2011年11月09日
クロアチアの強豪ディナモ・ザグレブにとって、12年ぶりのチャンピオンズ・リーグは厳しい舞台となってます。代表クラスを次々と補強し、クロアチア水準で「メガ化」したものの、いまだ勝点どころか得点もゼロ。3位に食い込んで年明けのヨーロッパ・リーグに回る、という目標も現実的じゃなかったようです。
3位争いのライバルに想定されたのが「アヤックス・アムステルダム」。過去にディナモとアヤックスは6試合対戦し、「2勝1分3敗」といい勝負。その2勝がいずれも敵地アムステルダム・アレーナでした。今のアヤックスに栄光時代の面影はなく、育成型クラブとしてはディナモもここ数年の売却収益でアヤックスと肩を並べる存在に。第3節でディナモはアヤックスにホームで0-2と敗れたものの、分の良いアレーナならば、とアムステルダムに出向いた私も淡い期待を持っていました。今回はその第4節「アヤックスvs.ディナモ・ザグレブ」のフォトレポートです。
会場となったアムステルダム・アレーナ。
「宇宙船」のような近代的スタジアムも築15年。完成から間もない1997年に見学へ訪れましたが、当時とは光景がすっかり変わっています。スタジアムを中心に開発が急速に進み、オフィスビルやショッピングモール、コンサートホールも新たに建てられました。
試合前日に行われたユルチッチ監督の記者会見。
「スタジアムは美しい。全員がいつのようにモチベーションを高めているよ」
穏やかな表情で語っていたディナモの指揮官ですが、オランダ人記者が発した"これまでのチャンピオンズ・リーグの結果を考えれば、勝点1でも満足できるか?"との質問には少しムッとして
「どの試合だろうと我々は勝利を求めている」
と言い返しました。
アレーナのピッチに足を踏み入れるディナモの選手達。
前節のアヤックス戦は4-4-2を採用したディナモは、今回はレアルやリヨン相手に使った4-2-3-1で挑みました。このシステムで鍵になるのが、ワントップの俊足FWルカビナ(55)とスルーパスが出せるブラジル人MFサミール(10)。フランク・デ・ブール監督は予想が外れたそうですが、蓋を開けてみれば両チームの実力差はシステム以前の話でした。
スタメン:GKケラヴァ-(右から)DFヴルサリコ、ヴィーダ、シムニッチ、イバネス-MFレコ、カレージョ-バデリ、サミール、コヴァチッチ-FWルカビナ
アヤックス・イレブン。
今季のエールディビジでは少し出遅れていたアヤックスですが、第3節のディナモ戦の勝利を契機に調子は上向き。今回も全く同じ先発メンバーを組んできました。対するユルチッチ監督は「ゼロトップのようなモダンなサッカーだ」と試合後に評しています。
スタメン:GKフェルメール-(右から)DFファン・デル・ウィール、アルデルワイレルト、ヴェルトンゲン、アニータ-MFエノー、ヤンセン-エリクセン-FWスレイマニ、デ・ヨンク、ブリフテル
右サイドを駆け上がるSBシーメ・ヴルサリコ(左)。
19歳でクロアチア代表メンバーに定着し、ビッグクラブも注目する右SB。しかし、マルメ(スウェーデン)とのプレーオフ第二戦でレッドカードをもらって3試合出場停止の処分を受けたため、このアヤックス戦がグループステージ初出場でした。対面するアニータの裏を取る場面があったものの、慌ててシュートを打って失敗するなどゲームを通して空回り。鍵を握る選手だったはずが、失点後は陰に隠れてしまいました。
ファン・デル・ウィール(右)の先制ゴールを祝うアヤックス。
中盤をコンパクトにしてカウンター狙いだったディナモに対し、アヤックスはプレスの届かないポジションにレシーバーが動くことによって次々とパスを繋いでいきます。先制点は20分、右サイドでボールキープするエリクソンがヒールパスでオーバーラップしたファン・デル・ウィールへ。そのままペナルティエリアに持ち込んでGKケラヴァの頭上にシュートを通しました。
エノーの厳しいマークを受けるサミール(右)。
サミールはクロアチア代表入りも噂されるブラジル人司令塔ですが、これまでの三試合と同様に低調なプレーに終始。ここでの活躍で西欧のクラブの移籍を目指していたはずが、スカウトの評価を落とし続けています。飲酒癖が抜け切れず、これまで何度もトラブルを起こしたにもかかわらず、アヤックス戦後に再び夜遊びが発覚。無期限出場停止の処分を受けることになりました。
あっさりと追加点を奪われ、呆然とするディナモの主将ミラン・バデリ(中央)。
先制点から5分後、エリクセンからの縦パスが両CBの間を抜けたところに右サイドから俊足のスレイマニが。ワンタッチでGKケラヴァをかわし、シュートを流し込みました。アヤックスの攻撃スピードに打つ手なく、ディナモ陣営には絶望感が漂います。
左WGのデルク・ブリフテル(左)がゴールに向かって突進。
ディナモは前半で守備的MFカレージョを下げ、バデリをスライド。空いた右MFにはトメチャクを入れることで、右サイドは俊足二人が並びました。しかし、二人がかりでもブリフテルの高速ドリブルに追いつくのは不可能。ブリフテルはRKCヴァールヴァイクでの活躍が認められ、今季からレンタルバックされた25歳のウィンガーで、この場面でもシュートまで持ち込みました。
65分、アヤックスは決定的な3点目。
これまでスーパーセーブで何度もチームを救ったGKケラヴァですらアヤックスの勢いは止められず。65分、ファン・デル・ウィールの右からの折り返しにエリクセン(中央左)が再びかかとでボールを繋ぎ、デ・ヨンク(中央右)がシュート。更にリードを広げます。
