2009年06月18日

二年連続のシナリオ/クロアチア・リーグ一部・二部入替え戦

クロアチア・リーグの今季を締め括る入替え戦は、稀に見るドラマでした。カードは一部リーグ最下位のクロアチア・セスヴェッテと、二部リーグ6位のフルヴァツキ・ドラゴヴォリャッツ。どちらもザグレブ市にあり、深い因縁関係にあるクラブ同士です。

nogomet-95261.jpg一部リーグが来季より12チームから16チームに拡大することが決まり、二部リーグの上位4チームが自動昇格。5位のメヂムリエが入替え戦に周るはずでした。しかし、シーズン終了後、二部4位のスラヴォナッツが昇格を断念。人口わずか1300人の町スターリ・ペルコヴチに本拠地を置くスラヴォナッツにとっては一部でやっていけるインフラも財政もなく、30kmほど離れた7万人都市スラヴォンスキ・ブロッドのクラブと合併し、新たなクラブを創立すると次期市長候補のドゥスパラ氏と合意していました。しかし、選挙後にドゥスパラ氏は態度を翻します。理由は、スラヴォンスキ・ブロッドのスタジアムを一部リーグ開催基準に改修する資金を出し渋ったため。スラヴォナッツは6月5日に昇格を断念すると発表。メヂムリエは繰り上がりで自動昇格となり、お鉢は6位のフルヴァツキ・ドラゴヴォリャッツに回ってきたのです。

今から一年前、クロアチア・セスヴェッテとフルヴァツキ・ドラゴヴォリャッツは二部リーグで首位争いを演じ、わずか一枠だった自動昇格を賭けて、勝負は最終節の直接対決に持ち込まれました。その時の試合は「一部昇格をかけたドラマ」と題して私もレポートを書いていますが、セスヴェッテが一人退場しながら84分にMFチズメクのゴールで勝ち越し、順位をも引っくり返して初昇格を決めました。そして入替え戦に回ったドラゴヴォリャッツはインテル・ザプレシッチに敗れ、6年ぶりの一部参戦の道を絶たれたわけでした。リベンジすべくチャンスが訪れたのです。
当初6月7日に予定されていた第一戦は11日に延期。既にオフに入っていたドラゴヴォリャッツの準備期間はわずか5日間。また、セスヴェッテは6月7日にコンディションを合わせていたのですが、急な延期で調子を狂わされます。それぞれの本拠地が開催基準を満たさないため、ドラゴヴォリャッツのホーム扱いとなる第一戦はディナモの本拠地マクシミール・スタディオンで開催。それぞれチャンスを作りながら、緊張感に呑み込まれてしまい、スコアレスドローに終わりました(ニュース動画はこちら)。

nogomet-95262.jpg第二戦の会場はクラニチェヴィチェヴァ・スタディオン。セスヴェッテのホーム扱いとはいえ、本来はNKザグレブの本拠地です。この日の主審は一年前と同じベベク。証人となるべき観客は、このスタジアムでは大賑わいと言える3000人ほど。それぞれ計算抜きの応酬が始まりました。
主導権を握ったのはセスヴェッテ。開始2分にFWユキッチが皮切りとなるシュートを放ちます。先制は10分。ドラゴヴォリャッツのMFヤニェトヴィッチが自陣ゴール近くで無駄なドリブルをしたところを、セスヴェッテのMFアギッチがインターセプト。ドリブルで守備陣を引き付け、フリーのFWヴォイノヴィッチ(写真)へラストパス。ヴォイノヴィッチが冷静に左へと流し込みます。
更なる追加点を奪いたいセスヴェッテ。何とか追いつき、アウェーゴール二倍ルールで形勢を引っくり返したいドラゴヴォリャッツ。それぞれが決定機を迎えながら極限の緊張感でゴールを決められません。

nogomet-95263.jpg後半に入り、セスヴェッテは一点を守るべく少しずつ閉ざし始めますが、逆にドラゴヴォリャッツが速いカウンターを浴びせ始めます。
そして62分、ヴォイノヴィッチがボールの競合いで相手の顔に肘が入ったとして二枚目のイエローカードをもらって退場。競合いの異常なまでの強さや妥協を許さぬアグレッシブさでセスヴェッテのキーマンとなるヴォイノヴィッチですが、それが仇となりました。彼は二枚目のイエローを目に呆然と立ち尽くし、ドレッシングルームの出入口に移ったところでも顔面蒼白のまま。
形勢は一気には逆転します。わずか5分後、ドラゴヴォリャッツのFWズラタールが左サイドを突破して、中央に折り返すとそこにはヤニェトヴィッチ(写真)が。かつてはディナモに在籍し、大物になると期待されながらも下部チームでくすぶり続けている彼は、チームを一部昇格に導く同点ゴールを押し込みます。前半は失点に繋がるチョンボの上に加えて大チャンスを外したことで戦犯扱いだったヤニェトヴィッチが一転して英雄となり、英雄となるはずのヴォイノヴィッチが戦犯となった瞬間でした。

nogomet-95265.jpgしかし、運命の神様は一人の男に宿っていました。33歳のセスヴェッテのMFマリオ・チズメク。73分に途中交代でピッチに入ったベテランはロスタイム、やや左20mの位置から直接FKを完璧な弾道で叩き込んだのです。一年前にも決勝ゴールで試合を決めたチズメクは正に"ドラゴヴォリャッツ・キラー"。ゴールを決めた彼の下へと真っ先に走り込んだのは、あのヴォイノヴィッチでした。ホイッスルが鳴るとサポーターもピッチへ雪崩れ込み、英雄チズメクの胴上げとなったのです。
そして、ピッチで一人号泣していたのがユキッチ(写真)。サンフレッチェ広島で戦力外となり、下位に低迷するセスヴェッテの救世主となるべく途中入団したものの、シーズンは8試合2ゴールと期待外れに終わっていました。彼にも相当なプレッシャーがあったのでしょう。(試合のニュース動画はこちら。またレポルタージュ風の動画はこちらで見られます)

