長田渚左の「考え中」

羽生結弦選手の衝突再発防止策はアスリートファーストで

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2015年、明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い致します。

 新しい年が明けた。でも、私には昨年からずっと気になっていることがある。フィギュアスケートの羽生結弦選手のことだ。  3連覇を達成した昨年12月の全日本選手権後、腹痛を訴えて、12月30日に「尿膜管遺残症」の手術を受けた。約2週間の入院と1カ月の安静を要するとの診断で、まだこの時期は病院のベッドで療養しているという。  彼は自らの苦境について「壁の先には、壁しかない。人間はそういうものだと思っている」と語っている。だから今回も試練ととらえ、見事なまでに立ち向かっていくことだろう。一日も早く氷上で練習を再開し、3月の世界選手権(上海)には何としても間に合わせると、決意を固めていると思われる。  この1年、羽生選手の不屈の精神力に何度も驚かされ、勇気づけられ、感銘も受けた。一方で「美談」だけで終わらせてはならないことがあったことも、忘れてはいけない。

 昨年11月8日、GPシリーズ中国杯での男子フリー演技直前の6分間練習で、羽生選手は中国の選手と正面衝突した。頭部と腹部を強打し、出血してリンク上に倒れ、意識もうろうになった。しかし、彼は頭に包帯を巻いて演技をした。ジャンプで5度も転倒しながらも2位。会場の観客、テレビの視聴者を釘付けにし、感動を誘った。 私自身も羽生選手の鬼気迫る姿に心を揺さぶられた。しかし、同時に以前から気になっていた直前練習の危険性をあらためて思い知らされた。  もう20年以上も前、フィギュアスケートの取材をしているときに、演技直前の練習で選手が衝突したシーンを目にしたことがあった。あわや衝突というヒヤリとする瞬間は何度も目撃した。6人が演技で一番気になるジャンプを確認するために跳ぶ、集中力が極限を迎える時間はどこか殺気が漂う。だから、いつも6人の選手がリンクで練習する光景をどこか緊張しながら見ていた。3人づつに分けて練習すれば、衝突のリスクはかなり軽減されるのにとも思っていた。 羽生選手の衝突シーンを見て、その当時の心境を生々しく思い出した。  思い返せば2010年のGPファイナル(北京)の直前練習でも高橋大輔選手と小塚崇彦選手が激突している。

中国杯後、私はあるスケート関係者に「3人づつに分けての練習」を提案してみた。すると「練習の時間を増やすことは、テレビの放映時間との関係もあって難しい」との答えが返ってきた。  冗談ではないと思った。  私が取材していた時代は4回転ジャンプを跳ぶ選手はトップのほんの数人だけだった。 しかし、今は多くの選手が4回転ジャンプをポンポン跳ぶ。4回転―3回転といった連続ジャンプにも挑む。それだけ滑走のスピードも速くなった。時代が違うのである。 ジャンプは跳んでゆく方向を常に見てから跳ぶものばかりではない。背中から振り向きざまに跳ぶジャンプが圧倒的に多い。つまり前を見ずに跳び上がって回転し続けることになる。  スケート靴の裏はナイフのように切れ味のある刃であることを忘れてはならない。一歩間違えると凶器にもなる。危険な刃の上に乗って演技をしていることをもう一度考慮してほしい。  羽生選手の中国杯での激突を見直すと、あの激しさの中でよく頭部と顎の挫創だけで済んだという気がする。

その後、スケート関係者から「現在の試合内容は以前よりもさらに高度になり、助走スピードがかなり出て危険だと感じる」という意見が出て、スケート連盟幹部も直前練習の改善に言及していた。中国杯には日本の医師が同行していなかったので、強化部と医事委員会は医師派遣について話し合うという報道もなされた。 しかし、全日本選手権を見る限り、直前練習に改善されたところは見受けられなかった。  羽生選手がベッドの上で療養しているうちに、日本スケート連盟は国際スケート連盟に強く働きかけて「6分間練習」の実施改善を強く、強く訴えてほしい。  直前練習で選手同士の衝突が度々起きている背景や環境をしっかり注視してほしい。さらに深刻な事故が起きて、人災だといわれる前に手を打つべきだと思う。  どんなときも、スポーツは「アスリートファースト」(選手第一)に考えてほしい。

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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(05月27日現在)

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