2009年07月26日

郡山・森本監督の最後の試合で見せた「天理の底力」

7月26日 奈良県大会 決勝
天理 7-2 郡山

レポート 氏原英明


 奈良県はついに決勝戦。対戦カードは私学の強豪・天理と伝統校・郡山が相対した。6年ぶりのカードとなったが、僕はこのカードをいろんな意味で注目していた。

 まず、ひとつめは郡山高校の監督を務める森本達幸氏が、この大会を最後に47年の指導者生活にピリオドを打つということ。
 幾多のプロ野球選手を輩出し、奈良県公立校の目標の的となるまでチームを作り上げた森本監督が、この最後の舞台をどういう形で終えるのか、注目していた。
 いつもは、大手新聞記者の地方部と地方新聞記者しかいない奈良大会だが、きょうばかりは50人を超える報道陣が押し寄せ、名将の最後を注目した。TV朝日にいたっては栗山氏がくるほどだった。

 そして、もうひとつの注目は、そうした「森本フィーバー」の中、天理がどのような戦いを見せてくれるかだ。
 私学であり、選手も集めているとなると、悪役的イメージを持たされてしまう天理だが、彼らは決してそういうチームではない。
 日常のゴミ拾いを実践し、イマドキの高校生のように眉毛をそりあげるわけでもなく、帽子のかぶり方、ユニフォームの着方など、品行方正だ。むしろ、彼らを手本にしてほしいと思うほどだ。
 球場での態度も素晴らしく、試合においても全力疾走を怠らない。だが、こういうフィーバーのもとでは不利な面も多い。技術ももちろんだが、この中で戦い抜くメンタリティーが、天理にあるのかどうか。

 言い換えれば、この雰囲気の中、天理がいつも以上の力を出し、精神面で乗り越えることができたら、甲子園でもいい戦いができるんじゃないか、そう思う。
 天理にとっても、大きな意味を持つ対戦相手なのだ。「森本監督に花道を」という気持ちが勝つか、天理の総合的な力が勝つか。興味はそこだった。

 試合は初回から動き出す。1回表、郡山は先頭の廣長が初球をたたき、中前安打を放つ。チームに勇気を与える安打である。
 2番・福岡も続き、無死1,2塁の絶好の好機を作り、郡山の中心・大杉がバッターボックスに立つ。そして、大杉は天理のエース・中山のボールをとらえ、二遊間へ強いゴロを放った。

 しかし、そこに天理の二塁手・原田が立ちはだかった。逆シングルでボールをおさえ、二塁へバックトス。これを遊撃手の西浦から一塁手の西川へと渡って併殺成立。ビッグプレーとなった。二死・三塁からワイルドピッチで1点を奪うも、この併殺プレーが試合の流れを天理に引き寄せた。

 その裏、天理は一死から原田が四球で出塁、ワイルドピッチで二塁へ進むと、3番・中村が右翼前安打で、1、3塁。ここで4番・西浦が右翼前安打を放ち同点。5番・大西にも左翼前適時打が出て、逆転。
 あっさりとひっくり返した。

 このあと、奈良県は突如大雨に見舞われ、約1時間の中断に入った。天の恵みとでもいおうか、流れを変えかねない中断である。しかし、天理打線は変わらなかった。

 2回裏、先頭の中山が中前安打で出塁、犠打で二塁へ進むと、1番・徳山が右翼前への内野安打。ここで2番・原田は投手ゴロを打つが、三走・中山が挟まれてしまい、刺されてしまう。

 とはいえ、このプレーはボーンヘッドに見えて、中山の好プレーである。
 1、3塁で投手ゴロ。いくら打者走者が俊足の原田とは言え、併殺打になり得る打球だ。しかし、そこで中山が飛び出したことで、併殺はなくなった。それどころか、中山が粘ったことで、1走・徳山は三塁へ、打者走者の原田は二塁へと進み、2死・二、三塁という形を作った。そして、3番・中村は右翼前への適時打を放ち、2点を追加。
 中山の好プレーが2点を生みだしたのだ。

 反撃したい郡山だが、3回表は三者凡退で終わる。この状況を打破するために、森本監督は先発の大江をあきらめ、児玉を投入した。
 さすがは名将である。こうした空気の読みは抜群だ。

 しかし、それを天理が上回る。一死から、7番・西川が初球をたたき、左翼スタンドへとぶち込んだ。貴重な1点である。試合の大勢は決したと言っていい。

 6回表、郡山は1死・1、3塁の好機をつかむも、併殺崩れの1点のみ。この時も、天理の守備陣は抜群だった。1死・1、3塁から三塁ゴロが飛んだのだが、三塁手・安田は三塁走者に目をくれなかったのだ。
 さきほどの中山の走塁と郡山の守備と比較すると、ここが天理と郡山にあった大きな差である。7回にも1点を加えた天理は、このまま試合を制した。

 9回表の最後の打者となった染川は二遊間への強烈なゴロを打ち返した。安打になってもおかしくないコースだったが、これを二塁手・原田がまたも好プレー。試合を締めた。
 走攻守で、天理の強さをまざまざと見せつけた勝利だった。

 試合後、森川監督は
「このチームは立ち上げ当初から、課題を与えて考えさせるという方針で取り組んできました。しかし、それでセンバツは勝てなかったから、方針を一度は変えて、以前のように僕が指示するようにしました。でも、それはこのチームの良さは生かされないと思い、もとの方針に戻しました。今では円陣に僕はほとんど入りませんし、選手を信頼しきっている。心が通じ合ったチームに成長したと思います。春、全国制覇を目指すと言ってできなかったので、夏こそは全国制覇を狙います」
 と語った。

 そして、主将の徳山も、こう語った。
「森川先生の野球を2年間、体現してきて、もう分かっているというのはあります。森川先生の野球は相手を思う気持ち、相手のことを考える気持ちが根本です。空気を読んだ戦い方ができたと思います」。
 
 一方、47年目の指導者生活にピリオドを打った森本監督は、涙を見せることなく気丈に語った。
「47年間も監督をさせてもらって、支えてくれた郡山の関係者、奈良県にお礼を言いたい。最後の大会に甲子園には行けなかったけれども、これが野球やなと。神様が甘くないと、言っているのでしょう。選手たちはよく頑張って、決勝まで連れて来てくれた。ありがとうと、言いたいですね」。

 いろんな意味で楽しめた決勝戦。森本監督の47年間の集大成、壁を乗り越えて完勝を果たした天理と、近畿で一番最初に終幕を迎えた奈良大会決勝は記憶に残る試合だった。
 それに打ち勝った天理の全国での活躍が楽しみである。
 ちなみに、このブログでも紹介した天理の4番西浦は、この日、4安打の活躍。8割を超えるアベレージは、もちろん、奈良大会新記録である。

posted by koshien2009 |10:54 | 奈良県大会 | コメント(0) | トラックバック(0)
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