2009年08月19日

智弁和歌山・岡田 見事なスライダー

8月18日 2回戦
智弁和歌山 8-5 札幌第一

レポート 小関順二

 8回裏が終わって札幌第一が強豪・智弁和歌山を5対4と1点リードして最終回に突入、甲子園球場は異様な雰囲気に包まれた。

 智弁和歌山の7番・北畠良真が左前打で出塁し、さらにバントで二進すると、9番・途中出場の喜多健志郎が左中間を破る二塁打を放って同点。
 球場はやんややんやの大歓声に包まれ、スタンドは智弁和歌山への応援一色に染まる。天理、龍谷大平安、関西学院、滋賀学園が敗れ、残っている近畿勢はPL学園と智弁和歌山の2校だけ。ここで負けてもらっちゃ困る、というファンの思いが波のようなうねりとなって伝わってきた。

 1死二塁と智弁和歌山の攻撃はまだ続く。
 1番・大畑勇が左前に落とし(記録は二塁打)一、三塁とチャンスは広がり、2番・岩佐戸龍はストレートの四球で満塁。この場面で打席に立ったのは2年の西川遥輝(右投左打)。

 昨年から左手首の痛みが消えず、右手主体のバッティングを強いられているが、初戦は4打数2安打、この試合はここまで4打数1安打と結果を残している。

 さらに偉いのは、手首が万全でなくても足は関係ないと言わんばかりに、第1打席の一塁ゴロ4・17秒、第2打席の右前打4・18秒、第4打席の二塁エラー3・80秒と、全力疾走を怠っていないことだ(第3打席は一直)。
 走塁より強打に特徴のある智弁和歌山打線にあって、脚を使える選手が全力疾走でチームを引っ張っている。攻撃パターンにバリエーションを作る上でも、こういうプレースタイルは貴重である。

 この西川が1死満塁の場面で打席に立ち、2-2からのスライダーをジャストミートすると打球はライト線を襲い、二、三塁走者が生還し、勝負はほぼ決した。
 昨年、高嶋仁監督の謹慎3カ月という逆風があり、チーム作りが遅れても、強いチームが甲子園大会期間中に出来上がる。この復元力の強さには脱帽するしかない。

 エース・岡田俊哉(左投左打)は体が大きくなった。1年のときが167センチ、2年のときが177センチ、そして今は181センチになった。

 大きくなったことによってボールに一層の角度が生まれ、力まなくても強いボールが投げられるため、ゆったりと大きいフォームで投げることに岡田本人、迷いがなくなったような気がする。

 ストレートは136、7キロが多いが、今日は8、9回に140キロ台を連発させ、それ以前とのスピード差でチェンジアップ効果を生んでいる。 さらにいいのがスライダー。初戦でホームランを打っている松浦昌平を第2、3打席、連続三振に斬って取った球が縦割れのスライダー。続け球でも打てないと踏んでのスライダー攻勢は見事と言うほかない。

 不安はヒジが十分に使えない投球フォームにある。“アーム式”というほどヒジは伸び切っていないが、立ち方が緩い。このフォームだと腕を振り下ろすというより、腕で押し出す形になる。低めより高めが伸び、さらに左打者の内角を狙えば死球になる軌道でボールが抜ける。

 この悪癖が今日は守備面でも出た。
 2回無死一塁の場面で、5番・富田嘉樹は投手前にバントを敢行し、これを捕った岡田は判断よく二塁に送球、と思った球が左側の高めに抜けて野選になってしまう。
 さらに満塁になって迎えた7番・坂本優樹(右投左打)には、2-1から投じた球が高めに抜けて暴投になり1点を献上。この回許した2失点のうち、死球、野選、暴投(捕逸)に絡んだのは、コントロールとディフェンスによさがあるだけに残念だった。

 しかし、悪癖を抱えながら初戦の滋賀学園戦が2安打完封。この日は失点5(自責点2)ながら完投し、13、12と2ケタ奪三振を記録して、チームを勝利に導いているのは立派である。

