西の落伍家

【大相撲】「無謀」と「執念」の末に

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館内に国歌が響く中、稀勢の里は泣いていた。優勝の達成感からか、それとも怪我の中横綱の務めを果たしきった安堵感からか。

大相撲春場所の千秋楽が行われ、新横綱稀勢の里が13勝2敗で2場所連続2回目の優勝を果たした。前日まで星1つの差で追いかけていた大関照ノ富士を本割と優勝決定戦で連破。新横綱の優勝としては1995年初場所の横綱貴乃花以来の優勝となった。

13日目の横綱日馬富士との対戦以降、稀勢の里は左肩を痛めていた。休場した方がいいという周囲の反対を押し切り14日目強行出場したが、土俵入りの際の柏手の音はそれまでとは力強さが違った。その後の横綱鶴竜との対戦では力なく寄り切られてしまった。この時点では強行出場は「無謀」以外の何物でもなかった。

一方で優勝争いのライバルであった照ノ富士は同じ14日目に大関琴奨菊と対戦。立会い不成立の後の2回目の立会いで変化するしたたかな相撲で琴奨菊を破り、琴奨菊の大関復帰に引導を渡すと共に優勝争いでも先頭に立った。

この結果に稀勢の里は相当考えたであろう。そして今日の千秋楽で稀勢の里がとった戦略が「変化」であった。前日に大関照ノ富士が用いた戦略を横綱である稀勢の里も用いたのだ。変化については各人賛否両論あると思うが、ルールで禁じられていない以上用いた力士の番付がどうであれ正当な戦略であると筆者は考える。(とはいっても、照ノ富士の変化にはブーイング、稀勢の里の変化には歓声を送る観客の節操のなさはどうかと思うが。)結果として照ノ富士を破ったことで賜杯の行方は優勝決定戦に持ち越されることとなった。

この時点で筆者は稀勢の里が勝つにはすくい投げ、もしくは小手投げしかないと考えていた。一番の武器である左が使えない以上、純粋な力勝負では分が悪すぎる。ましては相手は怪力の照ノ富士である。ならば、残った右に加えて、向かってくる相手の力を逆手に取り自分の武器とするしかないのではというのがその理由である。ただ、本割で突き落としで勝利したことを考えると、突き落としや引き落とし、はたき込みなどの類は警戒されると考えた。またすくい投げに関しては、先場所の千秋楽で横綱白鵬を破った技であり、場所後の横綱昇進を手繰り寄せた技でもあった。

優勝決定戦、稀勢の里は照ノ富士に押し込まれた。「さすがに連勝は厳しいか」筆者がそう感じた刹那、背中に土をつけた照ノ富士が呆然としていた。決まり手は右の小手投げ。「無謀」が「執念」へと変わった瞬間であった。

個人的には怪我を押して強行出場したことについてはいただけない部分もあるのだが、結果として稀勢の里が優勝して見せたということは揺るぎない事実である。しかし、こうやって優勝争いをすることは横綱の責務であるが、元気に綱を張り続けることもまた横綱の大切な責務なのだ。目先の1勝より未来の5勝。これからは勇気を持って休むということも選択肢としてほしい。

「 今回は泣かないと決めていたのですが・・・」 言葉とは裏腹に男泣きしながら優勝インタビューに答える稀勢の里には大きな拍手が送られていた。また、初場所同様に見えない力を感じたのか 「自分の力以上のものが出た。あきらめないで最後まで力を出して良かったです」 というコメントも残している。もしかしたら天国にいる師匠が先場所に続いて再び力を貸してくれたのかもしれない。

「荒れる春場所」の通り名に違わず、様々なことが起きた春場所もこれで終了。気づけば土俵の中にも外にも、桜の季節がやってきたようである。



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