スポーツマーケティング探求記

Jリーグ経営難3 アルビレックス新潟

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アルビレックス新潟が2007年から2年連続赤字になり、2009年も黒字化するのは難しそうだ。
アルビレックスと言えば、それまでサッカー不毛の地だった新潟で、3万人を超す観客を集め、「満員の会場が持つ魅力」を新潟県民に体験させることに成功した例として、スポーツマーケティングやスポーツマネジメントの研究者の間では、定評があったクラブだ。
成功事例として多くのクラブが参考にし、経済誌の取材も多かっただけに、アルビレックスのここに来ての赤字化は、様々な議論を呼んでいる。
僕自身もアルビレックスの成功事例を見に新潟に足を運んだ事がある。満員のスタジアムは魅力的で、様々な年齢層の観客が笑顔で観戦する姿をみて、地域に根ざしたサッカークラブの理想形だと感じた。

アルビレックスが集客に成功したのは、「無料招待券」の存在が大きい。2001年に完成したスタジアム、ビックスワンでアルビが初めて公式戦を行った、2001年5月19日。
当時まだJ2だったアルビレックスは、大きなスタジアムで少ない観客しか入らない危険性を回避するために、「無料招待券」を大量に発行。それまで4000人程度だった観客を3万2000人にして見せた。「新スタジアムを見に来たという人が多かったが、興奮を味わってもらえたと思う」とアルビレックス新潟の田村貢社長は語る。その後も新潟市を中心に老若男女を問わず招待し続け、サッカーに無関心だった来場者が熱烈なサポーターに変身していった。(2009/1/5 日経MJ)
アルビレックスの「無料招待券」は乱発したのではなく、戦略的に発行され、来場者の個人情報も獲得。その後のマーケティングで確実にサポーターへと変身させていった。
来場者が減少した理由は定かでは無い。しかしとあるサポーターは「大きなイベントもなく、マンネリ化しつつある」との意見をよせるなど、今まで通りの興行では観客は「面白み」を感じなくなってしまったようだ。
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当時、「非日常」だった「満員のスタジアム」も、8年を経過し「日常」となってしまったのかも知れない。その8年の間にアルビレックスのサッカーを浸透させ、イングランドがそうであるように、家族の話題の中心になることは出来なかったようだ。 同時に「無料招待券」からの脱却に時間が掛かったこともある。アルビレックス以前にもいくつかのプロスポーツチームが「無料招待券」戦略を行っていた。だが成功例と言われるものは少ない。 近鉄バファローズは1997年に大阪ドームが完成するまで、藤井寺球場を本拠地にしていた。藤井寺時代は試合開催日の1週間前になると、球場周辺を中心に「無料招待券」が発行されていた。ファンはその事を熟知しており、事前に前売り券を購入しなくなっていった。試合日近くまでチケットが売れ残れば、タダで野球が観られる。ならば前売り券を購入したほうがバカを見る。からだ。大阪の商人文化もあいまって、前売り買い控えは多くのファンに知れ渡り、球団経営に大きなダメージを与えた。大阪ドームへ本拠地を移転すると同時に「無料招待券」の発行を全面的に中止。有料入場者への転換を図るが、なかなかうまくいかなかった。 「無料招待券」には集客の力がある。しかし一方で「観戦」の価値を下げる効果もある。なにしろタダなのだから、行っても行かなくてもムダになった。という意識は少ない。その結果、配布した招待券の5割近くが使用されずにムダになり、スタジアムを満員にしたい球団側はムダになる枚数まで計算に入れて、もっと多くの「無料招待券」を発行することになる。4万人入るスタジアムであるにも関わらず5万枚「無料招待券」が出回れば、「観戦」価値は著しく低くなり。お金を出して観戦に行く「価値」を感じなくなるのは当然だ。 アルビレックスは当然、このような失敗事例を充分理解していたので、その様な轍に陥る事は無かった。4000人を4万人にし、現在3万3000人近くに落ち着いてきている。といった表現の方が適切なのではないだろうか。「無料招待券」による成功事例であることには変わりはない。 だが隣り合わせで観戦している友人が「無料」で熱心なサポーターが2000円を払っていたら、なんだか損した気分になるのは避けられない。せっかくのサッカー観戦が楽しく感じられなくなる可能性だって秘めている。 Jリーグの公式サイトで公開されている、クラブ別の経営情報を2005年から比較してみよう。
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問題の入場料収入は2005年と2008年を比較すると3億5400万円も減少している。その他の項目に大きな変化が無いことを考えれば、入場料収入減少が最も大きな問題であることは明白だ。 客単価は、2005年1737円だったものが2008年には1417円になり19%も低価格化してしまっている。 シーズンパスの売上が落ちたのがひびいている。と池田会長は日経新聞の取材に答えている。 ピークの4万人に比較すれば、観客が減少しているが、新潟のマーケットサイズを考えれば4万人「超大成功」であり3万3000人でも「大成功」だろう。だとすれば3万3000人で収支が釣り合う経営を行う必要がありそうだ。 2008年のデータだが、Jリーグ33チームで「観客動員数」「入場料収入」「客単価」を計算してみた。
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新潟は、観客動員数で2位。入場料収入の金額でも3位。だが客単価では20位となっている。客単価の20位はJ1チームで最下位。なんだかとっても不思議な結果となった。客単価以外は素晴らしい数字なのだ。 これらのデータを数学的に計算してみると、「無料招待券」の発行枚数が多いのが問題であることが解る。またその枚数も増えている可能性が伺える。観客が減少している中、それを食い止めようと「無料招待券」を増発しているとしたら問題は大きい。 どこかで大きく梶を切って、「無料招待券」戦略から脱却しなくてはいけない時期になってきている様だ。 スタジアムが満員にならなくても魅力的なアルビレックス。 来場者に提供する「商品」を変えて行く必要がありそうだ。




