長田渚左の「考え中」

バレンティン選手の大記録に思う

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 ヤクルトのバレンティン選手が、ついに王貞治さんのシーズン最多本塁打記録55本を抜いた。
 49年ぶり、約半世紀ぶりの大記録達成。56号、57号と続き、記録がどこまで伸びるのか注目されている。

 55号を打った後、愛する母がオランダ領キュラソーから来日した時には、少し心配した。息子の顔をしなくてはならない彼の心が乱れるのではと思ったからだ。しかし、彼は見事に集中力を戻した。「超気持ちいい」というどこかで聞いたことのある表現で喜びを口にした。

 彼には心から祝福を送りたい。その一方で、私は王さんの55本に並びながら、達成のチャンスを奪われた元近鉄のローズ選手を思い出した。
 2001年9月24日の西武戦で55号を打ったが、その後の23打席で記録更新はならなかった。
 55号の2日後にリーグ優勝を決めた近鉄は、ローズの打順を3番から1番に上げて打席数を増やし、新記録達成を後押しした。
 残り試合はオリックス3試合と、ロッテとダイエー各1試合のトータル5試合だった。
 私自身、新記録達成の瞬間を見ようと球場に足を運んだが、そこで見たものは寂しい風景だった。
 対戦チームの投手が敬遠気味のボールを投げて、勝負を避けるような配球に終始したからだ。ローズも焦ってボール球を追うようなシーンが増えていった。
 当時のダイエーを率いていたのは、王さんだった。

 この時、幾人もの野球人たちが、同じような意味合いの言葉を口にするのを聞いた。「王さんの記録は外国人には抜かせたくない」「日本人なら王さんの大記録に配慮するでしょう」
 何というしみったれた島国根性だろうとあきれてしまった。打たれたくないのは分かる。だからこそ投手は英知と技を結集して真っ向勝負を挑むのがスポーツではないのか?
 例えば2004年にイチローが大リーグのシーズン最多安打記録を更新した時、メジャーの投手たちは敬遠などしなかったではないか…。スポーツでは、どんな人種であろうと平等でなくてはならないはずだ。

 だから今回、バレンティン選手と真剣勝負をした日本球界に少し安堵した。

 ただ一方で、別の意味で大記録に水を差す発言を聞いて驚いた。
 今年は日本野球機構(NPB)が統一球の仕様を、ボールが飛ぶようにこっそり変更したからこそ新記録が生まれたというのである。
 これも妙な負け惜しみに聞こえてならない。
 飛ばないボールが導入される以前に、王さんの記録に並ぶような日本人選手がいたのか? さらに言えばバレンティン選手だけが今年、特別に飛ぶボールを使用したのか? 全選手が統一されたボールを打ったのではないか。
 同じ条件で戦い、真っ向から投手が勝負して、彼は王さんの記録を立派に抜いた。そのことに失礼のないように、敬意を払ってほしい。

 残り17試合。こんなチャンスはない。60本と言わず、もっと打って、今後50年、誰も更新できないような大記録を打ち立ててほしいと願う。



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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(05月27日現在)

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