応援を続けるアヤックスのサポーターたち。
アヤックスで最も熱いサポーターはアレーナの南東二階席に陣取ります。アヤックスはユダヤとの繋がりが語られるクラブだけに、ヘブライ語の横断幕やイスラエル国旗も見かけました。
諦めず選手を鼓舞するユルチッチ監督。
チャンピオンズ・リーグ本選に進んだ32クラブで、動きの多い監督の一人がユルチッチ。頻繁にテクニカルエリアに出てきて指示を送ります。点差が開こうとも必死に選手を励ましました。逆にアヤックスのフランク・デ・ブール監督(左)はクールです。
敗北を慰めあうケラヴァ(右)とヴィーダ(左)。
ロスタイム2分に途中交代のロデイロに左からシュートを叩き込まれて「0-4」。これはディナモにとってCL最大の敗北です。ムードメイカーの親友同士も試合後はすっかり落ち込んでいました。
ケラヴァは試合後、「0-3で終わっていればまだ響きは良かった。アヤックスはゲームをあっさりとコントロールしてチャンスを作た。僕ら全員がそんなアヤックスのプレーに感動したよ」と完全脱帽でした。
障害を抱えるサポーターに挨拶をするアヤックスの選手達。
北側のスタンド下に障害者向けの観戦スペースが設けられており、試合後に広告ボードまで接近した彼らに対し、一部の選手たちが一人一人手を取って挨拶。これぞ市民に愛されるクラブだ、と私も感動しました。選手達も実にいい笑顔を見せていましたよ。
これでディナモはチャンピオンズ・リーグ4戦全敗。他のグループでもビジャレアルとオツェルル・ガラツィが4連敗を喫していますが、未だ得点を決めていないのはディナモだけ。得失点差-9も全クラブ中最悪の数字です。次にサンチャゴ・ベルナベウでレアル・マドリッドと対戦することを考えれば、ディナモは「缶蹴りの缶」のようにボコボコにされ、得失点差を更に広げるのは目に見えています。チャンピオンズ・リーグがディナモにとって地位や名声を高める舞台になるはずが、現実を突きつけられる過酷な場所になってしまいました。クロアチアのメディアはこう毒づいています。
「ディナモは小学校から大学に飛び級を果たしたが、いつ卒業できるか分からない。チャンピオンズ・リーグがディナモにおける"学校"だって? そんな言い訳は信じないぞ。だって選手達は何も学んじゃないないか。単にレッスンを受けているだけだ」
残る2試合でせめて1点でも取ってくれれば、このチャンピオンズ・リーグが少しは想い出になるのでしょうが…。クロアチア・リーグでは首位を快走しているだけに、埋められないギャップに誰もが苦しんでいます。
posted by 長束恭行 |00:38 |
サッカーニュース |
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2011年09月04日
季節も秋になり、ユーロ2012予選も佳境に入ってきました。オランダやドイツのように既に予選突破を決めた国もあれば、アンドラやマルタ、サンマリノのように全敗の国もあり、それぞれがそれぞれの「落し所」を探りながら最後の戦いをしています。9月2日、私が取材したのはリトアニア第二の都市カウナスで行われた「リトアニアvs.リヒテンシュタイン」。またしてマイナーカードでありますが(苦笑)、フォトレポートにお付き合い頂ければ嬉しいです。
リトアニアのスタメン。
昨年はアウェーでチェコに勝利し、展開次第では2位争いも有力だったリトアニアですが、6月のアウェーのリヒテンシュタイン戦で0-2と敗れ、完全に士気が断たれてしまいました。5試合終えて1勝1分3敗。数字的には2位も可能ですが、望みはほとんどありません。先月のアルメニアとの親善試合(取材レポート)は3-0で快勝したものの、ジュウタウタス監督は世代交代に消極的。彼はもっぱら個人的な縁で選手を呼んでいるそうです。ベテランFWのダニレヴィチュースは所属クラブを解決し(セリエBのユーベ・スタビア)、代表復帰しています。スタメンはこちら(システムは4-2-3-1)。
GKカルチェマルスカス-(右から)DF D.チェスナウスキス、ジャリューカス、クリマヴィチュース、キヤンカス-MFパンカ、シェムベラス-E.チェスナウスキス、ノヴィコヴァス、ミコリューナス-FWダニレヴィチュース
リヒテンシュタインのスタメン。
リヒテンシュタインはグループ最下位が指定席の弱小国家で、これまでの公式戦の戦績は5勝8分67敗。国内にトップリーグは存在せず、代表チームのみが存在する奇妙な国でもあります。UEFA加盟国では唯一チャンピオンズ・リーグに参加できないものの、スイス・リーグに参戦する7クラブで国内カップが行われ、その勝者がヨーロッパ・リーグに進みます。国内最強のクラブが首都にあるファドーツ。2008/09シーズンはスイス一部に昇格参戦しましたが、リトバルスキー監督の下で直ぐ降格(のち彼も解任)。しかし、今季のヨーロッパ・リーグでセルビア三番手のヴォイヴォディナ・ノヴィサドを逆転で倒すサプライズを起こしました。そのファドーツは代表に6人のスタメンを送っています。スタメンは以下のよう(4-2-3-1)。
GKイェーレ-(右から)DFエーリ、Ma.シュトックラサ、Mi.シュトックラサ、レヒシュタイナー-MF M.ビュッヘル、ヴィーザー-リッツベルガー、フリック、ブルクマイアー-FW D.ハスラー
左足でシュートを放つMFエドガラス・チェスナウスキス。