試合から翌日、チズメク(写真中央)は喜びをこう語っています。
nogomet-95264.jpg「信じられない。一年前となったく同じシナリオを繰り返すなんて。でもハーフタイムにFKを練習してた時から上手くいっていたんだよ。思っていた通りのゴールだった。足を振り抜いた瞬間に決まったと感じたのさ。
人々は色々と好きなことを口にするだろうが、ドラゴヴォリャッツは一人も経験豊かな選手がいなかったのが事実だ。我々には最初のゴールでアギッチ(34歳)がインターセプトからアシストを決めたし、二点目は僕が決めた。どのチームにも常に2~3人の経験豊かな選手がいなければならないんだ」
シーズン終盤を任された老将、ミラン・ヂュリチッチ(写真)はこの入替え戦のためだけにチームを鍛え抜き、怪我人を次々と発生させながらも見事役目を終えました。90年代のシュトゥルム・グラーツではオシムの直前に指揮も務めている彼ですが、あくまで冷静にこの劇的なラストを迎えました。"なぜそこまで冷静なのか?"と聞かれたヂュリチッチ監督は
nogomet-95266.jpg「それが私の人生さ。勝利の後に宴をすることもなければ、敗北の後に弔いをすることもない。人生とは、ある時には勝利し、ある時には敗れるものなのだ。勝利するほうが美しいが、もしフルヴァツキ・ドラゴヴォリャッツが一部昇格を決めたとしても私は失望しなかったことだろう。彼らはフェアに戦ったのだから。
この戦い全てはクラブにとって良い経験となったはずだ。選手達は人生を通して今回のレッスンを覚えておいて欲しい。入替え戦を二度と戦いたくないならば、もっと仕事は厳しくなるだろう」
と述べました。しかし、セスヴェッテのワンマン会長、ズヴォンコ・ズバクは既にヂュリチッチに対して来季は監督構想にないことを伝えています。

私は都合で第二戦の後半しか撮影取材できなかったものの、その45分間にドラマが凝縮されており、チズメクのゴールが決まった瞬間はさすがに鳥肌が立ちました。一部リーグの平均観客が3000人強。一般市民からは退屈と評されるクロアチアの国内リーグですが、このような試合が繰り返されるようならば、まだまだスタジアムに足を運ぶ価値があるのかな、と感じた次第です。来季の16チーム制は更にレベルは低下するでしょうが…。


posted by 長束恭行 |22:34 | サッカーニュース | コメント(2) |
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

この記事に対するコメント一覧
(事務局では、サービス全体の雰囲気醸成の為、全コメントをフィルター/目視チェックし、削除等しております。見逃し等も有りますので、ご不快な思いをされた場合は、事務局宛 support@plus-blog.sportsnavi.com にご意見頂けると幸いです。)
二年連続のシナリオ/クロアチア・リーグ一部・二部入替え戦

コメント投稿者ID :

Jリーグでは今年から入れ替え戦は廃止になりましたね。昨年Jリーグのですが、初めて入れ替え戦を観戦しました。そしてスタジアムにてあれほどの熱を帯びた試合を観たのも初めてかもしれません。選手にとってはあのような試合は経験したくないことかもしれませんが、一フットボールーファンとしてはああいったヒリヒリした試合はそうそうお目にかかれるものではないので、大変興奮したことを昨日のことのように覚えています。

長束さんの文章から、この試合を目撃した興奮がものすごく伝わってきて、わたしも思わず昨年のことを思い出し長々と書き込んでしまいました。

posted by スポーツ | 2009-06-20 06:05

二年連続のシナリオ/クロアチア・リーグ一部・二部入替え戦

コメント投稿者ID :

> スポーツさん
コメント、有難うございます。
入替え戦は歓喜だけでなく、涙も伴う分、見ている側からもグッと来るものがありますね。Jリーグですと、2006年の神戸残留も三浦選手の涙が随分と話題になったのを覚えています。去年もかなり盛り上がったのではないですか? そう考えると、今年からJリーグで入替え戦が廃止されたとは残念ですね。

posted by 長束恭行 | 2009-06-21 17:16

コメントする

「他サービスID/メールアドレス」で投稿する場合は、そのID/メールアドレスは表示されず、当サービス専用の固定のコメント投稿者ID「英数+連番」に変換され表示します。

※コメント投稿手順
(1)上記リストから希望のIDを選択する。
  例: Yahoo! JAPAN IDでコメント投稿
(2)Yahoo! JAPAN上の本人確認画面でIDとパスワードを入力する。
(3)スポーツナビ+blog側のコメント入力画面が表示される。
(4)コメント本文を記入し、投稿ボタンをクリックする。
(5)コメント投稿者IDとコメントが表示される。

詳しくは以下2ページをご覧下さい
【仕様変更】PCからのコメント投稿について
ブログ利用マニュアル「コメント投稿方法」

※コメント投稿手順
(1)上記リストからログイン/メールアドレスのどちらかを選択する。
  例: ログインしてコメント投稿
(2)plus-blogのアカウントとパスワード/メールアドレスを入力する。
(3)コメント入力画面が表示される。
(4)コメント本文を記入し、投稿ボタンをクリックする。
(5)コメント投稿者IDとコメントが表示される。

詳しくは以下2ページをご覧下さい
【仕様変更】PCからのコメント投稿について
ブログ利用マニュアル「コメント投稿方法」