幕下相撲の知られざる世界

九州場所で巻き起こる、自然なコール。相撲文化の変質という現実に向き合え。

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2年前、九州場所を観戦した時のこと。

稀勢の里がひどい相撲で敗れたことよりも、白鵬が栃煌山を相手に猫だましをしたことよりも、自由席の椅子が死ぬほど硬かったことよりも、適当に入ったうどん屋のごぼう天が旨かったことよりも驚いたことがあった。

そう。 力士に対するコールが、ごく自然に行われていたのだ。

九州場所をテレビで観戦していて、コールが起こるたびに私はいつも顔をしかめていた。少なくとも私の友人で、コールを肯定的に捉える人は誰も居ない。強硬に、論理的に肯定する人物が居たとしたら考えるところだと思うのだが、そういう気は起こらない。

理由を付ければ幾らでも否定できる。観戦約款で集団応援は禁じられている、この一言だけで全てが片付くし、それ以上コールを否定するための言葉を重ねることもないのではないかとも思う。

ただ、それでは自分を正当化するために表向きの理由を立てただけなので、私は逃げずに言いたい。単にコールという応援が相撲に合わないと感じているだけなのである。それだけのことなのだ。

大相撲には大相撲の独特の雰囲気がある。決してそれは高尚なものでも小難しいものでもない。先人達が築いた空気、粋の前に立つとコールは異物だ。異物であり、行儀が悪いことだからこそ、天覧相撲でコールは起きない。起こさせないし、起こすという発想が出てこない訳である。

だからこそ、九州の地で直に見たコールに私は驚いた。その自然さもさることながら、もう一つ驚いたことがある。それは、ここまでコールに否定的だった私が、九州場所でのコールにそれほど嫌な気分が起きなかったということなのだ。

あまりに自然で、誰もが悪いという気持ち無くコールをしていた。好きな力士、ご当地力士の後押しをしたいだけなのだ。相撲を楽しむ一つの方法として、コールは身近な手段として存在している。

東京ではコールは不自然で、粋じゃないから違和感があり、相撲への集中を妨げることになる。その自然さを否定するのは却って粋じゃないような、そんな後ろめたさすら感じたのである。

九州場所では、コールは文化だ。 文化なのである。 そこに論理的な理由はない。 そういうものなのだ。

では、東京もコールは許容されていいのだろうか。 私はそうは思わない。

言い方は悪いが、コールは九州を侵食した文化だと思う。一つの見方と言わざるを得ないが、自分はそこに加担する気は無い。九州でそれをする人を否定する気にはなれないが、結局私はコールを好きにはなれない。

そういう土地もあるのかもしれないが、それがメインカルチャーであってはならない。相撲には相撲の独特の空気がある。1000年の歴史が育んだ粋がある。そしてその粋は、東京では守られている。

私はそういう大相撲特有の粋を守ってもらいたい。 そしてそこに、文化の奥深さがあると思うのである。

数年前の不祥事で、大相撲は曲がり角を迎えた。 生き残るために変化してきたこともあった。 だがその変化、許容は果たして良かったのだろうか。

少なくともコールの許容は明確な哲学からもたらされたものではない。危機に瀕した時に、問題の棚上げを続けた結果、文化として居座ってしまったものだと私は思う。

文化としての大相撲が、どうあるべきか。棚上げの結果、文化は変質しつつある。力士というソフトとしての大相撲をいかに守るかも語られるべきだが、文化というハードとしての大相撲をいかに守り、いかに変えるか。そこに今、注力すべきなのだ。

ファンがただ好き嫌いを語る段階ではない。 もう既に相撲の粋はこうしている間に変質している。 短期的な人気獲得に注力する段階は、もう終わった。

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最新相撲事情考察
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九州場所では、コールは文化だ
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問題の棚上げを続けた結果、文化として居座ってしまったもの
コールの許容は明確な哲学からもたらされたものではない

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この記事へのコメントコメント一覧

「九州場所で巻き起こる、自然なコール。相撲文化の変質という現実に向き合え。」へのコメント

九州場所でのコールと本場所でのコールは意図か何かが違うような感じがしますよね。

九州場所では九州出身力士に向けられることが多いですが、本場所では特定の力士の「相手」にたいして送られてるように感じるのは自分だけでしょうか?

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