2009年08月25日

高校野球のビジネス

marketing-107655.jpgアマチュアスポーツの代表的存在の、高校野球。スポーツ・ビジネスには関係なさそうだが、なかなかどうしてしっかり商売している人たちが存在する。
高校野球でビジネスすることを非難するつもりは無い。これだけ大きな大会を維持して行くためには、お金も必要だし、それに従事する人の給与も捻出しなくてはならない。民間企業からのスポンサードや支援も必要だ。ここでは大会に関わるビジネスの代表的なことを紹介してみようと思う。

スポーツをとりまく人々を、大雑把に分類すると、
・スポーツをする人
・スポーツを観る人
・スポーツを支える人
に分けられる。アマチュアスポーツの高校野球では、「する人」と「観る人」が消費者になり、「支える人」がビジネスを行っている傾向がある。

高校野球選手は年間60万円必要
野球はお金が掛かるスポーツだ。スパイクやバット、グローブは硬式仕様だと数万円の出費が必要になる。野球部の部費は平均で年間8万円。高校側で部費として選手1人に費やす費用は6万円から10万円。そのほとんどは遠征の交通費や宿泊費。ボールやネットなど練習に必要な消耗品で消えてゆく。(2009/7/4 朝日新聞)
もちろん、それだけの費用を投資しても充分な、経験と教育の機会が高校野球には存在する。春や夏の甲子園に出場が決まると、さらに多くの費用が必要となる。グランドに立つ選手ばかりではなく、野球部全員が甲子園球場で応援するのが一般的で、1校でバス数台になることも少なくない。
高野連の資料によると、平成21年度の高野連登録部員数は過去最高の16万9000人となった。単純計算すると、高校球児が生み出す年間の消費は1000億円程度になる。
高校野球の公式球を提供するミズノや、野球用品を手掛けるSSKなどが、このマーケットでビジネスをしているのだ。

高校野球を観る人
プロ野球に比較して、高校野球観戦に必要な出費は少ない。TV放送はNHKで、受信料は必要だがスカパーほど高額ではないし、特別なアンテナや受像機も必要ない。チェンネルを合わせれば気軽に観る事が出来る。
甲子園の観戦チケットは、中央特別自由席(バックネット裏)で大人1600円。アルプス席なら500円、外野席なら無料で楽しむ事が出来る。しかしこの費用に、甲子園までの交通費は含まれていないのだ。
JR九州は、甲子園応援ツアーに積極的に取り組んでおり、熊本工の甲子園応援ツアーは中学生以上が2万8600円。試合当日の朝に熊本を出て午後4時からの試合を観戦。翌日の午前2時ごろ熊本に戻る、いわゆる「弾丸ツアー」だ。
大分代表の明豊応援ツアーは、大人2万3000円弾丸スタイル日本旅行も宮崎からの2泊3日(2泊とも車中泊)の弾丸ツアーで、大人2万円。野球部OBや同窓会員への割引も設定し定員300人で発売した。
選手の父兄や親戚はもちろん。母校が甲子園出場を決めたOB達は、その晴れ舞台を見に甲子園へと詰めかける。スタンドを埋める応援団は「選手のがんばりで甲子園に連れてきてもらった」と、出費はそっちのけで甲子園体験をありがたがっているのだ。
出場校49校の応援団が、真夏の甲子園を目指して集まってくるのだ。その経済効果は決して小さくは無いだろう。

昨年の入場者数は89万人。この人たちが飲み物やお弁当など様々な消費活動を展開してくれている。1日最大7万3000人の入場者を記録するのだから、入場料はプロ野球の半額だっていいわけだ。

高校野球ファン
代表校のOBや父兄ではないけど、高校野球が好きで見ている人達が存在する。プロ野球とは違った「初々しさ」や「敗けたら最後」といった部分を楽しんでいる人達だ。このマーケットを対象にビジネスをしているのが、出版業界だ。「甲子園特別号」といった雑誌が8月初旬に書店に並ぶ。近ごろでは大会時期で無くても、報知新聞社が「高校野球」という月刊誌を発行している。

高校球児 萌え
女子の高校野球の見方は、いわゆる野球オヤジのそれとは全く異なる。イケメンの選手を中心とした見方で、古くは定岡正二、荒木大輔。最近ではダルビッシュや、斎藤佑樹くんもそうだ。少し前のティーンズ雑誌には、高校球児名鑑がついていたものだ。現在はその数が激減しているとは言え、まだ存在していると、とある出版者から聞いたことがある。

高校野球を支える人
高野連の収支予算書を見ると、夏の大会の収入は4億3700万円、支出は3億8400万円となり、5300万円のプラスとなっている。当然このプラス分は他の事業で使用され、高野連の利益にはならない。
夏の大会の主催は、朝日新聞と高野連の連盟になっており、NHKの放映権や、ライセンスグッズなどの収入も2者で分けあっていると考えていいだろう(分配率は不明)。
昨年まではビクターが甲子園応援ポスターを駅に張り出して、僕たちを楽しませてくれていたが、2009年は中止になってしまった。ビクターは高野連に公認を受けてキャンペーンを行っていた。高校球児の肖像権を使用することは無かったが、高校野球ビジネスであることに間違いは無いだろう。
かつては、カルピスキャノンも高校野球ブランドを使った販売促進を行っていたのだ。キャノンは代表校の父兄が高額な一眼レフを購入する市場に目をつけ、「高校野球フォトコンテスト」を実施していた。

