長田渚左の「考え中」

ニッポン柔道に新しい風

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 4月29日、今年も日本武道館で柔道全日本選手権を取材した。私にとって『初夏の風物詩』のようなもので、もう30年以上、ほぼ毎年観戦を続けている。  体重無差別で日本一を争う大会とあって、毎回、起伏に富んだ風景に目を奪われる。決勝まで進むには多い選手で1日5試合も戦う長丁場。だから思いがけないことが次々と起きる。  リオデジャネイロ五輪の73㌔級金メダリスト大野将平が、初戦で90㌔級の池田賢生に一本負けして体重の壁に泣いたかと思えば、3回戦では90㌔級の垣田恭兵が50㌔も重い小川雄勢を延長戦の末に撃破してみせた。一方で同じ3回戦でリオデジャネイロ五輪100㌔超級銀メダリストの原沢久喜が、今大会での引退を表明している百瀬優の送り襟絞めに失神するシーンも衝撃的だった。  決勝戦は旭化成に所属する東海大OBの王子谷剛志と、米国人の父を持つ東海大のウルフ・アロンという同門対決。王子谷は唇を、ウルフはアゴを切って流血する激戦は延長戦にもつれた末、王子谷が優勢勝ちで2年連続3度目の優勝を果たした。  決勝戦が象徴するように、今大会から5分間が終了した時点で両者にポイントがない場合は、ゴールデンスコア方式の時間無制限の延長戦に突入し、先にポイントを挙げた方が勝者となる国際柔道連盟(IJF)のルールが採用された。従来の旗判定よりも分かりやすくて合理的という理由で導入されたルールだが、延長戦の連続に、長く柔道を見てきた私は旗判定を懐かしく思い出した。  特に記憶に残っているのは1985年(昭60)の決勝。前年84年ロサンゼルス五輪の金メダリスト対決となった山下泰裕と斉藤仁の対決だ。8連覇中の山下を運動能力で勝る3歳若い斉藤が、ついに止めるのではないかと大会前から注目された。  試合は期待を裏切らぬ大熱戦の末に判定にもつれた。試合終了の瞬間、頭を下に向けた山下に対し、斉藤は両手を肩の位置まで上げて固く握り、勝利を確信したようでもあった。その直後の判定で副審2人が白旗を挙げて山下の9連覇が決まった。  あの時、日本武道館に沸き起こった2つの異なる大きなどよめきは今も忘れがたい。今のようなゴールデンスコア方式であったなら、あの固唾(かたず)をのんで旗判定を待つ何ともいえぬ緊張感は味わえなかっただろうし、あのまま2人が戦い続けていたらまた違った結末が待っていたかも知れない。  ところで試合方式とは別に、1948年(昭23)の第1回大会から続く今大会で、初めて導入されたことがある。審判員に女性が加わったのだ。天野安喜子さん(46)、松田基子さん(48)、樽谷哲子さん(43)の3人。いずれもベテラン審判員だ。これまで全日本選手権だけはなぜか男性審判員だけで裁いていたが、今回ようやく門戸が開かれたのだ。  小柄な女性審判員が巨漢選手たちをいかに裁くのかが注目されたが、それぞれが「はっきりとした大きな動作を心がけるようにした」と語り、実に見事に堂々と裁き切った。こちらの初ものは大歓迎だ。きびきび動くオレンジ色のネイルの女性審判に、新しい時代を見た気がした。

(写真は左から松田基子さん、天野安喜子さん、樽谷哲子さん)

 全日本選手権を裁いた女性審判員の左から松田基子さん、天野安喜子さん、樽谷哲子さん



 さて第107回日本スポーツ学会が5月13日に開催されます。ゲストスピーカーは数学者の秋山仁氏。テーマは『スポーツの背景に潜む数理』です。数学と言うと、苦手だと敬遠する人も多いですが、秋山氏のお話は斬新で分かりやすく、実に興味深い内容です。ぜひご参加ください。  日時 5月13日(土)午後2時開始  会場 株式会社白寿生科学研究所 本社ビル2F 大研修室(東京都渋谷区富ヶ谷1-37ー5 千代田線・代々木公園駅より徒歩5分)  参加費 1000円(資料代として)、学生証持参の学生は500円、日本スポーツ学会会員は無料  定員 80人  問い合わせ 03-3323-0893(スポーツネットワークジャパン)  

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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(05月27日現在)

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