長田渚左の「考え中」

世界選手権のマラソン選考に思う

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 先日、8月に開催される陸上世界選手権(モスクワ)の男女マラソン日本代表が発表された。
 出場枠は男女各5人。男子は話題の公務員ランナー川内優輝ら5人が選出されたが、女子は木崎良子、野口みずき、福士加代子の3人しか選ばれなかった。日本陸連は女子の5枠のうち、今回は3枠しか使わないと発表した。
  代表枠が男女各5人となった1997年のアテネ大会以降、日本は常に各5人を世界選手権に派遣してきた。代表枠を満たさなかったのは、今大会が初めてになる。

 女子は選考レース(国内、海外合わせて9大会)で派遣設定タイム(2時間23分59秒)に近いタイムで走った選手に厳選して、3人に絞り込んだという。世界選手権、五輪ともに2大会連続惨敗中で、たとえ選考レースで成績が上位でも、設定タイムから離れている選手は、入賞レベルにないと判断した。
 この選考理由に、有森裕子や高橋尚子ら五輪メダリストを育てた小出義雄氏はこう反論した。
 「マラソンの選考レースは気温や風、コースそのものにも違いが大きく、記録だけで決めるのはおかしい」。
 
 世界大会(五輪、世界選手権)のマラソン代表の国内選考がもめることは恒例となっている。最近は天候やコースの高低差、ペースメーカーの有無にいたるまで諸条件をデータ化し、そこに各選手のタイムを当てはめて比較する方式を提唱する研究者まででてきた。
 おしなべて均一比較は面白いとは思うが、これで思い浮かぶのは競馬のコンピューターの勝ち馬予想だ。勝ち馬予想があまり当たらないことはご存じの方も多いと思う。つまり、馬も人もデータでは計り知れない要因が少なくないのだ。「はみ出した不測の部分」というのが、スポーツでは決して小さくはない。なぜならデータというものは、常に「過去」でしか判断していないからだ。

 強化指定選手という制度がある。世界大会での実績などを判定材料にして、メダル有望順にA、B、Cなどランクに分けて強化費を支給している。つまり、これも過去の実績評価が選定材料になっている。
 ではアーチェリー男子個人で中年の星として04年アテネ五輪で41歳で銀メダルを獲得した山本博氏、レスリング男子90㌔級で五輪2大会(84年ロサンゼルス、88年ソウル)連続銀メダリストとなった太田章氏、92年バルセロナ五輪の競泳女子200㍍平泳ぎで14歳で金メダリストになった岩崎恭子氏らは、メダルを獲得するまで強化指定Aにはランクされていなかった選手である。
 つまりメダルはおろか、入賞の可能性もないと思われていた人たちが、予想外の力を発揮するのが五輪などの世界大会なのだ。逆に本命選手が無名に足をすくわれることも、世界大会ではよく見る光景だ。
 さらに言えば、たとえ敗れてもそれが単なる失敗ではなく、次への糧になるのがスポーツだ。

 ないものを広げるわけではない。せっかく手にした出場枠であれば、過去の実績だけにしばられず、未来も見据えて、それを最大限に生かすべきではないのか。
 日本陸連が世界選手権の女子マラソン出場枠をみすみす2つも手放してしまったことが残念でならない。

 「少数精鋭」といえば聞こえはいいが、日本の女子マラソンが低迷している時だからこそ、今はあらゆる可能性の芽を育てるべきだと思う。
 人は、いつ、どこで、どんなときに、どんな成長をするのか分からない。



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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(05月27日現在)

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