長田渚左の「考え中」

指導者の褒め方が人間を変える

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 五輪のお宝グッズを大量に保管展示している東京・秩父宮記念スポーツ博物館が、豊島区役所で出張展示をしているというので見学に行った。  1964年の東京五輪の有名なポスターや、入場券、開会式で選手団が着用した公式ブレザーや、実際に選手が履いたシューズなど、郷愁漂う品が並べられていた。  その脇でトークショーが行われた。豊島区在住の中央大学教授で、水泳部監督でもある高橋雄介氏が登壇し、リオ五輪男子競泳の400メートル個人メドレーを日本新記録で制した萩野公介選手や、同3位の瀬戸大也選手の高校時代の素顔などを語った。  さらに話は指導する立場からの興味深い分析にも及んだ。  よく人を育てるときに褒めて育てろと言われるが、その褒め方とシチュエーションが重要なのだという。  人間には、誰もいないときに、こっそりと耳元で褒める方が効果があるタイプと、「○○君は素晴らしい」と大勢の前で名指しする方が効果があるタイプの2つのタイプがあるという。仮にこっそりタイプを大勢の前で褒めると、逆効果になって指導する側の信頼が揺らぐことにもなりかねないそうだ。  私にも思い当たる記憶がある。正月の書き初めを全校生徒が集まる朝礼で褒められ、耳まで真っ赤になった。恥ずかしいばかりではなく、何でこんなところで言うんだと、褒めてくれた先生を恨み、私のことを理解していないと思い込んでしまった。もし、周囲に誰もいない廊下で「書道展おめでとう。とても良い字だったぞ」とこっそり言ってくれていたら、先生を信頼して今ごろ私は書道家になっていたかもしれない。

 そういえば高橋雄介氏の『金言』で、私自身が大きく変化したことを思い出した。  中央大学の水泳部に五輪メダリストの田中雅美選手や中村真衣選手が所属していた2000年シドニー五輪のころだった。取材の帰りに、「私はクロールができないのですが……」と、つい口走ってしまった。「どうして?」と耳を傾けてくれた高橋氏に、「手で水をかきながらバタ足をするという2つのことを同時にやろうとすると水に沈むような気がして怖いです」と言うと、ある一言だけ助言してくれた。その一言が私の水に沈む恐怖をその場で解いてくれたのである。  水に入った指導はいっさい受けてはいない。翌日、高橋氏の一言を胸にプールに行ったら、2メートルも進めなかったクロールで、悠々と200メートルも泳げるようになった。  人間は45歳を過ぎて新しいことに挑戦しても、なかなか進歩しないが、コーチングの金言は年齢に関係なく存在することを実感させられた。

 リオ五輪での日本が獲得したメダルは多岐にわたった。夏休み期間中だったこともあり、普段は関心のなかったスポーツに、興味を持った子どもたちも多かったと思う。  カヌー、競歩、卓球、レスリング等々、やってみたいと思ったときに、コーチや指導者がどんな声のかけ方をするのかで、その子の将来や未来が変わるのかもしれない。



 日本スポーツ学会の『スポーツを語り合う会』は9月20日に、『2020年のために、リオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピックから学ぶ』を開催します。ゲストは小倉和夫氏(日本財団パラリンピックサポートセンター理事長)、大日方邦子氏(冬季パラリンピック・アルペンスキー金メダリスト)、荻島弘一氏(日刊スポーツ五輪担当編集委員)  日時 9月20日(火)19時開始(18時30分開場)  開場 筑波大学東京キャンパス文京校舎121議義室(東京都文京区大塚3の29の1)東京メトロ丸ノ内線茗荷谷駅出口1より徒歩2分  定員 60名  会費 一般は資料代として1000円。  ※事前申し込みは不要。問い合わせ先は03・3323・0893(上記連絡先以外へのお問い合わせはご遠慮ください)Eメール sports.gakkai@gmail.com

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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
  • 昨日のページビュー:19
  • 累計のページビュー:438299

(12月10日現在)

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