 伝統的に進学する選手が多い中、岡田はプロ志向が強く、高嶋監督もそれを後押ししていると聞く。
 秋のドラフトでは3位くらいの順位で指名がかかりそうである。

posted by koshien2009 |11:34 | 二回戦 | コメント(0) | トラックバック(1)
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2009年08月17日

常葉橘の快足・小泉に刮目せよ

8月17日 2回戦
常葉橘 7-6 高知

レポート 小関順二 

 今大会は驚かされることが多い。札幌一の強肩捕手、松浦昌平の二塁送球1・76秒(イニング間)がその最たるものだと思っていたら、この試合、2つの超絶タイムが記録された。

 まず、常葉橘の2番打者・小泉泰樹(二塁手・右投左打)が第3打席でバント安打を決めたときの一塁到達が3・55秒という速さだった。
 試合後、お立ち台に立った小泉に、「タイムは計ったことある?」と聞くと、冬場にあるという。「一塁到達は何秒くらい?」とさらに聞くと、3・7~3・8秒くらいだという。
 第3打席のバント安打が3・55秒だった、そう言うと人懐っこい笑顔で、「そうですか」と嬉しそうだった。

 日常的な練習の中で、走塁にはどう取り組んでいるのだろう。

 ◇自分の目で判断しろ、◇1つ先の塁を狙え、◇一塁への駆け込み(全力疾走)ができない者はグラウンドを去れ

 こういう教えが浸透しているらしい。しかし、黒沢学監督は必要以上に口出しはせず、かなりの部分、選手の自主性に任せているという。
 これを聞いたとき、06年の春、夏甲子園で旋風を巻き起こした熊本工を思い出した。

 藤村大介(現巨人)をはじめとする俊足集団は監督の指示より、自分たちで戦略を立て、グラウンドの中でそれを実践した。
 監督の権限が絶対的な高校野球では稀有な例なので驚いたが、常葉橘も3年前の熊本工に近いメンタリティを持っている。
 そういう環境の中から藤村、小泉という快速ランナーが出現するのだから面白い。

 なお、小泉は第2打席で遊撃安打を放っているが、そのタイムは計測することができなかった。遊撃手の動きを追っていたためで、小泉に目を移したときは既に一塁ベースを駆け抜けていた。
 打者走者の一塁到達、それも速い選手の到達に合わせて目を移したつもりだったが、間に合わなかった。恐ろしい俊足選手である。

 以下に紹介するのは、今日までに記録された各塁到達のベスト5である(二塁打は7秒台に絞ったので4人)。
[一塁到達ベスト5]
①小泉 泰樹(常葉橘)  3・55秒
②松田 智宏(県岐阜商) 3・62秒
③菊池 雄星(花巻東)  3・79秒
④早川 顕一(常葉橘)  3・85秒
④山村  悟(樟南)   3・85秒
④国友 賢司(中京大中京)3・85秒
[註]全員バントでの記録

[二塁到達ベスト4]
①九重路祐貴(伊万里農林)7・43秒
②脇田 徹也(作新学院) 7・66秒
③小泉 泰樹(常葉橘)  7・85秒
④西川 遥輝(智弁和歌山)7・95秒

[三塁到達ベスト5]
①大槻 和史(PL学園) 11・55秒
②吉原光一郎(都城商)  11・59秒
③佐野 太地(東北)   11・67秒
④伊藤隆比古(中京大中京)11・80秒
⑤黒木 秀太(関西学院) 11・81秒
⑤小番 大輝(明桜)   11・81秒

 小泉が一塁、二塁両部門に顔を出しているのを紹介したくて、二塁到達、三塁到達タイムも併せて紹介した。

 この他に驚いたのが捕手の二塁送球タイムで、これは常葉橘の7回裏の攻撃のとき目撃できた。
 2死一塁(一塁走者は内野安打で出塁した稲角航平)の場面、つまりイニング間ではなく実戦での話である。

 2番手投手・瀧平祥史の投じた球は高めに浮いた。これを中腰になりながら捕球した高知の木下拓哉(右投右打)は、捕るやいなや真下に叩きつけるような腕の振りで二塁に送球すると、ストップウオッチの画面には実戦のものとしては初体験の1・83秒という数字がはじき出された。もちろん、一塁走者はアウトになっている。

