長田渚左の「考え中」

白鵬の品格

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 大相撲春場所で白鵬が通算24回目の優勝を飾った。史上4位タイで、あの北の湖に肩を並べた。そして9回目の全勝優勝は、大横綱、双葉山と大鵬の8回を超えて歴代1位となった。

 偉業を成し遂げた千秋楽の結びの一番は、盤石の力相撲だった。硬軟織り交ぜて攻める横綱日馬富士を、真正面から受け止めて、最後は力ずくの上手投げ。「白鵬1強時代」を象徴する内容だった。
 伝え聞くところによると、春場所前の連日の出稽古でオーバーワーク気味となり、本場所11日目には耳が腫れて発熱。点滴を受けて終盤の土俵に上がっていたという。しかし、取り組みで、そんなハンディは微塵も感じさせなかった。その揺るぎない強さにも、大横綱の風格が漂う。

 盤石の相撲と、それを象徴する記録以上に、表彰式の白鵬の振る舞いに感動した。
 北の湖理事長から賜杯を受け取ると「大鵬さんに優勝を捧げたい」と言い、アナウンサーに了解を取って、7300人の観客に「1分でいいですから、皆さま起立をお願いします」と、1月に亡くなった大鵬・納谷幸喜さんへの黙とうを呼び掛けた。
 伝統の国技を背負う横綱らしい、美感のある行動だった。
 その後、双葉山と大鵬について聞かれ、「あこがれであり、愛しています。2人の上に立つのは恐縮ですが、光栄です」。何と適切で美しい日本語だろうか。テレビの生放送で、すぐに答えられるフレーズではない。

 神事が根源ともいわれる相撲の横綱には、伝統的に強さだけではなく、品位、品格が求められてきた。しかし、近年、文化の異なる外国人力士の台頭で、角界は彼らに対して品位や品格を説明することに苦慮してきた。つい数年前まで「勝てばいい」「強ければ許される」といった傍若無人なモンゴル人の横綱朝青龍の態度に、世論をあげた議論が沸騰していたことを思い出した。

 同じモンゴル生まれの白鵬はどうしてここまで高いレベルの品位、品格を身に着けることができたのか。
 考えてみると白鵬時代は、相撲界存続の危機の時代でもあった。2007年の横綱に昇進した後、野球賭博、朝青龍の暴力事件、八百長問題と角界は次々と問題が噴出し、激震が続いた。人気は急落し、テレビ中継も中断された。天皇賜杯まで自粛された。白鵬は横綱として、どうすれば日本人の心を再び引き戻すことができるのか、真剣に悩み、考えたのだろう。その答えが、強いだけでは意味がない、伝統を重んじ、日本人の心を理解することだったのだと思う。

 白鵬が横綱という地位にふさわしい品格を備えていることに、他の競技の選手やコーチも注目してほしいと思う。
 今年に入って柔道界をはじめさまざまなスポーツで体罰が取りざたされている。単に暴力を振るうだけではなく、パワーハラスメントや言葉も暴力も問題になっている。柔道の女子日本代表監督は選手を「デブ、ブタ、家畜以下」などと罵倒していたという。
 この醜い暴言に対して「特別だろう」と驚く人も多いが、私が編集長を務める「スポーツゴジラ」で4年前に体罰を特集した時にも、今回とそっくりな事例が挙げられていた。

 白鵬が口にした「2人の上の立つのは恐縮ですが、光栄です」という言葉には、同じ土俵の中に生きた先輩たちへの、敬意と配慮が深くにじんでいる。柔道界をはじめとする体罰、言葉の暴力には、同じ道を志す者への、敬意と配慮が決定的に欠けているように思う。
 美しさ、品位、品格は言葉で定義するのは難しいが、意外なことに目にするとすぐに実感できるものでもある。

 横綱白鵬の強さは言うまでもない。品位、品格を兼ね備えていることを他のスポーツに生きる人も見つめてほしい。
 なぜならば、品格や美しさを「いいなあ…」と思うと、人は必ず「自分もこうなりたい」と思うはずだから…。



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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(05月26日現在)

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