ロシア一部のロストフでプレーする27歳の彼は、先月のアルメニア戦で1ゴール・1アシストの活躍。この日も右サイドからのカットインから左足のシュートという得意の形でゴールを狙います。この6分のシュートはGKイェーレの正面に。これが前半における数少ない枠内シュートでした。
リトアニアは10分に先制チャンスを失う。
リトアニアの(数少ない)武器の一つがセットプレー。E.チェスナウスカスは左右のプレスキッカーも担当し、10分には左サイドからゴール前に良いFKを放り込んだものの、左足を伸ばしたMFパンカはGKから2mの近距離シュートをクロスバーの上に吹かしてしまいました。
前半で代えられてしまった20歳のMFアルヴィダス・ノヴィコヴァス。
アルメニア戦で初めての先発機会を得て、トップ下でまずまずの働きを見せたMFノヴィコヴァス。オーナーがロシア系リトアニア人のヴラジミール・ロマノフということもあって、スコットランドのハーツには頻繁にリトアニア選手が送り込まれるのですが、若い彼もその一人。リトアニアでは珍しく、柔らかいテクニックが特徴の選手であるものの、この日はあっさりインターセプトされる場面が目立ち、前半のみで交代となりました。
ゴール裏に集結したリトアニア・サポーター。
現在、リトアニア各地はバスケットボールの欧州選手権「ユーロバスケ2011」が開催されており、「バスケットボールが第二の宗教」と呼ばれる国だけに盛り上がりを見せています。ユーロバスケを通した愛国精神の高ぶりもあってか、サッカーの試合でも予想以上の観客(約3500人)が集まりました。バスケの応援グッズを身に着けている人も多く、この日の夜に行われた「リトアニアvs.トルコ」のパプリッグビューに流れたサポーターも随分といたはずです。
わずか6人のリヒテンシュタイン・サポーター。
リヒテンシュタイン代表の規模を考えれば「サポーターは来ないのかな」と思っていたものの、来ました、来ました、6人の勇者が。応援チェントの種類は少なく、疲れて座っていることもあったのですが、遠路遥々やって来たこと自体が賞賛に値します。
リヒテンシュタインの伝説的プレイヤー、マリオ・フリック(36)。
1993年の代表デビューから足掛け19年、先月のスイスとの親善試合でリヒテンシュタイン初の代表通算100キャップに到達したFW。16ゴールも代表史上最多。リヒテンシュタインが初めて国際大会の予選に出たのがユーロ1996予選ですので、まさしく「生ける伝説」ともいえる選手です。スイス国内ではザンクト・ガレンやバーゼル、チューリヒで活躍し、2000年から10年間セリエでもプレー。とりわけヴェローナではマレザーニ監督の下、ムトゥとカモラネージで3トップを築きました。今年から自分が育ったバルツェルスに復帰(スイス四部に相当)。リヒテンシュタイン代表では4-2-3-1のトップ下を務め、確かな足技で攻撃を指揮しました。
リヒテンシュタインに最大のチャンス。60分にMFブルクマイアーがシュートを放つ。
リトアニアのサイド攻撃を制し、ワントップのダニレヴィチュースを無力化したリヒテンシュタインは、鋭いカウンターから幾度とチャンスを作ります。放り込みはせず、ショートパスを丁寧に繋ぐサッカースタイルは非常に好感が持てました。60分、ゴール前の浮き球パスを相手DFがカットミスしたところを、詰めていたMFブルクマイアーがシュート。しかし、GKカルチェルマルスカスに止められてしまいます。
75分、E.チェスナウスカスがレッドカード。リトアニアが10人に。
悪いなりにも試合を押し気味に進めていたリトアニアでしたが、空回り気味だったE.チェスナウスカスが自分のパスミスを帳消しにしようとばかり、背後からMFビュッフェルを削って一発レッド。去り際には一部サポーターからブーイングを受けました。
リトアニア最後のチャンスもまたしてGKイェーレがセーブ。
残り15分、一人少ないながらも放り込み作戦でゴールを狙うリトアニアに対し、リヒテンシュタインは必死のディフェンスを見せます。とりわけGKイェーレが鬼神の如くピンチを救いました。次々とファインセーブでゴールを守りきり、ロスタイム4分にはダニレヴィチュースが一対一を作るもののこれまたシュートをセーブします。
引分けを喜ぶGKイェーレとDFレヒシュタイナー。
リトアニアが浴びせた12本のシュート(枠内6)を防ぎ切り、引分けに持ち込んだことにリヒテンシュタインの選手は大喜び。この国においてどれだけ勝点が貴重なものか分かる瞬間です。リトアニアはリヒテンシュタイン相手に二戦を通して勝点4を供給。ジュウタウタス監督は「リヒテンシュタインは我々リトアニアにとって"ブラックチーム"だ」と相性の悪さを嘆きました。
GKイェーレを見送るリヒテンシュタイン・サポーター。
二階席にいたリヒテンシュタインのサポーターが一階まで降りると、全選手が彼らの下へ挨拶に向かい、サポーター一人一人に握手していきます。こういった光景を見るだけでも試合に訪れた価値があるというもの。最後に祝福されたのはGKイェーレでした。
両国がいる「グループI」は世界王者スペインが勝点15で首位を走り、続いてチェコが一試合消化が多くて勝点10で続きます。このグループは一位スペイン、二位チェコでほぼ決まり。クラブも代表もレベルの凋落が著しいスコットランド(試合5:勝点5)、そしてリトアニア(試合6:勝点5)、リヒテンシュタイン(試合6:勝点4)が団子状態で三位を争っています。