 二塁送球タイムの今大会ベスト3も紹介しよう。
[二塁送球ベスト3]
①松浦 昌平(札幌一) 1・76秒
②木下 拓哉(高知)  1・83秒
③竹沢 大貴(聖光学院 1・86秒
[註]1・8秒台だけ紹介した。全員イニング間での記録

 木下は8月10日の降雨ノーゲームになった如水館戦でもイニング間1・87秒という記録を残しているので、松浦と並ぶ大会屈指の強肩捕手と形容してもいい。
 年々、ストップウオッチで数値化できる各塁到達、あるいは二塁送球タイムは速くなっている。素晴らしいことではないか。

posted by koshien2009 |20:53 | 二回戦 | コメント(0) | トラックバック(0)
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2009年08月16日

強打・帝京に屈した注目左腕の「菊池雄星との差」

8月16日 二回戦
 
帝京5-1敦賀気比

レポート 小関順二

 今大会屈指の左腕と前評判が高い敦賀気比の左腕・山田修義(左投左打)を、強打の帝京がどう攻略するかが見ものだった。

 投げ始めた山田を見て、隣にいたスポーツライターは「辻内崇伸(大阪桐蔭→巨人)みたいだ」と言った。辻内は05年夏の甲子園大会で左腕としては史上1位の156キロを記録した本格派で、対する山田のこの日のMAXは142キロだから相当差がある。

 スポーツライター氏が似ていると言ったのでは速さではなく、腕の振りの固さや、ボールの伸びのなさ、といったマイナス面だとすぐに気がついた。僕も同じ思いだったからだ。

 130キロ台中盤くらいのストレートは打者手元でのひと伸びがあるのに、140キロ近くなるととたんに伸びを欠く。当然、力みが伸びを欠く原因である。

 力まなければ今の山田は140キロ以上のストレートを投げられない。それなら投げなければよさそうなものだが、高校生らしい速さに対する憧れがあるので、何球かに1球、伸びのない140キロ近いストレートがくる。強打の帝京がそれを見逃すはずがない。

 変化球は縦に割れるスライダーが超高校級と言ってもいいキレ味で、右打者の軸足に絡みついてくる軌道できたら攻略は難しいと思った。

 そのスライダーを1回表、1番金子竜也(右投右打)、4番佐藤秀栄(右投右打)に打たれた。佐藤などは1死一、三塁の場面で内角ぎりぎりの、軸足に絡みついてくるようなスライダーをセンター前に運んでいる。山田はもう投げる球がないと、絶望したのではないか。3回には4本の二塁打を打たれて3点を失い、勝敗の行方はほぼ決した。

 短所をあげつらったが、ここで紹介する選手はすべてドラフト候補と言われる選手ばかりである。当然、山田の将来が暗いわけがない。まずいいのは、「腕の振りが固い」こと以外、目につく弱点がないことだ。

「力まないと140キロ以上の球が投げられない」というのは体力の問題で、体作りが進めばいずれ解決できる。右肩の早い開きがなく、球の出どころが見えにくく、ヒジを起点とした腕の振りにも見どころがある。そういう野球センスに直結する部分で、山田は長所を数多く持っている。

 あえて注文をつければ、菊池雄星(花巻東)のような体が前に乗っていく感覚が山田にはほしい。菊池はトップの形を保ったまま打者に向かっていける。ちなみに、トップとは「ボールを持つ手がリリースから最も遠く離れた状態」をいい、「投げに行く直前の姿」と翻訳してもいい。

 そのよさは、投げに行っているのに腕を振っていないということで、菊池はそれができている。打者からすれば時間差でボールが飛び出てくるような錯覚に襲われるはずで、究極のチェンジアップと言ってもいい。山田はそれができない。ほとんど多くの投手と同様に、トップを作ってからすぐに腕を振るのである。

