2010年02月19日
ユーゴスラビア・リーグ復活か?/再燃する地域リーグの論議
ここに来て再び「ユーゴスラビア・リーグ」復活を巡る話題が賑わせています。正確に言えば、ルーマニアやブルガリアも含めたバルカン地域、もしくはハンガリーやオーストリアも絡めた地域リーグを作り出そうという話が再燃して来ているのです。しかし、長年に渡ってテーマになって来ている話とはいえ、まだサッカーにおける地域リーグは時期尚早という意見が強く残ります。17日、スロベニアのブレッド湖畔でUEFA代表のテオドール・テオドリスを迎え、セルビア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、スロベニア、マケドニア、ブルガリア、スロバキアのサッカー協会関係者と会合を持ちました。若手育成やサッカーくじ、代理人に関する問題を協議するものでしたが、その中でセルビア・サッカー協会長トミスラフ・カラジッチが地域リーグの実現の可能性に言及したところ、テオドリス氏はUEFAの立場として 「サッカーに良いものをもたらすならば、地域リーグだろうが我々は関心を持っている。反対はしない。しかし、真面目に検討するからにはプロシェクトを示して欲しい。再び協議するような具体的な提案を出してくれないか」 と、予想外にもポジティブな返答を得ました。そこでスロベニア・サッカー協会代表のイヴァン・シミッチが手始めてとして、各国の優勝クラブ、もしくは将来に地域リーグに加入したいクラブを一箇所に集めてのチャンピオン大会を開いたらどうかと提案したのです。 (写真は、ジェリェズニチャールの事務所で見つけた現役時代のオシムの写真。こういった昔の写真が今でも旧ユーゴのクラブの事務所には飾られる) いよいよ地域リーグ実現の一歩か。これに対して各国が様々な反応を見せています。 まずクロアチア。クロアチア・サッカー界を牛耳るディナモ・ザグレブの副会長ズドラヴコ・マミッチは今月初め、 「地域リーグは(活性化の)解決策の一つだと思っている。アドレナリンがスタジアムを満員にさせるかもしれないんだ。ジャーナリストはいつもディナモの観客数を多めに書いてくれている。しかし、それは我々の恥だと捉えているのだよ。地域リーグは更なる観客、スポンサー、放映料をもたらしてくれるくもしれないんだ」 と地域リーグに賛成の姿勢を見せました。今季、ザグレブのアイスホッケーチーム、メドヴェシュチャクがオーストリアのEBELリーグに参加を始めるや、毎試合6000人もの満員の観客を集めて一大ブームとなっています。ディナモの一強となったクロアチア・リーグで観客増は見込めず、国家を越えての高レベルな試合に観客は飢えているとマミッチは考えました。
しかし、スロベニアの具体的な提案が出た直後、地域リーグに賛成か聞かれると、マミッチは一転して否定に回ったのです。 「前回に地域リーグについて語ったのは、あくまでテーマを開いただけに過ぎない。常に話し合う必要はあるし、最高の解決策を探さねばならない。しかし、ディナモが地域リーグに参加したいと私は一度も言ったことはない! ディナモの参加に対しては反対だし、スロベニアの提案にも反対だ。我々はクロアチア・リーグを守らねばならない。そのためには今の16クラブによるリーグではなく、10クラブか12クラブの参加に留めるべきだ。ディナモは地域リーグがなくとも若い選手を育てていける。毎年のように欧州カップ戦もあるわけだし」 クロアチアで強烈に拒否反応を示しているのはサポーターたち。ディナモ・サポーターのバッド・ブルー・ボーイズは以下の声明を出しました。 「我々は、セルビア、モンテネグロ、(ボスニア・ヘルツェゴビナ内の)セルビア人共和国のクラブと一緒に参加するような大会や地域リーグを"決して"支持しないことをここに表明する。あらゆる手段を持ってしてディナモが参加を反対させるよう我々は戦っていくつもりだ」 ハイドゥク・サポーターのトルツィダも同じく反対の姿勢。セルビア人勢力との戦争に従軍した退役軍人が多くサポーターのメンバーにいることを考えれば、幾ら財政面でプラスになろうともリスクが大きすぎると具体的な理由を述べています。セルビアに対するわだかまりが溶けないクロアチアは、地域リーグを受け入れるのはまだまだ難しいようです。 (写真は、国内リーグにおけるディナモ戦のメインスタンド。おおよその試合がガラガラで、今季の平均観客は水増ししても3,375人) 続いてセルビア。ツルヴェナ・ズヴェズダの監督ヴラディミール・"ピジョン"・ペトロヴィッチは 「そのような大会がこの地域のサッカーのクオリティを良くすることは間違いない。セキュリティの問題に関しては、他の旧ユーゴスラビアの国々は我々のチームを迎える際に重圧となるだろうが、我々の下では問題とならないだろう」 と前向きなコメント。しかし、ズヴェズダの主将ニコラ・ラゼティッチは
