2008年09月01日
なでしこオールスターは前売り券をほぼ捌き、当日券の1000枚を残すのみであるという。
JFA登録会員は無料になるが、満員となった場合は入場をお断りする場合があります…とも言う。要するに、満杯になれば弾き出される子供たちがいるかも知れない…ということだ。
それでは…と、僕は迷わず千葉県市原臨海競技場へ向かった。なでしこリーグDIVISION2、JEF千葉レディースVS清水第八の試合を観戦するために…である。
五井の駅について僕ははじめて気付いた。
通いなれた臨海競技場ではあるが、僕はこの道を歩いたことがない。
炎天下の徒歩30分を超える道のりを僕はとぼとぼと歩き出した。養老川に架かる五井大橋に差し掛かった時には、すでに体中から汗が噴出し、薬の効かなくなった偏頭痛は走り始めた鼓動のリズムに乗ってキンキンと痛み出した。
河原の土手には錆びれた2つのゴールが、川面に背を向けるようになかば廃棄されていた。
その草臥れ果て、すでに役目を終えたゴールは、過ぎ去った懐かしい記憶のいくつかを僕に想起させた。そのほとんどが、“ダーンっ”とバーを叩く空しい音の記憶である。そのほとんどが、ポストの横を器用にすり抜けて行った、空しい残像の記憶である。そしてそれらすべては、すでにその痛みだけを取り除いて、原色の色彩を放ちながら脳裏に息づいている幸福な記憶の数々である。僕はたった一人で、そんな記憶を飽くことなく過去と取り交わしながら、スタジアムへの道を歩いた。この白い肌に、じりじりとした熱が浸透してゆくのを感じていた。
試合開始直前のスタジアムには、すでに300人近い観客が詰め掛けていた。ホームであるジェフレディースには50名を超える大応援団が、そしてアウェー清水第八にも10名からなる気骨あるサポーター軍団が数的不利を感じさせぬ気迫のこもった声援を送り続けていた。
それぞれに突き抜けた個を欠きながらも、ジェフは質の高いフリーランニングと素早いパス回しをベースにゲームを支配し、それを清水第八がリトリートしながら身体を張って弾き返す展開が続いた。
そして0-0で迎えた後半、最後のところでその圧力に歯止めをかけていた清水第八の集中というつっかえ棒が、出合い頭に脆くも一度ポキンッと折れたところで勝負は決した。足が止まり最終ラインで人数がダブついてしまうと、後は守備の連携を失い、各所で一対一の攻防を迫られ、中の鳥かごに吸収されて、外のスペースを切り裂かれた。
結果は4-0であった。
ジェフレディース上村崇士監督としては快心の勝利であったと思う。後半は良い意味でのジェフ千葉を、オシムサッカーのコンセプトを体現するかのようなゲーム運びだった。限られた練習時間の中で、このスタイルを紡ぎだす手腕は高く評価されてしかるべきだと僕は思う。やるべきことが選手達の意識の中に息づいている。宿っている。ぜひ昇格を果たして、この温かいサポーターたち、穏やかな優しい眼差しでそれを見守る観衆たちに喜びを与えて欲しいと願う。
一方清水第八、山梨京子監督の方は、成す術がなかったのかも知れない。前半のいくつかのチャンス、決定機があったことは確かだが、仮に得点できたとしても、後半に見せ付けられた自力差を逃げ切るだけのアドバンテージは齎さなかっただろう。けれども身体を張って、集中を保って成し遂げた前半の0-0には大きな価値が宿っていると僕は思う。環境は厳しいはずだが、その中で、積み上げてゆくサッカーを、そのスタイルを築いていって欲しいと願う。選手達の頑張りはゲームの中からひしひしと伝わってきた。その熱い魂は、身体を張った頑張りは、むしろジェフよりも上だったかも知れない。見ていて心を熱くさせられるチームだった。無意識に応援させられてしまうような魂が感じられた。少数ながらジェフのそれに負けない存在感を見せてくれていた熱いサポーターの方々と共に、残りの試合もその気迫を失わず頑張り通して欲しい。
最後に、たった1試合の評価ではあるが、この試合僕の目には、ジェフレディース6番FW三上尚子さんのキープ力とポストプレー、そして14番MFの金野結子さんのドリブルとフリーラン、そしてパスセンスに高いクオリティを感じた。この試合のジェフレディースの攻撃を牽引していたのは、彼女たちのプレーのクオリティであり、センスだったように思う。トップリーグへ行って、彼女たちの力がどこまで通じるのか、ぜひこの目で確認してみたいと思う。それを楽しみにしている。
