幕下相撲の知られざる世界

稀勢の里人気に一石を。モンゴル人力士に物語が求められる理由とは。

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昨日は、急遽阿佐ヶ谷で相撲観戦会を開催した。

テレビ朝日のサンデーステーションという報道番組から2日前に依頼を受け、八方手を尽くしてどうにか店内は満員。やってやれないことは無いものだと感じた次第だが、2時間の取材の中で使われたシーンは稀勢の里が敗れた時のリアクションの3秒。北朝鮮のミサイル発射ニュースに尺を奪われた煽りを受ける格好になってしまい、無念の極みだった。

同じ相撲という趣味を持ち、普段横のつながりが無いもの同士が日々相撲に対して感じていることをワイワイと共有しながら、その日の取組を楽しむのが観戦会の醍醐味と心得ているが、その雰囲気が伝わらなかったことは本当に残念だった。ただ、こうした機会をいただけること自体は本当に光栄なことだ。これに懲りずにまたお声かけいただきたい次第である。

さて、テレビ朝日としてのこの観戦会に対する意図は、つまるところ稀勢の里に対するファンの想いと取組後の所感を撮影することであった。ニュースとしてそういう映像が求められていることは最近の報道を通じて理解していたため、それ自体は特に何も無い。稀勢の里を通じて相撲を楽しむ同志が更に増えればそれで良いのだ。

競技そのものではなく、特定の選手に対する爆発的な人気はファンが定着しづらいという側面は確かにある。若貴の成長物語がひと段落ついたところでかつての大相撲人気は下降線を辿ることになった。ただ、今回の相撲人気は力士人気ではなく、相撲人気の側面が強い。そこに稀勢の里人気という起爆剤が更に加わることになったのが、今の人気の実態だ。だからこそ、そこに対する不安は無い。

むしろ気がかりなのは、稀勢の里人気を報じ過ぎるために、他の力士の魅力が伝わりにくくなっていることだ。稀勢の里人気と日本人人気を混同し、差別というフレーズでこの人気や稀勢の里への応援そのものを否定する方が今もなお数多く存在しているということである。

応援するという行為はそもそも平等ではない。同じ行為に対する是非の判断が別れるのは当然のことだ。ダブルスタンダードなどという言葉で否定されることではない。力士の持つ背景も異なる。状況も異なる。そういう当然のことを稀勢の里報道によって忘れさせてしまっているのは不幸なことだと思う。

今を憂うのは簡単だ。同じビューを持ったファン同士で愚痴り合えば良いのだから。当ブログの読者の方と会えば大体この話になり、ガス抜きにはなる。ただ、何も生まれないのだ。

では、この不幸な状況をどう打破すれば良いのだろうか。それを考えることが今必要だと私は思う。差別という刃を振りかざすことなのだろうか。平等を叫ぶことなのだろうか。そんなことは楽しい大相撲観戦に求められることではない。

答えは単純だ。 そう。 稀勢の里以外の力士が、魅力的な物語を生み出すことだ。

現在の稀勢の里人気は、ここまでの稀勢の里が紡いできた物語が魅力的だったことが要因として挙げられる。ようやく努力が実ったことを、ファンが知っている。その熱気にメディアが引き寄せられて、稀勢の里はヒーローに祭り上げられている。

差別やダブルスタンダードという言葉は、人の行動を抑制することはできる。だが、気持ちまで変えることはできない。気持ちを変えるには、物語が必要なのだ。気持ちを揺り動かすような、素晴らしい物語が。

白鵬も日馬富士も鶴竜も、そして照ノ富士も皆満身創痍だ。だが、満身創痍だからこそ物語が生まれる。白鵬が優勝を重ねていた頃は、不幸なことに強過ぎるために物語は生まれなかった。圧倒的な存在は、実力ゆえに物語になりにくい。数字との闘いが生み出す物語は存在するが、圧倒的過ぎると感情移入はしづらい。

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記事カテゴリ:
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モンゴル人同士の闘い
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稀勢の里
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この記事へのコメントコメント一覧