スポーツの大会には、地方経済を活性化させる力がある。前々回に紹介した、愛媛県の女子野球や、ツール・ド・沖縄、各地で開催されているマラソン大会などもそうだ。
スポーツ大会は、参加者が本当に楽しんでお金を使ってくれるところもビジネスを超えた魅力を感じるポイントだ。
甲子園だけでなく、国体や、ユニバシアードなど、スポーツ大会でのお金の流れをつかみ、経済効果や、ソーシャルキャピタルなどへの展開ももっと研究してみると、もっと面白いかも知れない。
スポーツが不況から脱出するキッカケを作る事だって、不可能ではないのだ。



posted by marketing |21:13 | プロ野球 | コメント(0) | トラックバック(0)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

2009年08月15日

「プロ野球人気低下説」は誤り

このところ、スポーツライターやコラムニストの方が、何のためらいも無く「プロ野球人気低下」と断定的に書く記事を目にする機会が多くなった。2008年11月24日の日経新聞にも、関西独立リーグで女性選手を起用して「人気低下に歯止めをかけようとした姿勢にも疑問を感じた」と、なんというか当たり前に書かれている。

何を根拠に「人気低下」と断定的に書いているのだろう。
僕は、この説には異議を唱える。「プロ野球人気低下説」は誤りだ。
「人気低下」と断定している要因を想像してみると、地上波TVでの巨人戦視聴率低下がある。それは事実だ。

但し、従来に比べて地上波TVで巨人戦を見る人が変化しているのだ。地上波での野球中継はPM7:30からPM9:00が中心。プレーボールもゲームセットも放送されない可能性が高い。試合の真ん中だけ中継しているのだ。もしワールドカップでそんな試合中継をやったら、放送局に物凄いクレームが来るだろう。

同様に野球ファンだって、プレーボールからゲームセットまで見たい。そういうファンは、スカパーのプロ野球パックに登録して巨人戦をを見ているのだ。2006年シーズンと比較して2007年シーズンのプロ野球パック契約者は30%も増加している。(2007/11/05日経新聞)スカパーなら、必ずゲームセットが見られる。しかもタレントの解説者が来て、試合の中身に無関係なコメントをする確率も低い。だから、本当にプロ野球が好きで、ビール片手に野球中継を観戦する人は、地上波からスカパーに移動してしまったのだ。

だとしたら、地上波で巨人戦を観ているのは誰なのだろう。
巨人の熱狂的なファンでは無く、ゲームセットが放送されなくてもイライラしない人々だと予想することが出来る。
この地上波視聴者に、プロ野球ファンが減少しているのだ。その結果地上波TVの視聴率が低下してきた、と考えるのが自然だ。

2006年と2007年の球団地域別視聴率平均と視聴者数(概算)
marketing-105752.jpg
巨人だけが視聴率10%を切っているが、巨人の首都圏は人口が多い。 視聴者数を概算で算出してみると、400万人が巨人戦を観戦していることになる。かつて巨人戦の全国中継で20%台を出していた頃(1999年)と比較してもスカパーを含めた視聴者数は大きな遜色は無いのだ。 巨人の一極集中から、福岡、北海道、仙台など各地に元気な球団が誕生しコンテンツが分散した結果、各地の野球ファンが巨人よりも、地元の球団を応援するようになったと考えても差し支えないだろう。 巨人の一極集中よりも、地域分散している方がリスク確立が低下し、プロ野球全体には好都合だとも言える。 巨人戦の地上波TV視聴率低下は、 ・熱狂的ファンがスカパー視聴に切り替わった ・巨人一極集中から地域球団への分散化 によって説明できるのだ。 球場への来場者は増加傾向にある 2009年シーズンは、広島の新球場効果もあり、5月には前年比91%増となった。セ・パ共に7%台の観客数増加を発表している。球場にチケットを購入して観戦しにくる人は増えているのだ。例え新しい球場が魅力的だったとしても、メインディッシュの「野球」に興味が無くては観戦に行かないだろう。 そもそもスポーツ観戦は、映画やゲームセンターの様に「ついで消費」になる確立は極めて低い。「あっ、球場があるから野球でも観て行くか」と通りがかりや、思いつきで観戦する観客は少ない。つまり「野球を見に行くぞ」と強い意思を持っている観客ばかりなのだ。 この観客増加の現象と、プロ野球TV観戦スタイルの変化を認識していれば「プロ野球人気低下」と断定することは難しいハズだ。 確かに、地上波TVの巨人戦視聴率は低下した。 しかしそれだけでプロ野球人気の低下と決めつけるのは、あまりにも短絡的であり軽率だ。特に影響力のあるメディアに記事を発表出来るスポーツライターやコラムニストは、もっと多面的に事象を捉え、エビデンスを確認し、発言に責任を持つべきではないだろうか。その記事を読んだ読者は「プロ野球人気低下」を信じ込んでしまうのだから。 多くのスポーツライターは、競技に関して専門家だがスポーツビジネスについては専門外の事が多く、不十分な知識や情報で「野球人気低下」と断定してしまうのだろう。 しかしどんなに高名なライターでも、「野球人気低下」と断定したコメントを書いただけで、その人の専門である競技に関する洞察まで「うすっぺら」に見えてしまうのは僕だけだろうか。


posted by marketing |10:00 | プロ野球 | コメント(11) | トラックバック(0)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