スタジアムを出るとそこには無料のシャトルバスが観客の帰りを待っていた。
乗り際にジェフ関係者と思しき初老の小柄な男性に深々と頭を下げて『ありがとうございました』と声をかけていただく。その顔は汗に濡れながら朗らかに、そして柔和に微笑んでいた。
僕はタダで試合を見、タダでエアコンの効いたバスに乗せられて、五分後には五井の駅に届けられていた。このタダであるというその意味を、ありがとうと云うあのやさしい微笑の意味を、幾度も頭の中で反芻しなければならなかった…。そしてその答えに、身につまされなければならなかった。
バスが吹き上通りに入って、五井大橋に差し掛かると、僕は再び、河原岸の土手にあの2つの錆付いたゴールを探した。それは川面に背を向けて、静かにそのままそこに佇んでいた。きっといつか、この姿もいくつかの残像を誰かの記憶に残して、この世界から消えてなくなるのだろう。
サッカーを好きである…ということ。
いつか誰かがここに残した、妙に心に響く散文詩を僕はなぞっていた。
僕らはいくつの残像を遺して、どれだけの熱を伝えて、この場から立ち去れるのだろうか?
それが好きであること…の使命であり、また証なのかも知れない…と、僕は思った。
皮膚にじりじりとした熱が宿っていた。それは赤い火照りと小さな痛みをともなって、僕の肌を捉え、刺激するのだった。
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キリタニ100法『8月31日の終戦』
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2008年08月22日
子供の頃よく父に『男らしくしろ』と言われたものだ。
『オトコらしくってどーいうこと?』
口を尖らせて聞く僕に父からの明確な返答はなく、僕は未だ“男らしさ”といったものがどういうものなのかよく判っていないのかも知れない。
彼女たちの中にも『女の子らしくしなさい』とお母さんに言われて育った子たちが何人か居るかも知れない。昨日の彼女たちが、はたして女らしかったのか、あるいは男らしかったのか…やはり僕には判然としなかったことにしておくが(笑)、彼女たちのサッカーが、彼女たちらしかったことだけはよく判る。すごくよく判るのだ。きっとこの試合を見たならば世界も見てとってくれただろう。
そしてそれは、ある意味メダルよりも価値あるモノなのではないかと僕は思う。
中2日、16日間で強行された6連戦。
蒸し暑く空気の悪い曇り空の中、デコボコのピッチの上で繰り返された死闘。
厳しい判定とブーイング、何の罪も無い彼女たちのその小さな背中に負わされた過去の歴史への憎しみ。
それを無言で受け止め、『がんばったよ』と泣きながら笑顔で手を振ってくれた彼女たちに対して、いま、心から『ありがとう』と言いたい。
たいしたことのないドイツに負けた…。
残念ながらそれは間違いだと僕は思う。ドイツなりのペース配分の中で、確かに幾度か得点のチャンスを掴んだ事も間違いないが、もしあそこで得点できたからといって勝てた訳ではない…と、僕は思う。その後の展開、計ったようにDFラインを押し上げてきた前半30分過ぎからの展開を見れば、やはりドイツは強いチームだった。現状では、まず勝てそうも無いチームだった。そのチームと、これだけの試合ができた日本を、まず褒めなければならない。
メダルをその胸にかけた国々のサッカーは、やはりその他の国々とはすべてが異なっていた。アメリカ、ドイツ、それぞれ特長を持った素晴らしい選手たちが、各々の確固たる戦術で底力を見せ付けてくれたし、決勝を見ればブラジルはブラジルで、マルタ、クリスチアーネと、やはり異次元のタレントたちがその圧倒的な個力で世界最強の攻撃力を担っていたのだ。
彼女たちは勝つべくして勝ち、また私たちは負けるべくして負けた。これが紛れも無い現実だったのだと僕は思う。
そしてだからこそ、悔しい…。悔しいのだ。ゲームが終わっとき、あふれだした涙とともに、心の底から本当に悔しかったのだ。これは昨年のアジアカップ以来、久しぶりに味わった“本当の悔しさ”であった。
この悔しさは、絶対に忘れない。
メダルには届かなかった。
メキシコ五輪銅メダルの時のように、これを“栄光”とまでは呼べないのかも知れない。
