長田渚左の「考え中」

体罰問題と落合博満

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 スポーツ界の体罰問題は年を越しても、まだまだ揺れている。
 
体罰が原因で生徒が自殺した大阪市立桜宮高は、今春の体育科入試の募集(120人)を取りやめ、普通科に切り替えた。
 この決定は生徒たちの反発を招いているようだ。当然だ。どう考えても優先すべきは、入試中止ではなく、勝利至上主義の体質だろう。体育科と普通科の「看板の掛け替え」を行っても、中身を本気で見つめ直さなければ、変革も改革もできない。

 桜宮高の体罰問題以後、全国から体罰被害や訴訟のニュースが毎日のように報じられている。テレビや新聞などあらゆるメディアで議論もされている。教育という名のもとなら、殴ってもいいのか? 何発までならいいのか? 頭や顔は悪いが尻ならいいのか? その一方で、テレビで流れた街の声では「愛のある指導なら、多少の体罰は許容されるのでは」という声が多く、私は驚いた。どうも論争の基本が間違っている気がしてならない。

 まず「スポーツ」とはもともと楽しむためにやるものだ。本来の語源は「遊び」や「気分転換」なのだ。

 「遊び」だからといってダラダラやっていいわけではない。上達するには地道な努力、練習が必要になる。その意味で楽器と似ている。ピアノやギター、ハーモニカなども技術レベルをアップさせるためには、長時間の練習が不可欠だということを思い出してほしい。
 スポーツも同じことなのだ。レベルを上げるためには、単調な反復練習を長期間やらなければならない。その単調な練習をいかに面白く、工夫してやるか…それこそがコーチに求められる技量でもある。

 目先の結果や勝利ばかりを追い、サインを見落とした生徒を「なぜ、見落としたんだ」と殴るのか、スポーツ本来の楽しむことに主眼を置いて「ありゃ、見落としちゃったよ。しょうがねえなあ」と笑い飛ばすか。これは大きな分岐点でもある。スポーツの基本を「遊び」ととらえているならば「笑い飛ばせる」と思う。
 自分がミスを犯したことは、失敗した選手が一番分かっている。反省もしている。それを失敗した瞬間に「何ということをしてくれたんだ」と選手を殴り飛ばしていたら、スポーツ自体がいちいち死にたくなるものになってしまう。そもそも人は「失敗しないように」と思えば思うほど、ミスを犯すという側面もある。だから、再び失敗を犯さないような練習メニューを考えることが、コーチの役割だと思う。いかに生徒たちが面白く、反復練習ができるか。そのために練習には工夫と苦心が何よりも大切になる。

 日本で中学生や高校生がスポーツをするには、そのほとんどが学校の部活動を選ぶしかない。本来、勉学とスポーツは住み分けが必要がある。欧米のように学校で勉強をし、帰宅後に地元のスポーツクラブに通うのが理想型だと思う。そもそもスポーツは遊びの延長なのだから、バスケットボールがいやになってもテニスをやることは可能だし、スポーツ自体を辞めても、学校生活には何の支障もないはずだ。
 一方、日本では学校生活の延長に部活動がある。学校の先生が部活動のコーチを兼任していることがほとんどだ。部活動でのトラブルは、学校生活にも少なからず影響を及ぼす。さらに日本ではスポーツで秀でていれば、それを武器にして、高校や有名大学にも進学できる。だから「スポーツで実績さえ残せば…」という特別な価値観が指導者や選手に根付き、勝利至上主義が蔓延しているように思う。
 だからスポーツを「遊び」として楽しくやるためにも、学校とスポーツは切り離すことが望ましい。

 そういえばプロ野球選手、監督として数々の功績を残した落合博満氏は、秋田工業高校時代に野球部の入部と退部を何度も繰り返したと聞いたことがある。その背景には理不尽なしごきがあったともいわれる。偉大なプロ野球選手は高校生時代、どんな指導によって育成されたのか。それとも指導されなかったからこそ名選手になれたのか。機会があれば本人からぜひ聞いてみたと思っている。

 ちなみに落合博満氏は第4回の日本スポーツ学会大賞に選出され、4月8日に東京・新宿区の早大で授賞式と記念講演を行う。落合氏は野球を語ることはあっても、自分自身については人前で語ったことはほとんどない。偉大な結果を残してきた「オレ流人生」をひもとけるかもしれない。

 落合氏の記念講演参加希望者は日本スポーツ学会ホームページ「http://www.sports-gakkai.jp」までアクセスしてください。



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長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。女性スポーツジャーナリストの草分け的存在であり、現在も旺盛な取材活動を続けている。
NPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事。
スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長。
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(07月19日現在)

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