2009年08月21日

明豊・今宮 もっと走れ!

8月20日3回戦
明豊 8-6 常葉橘

レポート 小関順二
 
 この試合、明豊各打者の意識の高さに注目した。
 3番の今宮健太(右投右打)なら、打ちに行きながら体が外に逃げるほどの踵重心とアウトステップに特徴がある。しかし、この日は好投手・庄司隼人(右投左打)攻略のため、そういうバッティングが大きくなる要因をすべて封じ込めた。

 たとえば、西条の秋山拓巳と対戦したときにくらべると始動がだいぶ遅くなった。

 僕は打者の始動ポイントを早い順に1、2、3と3つに分けて見、観戦するほぼ全選手を記録している。
 好打者の手っ取り早い鑑定法が始動ポイントにあると信じているからだ。もちろん、始動が遅い選手のほうが安定して打てる。

 今宮は初戦の興南戦(島袋洋奨と対戦)が3の始動、2回戦の西条戦(秋山と対戦)が2の始動と変わっている。
 それは今宮の中で、島袋のほうが攻略が難しいと思ったからに他ならない。そして、この日の常葉橘戦は3の始動で臨んでいる。

「力負けしないようにフォームを変えました。プライドより試合に勝つことを優先しました。これからも好投手との対戦が続くので、そうします」(今宮)

「庄司のストレートは思ったよりきていました。打つタイミングは個人個人が考えましたが、低めのボール球は振らないというのと、鋭く叩くということはチーム全体で決めて臨みました」(河野凌太)

 いかに庄司攻略のためにチーム全体で考えたか、2人の言葉からもうかがい知れる。

 試合のポイントは9回表にあった。
 6対5で常葉橘がリードし、明豊は2番・砂川哲平からの攻撃という局面。砂川はこの試合、ホームランが出ればサイクル安打という働きをしているの庄司は細心の注意をもって攻めるべきだったが、スライダーを2球続けて2球目を三塁打されている。

 ここで迎えるのが、庄司が「対戦したかった」と大会前から意識していた今宮である。試合後、庄司はこんなことを言っていた。

「自分(庄司)のことを知っているかどうか知らないですけど、自分の存在を知らそうと思った」

 この今宮に庄司は全球ストレートを投げた。
①145キロ(ファール)
②146キロ(ファール)
③147キロ(ボール)
④146キロ(ファール)
⑤146キロ(ファール)
そして6球目の146キロを今宮は軽く合わせてライト前に同点タイムリーを放つのである。

 全球145キロ以上のストレート、それも全球外角に集中した。
 1球でいいからスライダーを入れるか、ストレートでも内角にねじ込めば結果は違ったものになったと思うが、チーム勝利より今宮との勝負を優先したのだから庄司は満足しただろう。

 この試合が素晴らしかったことは言わずもがなである。
 打者走者の各塁到達を見ると、全力疾走の基準「一塁到達4・29秒未満、二塁到達8・29秒未満、三塁到達12・29秒未満」をクリアしたのが、常葉橘が3人(6回)、明豊が4人(4回)と拮抗している。よく走ったと評価していい数字である。

 さらに素晴らしいのがアンチ全力疾走(一塁到達5秒以上、二塁到達9秒以上、三塁到達13秒以上)が少なかったことだ。
 常葉橘は0人で、明豊は1人(2回)しかいなかった。この走り合いと言ってもいい試合で、1人だけ2回もタラタラ走っていたのが今宮である。

 打者走者としてだけでなく、塁上の走者としても今宮は走らなかった。
 四球で出塁した1回表、阿部弘樹の右前打で二塁走者の砂川が生還。このとき、右翼手のホーム返球は暴投になっているので今宮は三塁まで走らなければいけなかったが、二塁ベース上で仁王立ちになって三塁へ向かう気配すらなかった。

 今宮に注目するスカウトは多く、投手としてより二塁や遊撃手としての才能を買われてプロ入りする好素材だと言われている。
 そういう選手が甲子園という大舞台で全力疾走を怠り、1つ先の塁を狙わないというのは信じられない。

 沖縄で行われた春の九州大会で今宮とは取材で楽しく話をさせてもらい、このとき「ドラフト近くになったら誉め殺しするくらい誉めるから、今は悪口をいっぱい書くよ」と言った。
 それは中島裕之(西武)ばりの大きいフォームで打つバッティングを念頭に置いて言った言葉だが、この試合では走塁に注文をつけざるを得なかった。