バルト諸国の中では最もFIFAランクの高いリトアニア(56位)ですが、、グルジアにアウェーで勝利したラトビア(84位)、同じくスロベニアで勝利したエストニア(86位)と比較すれば、「落ちこぼれ」感が否めません。すっかり衰えたFWダニレヴィチュースをフル出場させたように、リトアニア代表は世代交代が確実に遅れており、ジュウタスタス監督の発言からも現状に対する焦りを感じません。負け癖がついた代表はこんなものでしょう。
それでもこの世にバスケットボールがある限り、不甲斐ないサッカー代表にフラストレーションを溜めるリトアニア国民が少ないのも真実です。勝っても「内容が悪い!」とブチ切れ、自らの代表に対してネガティブ・キャンペーンを行うクロアチアと比べれば雲泥の差です。
posted by 長束恭行 |19:10 |
バルト・サッカー |
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2011年08月12日
8月10日は国際Aマッチデイということで、欧州各地にて親善試合が行われました。「イタリアvs.スペイン」「ドイツvs.ブラジル」「イングランドvs.オランダ(中止)」といったようにマーケティングの意味合いもあってか大国は大国同士で組むのが半ば慣習です。私が長年取材したクロアチアは少し特殊で、大国はマーケティングの旨みが小さい割に火傷するクロアチアとの親善試合を避けたがり、逆にクロアチアは招待料欲しさにアウェーには喜んで応じます。FIFAランク10位以内を長くキープしているクロアチアですが、ビッグな対戦は少ない上に、本国に魅力的な相手を呼ぶことも滅多にありませんでした。
サッカーでは小国の部類に入るリトアニアはどうかというと、親善試合の相手は中堅国もしくは小国に限られてきます。それも近隣国もしくは旧ソ連の国々との対戦が一般的。現在のライモンダス・ジュタウタス監督が2010年に就任して以来、対戦した国はウクライナ(A)、ベラルーシ(H)、ハンガリー(A)、ポーランド(H)、ノルウェー(A)。ポーランドに2-0で勝利した以外はいずれも完封負け。FIFAランク58位、欧州30位という位置付けもまず妥当なところでしょう。
そんなリトアニアが対戦相手として選んだのがFIFAランク70位、欧州36位のアルメニア。両国の対戦は2000年に一度あり、アルメニアが2-1で勝利しています。クロアチアを通して様々な欧州代表を取材してきましたが、アルメニアは私自身も初めて。これも旧ソ連ならではのマッチメイクです。今回も自ら撮影した写真と共に、試合の模様をお伝えします。
コーチ陣と肩を組むライモンダス・ジュタウタス監督(38歳)。
2010年2月にリトアニア史上最年少の37歳で代表監督に就任。現役時代はディフェンシブハーフとしてリトアニア代表で40試合出場し、キャプテンも務めた人物です。マッカビ・ハイファやパナシナイコスでもプレーしたものの、膝の怪我のため31歳で引退。コーチ経験はわずか4ヶ月間しかなく、監督としてチームを率いるのは実がリトアニア代表が初めて。ユーロ予選はスコットランドに分け、チェコに勝利する幸先良い滑り出しだったものの、1勝1分3敗の5チーム中4位に甘んじています。
リトアニア国歌を歌うハードロックバンドの「Thundertale」。
「リトアニア、我らの祖国よ~」の歌い出しで始まる同国の国歌「国民賛歌」は、「リトアニアの名の下に」という最後のサビで盛り上がる名曲です。リトアニア・サッカー協会会長のヴァラナヴィチュース氏は「国歌はサッカーの試合で重要なプロローグとなる。少し異なるパフォーマンスの国歌を聴くことに観客も関心を持ってくれると思うよ」と語り、今回は地元カウナス出身のハードロックバンドに任せました。同日に行われた日韓戦では調子外れな「君が代」が話題になりましたが、二人のロッカーは大役をしっかりと果たしています。右は民族衣装を着てアルメニア国歌を歌った女性です。
平均年齢が27.9歳と高いリトアニアのスタメン。
欧州で最も名の知れるDFスタンケヴィチュース(ラツィオ)が調整不足、FWダニレヴィチュースはクラブが長く決まらず(このほどセリエBのユーベ・スタビアに加入)、今回は未招集。またFWシェルナスとDF/MFラダヴィチュースも累積警告で次のリヒテンシュタイン戦は出場不可のため外されました。スタメン全員が国外組。若手の台頭が乏しい中、20歳のMFノヴィコヴァス(ハーツ)がトップ下に抜擢されました。スタメンは以下のようです(システムは4-2-3-1)。
GKカルチェマルスカス-(右から)DF D.チェスナウスキス、スケルラ、ジャリューカス、クリマヴィチュス-MFイヴァシュケヴィチュース、シェムベラス-E.チェスナウスキス、ノヴィコヴァス、ミコリューナス-FWラブカス
若いタレントの集まるアルメニアのスタメン。
リトアニア同様にW杯もユーロも本選出場とは程遠い弱小国になりますが、ホームで何かと番狂わせをするのがアルメニアです。ユーロ2008予選ではポーランドに1-0で勝ち、ポルトガルとセルビアとドロー。続くW杯予選ではベルギーに2-1で勝利に持ち込むと、今回のユーロ予選ではスロバキアに3-1で勝利し、直後のFIFAランクはアルメニア史上最高の59位につけました。2002年以降は外国人のお雇い監督に頼りきりだったチームですが、2009年から母国人ヴァルダン・ミナシアン(37歳)が指揮。中心となるのは国内10連覇中の強豪ピュニクの選手達。アルメニア代表121キャップのSBホフセピアン(38歳)を除けば、平均年齢が22歳と若いチームです。スタメンは以下のようです(システムは4-2-3-1)。
