに彼らはドイツだけでなく、クロアチアの代理人と釣るんでオーストリアでも八百長をやらかした可能性があるとか。その代理人がセレッソに使えないクロアチア人を送り込み、セレッソの悪い成績を賭師たちに予想しやすくさせた、なんて疑いも持たれるだろう…と眉唾なクロアチア誌の記事もありました(英文記事)。 それはさておき、もしベルリンに行かれる際には話のネタとしてカフェ「キング」へどうぞ。ほんと普通のカフェなんですけど、奥の方にも狭い部屋があり、ここで密談したのだろうなあ、と想像をかき立てます。お土産に店の絵葉書もプレゼントしてもらえます。マフィアと世界的に報じられた店長のミランさんにもお会いできるかもしれませんよ。 宣伝ですが、19日発売の海外サッカー週刊誌「footballista」で、EURO出場国紹介「クロアチア」を書いています。宜しければご覧になって下さい。
posted by 長束恭行 |19:04 |
サッカーコラム |
コメント(1) |
この記事に対するコメント一覧
Re:想い出(1)/八百長(ホイツァー)事件を起こしたクロアチア人マフィアに取材
行ってみたい。管理人さんがうらやましいです。でもそうやって考えると審判は誇りを持って仕事してほしいですね。一部の人のせいで全体の印象が悪くなる。これが世の常なんでしょうけど
posted by yahman | 2008-03-19 21:44

これまで取材並びにコーディネート仕事がピークだったのは、2006年ワールドカップの抽選会から日本vs.クロアチア戦までの半年間でした。様々なテレビ局や新聞社の取材に協力し、あらゆる関係者にインタビューしてきたわけですが、その中でも一二を争う印象深い取材対象者はベルリンにおりました。
その名はミラン・シャピナ(写真)。選手でもなければ、元選手でもコーチでもありません。ベルリンにカフェ「キング」を経営するクロアチア移民のオッサンです。ここでピンと来る人はさほどいないかもしれませんが、「ホイツァー」という審判の名前を聞けば、ああ、と思い出す人もいるでしょう。
「すっかりあの事件以降、ここはベルリン名物になってしまってな。観光バスすらここを通って行くんだよ。日本人も見学にやってくるぞ」
ワールドカップを前年に控えた2005年、ドイツ・サッカー界を震撼させた八百長事件が起こりました。ドイツカップ1回戦のハンブルガーSV vs.パーダーボルン戦の不自然な判定(HSVは前半にムペンザが退場した上、PK2つを取られて2-4で敗北)をきっかけに主審のロベルト・ホイツァーがクローズアップ。ブックメッカーに多額な金が賭けられたとの報告を受け、警察が取り調べをしたところ、クロアチアの賭博マフィアから金銭を譲り受けて八百長したことを白状。4試合に渡って不正な笛を吹いたことを認めました。その舞台となったのがカフェ「キング」。そして賭博マフィアだったのがシャピナ三兄弟でした。ホイツァーともう一人の審判、そして長男ミラン、次男アンテ、三男フィリップのいずれも起訴。彼らはブックメーカーで実に270万ユーロを稼ぎ出したと言われています。
あの頃、クロアチア取材というと未だに戦争と結びつけようとしたメディアが多い中、新たなテーマの切り口は「移民」にあると私は見てました。当時でもコヴァチ兄弟、クラスニッチ、シムニッチらが移民二世で、また現在でもペトリッチやラキティッチが移民二世の選手です。このテーマに同調してくれた旧知の新聞記者の方と2006年4月にベルリン取材を決行。その一つとして「キング」がスポンサーをしている地域リーグ(7部に相当)のSDクロアチアの試合を観戦。チームに三男フィリップがいることを知り、取材を申し込んだところ、カフェに行けばミランがいると知らされたのです。とはいえ、相手はマフィア。ビビりながら店内でミランの到着を待ちました。黒ずくめのミランが登場。そしてインタビューとなりました。
「オレたちのことをマフィアだ、マフィアだって言うけど、決してそんなんじゃないんだけどなあ。あの事件だってホイツァーが持ちかけたんだから。まあ、確かに悪いことはしたと思っているけど…」
意外に正直。怖そうな顔とはいえ、つぶらな瞳を持った憎めないオッサンです。大風呂敷を広げるようなタイプでもなく、またマフィアのイメージとは程遠く、単なる賭け好きなオッサンでありました。
-ところで、日本vs.クロアチア戦は賭けるのですか?
「ああ、もちろん。でも最近の日本はレベルアップしている。1998年のワールドカップでも苦戦したじゃないか。結果予想? 1-0で勝てれば充分さ」
半分冗談で切り出した質問を真面目に返答し、それも日本を高く評価してくれてことに"キング、かっけー!"と思ったものです(笑)。当初はアテがなかったとはいえ、ミラン・シャピナへの取材は成功に終わりました(新聞記事は
時は6月13日、ワールドカップのクロアチアvs.ブラジル戦当日。試合会場はベルリンのオリンピア・シュタディオンということもあって、街中には赤白の格子模様を身につけたクロアチア・サポーターが溢れていました。ベルリンはドイツでもとりわけクロアチア移民が多く、一説には18万人もいるとされています。私は2ヶ月ぶりにカフェ「キング」を訪れました。クロアチア・サポーターで埋め尽くされた店内にはすっかり有名人のミランがいて、遠方から来たサポーターたちにも記念写真をせがまれていました。声を掛けるやミランは再会に喜んでくれ、私も一緒に記念写真を撮ったのでした。ちなみにミランのブラジル戦予想はクロアチアの勝利か引分け。続く日本戦、そしてオーストラリア戦もきっと随分な金をすったことでしょう(笑)
もちろん、ホイツァーと共にやらかした事件は許されることではなく、ミランは16ヶ月の執行猶予付きで有罪判決。ホイツァーが禁固刑2年5ヶ月、次男アンテが禁固刑2年11ヶ月、三男フィリップが執行猶予12ヶ月となりました。それでもカフェはすっかり有名となり、経営も順調のようです。ちなみに彼らはドイツだけでなく、クロアチアの代理人と釣るんでオーストリアでも八百長をやらかした可能性があるとか。その代理人がセレッソに使えないクロアチア人を送り込み、セレッソの悪い成績を賭師たちに予想しやすくさせた、なんて疑いも持たれるだろう…と眉唾なクロアチア誌の記事もありました(

