2007年03月12日
MLBキャンプ地のねらい
メジャーキャンプ地のアリゾナ州でその経済効果は2億ドル(240億円)を上回ると言われている。前回紹介したチケット戦略を見てもらってもわかる通りだが、オープン戦にも関わらずその商業価値がしっかりと確立されているのだ。 キャンプが行われる地域の経済効果は、チームや関係者の宿泊などでの収入や、キャンプを目的に全米から集まるファンの宿泊などの収入が大きいのは説明するまでも無いだろう。しかしアリゾナには、特殊な事情が存在した。 それは、アメリカ最大のリタイヤメントコミュニティーがあり、その住人やエリアが増え続けているということだ。 リタイヤメントコミュニティーと言われても、解りにくいと思う。 アメリカでは会社を定年退職した後、温暖な土地でゆっくりと余生を送る人たちが少なくない。そういった富裕層が暮らしやすい住宅地を、民間企業がアリゾナに作ったのだ。 サンシティーという名前のコミュニテーは、1960年から開発が始まり1978年に完成した時には、4万6000人が暮らすまでの大きさになった。 ※Google航空写真 (同心円にレイアウトされた家、少し外側になるグリーンの部分はゴルフコースで、出来るだけ多くの家の庭先にゴルフコースがくるように設計されている) 日本で言えば、町村が市になる時の条件のひとつが人口5万人。18年間で荒野だった土地に130万ドルをかけて市を作り上げてしまったのだ。 無論ここには、教会や病院は勿論、ゴルフ場、レクレーション施設、図書館、美術館、シュッピングモールなどが整備されていて、生活する上で不自由を感じさせない。 そしてここのコンセプトが、余生をゆっくり静かに暮らすことが目的では無く、スポーツや趣味、社会貢献(ボランティア)に参加しながら活動的に暮らす事というもが特徴的だ。 このサンシティーは、治安も良く、環境も快適なのでその人気は30年を経過した今でも健在だ。 アリゾナ州が積極的に取り組んだ施設では無いが、これだけ大きくなると無視出来なくなる。このリタイヤ族の満足度を上げる手段として、メジャーキャンプを誘致した。という説が有力だ。 メジャーのキャンプがやって来る事で、娯楽が増える。同時に平日の昼間に行われる試合を満席にするのには、リタイヤ族の存在が欠かせない。この点で球団は集客がしやすいというメリットがあり、リタイヤ族には楽しみが増えるといたメリットが発生する。 ボランティア活動も同様だ。 メジャーのキャンプでボランティアをしているのは、圧倒的にこのリタイヤ族。かんかん帽を被ってチームのロゴの入ったポロシャツを着た老人たちが笑顔で迎えてくれるのが、キャンプの名物にもなっている。リタイヤ族も球団も双方にメリットが存在する。 メジャーがキャンプをしていることで、このリタイヤ族がアリゾナに増え続けているのだ。 例えば、井口が所属するシカゴ・ホワイトソックス。この季節シカゴはまだ0度近い気温なのに対して、アリゾナは20度近いポカポカ陽気だ。オープン戦が始まる前に、シカゴの天気と気温が場内にアナウンスされると、大きな歓声があがる。それだけ多くの人がシカゴからこの地に来ているということだろう。 ホワイトソックスに限らず、フォランチャイズの都市からやってくるファンは、短くて2週間。長ければ1ヶ月以上をキャンプ地で過ごす。 キャンプ目的で訪れた人たちが、そこで活き活きと暮らしているリタイヤ族の姿を見て触れてみて 、アリゾナの良さに触れて、移住してくるようになったのだ。 こういったリタイヤ族は、前にも書いたが富裕層だということを忘れてはならない。21世紀の現代でも、アメリカンドリームの代表的な形として、「北部の大都市で仕事に成功してお金をため、早めにリタイヤして暖かい所で優雅に暮らす」というものがある。つまり他の州で稼いだお金をアリゾナで使ってくれるわけだ。 フロリダ州はそこに目をつけて、相続税などの特別措置を行ってリタイヤ族を歓迎してきた結果、住民の17%以上が65歳以上という、超高齢になってしまった。この高齢化との関連性は示唆されていないが、最近犯罪率が高くなって来ている。 アリゾナは、フロリダ州の様にリタイヤ族に対して積極的に受け入れていこうとは考えていない。住民の高齢化は必ずしも健全ではないと考えているからだ。しかし既に住んでいるリタイヤ族に対してはしっかりとケアをしている。 メジャーのキャンプで、リタイヤ族との距離を保ちながら、彼らに楽しみと目的を与えることに成功している。多くの州で財政赤字に悩んでいるが、アリゾナは健全だ。 このサンシティーを作り上げた「デル・ウエップ氏」は、もとニューヨーク・ヤンキースのオーナーでアメリカで有名な実業家だ。彼の作った街が、メジャーのキャンプと地域自治体の共存に一役かうことになるとは、開発時には夢にも思わなかっただろう。 高齢化社会とスポーツの、ひとつのあり方を示してくれる、興味深い事例だ。
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