長田渚左の「考え中」

「知らない」という障害

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 11月18日、茨城県総合教育会議で同県教育委員の長谷川智恵子氏の発言を新聞が報じた。  長谷川氏は障がい者らが通う特別支援学校の視察に触れて、「妊娠初期に(障害の有無が)分かるようにできないのか。特別支援学校には多くの方が従事し、県としては大変な予算と思う」「生まれてきてからでは大変」と発言した。その後、抗議の電話やメールが殺到。ツィッターなどのSNSでも批判の書き込みが噴出したという。

 この状況を新聞で読んで、二つのことが頭に浮かんだ。

 一つは12月10日に刊行されるスポーツ総合無料誌『スポーツゴジラ29号』の特集〝最強の障がい者スポーツ〟の取材で、義足の殺陣(たて)師、戸沼智貴氏の話を聞いたときだ。  戸沼氏は25歳のときのバイク事故で左足の膝下が義足になった。しかし、日本の義足は大変に優れているそうで、今は激しく動き回る殺陣師の仕事をする一方、障がいを持つ子供も受け入れる総合型スポーツクラブでも活動している。  そこでは障がいのある子供も参加できる仕組み作りを考えているが、障がい者だけのプログラムはやらないという。  「障がい者だけで集まるようになることは、社会から逆に隔離していてよくないと気づいたのです。健常者も障がい者もごちゃ混ぜになってつながることができるのがスポーツの良いところです」  そして、一緒にさまざまなプログラムをやることによって、障害のこと、障がい者のこと、障がい者の家族のことを「知らない」という〝障害〟を、逆に世の中からなくしていけるのではないか、と考えていると言った。健常者が障がい者について「知らない」ということが〝障害〟なのだという考え方が強く印象に残った。今回の長谷川氏の発言もその延長線上にあるように思う。

 もう一つは今から20年前に私自身が妊娠したときのことだ。  日に日に体調が変化して戸惑う中、定期健診で看護師から「出生前検査をどうしますか?」と問われ、口ごもってしまった。高齢出産で、さまざまなリスクも感じていたので「一応、検査して下さい」と返答した。すると担当医から「検査の結果次第では産まないつもりですか?」と聞かれた。このとき私ははっきりと首を横に振った。「いえ、どんなことが分かろうとも絶対に産みます」。すると担当医は白い歯を見せてこう言った。「じゃあ検査はしなくていいんじゃないですか」。そして少し声を落として諭すようにこう話した。「検査で分かる障害はほんのわずかなものですよ」。担当医の話を聞いていて、私は生命の神秘と愛おしさを感じた。さらに女性だからこそ子供を宿せるということに感謝の気持ちを強くした。

 実は今から6年前に刊行した『スポーツゴジラ9号』でも〝障がい者スポーツを考える〟と題した特集を組んだ。フリーペーパーが真正面から障がい者と向き合った一冊は大きな反響があり、早々と在庫がなくなった。ただそのころは私たち編集部も不慣れなことが多く、表記にしても「障害者」なのか「障がい者」なのか議論になった。障がい者スポーツ協会や選手からも意見を聞いて、当時は一般的だった「障害者」にしたことをよく覚えている。しかし、今回はためらいなく〝障がい〟と表記させていただいた。

 時代は変わりつつある。オリンピック・パラリンピックを同列同等に表現する「オリ・パラ」という言葉も一般的になってきた。そんな時代に、いまだ障がい者について「知らない」という〝障害〟、すなわち内に宿った差別意識ががあるとするならば、それは寂しいし、悲しいと思う。

 そんな思いも込めて今回、『スポーツゴジラ29号』で〝最強の障がい者スポーツ〟という特集を組んだ。12月中旬には60の大学と都営地下鉄106駅に配置されます。どうぞお手にとってお読み下さい。

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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(07月22日現在)

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