GKイスラエリアン-DFホフセピアン、ハロヤン、ムコヤン、アイラペティアン-MFムルチアン、ムヒタリアン-マラキアン、マルコス・ピゼリ、ガザリアン-FWサルキソフ
北側のゴール裏一角に固まるリトアニア代表サポーター。
会場となったのはカウナスの「S.ダリウス&S.ギラナス・スタジアム」(収容9180人)。鉄骨がむき出しとなったオンボロ・スタジアムですが、リトアニアはここでしか代表Aマッチが行えません。サッカー協会がサッカークラブや小中学校のスポーツ部に所属する子供を数百人無料招待しても観客は1000人余り。リトアニア代表のサポーターは贔屓のクラブのマフラーを手にし、一緒に応援するのが流儀です。
イヴァシュケヴィチュース(左)と競り合うムヒタリアン(右)。
アルメニア最大のタレントがMFヘンリク・ムヒタリアン(22歳)。17歳には故郷エレバンのピュニクでデビューを果たすと、2009年にウクライナ一部のメタルルグ・ドネツクに移籍。得点力あるセンターハーフとして目覚しい活躍をし、一年後には移籍金750万ユーロで強豪シャフタール・ドネツクに移りました。攻守切り替えの速さ、吸い付くようなボールテクニック、果敢な飛び出しに長けた現代的MFで、いかにもルチェスクが好みそうなタレントです。
ミドルシュートを試みるE.チェスナウスキス。
この日一番の活躍を見せたのが右MFエドガラス・チェスナウスキス(27歳)。エクラナスから2003年にディナモ・キエフに移籍するも出場機会に恵まれず、2年後にはロシア・リーグに舞台を移しました。今年3月にはディナモ・モスクワからロストフに移籍し、レギュラーとしてプレー。重心の低いドリブルでカットインするのが特徴で、左足のFKやミドルシュートも武器です。本来は右MFの兄デヴィダス・チェスナウスキス(30歳、インテル・バクー所属)が右SBに下がることで、右サイドは兄弟がコンビを組むことになりました。
先制点は8分。リトアニアのDFクリマヴィチュースがヘディングで決める。
細かいパスワークとワンツーでボールを繋ぐアルメニアに対し、フィジカルで勝るリトアニアはガツガツとした攻撃を仕掛けます。アルメニアにとって致命的だったのは身長差。空中戦にことごとく競り負け、先制点も高さの差から生まれました。E.チェスナウスキスの右CKを188cmの左SBクリマヴィチュース(28歳)が中央からヘディングシュート。アルメニア代表GKイスラリアンはウィキペディアによると184cmとなっていますが、見た目は170cmもなく、あっさりとゴールを割られてしまいました。
ほのぼのしたアルメニアのサポーター。
アルメニアの首都エレバンと試合会場のカウナスは遠く離れており、直線距離にして2240km。空路で訪れるサポーターというよりは、リトアニアに住むアルメニア人家族が祖国の応援にやって来たようです。総勢70人ほど。太鼓をペットボトルで叩きながら、声を揃えての応援は素朴ながらも温かみのあるものでした。カメラを向けると誰もが手を振ってくれるのも、リトアニア人とは異なるメンタリティを見た気がします。
後半71分、アルメニアは最大の絶好機を逃す。モフシシアンのシュートはGKが挽回。
コーカサス出身の選手は昔から足元の技術に定評がありますが、グルジアやアゼルバイジャン以上にアルメニアはその特性を活かした流動的サッカーを試みています。昨年に敗れたスロバキアのヴラジミール・ヴァイス監督も「大きなポテンシャルを持ったチームだ」と絶賛しており、タレントはムヒタリアンだけに留まりません。左SBアイラペティアン(22歳)、左MFカザリアン(23歳)、右MFマラキアン(23歳)も技術に優れ、ブラジルから帰化したトップ下のマルコス・ピゼリ(26歳)もフィット。
魅力的な攻撃に相反するのが守備の脆さでしょうか。58分にCBハロヤン(18歳)が二枚目のイエローで退場して10人に。それでもアルメニアはチャンスを作り続け、71分には途中交代のFWモフシシアン(24歳)がGKカルチェマルスカスのパスをさらってシュートを試みるも、二度に渡って止められてしまいました。
75分、直接FKを決めたリトアニアが突き放す。
同点のチャンスを活かせず意気消沈のアルメニアに対し、リトアニアは75分にE.チェスナウスキスが右FKを直接決めて2-0。彼は文句なしのマン・オブ・ザ・マッチです。
3点目を奪われてうなだれるアルメニアGKイサリアン。
わずか3分後、E.チェスナウスキスが浮き球のワンツーでDFの裏に抜け、GKイサリアンが飛び出したところで右にパス。ゴールがガラ空きになったところを途中交代のFWベニューシスが押し込みました。
イサリアン(19歳)はこの試合がA代表デビューとなるピュニクのGKで、7月のチャンピオンズ・リーグ予選二回戦ではチェコのヴィクトリア・プルゼニ相手に9失点を喫して批判の矢面に立っています。これまでのアルメニア正GKベレゾフスキーが37歳となり、若返りを期待されてのA代表抜擢でしたが、少し場違いのようで気の毒でした。
ホイッスルが鳴り、「3-0」でリトアニアの勝利。日韓戦のスコアと奇しくも同じですが、日本が内容と結果が見合った快勝だったのに対し、リトアニアはそこまでといきません。ジュタウタス監督もその点は理解しているようで、
