長田渚左の「考え中」

五輪のレスリング除外から見えてきたもの

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 東京が招致を目指している2020年五輪からレスリングが除外されることが濃厚になった。
 今後は野球、ソフトボールなどの7競技から1枠を争うことになるが、現時点で五輪競技から外れる可能性が高いという。
 まったくの想定外だ。日本がメダルを量産してきた〝お家芸〟なのに…というのが理由ではない。
 選択そのものが疑問なのだ。
 レスリングは古代の五輪から行われてきた。近代五輪も第1回の1896年アテネ大会から、1900年パリ大会をのぞくすべての夏季五輪で実施されてきた。
 歴史と伝統があり、世界の認知度も高い。「五輪の象徴」ともいえる競技だ。それがなぜ突然、除外されるのか。
 世界のレスリング関係者も、そんな事態は夢にも思わなかったようだ。それだけに動揺は大きい。
 想定外の選択の裏側には、近年の五輪の傾向がかいま見えてくる。つまりビジネス重視だ。テレビ局やスポンサーが札束を積み上げてくれる、人気のある、見栄えのいい、スリルを味わえる競技が、このところ増えている。冬季五輪のスキー競技でもショー的要素の高い種目が、次々と採用されている。
 国際オリンピック委員会(IOC)がレスリング除外の理由を明確に説明しないのも、説明できない理由があるのではないか、と勘ぐる関係者もいる。
 もちろん時代は移り変わる。当然、競技の入れ替えがあるのは理解できる。しかし、歴史と伝統を度外視して、ショーアップやテレビ映えを重視して競技を入れ替えてしまうと、それはもはや五輪ではなくなってしまう気がする。
 ではテコンドーや近代五種などは、何度も除外対象競技の候補に挙げられながら、どうやって危機を脱したのだろうか。どうやら見事なまでのロビー活動が功を奏したらしい。
 近代五種の国際連盟副会長は故サマランチIOC会長の息子であり、現IOC理事でもある。世界テコンドー連盟のカルトンシュミット倫理委員長もIOC理事に名を連ねている。
 一方、今回の投票に参加したIOC理事14人の中に、レスリング競技出身者は1人もいなかった。しかも、14人中8人が欧州出身者だった。
 もともと欧州で発祥した五輪は、欧州勢が活躍できない競技には、手厚い配慮を望むのは難しいとされ、ロビー活動が明暗を分けることも多い。レスリングはそんな活動を重視していなかったという。
 しかし、もしそうなら私たちは現在の五輪の体質を考え直す必要がある。採用競技の決定という重要な決断に、ロビー活動が重視され、政治力や力関係が決定打になるという五輪は、果たして健全と言えるのだろうか。

 もっとも、そんな五輪の体質をあらためようにも、日本から発信するのは難しい。IOC委員は日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長1人しかいない。
 昨年のロンドン五輪開催中に行われたIOC選手委員会の委員選挙では、室伏広治がいったん当選したと発表されながら、無効になった。選手村の食堂での選挙活動が禁止されていることを熟知していなかったとされた。JOCはIOCとの見解に相違があるとして、スポーツ仲裁裁判所に提訴している。これもIOCへの食い込みの浅さが原因に思える。
 一方で韓国は昨年のユース冬季五輪(YOG)インスブルック大会に、オリンピアンのロールモデルとして女子フィギュアスケートの五輪女王、金姸児(キム・ヨナ)を参加させた。今後、韓国スポーツ界を代表する顔として、国際舞台で活躍する人材の育成レールに乗せた。YOGでは選手同士でさまざまなスポーツ問題を討論するディベートも実施され、金姸児も積極的に意見を戦わせたという。
 日本でも選手引退後のセカンドキャリアの重要性が語られる機会が増えたが、現役時代の活動とセカンドキャリアを直結させることは、あまり語られない。
 もちろん競技で優秀な成績を残すことは大切だが、引退後も国際舞台で力を発揮できる真の国際人を育てるには、現役時代からレールを敷かなければ間に合わない。
 欧州主導の五輪を変えるためにも、五輪そのものに体質を変えるためにも、日本は選手とともに真の国際人を育てることを真剣に考える時期にきている。


 ※ということで私が編集長を務める「スポーツゴジラ第21号」(無料)は、東京が招致を目指している2020年オリンピック・パラリンピックの特集です。2月末から都営地下鉄106駅で配布予定です。どうぞテイクアウトしてお読みください。五輪招致を考える一冊です。



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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(04月23日現在)

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