2009年08月07日

松山市 マドンナスタジアムの戦略

marketing-104564.jpg8月1日から、愛媛県松山市のマドンナスタジアムで、全日本女子硬式野球選手権大会が開催された。
このメイン会場となったマドンナスタジアム。日本で唯一女性の名前を冠した球場ということで、女子野球の聖地として徐々に浸透しつつある。

「坊ちゃんスタジアム」と「マドンナスタジアム」
2000年5月に完成した「坊ちゃんスタジアム」は松山市中央公園内にあり、収容人数は3万人だ。それまで松山市民の球場として親しまれて来た「松山市営球場」が老朽化の為建替えられたものだ。
この時、松山市は球場の名称を市民に公募した。「坊ちゃんスタジアム」という名称はこの公募で決まった。
そもそも人口50万人の松山市に3万人規模の球場は大きい。四国最大の球場でプロ野球を開催するという目的があった。完成以降少なくとも1カード(2試合)以上の公式戦開催を行っている。2002年にはオールスターを開催し、2004年からは東京ヤクルトスワローズの秋キャンプの誘致に成功している。

地方交付税の減少
こういった背景には、国家財政の悪化による、地負交付税の減少がある。バブル崩壊の後、国は景気刺激策として沢山の公共支出を行い、お金の流れをよくしようと、国から民間へどんどん仕事を発注しお金を支払った。一方で日本全体が不景気だったために税収入が減少。毎年の赤字分を補うために国債をガンガン発行してきた。そのツケがここにきて大きな問題になっている。

国が赤字なので、愛媛県にも国から回ってくるお金が減る。そうなると、愛媛県として税収入を増やしたり、他の県や海外から観光客を呼んだりして、県の経済を維持していくための戦略が必要になる。
まあなんというか、親のスネをカジれなくなったので、独立して自分で稼がなくてはならないというわけ。

観光で稼げ
小泉内角時代に「VISIT JAPAN」キャンペーンを開始、2008年には「観光庁」が誕生し、海外からの観光客を日本に集めて地方経済を活性化させようという試みが始まった。
この「坊ちゃんスタジアム」は、プロ野球の興行を行い、キャンプを誘致することで、県外からの滞在者を増やすことに成功した。松山には「松山城」「道後温泉」という観光資源があるが、それにプラスして「坊ちゃんスタジアム」も新しい観光資源として育てようということだ。

「マドンナスタジアム」の戦略
marketing-104563.jpg「坊ちゃんスタジアム」の名称が一般公募で決まり、プロ野球のキャンプ地として名乗りを上げるためにはサブグランドが必要だった。サブグランドの名前は、坊ちゃんとセットで考えると「マドンナ」以外になかったというわけ。「マドンナスタジアム」なら、ソフトボールや女子野球など女性競技を積極的に誘致しよう。と名前が決まったあとで考えられたそうだ。そこで松山市は、女子野球の日本大会を企画して実行した。

この女子野球全国大会は「スポーツ・ツーリズム」の成功事例と言っていいだろう。
2009年大会は27チームが参加、選手だけで500人関係者まで入れると1000人を超す。この1000人が予選から決勝まで5日間、日程にすると前後泊を入れて7日間、松山に滞在するわけだ。予選で敗退するチームも、決勝まで残るつもりで参加しているので、飛行機やホテルの予約の都合上最終日まで松山観光をして過ごしている。
この経済効果は、ざっとみて7000万円。
ホテルや、飲食、球場までのタクシー、お弁当、おみやげなど。松山の様々な所に、この1000人がお金を落としていく。
飛行機などの交通費も含めると総額で1億円の経済効果を見込める。しかも、大会参加チームと関係者は、毎年やってくる。つまりリピーターとなるわけだ。ホテルや飛行機の予約も早いし、人数の変動も少ない。とても安定したリピーターを確保出来ることになるのだ。

松山市は、市内の産業が活性化すれば税金の収入が増える。だからスタジアムを作ってもモとがとれると計算したのだろう。
スポーツを観光資源とする動きが各地で見られるようになった。「スポーツ・ツーリズム」と学会では呼ばれている。
松山城や道後温泉の様に、古く歴史があり、観光の目的となるものを「観光資源」と言う。スポーツは比較的短い時間で観光資源となりうる可能性があり、最近注目を集めている。
スポーツの大会が日本各地で行われるこの季節。
身近な大会のビジネス構造を見積もってみると、色々と面白いことが見えてくるのだ。


posted by marketing |09:35 | スポーツビジネス | コメント(0) | トラックバック(1)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加