「ハイドゥクやディナモと激しい試合をプレーすることは間違いなく最高だろうが、それではサポーターの信用を失いかねない。サポーターの難しい状況をコントロールできるかどうか心配だ。ベオグラード・ダービーですら、あるべきレベルのセキュリティを完全に維持できないというのに」 と反対の姿勢。パルチザン・ベオグラードの主将ムラデン・クルスタイッチは 「セルビア・リーグが地域リーグによって損害を被るかもしれないだけに僕は反対だよ。自分の国家でチャンピオンになることが僕の一番の喜びなんだ。例えば、バスケットボールの地域リーグが始まってから、もうセルビア・リーグに参加する全チーム名を知ることがなくなってしまった。地域リーグのアイデアの背景には、早く簡単に金を手にしたい人々の関心があるのみだ。まず自分たちのリーグのクオリティ向上に取り組むべきなのだよ」 と同じく反対の姿勢を示しています。 またスポルト・ベオグラードのジャーナリスト、ブランコ・セクロヴィッチ氏は、セルビア世論をこう述べています。 「セルビアで地域リーグに関する考えには温度差がある。世論の意見は分かれているが、賛成の意見が幾らか多いと言えるだろうか。もちろん、この大会にはコソボのチームの参加はあってならない。セルビアは決してコソボという国を認めないし、もし大会にコソボの参加を認めるのならばセルビアは決して大会に同調しないだろう」 ここのわだかまりの対象はクロアチアなどではなく、やはりコソボとなります。昨日、クロアチアのイヴォ・ヨシポヴィッチ新大統領の就任式があったのですが、セルビアのボリス・タディッチ大統領は「クロアチアはコソボを承認した国」ということで出席を拒否しています。 (写真は、昨年のU-21クロアチアvs.U-21セルビア戦。代表レベルでは予選を通しての対戦がしばしば) 三民族が入り乱れるボスニア・ヘルツェゴビナもまた二つの意見に割れます。かつてユーゴスラビア一部リーグでプレーしたようなクラブは諸手を挙げて賛成しています。例えば、ジェリェズニチャールは公式ページ上に地域リーグ支持を表明しました。ジェリェズニチャールは財政面で苦しんでおり、地域リーグ参加は大きなプラスになるはずです。 しかし、ボスニア・ヘルツェゴビナでここ最近優勝しているズリンスキ・モスタルやシロキ・ブリイェグといったクロアチア人系のクラブは慎重です。まず参加するにはセキュリティも含めたあらゆる条件をクリアせねばならないと考えており、昨年はシロキ・ブリイェグvs.サラエボ戦を前にサラエボのサポーターがクロアチア人に射殺されるという事件が起きています。 残る三ヶ国はいずれも賛成です。 大会提案をしたスロベニアは、国内リーグの平均観客が1000人を切るほど冷え切っています。ただし、旧ユーゴでは経済における優等生ということで、バスケットボールの地域リーグのスポンサーもほとんどがスロベニアの企業。サッカーの地域リーグはバスケットボールのそれ以上に関心が高く、16クラブ参加の大会に必要な年間600~700万ユーロの資金も調達できると言われています。今年の夏にはリュブリャナに新スタジアムが完成。またマリボルも開催条件の整ったスタジアムがあり、地域リーグの手始めとなる大会は充分に開催可能。しかし、前述のシミッチ氏は「プリシュティナ(コソボ)の参加はまったく反対ではない」と述べており、セルビアとの折り合いをどうするか、といったところです。 モンテネグロは旧ユーゴで最も人口の少ない国(62万人)ですが、水球の欧州王者になるなどスポーツにも類稀な才能を発揮する国です。その水球も地域リーグのお陰で発展を遂げたこともあり、サッカーの地域リーグも賛成の立場を取っています。 マケドニアは、地域リーグを「暗いトンネルを抜ける救い」だと捉えています。ヴァルダル・スコピエの中心人物ドラギ・セティノフ氏もセキュリティ面に問題なく、他国のクラブに対してスコピエ市民はネガティブな考えを持っていないことから地域リーグ開催に賛成を唱えています。 他のスポーツでは既にユーゴスラビアの強豪クラブが集結した地域リーグが行われています。それこそバスケットボールの地域リーグが始まった頃はサポーターの喧嘩か暴動が目立ったとはいえ、今ではすっかり落ち着いて競技が行われています。また旧ユーゴスラビア・サッカーリーグに対するノスタルジーはどの民族にもあり、数年前には旧ユーゴスラビアのクラブを集めたプレイステーションの海賊版サッカーゲームを目にしたことすらあります。 しかし、サッカーは別物という意見が根強いのは確か。旧ユーゴスラビアのクラブは現在、欧州カップで年を越えて勝ち残ることなど滅多にありません(ここ10年では2005年、UEFAカップでベスト16になったパルチザンのみ)。地域リーグを通してのレベルアップと財政改善を優先するか、それともサポーターによるリスクを回避して諦めるか。地域リーグ実現まではまだまだ時間が掛かりそうです。
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posted by 長束恭行 |22:45 |
サッカーニュース |
コメント(1) |
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ユーゴスラビア・リーグ復活か?/再燃する地域リーグの論議
コメント投稿者ID : IXI00007053
初めてコメントさせていただきます。
今週、ブルガリアのソフィアで地域リーグ設立のための会議が行われたようですが、この会議ではどんなことが決定したのでしょうか?
