長田渚左の「考え中」

今夜は俺の夜?

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ソチ冬季五輪が17日間に及ぶ大会の幕を下ろした。
 あらためて今大会の日本勢の熱戦を振り返ると、これまでの五輪とは異なる印象を受けた。日本の伝統とも言われた「根性」や「忍耐」という、いわゆる体育会系とは一線を画す、違う匂いのする選手が数多く活躍したことだ。

 スノーボード・ハーフパイプに出場した平野歩夢選手と、平岡卓選手の若い10代コンビのパフォーマンスには、スポーツとは遊びの延長線にあるという「本質」を感じた。競技が好きで、面白くて、熱中して、ついには世界トップレベルの技術を極めてしまう。彼らから汗や涙といった「スポ根」的な空気がまるで感じれず、何ともほほ笑ましかった。
 メダルを獲得した直後のインタビューでも15歳の平野選手が、3歳年上の平岡選手のことを「卓(たく)くん」と呼んでいた。上下関係に厳しい体育会系では、たとえ1歳でも年上の先輩を「くん付け」で呼ぶことは考えられない
 2人の気負いや、飾り気のない対応には、スポーツの前では誰もが平等であり、同じ競技を愛する者はたとえ年齢が離れていても同士であり、仲間であるという、スノーボードの魅力も感じ取れた。
 
 一方、41歳のレジェンド、葛西紀明選手も「スポーツを楽しむ」という姿勢を見事に実践した。
 ジャンプの本質を探り、その奥へ奥へと探求し続ける。ついにその本質を探り当てた時、7度目の五輪を迎えていた。そんな印象を受けた。
 むろん長い競技生活には紆余曲折や苦悩はあっただろう。しかし、誰かに押しつけられたり、やらされていたら、こんなに長くは続かなかったはずだ。

 その意味で15歳の平野選手と、41歳の葛西選手には、「楽しむ」というスポーツの本質を実践しているという意味で同質だった。
 ウィンタースポーツの主役は、時に雪であり、風であり、氷である。このどうにもならない自然を相手にすることで、彼らは鍛えられてきたのかもしれない。

 今大会、本命と見なされながら、メダルを逃した選手も少なくなかった。女子ジャンプの高梨沙羅選手は4位にとどまり、女子フィギュアの浅田真央選手も6位に終わった。
 日本勢以外でも「スノーボードの神」と言われた、米国のショーン・ホワイトが4位に沈んだ。しかし、彼の試合後のコメントが最高だった。
 「今夜は、俺の夜じゃなかったね」
 その淡々とした言葉には、失望や失意、ぼうぜん自失といった、4年の1度の大魚を逃した敗者の姿が想像できない。
 世界トップレベルは紙一重、勝負は体調や条件、あるいは運も左右する。彼はそれを十分に受け入れた上で、周囲の期待や重圧も感じずに、あくまで自分で楽しむために競技をしていたのだと思う。
 
 スポーツの語源は「気分転換」であり、「遊び」である。遊びだからこそ、上手くなりたいと思い、考えて、工夫して、極めたいと思う。
 国の期待を一身に背負った日本選手が、メダルを逃すと「皆さまにお詫びしたい」という、これまでの五輪のありふれた風景は、決してスポーツの本質ではないということを、あらためて感じさせられた大会だった。
 
 3月7日からソチ・パラリンピックが開幕する。そこでもスポーツを楽しむ選手たちの姿を見たい。



※スポーツゴジラ24号は2月28日に刊行します。都営地下鉄106駅に配置されます。駅ごとに置かれている場所が異なりますので、どうぞ改札付近で見回して、手に取ってください。今回の特集は「プロ野球選手のセカンドキャリア問題を考える」です。

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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(05月27日現在)

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