長田渚左の「考え中」

新国立競技場は中身で勝負

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 何はともあれ、新国立競技場の建設計画が白紙に戻って良かったと思う。

 世間の常識からかけ離れた計画が、世論を無視して強行されようとする中、前回、このコラムで一縷の望みを託して、建設計画見直しを訴えた。  それは、大衆の反発の強まった今、真のリーダーが「見直す」と言えば、彼は英雄になれる状況にあること。そのためには政治家やジャーナリストではなく、主役である、過去、現在、未来のアスリートたちが声を上げること。それが唯一、事態を好転させる可能性を秘める……という内容だった。  安倍首相が建設計画の白紙撤回を表明した後、コラムを読んでくれた知人たちから「安倍さんは長田のコラムを読んだのかも……よかったね」と言っていただいた。だが、正直言って問題はこれから先なのだ。

 2020年に間に合わせるには、再度の国際コンペを迅速にやってもらうしかない。しかし、その選定基準にデザインや建設経費が最優先されることを私は危惧している。最も重視すべき点が抜け落ちているような気がしてならない。  人によって好みが分かれるデザインは、さして問題ではないと思っている。「生ガキ」のようであろうが、「宇宙船」のようであろうが二の次だ。  問題は競技場の外観ではなく、中身である。白紙撤回された競技場には、陸上の国際競技会開催に不可欠なサブトラックが併設されていなかったため散々批判された。再び同じ失敗を繰り返すことはないと信じたい。私が最優先したいのはバリアフリー化である。  2016年の五輪招致のとき、東京招致委員会は世界中が羨望する未来都市を念頭に置いて、徹底したバリアフリー化を打ちだした。競技場だけでなく、車いすでどこへでも行ける都市を目指す……と力説していた。私も大いに期待していた。  しかし、このバリアフリー化構想は2度目の2020年招致活動ではあまり聞かなくなった気がする。特に今回の新国立競技場の建設計画ではデザインや経費、工期ばかりがクローズアップされ、中身はほとんど話題にならなかった。

 実はバリアフリー化は難しい問題をはらんでいる。障がい者や高齢者にやさしい都市計画という言葉は心地よく聞こえるが、それほど簡単ではない。実は障害の種類や程度によって、対策が異なるからだ。  車いすの使用者にとってスロープ重視の歩道設計はありがたいが、白い杖を必要とする目の不自由な人にはそうでもないらしい。JRのホームにある黄色いイボイボを頼りに歩く人は、道路や歩道の突起サインで道の切れ目などの情報を得ているからだ。  さまざまな個性を持つ障がい者たちに、いかに対応できる競技場や都市をつくることができるか。それが未来を示すカギになると言えるだろう。

 もう一つ、競技場は完成が始まりでもある。五輪・パラリンピック開催後も、メンテナンスや人件費を含む維持費を、確保していかなければならないからだ。維持費が確保できなければ税金が投入される。そうなると当然、世論も黙ってはいないだろう。五輪に出場する一部のトップアスリートのために税金を無駄使いされる、新国立競技場をそんなイメージにはしてはならない。  五輪憲章の中にはスポーツ・フォア・オール(五輪はすべての人のものだ)という精神が書かれている。だから競技場で試合のないときには、「無料一般公開」してほしい。新国立競技場を誰もが訪れて楽しむことができる場にしてほしい。そうすることで大衆の愛着も深まる。

 最後に、今回の建設計画見直しで、私たちは大きなことを学んだ。  「国際公約だから撤回はありあえない」という前提で大衆の批判にも動かなかった決定事項が、時の最大権力者が「NO」と表明したことで覆った。あっさりと白紙に戻った。今回はよかったし、評価したい。だが、これは逆に悪用される可能性もあることを肝に銘じておかなければならないと思う。

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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(07月22日現在)

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