もしよろしければ、そこのところの情報を教えていただけないでしょうか。
よろしくお願いします。
posted by Hiro | 2011-11-16 14:24
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「サッカーに良いものをもたらすならば、地域リーグだろうが我々は関心を持っている。反対はしない。しかし、真面目に検討するからにはプロシェクトを示して欲しい。再び協議するような具体的な提案を出してくれないか」
と、予想外にもポジティブな返答を得ました。そこでスロベニア・サッカー協会代表のイヴァン・シミッチが手始めてとして、各国の優勝クラブ、もしくは将来に地域リーグに加入したいクラブを一箇所に集めてのチャンピオン大会を開いたらどうかと提案したのです。
しかし、スロベニアの具体的な提案が出た直後、地域リーグに賛成か聞かれると、マミッチは一転して否定に回ったのです。
「前回に地域リーグについて語ったのは、あくまでテーマを開いただけに過ぎない。常に話し合う必要はあるし、最高の解決策を探さねばならない。しかし、ディナモが地域リーグに参加したいと私は一度も言ったことはない!
ディナモの参加に対しては反対だし、スロベニアの提案にも反対だ。我々はクロアチア・リーグを守らねばならない。そのためには今の16クラブによるリーグではなく、10クラブか12クラブの参加に留めるべきだ。ディナモは地域リーグがなくとも若い選手を育てていける。毎年のように欧州カップ戦もあるわけだし」
クロアチアで強烈に拒否反応を示しているのはサポーターたち。ディナモ・サポーターのバッド・ブルー・ボーイズは以下の声明を出しました。
「我々は、セルビア、モンテネグロ、(ボスニア・ヘルツェゴビナ内の)セルビア人共和国のクラブと一緒に参加するような大会や地域リーグを"決して"支持しないことをここに表明する。あらゆる手段を持ってしてディナモが参加を反対させるよう我々は戦っていくつもりだ」
ハイドゥク・サポーターのトルツィダも同じく反対の姿勢。セルビア人勢力との戦争に従軍した退役軍人が多くサポーターのメンバーにいることを考えれば、幾ら財政面でプラスになろうともリスクが大きすぎると具体的な理由を述べています。セルビアに対するわだかまりが溶けないクロアチアは、地域リーグを受け入れるのはまだまだ難しいようです。
「ハイドゥクやディナモと激しい試合をプレーすることは間違いなく最高だろうが、それではサポーターの信用を失いかねない。サポーターの難しい状況をコントロールできるかどうか心配だ。ベオグラード・ダービーですら、あるべきレベルのセキュリティを完全に維持できないというのに」
と反対の姿勢。パルチザン・ベオグラードの主将ムラデン・クルスタイッチは
「セルビア・リーグが地域リーグによって損害を被るかもしれないだけに僕は反対だよ。自分の国家でチャンピオンになることが僕の一番の喜びなんだ。例えば、バスケットボールの地域リーグが始まってから、もうセルビア・リーグに参加する全チーム名を知ることがなくなってしまった。地域リーグのアイデアの背景には、早く簡単に金を手にしたい人々の関心があるのみだ。まず自分たちのリーグのクオリティ向上に取り組むべきなのだよ」
と同じく反対の姿勢を示しています。
またスポルト・ベオグラードのジャーナリスト、ブランコ・セクロヴィッチ氏は、セルビア世論をこう述べています。
「セルビアで地域リーグに関する考えには温度差がある。世論の意見は分かれているが、賛成の意見が幾らか多いと言えるだろうか。もちろん、この大会にはコソボのチームの参加はあってならない。セルビアは決してコソボという国を認めないし、もし大会にコソボの参加を認めるのならばセルビアは決して大会に同調しないだろう」
ここのわだかまりの対象はクロアチアなどではなく、やはりコソボとなります。昨日、クロアチアのイヴォ・ヨシポヴィッチ新大統領の就任式があったのですが、セルビアのボリス・タディッチ大統領は「クロアチアはコソボを承認した国」ということで出席を拒否しています。