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興味深く拝読しました

 大阪近鉄バファローズの話は、私はわからないのでなんとも言えませんが、アルビレックス新潟の部分は、「なるほど」と思いました。数字の持つ重みは十分認識する必要があると思います。

Jリーグ経営難3 アルビレックス新潟

当時、どうしても主張したくなったのは、ネット上で、根拠となる情報のソースを示すことができなかったものの、大幅に無料招待券を減らしたり、数年ぶりに黒字化を達成した、との情報を耳にしていたからでした。

経営陣が、当事者意識を持って、記事にされる1年以上前から取り組んでいて、すでに結果を出し、記事にされるような状態から脱しつつあったにも関わらず、いまさら赤字がどうのこうの、といわれるのが、クラブの努力を侮辱されるように感じられたからでした。

Jリーグ経営難3 アルビレックス新潟

アルビレックス新潟サポーターです。
シーズンパスで観戦しています。
2008年単価が20位というのはわかりました。
年々、入場者数が減少しているのもわかります。

ただし観戦価値と平均単価は関係ないと思います。
自分は試合内容と観戦の喜びに価値を感じます。
そういう意味では新潟はなかなか良い試合をしました。
無料招待券で入れるのはピッチに遠い席です。
個人の時間をさいて来てくれるのは
観戦の価値を感じているからと思います。
それはそれでありがたいと思います。

(「商品」を変えていく必要がありそうだ。)
はかなり強引な結論に思えます。

Jリーグの試合内容とスタジアムだったら、
鹿島の2000円くらいが妥当ではないでしょうか。


Jリーグ経営難3 アルビレックス新潟

アルビレックスのデータを見ると広告料収入も入場者数に引っ張られるように伸びてますね。
そして、逆に入場者数が下がってくるとその影響なのか広告料収入も下がり始めている?
(入場者数ピークが2005年で広告料収入ピークが2007年)

戦略の転換は言うよりもはるかに難しいことなのかもしれませんね…。

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江頭満正/Mitumasa ETOH
東京都出身。1988年リクルートを退職後起業。2001年ダイエーホークスの公式携帯サイトをオープン し、その後ベイスターズ、近鉄、千葉ロッテ、オリックス、日本ハム、ジャイアンツ、清水エスパルス、J SPORTSと公式携帯サイト運営を契約。チームの内側からITによる観客動員を模索、3度の日本シリーズと1度の天皇杯決勝を経験。2004年アテネ五輪では、Yahoo! JAPANのオリンピック結果データを全て担当。現在大学でスポーツビジネス研究者として 教壇に立っている。
【現職】尚美学園大学准教授・一橋大学スポーツビジネス研究会研究員・特定非営利活動法人スポーツマンシップ指導者育成会 理事
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