稀勢の里人気に一石を。モンゴル人力士に物語が求められる理由とは。

いつも興味深く拝見しております。今回コメントさせていただきます。

いわゆるモンゴル勢がなぜ感情移入されないのか、ですが、単純に「おおかたの日本人はそもそもモンゴルという国をよく知らない」からだと思います。彼らがどんな国からどんな生い立ちをもって日本にやってきて土俵に上がっているか、それがほとんど知られていないので、物語の糸口がつかめないのではないかと。
多くの日本人にとって「モンゴル」と聞くと、チンギスハーンや元寇などの歴史上のこととか、大草原と移動式住居のゲルとか、そのあたりくらいがせいぜいではないでしょうか。
白鵬は「モンゴル・ウランバートル出身」と紹介されますが、ウランバートルがモンゴルの首都であることは知っていても、どういう街なのか大都市なのかどうなのかすら知らないでしょう。実際には人口100万を超える都市らしいですが。鶴竜の出身は「モンゴル・スフバートル」と紹介されますが、こうなると、もう、どこらへんにある街なのかすら想像もできないということになると思います。
対比すると、かつて大相撲の外国人力士と言えばハワイ勢が定番でした。ハワイはモンゴルよりはるかに日本人になじみがあります。「憧れのリゾート地」や「常夏の楽園」というイメージがあると同時に、明治のころから日本人の移民が入っていて、彼らがどれほど過酷な環境で苦労したか、いかにそれを克服したかがすでに物語として共有されています。さらには、太平洋戦争によってアメリカ国籍であるにもかかわらず差別され迫害されたという日系の悲劇も知られています。すなわち、そこから来たハワイ勢は、その土地に由来する、濃密な物語性の土壌を最初から持っていたと思います。
最初のハワイ出身力士であるジェシー高見山の苦労物語は、まさにハワイ日系移民の苦労物語の逆写しであり、今でもジェシーが日本人の心をとらえてやまない理由の一端がそこにあるのだと思います。
土俵上のパフォーマンスだけでなく生い立ちや人となりのバックグラウンドまで含めて初めて物語性を見出す(稀勢の里の取組時にご両親が頻繁に映し出されるとかはまさにこれ)のであれば、バックグラウンドを見つけにくいモンゴル勢に感情移入しにくいというのは、ある意味では必然かな、と残念な結論に至ってしまうのです。

稀勢の里人気に一石を。モンゴル人力士に物語が求められる理由とは。

コメント投稿者ID:oshirase = スポーツナビ+事務局です。

taka様

「休め、稀勢の里」の記事ですが、事務局側でnihiljapk様のクリエイティブ表現であることを
理解せず記事作成時の不具合と誤認識したことから確認の為一時的に記事を非表示にしておりました。

誤解を招く対応となりましたことを皆様にお詫び申し上げます。

「稀勢の里人気に一石を。モンゴル人力士に物語が求められる理由とは。」へのコメント

確かに状態の良い力士が勝つことが多いですが、状態が悪い力士が勝ったことで感動することもありましたね。
照ノ富士初優勝時の千秋楽で見せた、日馬富士のカエル跳びは鳥肌立ちました。

今回の書き込みとは関係がありませんが

今回の書き込みとは関係がありませんが、この前の「休め、稀勢の里」という書き込みが消えてしまったことについて少し述べさせていただきます。
本文が「。」だけの、それはそれでわたしはとても主張性のある面白い「記事」であったと思っていたのですが、なぜ削除されたのでしょうか?
というのも、この記事にコメントをされた方も確か2人いらっしゃいました。
コメントされた方は、ご自分の考えをみなさんに読んでほしいと思われて、それなりに時間をかけて、文を綴られたはずです。
記事の削除は、そういう人のコメントも勝手に削除をしてしまうことにつながります。
すぐに削除をしまうような記事であれば最初から書き込まないか、あるいは書き込みを行い、コメントも得られた以上、簡単に削除をしないか、どちらかでお願いできたらと思っています。
管理人様のお考えもあるでしょうし、外野の勝手な意見であったかもしれないことをお許しください。
いつも管理人様の書き込みはとても楽しみにしておりますし,これからも期待をしております。


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