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プロ野球小説『絶体絶命』第2話

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【前回までのあらすじ】 東京エレファンツの投手、石原昌利(25)は2軍の便利屋という自らの置かれた立場に危機感を抱く日々。ある日、付き合ってるマリコさんから「次回登板で先頭打者から三振を奪えなかったら実家の和菓子屋に来てパパと会って」と非情の最後通告が。公私ともに崖っぷちのマーシーは、5回表1死満塁というピンチでマウンドに上がるハメに。打席には元甲子園のスターB.B.小林。カウント2ストライク1ボール。どうなるマーシー…!?

【石原昌利 東京エレファンツ投手(25歳/3年目/ドラフト5位)】後編

 なにがカイエンだコノヤロー。    俺なんか燃費考えてホンダのフィットだぞ。数週間前、スポンサーのIT企業社長にポルシェのカイエンを買ってもらったと写真週刊誌で報じられたB.B小林に向けて炸裂した怒りの外角低目のスプリット。あっけなく空を切るバット。なにが元甲子園のスターだよ。26にもなってパトロンにポルシェおねだりってどんだけしょぼいんだよ。おまえみたいのがいるからプロ野球選手が誤解される。ここはプロで、俺は石原だ。舐めるなよフィットを。見たかマリコさん。約束通り空振り三振だ。これで二死満塁。よっしゃぁぁー!

 夢から覚める時はあっけないもんさ。直後の次打者にドヤ顔で不用意に投げ込んだ内角高めの直球がバックスクリーンまで運ばれた。えっマジで? あれ誰よ…って大野さんじゃねーか。神宮クロマニヨンズの泣く子も黙る3億円プレイヤー。右肩の故障からのリハビリ中で激しいAクラス争いを続ける1軍の救世主として期待される34歳のベテランスラッガーだ。

 そんな通算382本塁打の男に俺の138キロのヘロヘロ直球が通用するわけがない。なんであんたが2軍グラウンドにいるんだよ。ツイてねぇな、空振り三振と満塁アーチという手みやげを持ってマウンドを降りる俺。まさに勝負に勝って試合に負けた男。なんやねんそれ。もちろん試合後は松山2軍監督から球場で居残り外野ランニングを命じられた。

 正直、俺はホッとしてたんだ。B.B.小林を空振り三振に打ち取ったことで最低限の自尊心とマリコさんとの約束は守られたし、ホームランを打たれたのが大野さんというのも納得できる。これが無名の18歳ルーキーとかに打たれてたらこんな清々しい気持ちにはなれなかったと思う。「自分はあの大野道大にホームランを打たれて現役引退を決意した」という完璧すぎるストーリー。 01  これで良かったんだよ。冷静に見れば、もう終わりだろう。大卒のドラフト5位で入って、3年間1軍経験なし。しかもぼちぼち来季の自由契約選手の噂が流れ出す9月に炎上を繰り返す間の悪さ。我ながら、よくプロ野球選手になれたよ。千葉の田舎でアンコをこねくりまわす第2の人生も悪くないかもな。もう終わり。ジ・エンド。まるで卒業旅行のような気持ちで残り試合に投げ続ける残暑厳しい日本の夏。もう結果云々も関係ない。言われたところで投げるだけ。

 そんな気分で相手バッターが誰であろうと淡々とマグロのおネエちゃんの夜の生活のように投げ続けていたら、9月も中旬を過ぎたある日、松山2軍監督に呼び出されたんだ。あぁこれはヤル気出せってぶん殴られるな。そうしたら、涙のひとつも流しながら「引退します」って伝えよう。まるで首吊り台に上る囚人のようなニュートラルな心境で監督室をノックしたら、いきなり監督から握手を求められた。あ、その感じで来たか。お疲れさまって。そういうこと。なぜか松山監督は微妙に涙ぐんでいる。思わず反射的に「今までお世話になりました」と両手で握手をすると、監督は「おめでとう。悔いのないように思う存分投げてこい」とさらに強く手を握り返してきた。

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