「動きに優れたアルメニアを相手にしたグッドゲームだった。結果は非常に良かったが、うちらのプレーそのものが良かったとは言えないな。相手は頻繁にボールをコントロールし、スピードアップから危険なカウンターアタックも行ってきた。それでも我々はよく耐えて、プレーを構築したよ。構築は破壊よりも難しいからね」
と試合後にコメントしています。トップ下で活躍したノヴィコヴァス、また後半に代表デビューしたDFアンドリュシュケヴィチュースの20歳コンビが戦力になることを証明し、これにDFスタンケヴィチュスとFWダニレヴィチュスの両ベテランが加われば、9月のリヒテンシュタイン戦とスコットランド戦にも望みを託せます。ただ、ユーロ予選突破が厳しい中、少し世代交代を早めないと、次のW杯予選も苦戦するのは間違いありません。同組はギリシャ、スロバキア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ラトビア、リヒテンシュタインと比較的恵まれたドローなのですが…。
一方のアルメニア。敗軍の将となったミナシアン監督は
「将来にとってプラスになる若い選手を我々は試した。ユーロ予選の準備として、ある課題は達成したが、ある課題はダメだったよ。後半のレッドカードでゲームはあらぬ方向に進んでしまった。リトアニアにはフィジカル的にもメンタル的にも強いチームだ」
と述べています。アウェーに弱いアルメニアの9月におけるユーロ予選カレンダーは、アンドラとスロバキアとアウェーマッチ。アイルランド、ロシア、スロバキアが揃って4勝1敗1分の勝点13で並ぶ中、アルメニアは2勝2分2敗の4位と健闘してます。2位通過は厳しいとはいえ、アルメニアはグループBの最終結果を左右する存在となるでしょう。あとは守れるGKを発掘し、順調に選手が経験を積んでいけば、このチームのピークは4年後。ユーロ2016予選では台風の目になるかもしれません。
リトアニアとアルメニアはかつてのソ連の同胞でありながら、伝統や体格、メンタリティの差が大きく、両極端のサッカーを生まれるのは非常に興味深い事象。一言でいえば「フィジカル系のバルト」「テクニック系のコーカサス」です。そこにスピードに優れたロシアやウクライナ、ベラルーシが存在していたわけで、旧ソ連のサッカーは旧ユーゴのそれよりも奥行きが深いものでした。
同じコーカサス地方のグルジアに関してはユーロ予選のクロアチア戦を機に、今年3月に現地取材してきました。その記事が今月発売予定の「欧州サッカー批評」に掲載されますので、ご覧になって頂ければ嬉しいです。
posted by 長束恭行 |17:09 |
バルト・サッカー |
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2011年08月02日
欧州カップ予選は佳境に入り、興味深いカードが次々と実現しています。7月28日、「UEFAヨーロッパ・リーグ」予選三回戦の第1レグの35試合が行われ、二回戦を勝ち進んだ40クラブ、欧州リーグランク1~18位の上位18クラブ、18~29位のカップ戦優勝12クラブの計70クラブが挑みました。
取材先として私がクローズアップするのは「ヴェンツピルスvs.ツルヴェナ・ズヴェズダ」。2009/10シーズンにはヨーロッパ・リーグ本選にも出場しているラトビアの強豪、ヴェンツピルスはこれまで二度紹介してきました(3年前の取材、バルティック・リーグ決勝)。昨季のラトビア・リーグ「ヴィルスリーガ」で優勝を逃したものの、ヨーロッパ・リーグの躍進を狙うフロントは更なる多国籍化を図りました。我々が注目すべきは日本人の三選手。現時点においてヴェンツピルスは、最も日本人を抱える欧州トップリーグのクラブです。
アビスパ福岡、徳島ヴォルティス、ガイナーレ鳥取などを渡り歩き、欧州初挑戦でヴェンツピルスにテスト合格したDF柴村直弥(28歳・写真中央)。昨季はグルベネ2005で二部リーグのMVPとなり、ヴェンツピルスにステップアップしたMF佐藤穣(20歳・写真右)。昨年一年間をタイ・プレミアリーグでプレーし、今年はグルベネ2005を経て7月にヴェンツピルスに加わったMF加藤康弘(25歳・写真左)。数多くの選手が「ふるい」に掛けられて去っていく中、いずれも実力を認められて入団した選手達です。
ヴェンツピルスは予選二回戦から出場し、ベラルーシのシャフチョール・ソリゴルスクと対戦。第一戦のアウェーを後半89分のMFコスマチョヴスのゴールで1-0と勝利するも、第二戦は一転してシーソーゲーム。一時は1-2とシャフチョールに引っくり返されますが、残り15分で再逆転して3-2で勝利。苦しみながら三回戦へ駒を進めました。左SBのポジションに定着した柴村は両試合でフル出場。佐藤は第一戦で66分まで、加藤は第二戦で80分から出場しています。
一方、セルビアの名門ツルヴェナ・ズヴェズダは、皆さんにとっては「レッドスター・ベオグラード」という名称のほうがしっくり来るかもしれません。ストイコヴィッチ、サヴィチェヴィッチ、ミハイロヴィッチ、ユーゴヴィッチ、パンチェフ、ベロディティチらを擁して国内外を席巻したのが80年代末から90年代初頭。1991年にはチャンピオンズカップとトヨタカップを制し、欧州王者と世界王者に戴冠しました。