 菊池の域に達するために最も必要なことは体の柔らかさだ。山田はまだ固い。最初に似ていると言った辻内も体が固く、高校時代は広いステップの妨げにもなっていた。体の柔軟性を獲得できれば山田に対する不満要素はかなり解消できるような気がする。

posted by koshien2009 |22:24 | 二回戦 | コメント(0) | トラックバック(0)
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2009年08月16日

PL学園vs.聖光学院 試合を分けた配球

8月15日 二回戦

PL学園6-3聖光学院

レポート 小関順二

 名前や実績はPL学園が圧倒しているが、春のエース・中野隆之、4番を打っていた勧野甲輝がベンチにいない状況を見れば、互角か聖光学院の戦力がわずかに上回っていると考えるほうが常識的だろう。 しかし、聖光学院はPL学園の名前の大きさに負けた。

 6回表に聖光学院が2点を取って3対3の同点にし、いよいよ試合は面白くなってきたな、と思った矢先の6回裏、PL学園は相手エラーを皮切りに怒涛の攻撃を見せ3点を追加、勝負を決めた。
 このときの聖光学院バッテリーの攻めが極端だった。

 1死一、三塁のピンチで迎えた5番・大槻和史に対しては全球ストレートで三飛に打ち取ったが、6番・中井都雄にも全球ストレートという極端な配球で攻め、結果的に勝ち越しの二塁打を打たれている。

 試合前、白紙の状態で臨むPL学園に対し、徹底的なデータ収集を敢行した聖光学院との対比が話題になった。
 データ収集の成果はエース・横山貴明(右投右打)の11奪三振に表れているが、勝負どころの全球ストレート攻めはやはり極端にすぎたと思う。

 ストレートに弱いと判断された大槻、中井、あるいは1番の吉川大幾は、大阪大会では全球ストレートという極端な攻めはされなかった。
 緩急を交えた投球に対し、打った打席と凡退した打席があって、その中から凡退した打席を抜き出して聖光学院ベンチは「彼らはストレートに弱い」という結論を出したはずだ。

 緩急を交えた投球の中での結果であって、全球ストレートという極端な配球の中での結果ではない――という点が重要である。
 極端な攻め方をされれば自尊心が奮い立つだろうし、狙い球も絞りやすい。また、緩急を交えたときのストレートは弱いが、全球ストレートという配球のときのストレートなら打てる、という選手もいるだろう。実際、中井は打った。

 こういう極端な配球をした時点で、聖光学院はPL学園の名前に押されていたと思う。

 名前負けは配球以外のところでも見える。聖光学院・外野陣の守備位置が深いのだ。
 走者一塁でヒットが出て一、三塁になった場面が1、6回にあり、それらはことごとく得点に結びついている。結果的に見れば横山のボールに押されて外野の前に落ちる打球が多かったので、PL各打者の長打力に対する警戒心はマイナスに作用したことになる。

 極端な配球に対しては、関係者はこんなことを言っていた。

「試合前に配球は十分に練りました。キャッチャーの竹沢(大貴・右投右打)の配球でこの2年間勝ってきたので、基本的に試合では彼にすべてを任せました。勝ち越された6回も監督とアイコンタクトして、打ち合わせ通りでいい、という確認はしていました」

 ただ、8回に見せた横山のキレのいい変化球を見て「もう少し変化球があってもよかったのかな」とその関係者はポツリと洩らした。

 甲子園の恐ろしさを垣間見るとともに、実力が伯仲した同士の腹の探り合い、データ収集の長所、短所もあぶり出されて胸がわくわくした。
 第2試合は延長12回の末、日本航空石川が明桜を下し、第3試合は日本文理が寒川を4対3、そして第4試合は立正大淞南がサヨナラホームランで1対0のロースコアで華陵を下すというように、すべて接戦で勝負が決まった。

 立正大淞南対華陵などは“中国大会”と意地悪く言われながら今大会屈指の投手戦を演じ、知らない逸材はまだ全国にいるのだなあと思い知らされた。
 とくに魅了されたのが華陵のエース・安達央貴(右投右打)だが、その魅力についてはまたどこかで書くことにする。とにかく甲子園大会は面白い、ということは確認できた。

posted by koshien2009 |00:04 | 二回戦 | コメント(0) | トラックバック(0)
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