長田渚左の「考え中」

体育祭と人間教育

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 仕事柄、さまざまなジャンルの人に会う。高校時代の話題になると、「3年間は大学受験の勉強が第一で、体育祭は自由参加で、記憶もない」という人が珍しくない。

 高校時代の体育祭に濃厚な思い出がある私にとって、参加しなくてもいい体育祭など信じられない。  東京・調布市にある中高一貫の私立桐朋女子に私は高校から入った。5月に開催される体育祭への取り組み、盛り上がりは尋常ではなかった。正直言って、そこまでやるのか、というくらい、中1から高3までどの学年も朝練、昼練と寸暇を惜しんで厳しい練習を重ねて、当日を迎える。  体育祭は中学から高校までの6学年による、学年対抗戦として行われる。つい2カ月前まで小学生だった中1と、大人の女性に近づきつつある高3が同じ競技、同じ条件で戦う。勝負にならないことは最初から分かっているのに、下克上を目指して、必死の闘いに挑む。全身全霊をかけて、上の者に挑み、上の者も一切の手加減なく、下の者を退ける。ただ、ときに予期せぬ番狂わせが起きたりするから、見る側も興奮する。  ふつうは高3が力の差を見せつけて優勝し、最後の祭を締めくくるが、稀に高2が優勝することがある。そうなると高3の嘆きは小さなものではない。だから高3も下の学年相手に必死になる。

 5月25日(水)、風の強い曇天ながら、年に1度の伝統の体育祭は今年も健在だった。  圧巻は課題曲に合わせて踊る団体徒手。ふだん取材で見慣れている日本を代表する体操選手の演技と比べても、遜色ないくらいの迫力とレベルである。華奢でバンビのような中1から、丸みを帯びた女の子らしい高2、高3と、清楚な色香がグラウンドいっぱいに溢れる。  自分が同じ年齢だったときには気づかなかった女の子の成長が1度に見られて、何ともほほ笑ましい。  学年対抗の応援合戦は全員参加である。一糸乱れぬマスゲームのような、華やかで滑らかな動きに目がくぎ付けになる。互いの動きを察知しながら呼吸を合わせることに費やされた時間が、いかに膨大だったかが想像される。  今年は順当に高3が優勝した。下克上はならなかったが、参加したすべての生徒が体育祭でたくさんのことを身をもって学んだのだと思う。

 たかが体育祭である。しかし、徹底して向き合う。最高のパフォーマンスを発揮できるように、練習から持てる力と知恵を出し合う。問題も次々と起きる。何とか当日までにクリアしようと時間と労力をかけ、知恵を結集する。そうすると絶対できないと思ったことができるようになる。そんな濃密な時間を共有することでお互いの理解が深まり、友の意外な一面を発見できたりする。そういう経験が世の中に出て役立つのだ……と分かるのは卒業して社会に出てからだ。

 最近、あらゆる場面で『費用対効果』という言葉が用いられる。このくらいのお金をかけたら、これくらいの売り上げを出す、というストレートな考え方である。私はどうも世知辛くて杓子定規で好きになれない。学校の選択も、学費の費用対効果として、卒業後の進路、つまり有名大学への進学率ばかりに注目がいくようになった。学費が高い私立には高い進学率が求められる。  もちろん、将来を考えて有名大学へ進むことは大事なことかもしれない。しかし、人間としてもっとも成長する中高6年間で、子供の可能性をどこまで広げられるかは、学業の成績や進学率とは必ずしも一致いないように思う。その子供が40歳になったとき、『あの学校に通ってよかった』と、しみじみと思えるような費用対効果もあるはずだ。  真の人間教育は結果が出るのに時間がかかる。最近、東大生5人が強制わいせつで逮捕される事件があった。平たく言えば、教育とは人の道を踏み外すことなく生きるためにある。偏差値を上げることよりも、人間の内面の充実のために本気で向き合ってくれる学校こそが宝だと思う。

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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(07月19日現在)

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