長田渚左の「考え中」

安藤美姫の告白と、女子アスリートの「いつ産むか」

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 フィギュアスケーターの安藤美姫選手が出産していたと衝撃の告白をした。休養していると思ったら、突然テレビに登場して、赤ちゃんを抱いている映像を公開したではないか!

 女性は妊娠してから出産まで約10カ月かかるが、その間の容姿の変化を、外部にはまったく見せていない。氷上のスケーターが一瞬にして母親へ。あまりの省略の多さに、まるで映画のシーンが一気に飛んだように感じた。
 
 そういえばと、不思議なサラブレッドを思い出した。かなり以前にモリケイという馬がいた。何事もなくレースに出走していた。ある朝、厩務員が馬屋に行って腰を抜かした。モリケイの隣に子馬がいたのだ…。

 女という性のままに生きている、いかにも安藤選手らしい…とは思う。出演した「報道ステーション」のインタビューの中でも、「自分はスケーターになるために生まれてきたのではなく、1人の女性として生きる」というようなことを言っていた。
 そういう意味では確かにシンは通っていると思う。「スケートより命」という考え方も、女性らしい結論に思える。

 近年、日本の女性スポーツ選手は、あらゆる競技に進出し、存在感をアピールするようになったので、今後も安藤選手のような女性アスリートは増えるかもしれない。

 ただし、娘を持った私のささやかな体験から言うと、産むのはそう難しくはないが、問題は産んでからなのだ。
 サラブレッドは生まれて1時間もしないうちに立ち上がって、その後はすぐに歩くし、走る。一方、人間の子供は驚くほど未熟なまま、この世に誕生してくる。

 私が編集長を務めているスポーツ総合無料誌「スポーツゴジラ」の19号で〝日本の女性はなぜ強いのか〟という特集をした。そこに安藤選手の先輩ともいえる、母親アスリートたちに登場していただいた。
 1964年の東京五輪の体操女子日本代表で、当時、3歳と1歳の男の子の母親だった池田敬子さんと、3歳の女の子と1歳の男の子の母親だった小野清子さんだ。
 2人とも体育館まで子どもを連れて行き、跳び箱をひっくり返して、その中に子供を入れて、練習に励んでいたという。言葉では表せないような苦労を重ねた末、東京五輪で女子体操唯一の団体銅メダル獲得の立役者になった。
 並大抵の苦労ではなかったのだろう。後年、小野さんが「人にはマネをしてほしくない」と、ポツリと漏らした言葉が忘れがたい。

 若い女性には、安藤選手の生き方がセンセーショナルで格好良く見えるかもしれない。「欧米型の生き方だ」と称賛する声も少なくない。あらためて言うが、子どもは産んでからが本当に大変なのだ。だから産む、産まないの議論の前に、まずは女性選手は子どもが宿る性だということを再度、自覚してほしい。

 私はトップアスリートには何よりも競技を最優先して時間を過ごしてほしいと思っている。その時間は人生の中でそう長くはないのだから。古い考え方かも知れないが、競技者を終えてから出産という道程が、本筋ではないかとあらためて思う。
 競技に集中するのはいつ?〝今でしょ!〟という自覚は忘れないでほしい。
 産む、産まないで惑う前に、つくらないように最大の配慮をしてほしい。


 ※ご好評いただいています「スポーツゴジラ22号」(無料)が都営地下鉄106駅に配置されました。今回は1964年東京五輪の証言、スポーツ学会大賞・落合博満氏講演再録などの特集です。ぜひ手に取って御覧ください。場所が分からない場合は駅員さんにお尋ねください。



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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(05月26日現在)

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