しかし、ここ数年はライバルのパルチザン・ベオグラードの後塵を拝し、4年間に渡ってリーグ優勝を逃すことに。失望のシーズンが続く中、昨年12月、ズヴェズダ黄金時代を飾るロベルト・プロシネチュキ(写真)が電撃的に監督就任します。クロアチア国籍の彼が当時どう迎えられたかは私のレポートを参考にして欲しいのですが、彼の到来はズヴェズダにポジティブな変化を与え続けました。スペイン・サッカー信奉のプロシネチュキ監督はパス中心の攻撃サッカーを持ち込み、リーグ優勝は逃したものの、パルチザン相手に3年ぶりの勝利。勝点で並ぶヴァイヴォディナと最終節の直接対決(取材レポート)を制して2位となり、ヨーロッパ・リーグ三回戦からの出場権を得ました(3位だと二回戦からスタート)。
柴村選手ともプロシネチュキ監督とも交流のある私にとって、この対戦カードは特別なこだわりがあります。ただし、今回はヴェンツピルスを応援です。撮影した写真を交えてのフォトレポートといきましょう。
スタメン選手の国旗を持ったヴェンツピルス・ユース達。
開始直前のヴェンツピルス選手紹介では、11人のユースの子供達がスタメン選手の国旗を手に持ち、名前が呼ばれるとそのポジションに走り込む、というイベントが行われます。7枚のラトビア国旗に加え、ウルグアイ(FWマルティネス)、ナイジェリア(MFトゥクラ)、ロシア(DFポストニコフ)、そして日本(DF柴村)の国旗が準備されました。
スタンドの拍手に応える柴村。
柴村はこの日も左SBで先発出場。佐藤、加藤両選手はベンチスタートとなりました。ヴェンツピルスのスタメンは以下のようです(4-4-2)。
GKヴラソヴス-(右から)DFガボヴス、ポストニコフ、サヴチェンコヴス、柴村-MFルギンス、ライザンス、トゥクラ、コスマチョヴス-FWヴィスナコヴス、マルティネス
試合前に並ぶズヴェズダ・イレブン。
今夏のオーストリア合宿では、主将ヴィロティッチが越権行為で追放処分を受けたり、外国人選手の遅刻や喧嘩といったトラブルも発生。それでもこの日はほぼベストメンバーで挑みました。司令塔のブラジル人エヴァンドロが怪我から戻り、即戦力となる新加入のMFコヴァチェヴィッチ(←ランス)、MFディミトリイェヴィッチ(←ラド)で中盤を構成。セルビア・リーグの開幕は8月13日と他の旧ユーゴ諸国よりも遅く、調整不足が推測される中、このヴェンツピルス戦が今季最初の公式戦となります。スタメンは以下のよう(4-3-3)。
GKバイコヴィッチ-DFミキッチ、ミヤイロヴィッチ、トシッチ、レリッチ-MFディミトリイェヴィッチ、コヴァチェヴィッチ、エヴァンドロ-FWラゾヴィッチ、カルジェロヴィッチ、ボルハ
立ち上がりはヴェンツピルスが上回るも先制点はズヴェズダ。カルジェロヴィッチが頭で決める。
序盤からヴェンツピルスが速い仕掛けからチャンスを見出します。DFの背後を抜けたルギンス(1分)とマルティネス(3分)にロングパスが二度通り、ライザンス(7分)とヴィスナコヴス(9分)のミドルシュートがGKを襲うも得点は奪えず。不安定なズヴェズダDF陣を突けば先制点は奪えると思った矢先の10分、ズヴェズタが速攻を仕掛け、ミキッチの右クロスから昨季得点王のカルジェロヴィッチがヘディングシュート。CB二人とも彼に付けておらず、あっさりとゴールを割らせてしまいました。
先制点に喜ぶズヴェズタ・サポーター「デリエ」。
デリエは欧州でも過激さと熱狂さで名高いサポーター集団で、およそ200人近くが集まりました。多くはセルビアからのチャーター機で来ましたが、中にはバンで片道2000km近く走破した者も。また同じ正教信者ということでロシアからの応援組や、純粋にデリエに惚れたオーストリア人も加わっていました。もちろんのこと、コソボ独立反対に絡めたチャント、政治的な横断幕も準備されました。
柴村とマッチアップするラゾヴィッチ(左)とミキッチ(中央)。
柴村の役目はズヴェズダの右からの攻撃を防ぐことですが、サポートすべきMFコスマチェヴスが持ち場を頻繁に離れることから「2対1」の形を作られてしまいます。旧ユーゴ系譜を継ぐ若きMFラゾヴィッチが右WGの位置でドリブルから持ち込み、背後を右SBミキッチが突進。16分と25分にもミキッチの右クロスから中央のカルジェロヴィッチに、という決定機を作りました。
前半終了間際にヴェンツピルスが同点に。得点はU-21ラトビア代表FWヴィスナコヴス。
早い失点を喫するも、臆することなくズヴェズダに対抗したヴェンツピルス。ミドルシュートやセットプレーからゴールを伺い続け、ついに44分、同点弾が生まれます。ゴールキックからマルティネスがヘディングで競合い、ボールはズヴェズダのゴール前へ。裏に走り抜けたFWヴィスナコヴスがトラップから右足を振り抜きました。チームではレギュラーを勝ち取れてない彼ですが、持ち前のスピードと高さは魅力です。
上半身裸でゴールを喜ぶヴェンツピルス・サポーター「FKVラッズ」。
規模は違えど「デリエ」同様にマッチョなサポーターが多いヴェンツピルス。メンバーはラトビア人でなくロシア人で構成されており、セルビア人にシンパシーを抱いていることから、「コソボはセルビアの魂」というセルビア語のチャントを送りました。この日は友好関係にあるポーランド二部の「ヴィスラ・プロツク」のサポーターもFKVラッズに加わり、試合後はデリエも含めて海岸で飲み会をしたそう。こうした国を超えるサポーター交流も興味深いものです。
客席を飛び越えるヴェンツピルスのマスコット。
正体は山猫で、名前はまだ無いバルト・サッカー界お馴染み(?)のマスコット。サービス精神旺盛の「キモカワ」路線だったはずが、中の人がユース選手に変わってヤル気が薄れたために「ゆるキャラ」になってしまいました(笑)
