長田渚左の「考え中」

聖火台と五輪レガシー

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 今年は9月のIOC総会で、2020年夏季オリンピック・パラリンピックの開催地に東京が決定し、日本中が大いに盛り上がった。一方であまり知られてはいないが〝近代オリンピックの父〟と言われるピエール・ド・クーベルタンの生誕150年という節目の年でもあった。
 12月8日、都内で行われた日本オリンピック・アカデミーの第36回セッションに出席した。記念メダル授賞式のためクーベルタン家を代表してアントワン・ド・ナヴァセル氏が来日していた。彼の曽祖母の兄がクーベルタンだそうだ。無駄のないすっきりした体つきは、写真で見るクーベルタンによく似ていた。
 彼はスピーチで、生涯を通じて〝スポーツを通じた全人的な教育〟を推進した日本の嘉納治五郎とクーベルタンには共通した理念があったと話した。
 実は私も以前から2人については、彼と同じ見解をもっていたので、嬉しかった。

 同セッションの他のプログラムで「国立競技場からの展望」というシンポジウムがあった。そこで五輪の陸上男子ハンマー投げ金メダリストの室伏広治が、毎年、国立競技場の聖火台を磨いていたことを知った。
 聖火台はグラウンドから約30㍍(ビルの8階の高さ)上にある、高さ2・1㍍、重さ2・6㌧の巨大な器だ。それをごま油を染み込ませた雑巾で、ゴシゴシと丁寧に磨き上げる作業を続けてきたという。
 今年は東日本大震災で被災した宮城県石巻市と、岩手県宮古市から小中学生を招待して、一緒に聖火台を磨いたそうだ。
 室伏は心を込めて、こう語った。
 「アスリートのパフォーマンスを見守り続けてきた聖火台をさまざまな世代の人が大切に思ってきた。これをレガシー(遺産)として未来に継承してほしいです」
 2019年に完成予定の新しい国立競技場にも何らかのカタチで、50年以上に及ぶ歴史の遺産でもある聖火台を残してほしい。

 実はこの聖火台には製作秘話がある。
 最初に聖火台の受注を受けた大手企業は、器があまりに巨大で断念した。
 その後、埼玉県川口市の鋳物職人、鈴木萬之助氏のもとへ依頼がきた。
 製作期間3カ月。制作費20万円。あまりに割の合わない条件だったが、鈴木一家は当時〝鋳物の町〟といわれた川口市のプライドをかけて請け負った。
 ところが、2カ月後、ようやくこぎつけた聖火台の鋳型に高温の鉄を入れる難作業で爆発事故が起きた。
 失敗…。過労と失望で萬之助氏は寝込み、その約1週間後に他界した。
 父の無念を晴らすべく、三男の文吾氏が遺志を継いだ。約1カ月後、なんとか完成したのが、今の聖火台だった。
 その文吾氏も2008年に亡くなり、その後は4男の昭重(?)氏が聖火台を磨き続けてきた。
 室伏はこのエピソードを知ってから、積極的に聖火台磨きに加わってきた。

 聖火台を磨きながら、さまざまなことに思いをはせる。それこそ大切なレガシーだろう。
 新しい国立競技場は、その大きと形状をめぐり、さまざまな論議を呼んでいる。完成したらいったい新しい聖火台はどんな灯をともすのか。
 クーベルタンが理想とした体育・知育・徳育を持ち合わせた豊で健全なる人々と、世界の平和を照射する炎であってほしいと願っている…。



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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(07月23日現在)

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