長田渚左の「考え中」

ピアノとスポーツ

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 ひょんなことからピアノリサイタルのご招待を受けた。  今年デビュー30周年を迎える小山実稚恵さんの演奏会だった。プラチナチケットだと聞いていたので、ぜひ行きたいと思う反面、少しだけ躊躇もあった。

 もともと私はピアノという楽器が苦手だ。ヴァイオリンや三味線のような弦楽器は音を出すまでに大変に苦労するが、ピアノは鍵盤をたたけば誰でも音を出せるという間口の広さがある。ポンポンと音を出しているうちに誘い込まれるが、その後はなかなか上達せずに泥沼にはまり込む。私も子どものころ苦い経験をした。  一方で日常的に下手なピアノを長年聞くはめになっている私の生活環境も影響している。自宅では夫が趣味でピアノを弾いている。もう16年にもなる。曲名だけはなかなか立派なのだ。ショパンのノクターン、モーツアルトのソナタ、バッハ、サティ、最近はサザンオールスターズの楽曲にも挑戦している。  継続は力だとは思う。どんなに忙しくても毎日のようにピアノを弾いている姿は立派なのだが、腕前はどうにも巧みと旨みに欠ける。曲は弾けるが、聞かせるレベルにはほど遠いのである。発表会ではいつもガチガチに緊張してミスを連発する。聞いていて、いたたまれなくなる。真夏の8月に「ジングルベル」を連日練習していたときは、家族みんなで閉口した。  私は高校、大学と桐朋学園に通っていたので、ピアノと弦楽器の音色に親しんできた。音高、音大があると、絶えず学生が練習をしている。そこで多少は耳が鍛えられた。  だからピアノの難しさを知っているつもりだった。

 2015年6月27日、土曜日。オーチャードホールで小山実稚恵さんのピアノを聞いて、こんなにもピアノの前で自然体でいられるのか…と、目からウロコだった。  ステージに登場すると、お辞儀を終えて、ピアノの前に座るやいなや、バッハのカプリッチョ変ロ長調「最愛の兄の旅立ちに寄せて」を弾いたが、こんなにもピアノが好きな方なのか……と胸を打たれた。  上手いとか、巧みだとかいうレベルを超えて、ピアノと心を通わせる術を体得しているように感じた。  休憩をはさんでの後半に演奏したショパンのノクターン第17番ロ長調の演奏は、ピアノを指で弾いていることを忘れさせる凄みがあった。  弾く人によってピアノはこんなにも色調を変える。あらためて怖いようにも思う。アーティストとはこうでなくては……という卓越した技に酔いしれた。彼女が奏でる曲は、見事な芸術品だった。

 小山さんはチャイコフスキー国際コンクール第3位、ショパン国際コンクール第4位という、二大コンクールともに入賞した日本人唯一のピアニストだという。そして、意外なことにスポーツ観戦が大好きで、野球やフィギュアスケートなども生で観戦するそうだ。  デビュー30周年となる今年、音楽雑誌の『音楽の友』で、「脱力の極み」というテーマで対談連載を持っている。そのゲストが多彩だ。工藤公康(福岡ソフトバンクホークス監督)、上村愛子(元スキーモーグル五輪代表)、荻原健司(元スキーノルディク複合五輪金メダリスト)、羽生善治(棋士)……。  対談相手は音楽とはまるで異なるジャンルのトップレベルのアーティストやアスリートたち。だからこその深みがあり、読み応えがある。格別な味わいだ。  小山実稚恵さんというアーティストが、いかにスポーツを触媒として、どう変化するのか、今後の楽しみが増した。



【映画上映会のお知らせ】  NPO法人「スポーツネットワークジャパン」と筑波大学「菊幸一ゼミ」は、7月11日(土)、15日(水)にスポーツと原発をテーマに、映画「日本と原発」(河合弘之監督)の上映会を筑波大学東京キャンパスで開催します。  最寄り駅は茗荷谷(東京メトロ丸の内線 茗荷谷駅出口1より徒歩2分)です。震災から4年、あの事故を風化させることなく、あらためて原発と向き合ってみませんか。映画としても優れた作品ですので、ぜひお越しください。

 日時 7月11日(土)、15日(水) 両日とも午後6時開場。6時30分主催者挨拶 19時上映開始  会場 筑波大学東京キャンパス 文京校舎1偕 134講義室  寄付金 一口500円

 寄付金は核科学者・高木仁三郎氏の基金に寄付させていただきます。

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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(05月26日現在)

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