後半始めはヴェンツピルスの惜しいチャンスが続く。
後半にビッグチャンスを迎えたのはヴェンツピルス。50分、右FKのボールが中央フリーの柴村に通るもボレーシュートは失敗。55分にはセットプレーで空いてを欺き、右サイドを走るルギンスにボールを渡してシュートを試みますが、ボールはGKバイコヴィッチに触れながらポストを叩きました。試合を通してのシュートは16本と互角。前後半それぞれの早いチャンスでヴェンツピルスが一本決めていたら、試合の流れは変わったかもしれません。
ヴェショヴィッチの背後からボールカットを試みる柴村。
後半のズヴェズダは尻すぼみとなり、交代カードを三枚切っても流れを取り戻せません。65分にはミキッチがセットプレーから決定的な場面を迎えるもヘディングシュートは不発。76分にはヴェショヴィッチ(写真左)が新たに右WGに入りましたが、マッチアップした柴村選手が突破を防ぎました。この写真の局面も、最後は右足でカットに成功しています。
ロスタイムに待っていたドラマ。ヴェンツピルス、痛恨の失点。
第四審判が示したロスタイムは3分。ヴェンツピルスのトゥクラがドリブル突進し、3人かわして放ったシュートはゴール正面。このチャンスを最後に試合は終わるかと思われたその1分後、ヴェンツピルスが痛恨の失点を喫します。
ズヴェズダの左CKにヴィスナコヴスが中央で競り合うも空振り。ボールは背後のポストニコフの身体に当たり、途中交代のブラジル人FWメゼンガの目の前に。メゼンガはそのボールに食らいつき、決勝ゴールを叩き込みます。ラストのワンチャンスをものにし、勝ち越したズヴェズダ。試合後のプロシネチュキ監督は
「期待したようにゲームに入れず、かなり選手達は神経質だった。最後はちょっとした運があり、特別なゴールを決めることには成功したが、私は引分が妥当な結果だと思っている」
と試合後に率直な印象を語っています。
試合翌日、柴村選手にインタビューさせて頂き、昨夜の一戦を語ってもらいました。
-昨日の試合について感想をお聞きします。結果的には1-2で敗れてしまいましたが、これは欧州カップにおけるチームとしての経験の差が出てしまったのか、それとも運が左右したのか。この大会において運って凄くゲームを左右すると思うんですよ。柴村さんはどう分析されますか?
「もちろん、そういう運とかもあったと思うのですが、やっぱり負けた時は運だけで終わらせたくありません。『いや、でも…』と思ったりするんですよね。運で片付けると全てが終わっちゃうんで。特に僕はDFなので失点シーンはどうにかして防げなかったのか、と常に振り返ります。失点はちょっとした事柄、色んな要素の積み重ねだと思うんですよ。
例えばFWのリコ(マルティネス)が怪我で途中交代したじゃないですか。相手のセットプレーの際、ゴール前でクリアするのはヘディングの強い彼の役割。しかし、最後の失点の場面では彼がいるべきポジションにヴィスナコブスが入った。もしリコだったらあそこで後ろに逸らしたりしてないですよね。まず最初の時点でボールを跳ね返したでしょうし。
それも一つゲームの流れです。結局のところ、一つ一つの積み重ねや色んな要素が重なり、最後になって現れる。失点する原因ってたくさんあるんですよね。その場面だけじゃなくて、一試合を通じてそこに繋がっていると思います。そういう意味では、トータルとして踏まえたり、結果で見たりすれば相手の方が強かったという。ただ、勝てない相手じゃないというのはやってみて感じました。逆に第二戦に向けて、このチームがメンタルの部分でどれだけ力を出せるかというのが課題。良い方向へチームを持っていけると思いますし、自分で感じた部分もあります」
-ヨーロッパ・リーグの戦いにおいて、その感じた部分とは何でしょうか?
「やるまで勝負は分からないじゃないですか。ズヴェズダは世界一になったクラブですし。でも実際はやってみれば『勝てたでしょ』と誰もが凄く悔しかっただろうし。次の試合ではまず二点取らなければならない。アウェーゴールの差もある。でも取れると自分の中では思っています」
-やれるという自信が湧いた、ということですね?
「二点取れるでしょ、という。自信は誰もが持っています。相手のディフェンスは不安定で、連携不足。だけどホームで引いて守るわけにはいかないじゃないですか。どららにしろズヴェズダは同じように攻撃してくると思うんですよ。となると当然、第一戦と同じようにスペースが生まれてくる。守備においてはウィークな部分がたくさんあるので、そこを突いていけば。突ける部分はたくさんあるのは、やってみて感じたところだと思います。是非とも第二戦で逆転したいですね」
柴村選手は聡明な語り口が特徴的ですが、その言葉の端々から自信が伝わってきました。セルビア・サッカーの弱点は油断しがちな「バルカン・シンドローム」。ヨーロッパリーグ二回戦では、国内三番手のヴォイヴォディナがファドーツ(リヒテンシュタイン)に2-0でアウェーで勝利しながら、第二戦のホームで1-3と勝ち越されて敗退しました。ですので、ヴェンツピルスのチャンスは決して小さくありません。プレーオフ進出のかかる第二戦は8月4日、ベオグラードのマラカナ・スタジアムで行われます。
posted by 長束恭行 |21:37 |
バルト・サッカー |
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