幕下相撲の知られざる世界

「敗退行為」から1年。「最弱力士」服部桜の今。

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あの事件からもう1年が経つ。 私が37歳になったからだろうか。 本当に早いものだ。

三度に亘る、敗退行為。

その事件はツイッターで瞬く間に拡散され、そして映像も相当な回数再生されることになった。八百長が疑われる類のものではなく、怖気付いたからこその敵前逃亡。短い言葉で表現しても、映像を見ても、センセーショナルなものだった。

普段相撲に興味の無い複数の同僚から、何度もこの一件について話を振られた。「西尾さん、相撲で凄い試合が有ったんですね」という枕詞で振られる時は、ほとんどこの話題だった。

他のスポーツでこのようなエピソードが有れば、私も恐らく惹かれると思う。そして、そのスポーツを好きな人に話を振ると思う。格好のネタになるからだ。今の時代、センセーショナルな話題は手軽に観ることが出来るし、広めることが出来る。逆に、日常的に行われていることは評価されにくい。

だからこそ、敗退行為という話題は普段相撲を観ない人にまで広まってしまった。時代ゆえの事件だったのではないかと思う。ひょっとしたら、今までもこういう出来事は有ったのかもしれない。だが、この事件と力士の名前は知られてしまった。

服部桜。

敗退行為という十字架を、若い彼は背負うことになった。事ある度にその話題は繰り返された。まともな批判というよりは、面白おかしい話題として消化されたのである。蒸し返され、好奇の目で観られること。それが服部桜に課せられた宿命だった。

敗退行為に至るまで、彼は入門から一度しか勝ったことが無い力士だった。最弱力士がそれほど語られることが無いのは、普通こうした力士はすぐに廃業してしまうからだ。デビュー場所で全敗し、辞めていく力士がどれだけ多いことか。

敗れても敗れても、服部桜は土俵に立ち続け、そしてあの事件は起きた。そして今、服部桜はどうしているかご存知だろうか。

服部桜は今、相撲を取り続けているのだ。 そして、この1年で彼は全敗しているのだ。

力士とは、土俵で勝つことでしか評価されない職業だ。序ノ口の最下層で敗北を積み重ねる彼は、現在の大相撲で最弱力士と言って差し支えないだろう。それだけでも服部桜のプライドは粉々だ。6場所で全敗し続ける経験は過酷なものだと思う。

最弱力士という不名誉な称号に加えて、1年前に敗退行為という汚名が加えられた。私はあの事件の後、すぐに服部桜は土俵を去ると思った。このような過酷な運命が容易に想像出来たからだ。親方も、彼のためを思うのであればそうするべきだと私は考えていた。

だが、服部桜は土俵に立ち続けた。 そして、負け続けた。

私は敗退行為をした時に、服部桜のことをもはや力士ではない、ただの人だと評した。その意見は今も変わらない。全てを晒して土俵上で闘うからこそ、力士は力士なのだと考えているからだ。勝負から逃げ、敗北を選んだ服部桜は力士ではなかったと思う。

力士ですらない服部桜が、土俵でも敗れ続け、力士の評判を落としたという宿命を背負いながら力士という職業を続けることはとても出来ない。私はそう考えていた。この状況で力士を続けられる人間は、強い。その強さをあの時の服部桜から感じられなかったからだ。

しかし、服部桜は今も力士であり続けている。 それだけで、十分凄いのだ。

服部桜は闘い抜いた。全敗したが、闘い抜いた。それは誇れることだ。誰もが逃げるところで、あの一番で三度も逃げた彼が一年間逃げなかった。力士ではない私にはとても出来ないことだ。そういうことを、服部桜は成し遂げたのである。

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記事カテゴリ:
三段目以下の力士
タグ:
1年全敗
最弱力士
敗退行為
服部桜

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