幕下相撲の知られざる世界

稀勢の里は、愛すべき凡人性を捨てられるのか。

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超人性と凡人性。 それが稀勢の里を稀勢の里たらしめる要因だった。

稀勢の里の超人性は到底持ち得ないが、凡人性であれば持っている。本来同居することが無い二つの要素こそが、熱狂的ファンとアンチに分けていたように思う。

鶴竜と白鵬と日馬富士を完璧な相撲で倒した後で、栃ノ心を相手に目を覆うような相撲で敗れる。白鵬との全勝対決に敗れてから繰り返されてきたあの光景は、喜怒哀楽の全てを焚き付け、最終的に落胆という着地点に落ち着くことになっていた。

そんなことが、3年半続いた。 そして先場所、遂に終止符が打たれた。

稀勢の里を信じ続けてきたファンは勿論、稀勢の里を信じ続けるには傷を負いすぎたファンでさえも、負けた時の予防線を張りながら期待はし続けていたので、やはりあの優勝は格別なものがあった。

単なるサクセスストーリーではなく、大河ドラマ「稀勢の里」の完結。ドラマであればエンドロールが流れるが、稀勢の里物語は横綱昇進後も続くのである。フィクションであれば、一度乗り越えた試練はもう乗り越えた前提で話が進むが、稀勢の里のストーリーについては先行きが不透明だ。

つまり初優勝を果たした稀勢の里は、あの愛すべき凡人性を捨てられるのか。この1点こそが、横綱稀勢の里のストーリーの推進力となるのではないかと私は思っていたのである。

ただ3年半の落胆の歴史は場所前にテレビで稀勢の里に対して優勝を期待するファンと同じように、一点の曇りも無く期待だけを抱くことを困難にしていた。

だから私は稀勢の里の成績についてメディアで質問をいただいた際に、横綱初場所はどんな横綱も成績が振るわないことを理由に10勝程度ではないかと回答してきた。過去の事例を引き合いに出しながら、客観的な数字を根拠に予防線を張ってしまっていたのだ。

結局稀勢の里は稀勢の里であり、凡人性は捨てきれない。捨てられるにしても、それは少し先の話ではないか。そんな風に考えていた。

だがここまでの稀勢の里は、違った。 予想をはるかに上回るパフォーマンスを見せているのである。

勝つ時は、磐石だ。左が入れば超人なのは、変わらない。良い態勢になれば絶対に慌てない。無理に勝負を決めに行かないので、土俵際の逆転を食うことは無い。攻めて勝った時、腰を落として相手を出す動きはこれまでにあまり見られなかったものだ。

そして劣勢の動きは、これまでに無かったものだ。

攻めを受けて土俵際まで追い込まれても、無闇に引き落としに掛からない。態勢を入れ替えられるし、前のめりになる相手に横へのいなしで勝負が決する。こんな取組が今場所だけでも3番有った。

優勢でも、劣勢でも強い。攻めて良し。受けて良し。今の稀勢の里は、決して勢いで強いわけではない。そう。攻めての強さも、受けての強さも、稀勢の里の強さである。

予防線を張りながら、それでも期待する。でも、どこかで凡人性が残っているのではないかと不安に思うので、17時40分は仕事をしていても手に付かない。結局、私にとっての稀勢の里は先場所までの稀勢の里なのである。

ただ、12連勝を重ねる中で、私の中で少し変化が生じていることに気づいた。取組中の不安が、かつてほどのそれではないのだ。恐らくこれはファンであれば分かると思うが、稀勢の里の取組は誰が相手でも負ける絵が浮かぶのである。そして、取組中は心臓が止まりそうになるのだ。

それが、今回は自分を保てる程度のところまで収まっている。初優勝と横綱昇進という、二つの大きなストーリーが完結していることに起因しているのだろう。稀勢の里への信頼は、気づかないうちに築かれているのである。

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記事カテゴリ:
稀勢の里
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あの頃の稀勢の里
愛すべき凡人性
予防線
凡人性と超人性
稀勢の里

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稀勢の里は、愛すべき凡人性を捨てられるのか。

3月26日のテレビ観戦、熱望しますが、なにぶん遠距離の地に住んでいる上、仕事の都合上今回は断念致します。でも、いずれ参加したいと思っていますのでその節はどうぞよろしくお願いします。
さて、今回もとても秀逸なコメントに感激しています。
「ただ、12連勝を重ねる中で、私の中で少し変化が生じていることに気づいた。取組中の不安が、かつてほどのそれではないのだ。恐らくこれはファンであれば分かると思うが、稀勢の里の取組は誰が相手でも負ける絵が浮かぶのである。そして、取組中は心臓が止まりそうになるのだ」という一文、まさに私の心境そのものでもありました。
そしてふと思ったのは、当の稀勢の里自身が我々と同じような心境なのかも知れないということでした。
つまり、「以心伝心」という言葉があり、その科学的根拠はわかりませんし、あまりそういうことは信じない私ですが、稀勢の里のそんな「気持ちの余裕」が我々テレビ観戦するファンにテレビ越しに伝わってくるのかもしれない、だから取組前の「心が張り裂けそうになる」気持ちは相変わらずあっても、昇進後は幾分それが緩和されているのかも知れないと。
もしそうであれば、これまでの稀勢の里のプレッシャーたるやどれほどのものであったか、想像を絶します。
いや、これは外野からの勝手な憶測にすぎません。
でも、もし、ほんの少しでも当たっている面があるのなら、稀勢の里が相撲に勝つことと同時に、そんな計り知れないほどのプレッシャーから彼が解き放たれたことが一ファンとしてとってもうれしいです。

稀勢の里は、愛すべき凡人性を捨てられるのか。

結局、観客側がまだ「横綱稀勢の里」に慣れていないんだろう。
十二日目、稀勢の里の対戦相手はすでに負け越しが決まっている荒鷲だった。
白鵬と豪栄道が休場したために、空いた割を番付順に振り替えた、審判部なにも考えてないのか栃煌山は1敗だぞ、というヘッタクソな取組編成だったが、大関時代の稀勢の里はほぼ100%近くこういう割で負けていた。
さて、今日(十三日目)からモンゴル横綱・大関との3連戦だ。全勝の高安を2敗に引きずり降ろした両横綱が新横綱相手にどんな相撲を取るか。
もし稀勢の里が連勝すれば十四日目で優勝が決まる(十三日目で決まる可能性もあるが)。「俺の知ってる稀勢の里じゃない」あるいは「やっぱり稀勢の里は稀勢の里だった」かも決定する。

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