 最も難しいバッティングを改造できたのだから、今度は走塁を見直してもらいたい。

posted by koshien2009 |10:47 | 三回戦 | コメント(15) | トラックバック(0)
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2009年08月20日

帝京vs.九州国際大付 今大会のベストゲーム

8月19日 3回戦
帝京 4-3 九州国際大付

レポート 小関順二
 

 優勝候補同士の一戦は手に汗握る好ゲームとなり、最後まで目が離せなかった。

 2年生右腕の鈴木昇太が帝京の先発と発表されたとき、「スキが生まれた」と思った。
 ベスト8進出を懸ける試合、さらに戦力差がない相手ならエースを先発させるのがセオリーである。戦力過剰なチームにありがちな迷いだと思った。

 4、5年前の巨人がそうだった。
 選手起用に「お前と心中する」という覚悟が見えず、昔の名前で生きる大物も、若手の成長株も、日々存在感を薄めていった。
 使える選手が多いことが必ずしもプラスにならないことを、巨人は身をもって教えてくれたはずだ。

 しかし、前田三夫監督は修正が早かった。
 3回表、九州国際大付の先頭打者・三好匠(1年・右投右打)がヒットで出塁すると、間髪を入れずエース・平原庸多(右投右打)をマウンドに送った。これで帝京ナインは1つになれたと思う。
 失点しても、納得できる失点があるということだ。

 試合は3回裏に帝京が1点を先制すると、九州国際大付が6回に1点、7回に2点を取って逆転し、8回裏には帝京が2点を取って同点とし、9回裏に帝京が金子竜也のタイムリーでサヨナラ勝ちするというめまぐるしい展開を見せる。
 これらの得点に多く絡んだのがエラーである。

 エラーは試合をだらけさせ、興を殺ぐが、この日のエラーは「した」というより、「させれられた」ものばかりで納得ができた。

 6回表、九州国際大付は1死から3番・国枝頌平が三塁打を放ち、反撃の狼煙を上げる。
 この打球がもの凄く、前進するライト・有賀ナビルの頭上を上昇するミサイルのように越えていった。4番・榎本葵が三振してピンチは脱したかと思われたが、平原の暴投で国枝が生還して同点、と軽く書くわけにはいかない。

 暴投といっても好捕手、原口文仁が少し後方に逸らしただけなのである。普通の走者なら絶対に走ってこない。
 しかし、国枝はそのわずかなスキを突いて、猛然と駆け込んで1点をもぎ取った。勝利への執念である。

 7回の九州国際大付は、死球で出塁した走者をバントで送って1死二塁とし、9番・三好がセンター前に弾き返して勝ち越すが、送球間に二塁を狙ってアウトになり、反撃もここまでかと思われた。
 しかし、ひと息ついた平原の初球スライダーを1番・小林知弘が振り抜いてレフトスタンドにぶち込み、得点差を2点とする(3対1)。

 平原をマウンドから引きずり下ろした九州国際大付に、今度は勝利へのプレッシャーがのしかかる。

 8回裏、帝京は1死から1番・金子が中前打で出塁すると、2番・田口公貴が三塁前にバントをするが三塁手・榎本が一塁に高投して、チャンスは一、三塁と広がる。

 ここから九州国際大付は自滅していくのだが、それは選手個々の怠慢プレーというより、帝京の存在感が九州国際大付の上にのしかかってエラーを誘った、という雰囲気なのだ。

 打席に平原が立った1死一、三塁の場面、捕手・河野元貴の捕逸で1点差となり、平原が四球で歩いて1死一、二塁とチャンスはさらに続く。
 ここから納富の二塁けん制悪送球、(二、三塁になる)河野の三塁けん制悪送球と続き、帝京は労せずして同点とするのだが、九州国際大付バッテリーの立ち居振る舞いから、中軸の平原と原口まで回したくないという強迫観念が痛いほど伝わってきた。
 それこそが強打・帝京が放つオーラでありプレッシャーだったのではないか。

 9回裏には2四球とヒットで1死満塁とし、金子がこの日3本目となるヒットで三塁走者を迎え入れ、帝京が劇的なサヨナラ勝ちを決めた。

 強打の優勝候補が土俵中央でがっぷり四つに組んで投げを打ち合ったという一戦。
 今大会ナンバーワンといってもいい好ゲームだった。

posted by koshien2009 |05:00 | 三回戦 | コメント(1) | トラックバック(0)
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