そしてきっと、ここからの道のりは果てしなく遠く険しいものなのだと思う。
だからこそ、この素晴らしい記憶…を、悔しさを、与えてくれた彼女たちにお礼を言いたい。
共有させてもらったことに心から感謝したい。
そして彼女たちを育んでくれた方々、厳しく競い合い成長させてくれた方々、愛情を注いでここまで導いてくれたすべての方々。素晴らしい贈り物を本当にありがとう。
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2008年08月19日
グループリーグ2戦目とこの日の決勝進出をかけた準決。
この二つのゲームが物語るもの。結果としては同じ敗戦であっても、この準決のアメリカに出会えた事こそが、今大会日本にとっての最大の褒美だったのかも知れない。
連日の30度近い蒸し暑さの中、中二日の強行日程で迎えた5戦目…である。この過酷が現実に暴き出した両者の実力差、底力の差は、日本にとってはある意味無残なものだったのかも知れないが、ここに突き当たってはじめて知り得たものでもある。技術、戦術、コンディショニング…ゲームの勝敗を分ける要素はいくつかあるが、真の強者たちは、さらにその上の次元で戦っていたのだ。
僕は中国戦を世界に手をかけた戦い…と、うすっぺらに評したが、その見立ては非常に甘く、不見識なものであったかも知れない。疲弊し、心身ともに追い込まれた窮地の中での戦い。そこで初めて真の王者が垣間見せてくれた“本当のタフネス”。王座への最後の2ステップが、これほど厳しく過酷なものであるという現実。幸運にも日本は、いまその壁の巨大さを、通りすがりに“視認”できた…というだけにすぎないのかも知れない。ここから先の2ステップを攻略するには、付け焼刃ではなく、そのスタート、原点からやり直さなければならないのではないだろうか…アメリカの真の底力を垣間見、正直僕はそう感じた。
得点してから繋げなくなったのは、スタミナ・走力の枯渇、意思疎通の不徹底や消極性…と、こちらの落ち度も幾つかあげられるが、本質的にはアメリカの底力によるものだったと思う。あそこで無理をして繋ぎに行けば、もっと早い段階で致命的なミスによる失点に心を打ち砕かれていたかも知れない。アメリカのプレスとその連動は、強く、激しく、そして迷いが無かった。
前半25分で日本の足が止まり、あとはいずれ起こるべくして起こること…が、想定どおりにピッチ上展開した。
もしあそこでさらにもうひとつ踏ん張る術…があるとすれば、現状では僕は“汚くやる”こと以外になかったような気がする。
サイドはマンツーマンでしっかり捕まえて、前を向く前に“潰す”。ズルズルとPAへの進入を許す前に“引き倒す”といった部分である。結局ほとんどファールらしいファールもなく、FKらしいFKも与えぬまま、ニッポンは“美しく”敗れ去ってしまった…という見方もできるかも知れない。現実の男の世界であれば必ず言及されるポイントとなるだろう。が、女子の世界であれば、また異なる価値観が存在するものなのかも知れない。僕が女子の監督であり、ここからさらに強くなろうとするのであれば、パスやクリアの選択のように、躊躇わず“それ”を要求するだろう。そしてカードをもらわずうまく“それ”をこなす為には、やはり大人になってからの“付け焼刃”では難しい…というのが実感である。
日本人で唯一それがうまく“こなせて”いたのは、ピッチ上、澤穂希さんただ一人であったように思う。
日本の選手はとても上手くて器用なサッカー選手たちである…と思う。
しかし、アメリカの選手たちは、サッカー選手である前に、すでに一個の特筆すべきアスリートであるようにも見受けられた。率直に言って、この差は非常に大きい。
前段で語った“スタート・原点から…”の意図はここにあるのだが、この土俵で戦う限り敗れるべくして敗れるのは必然ともいえる。にも関わらず、やはり技術・戦術とともに、これもいつまでも置き去りにしていてはいけないポイント・要素であると僕は思う。少なくともこの試合、日本の技術をいとも容易く凌駕し得るパワーであり、走力を、アメリカにまざまざと見せ付けられたことは確かである。
男子と違って強国の数は限定される。
よって、今ならば日本は、少し踏ん張りさえすればいつでもガチンコの舞台で、強い彼女たちと真剣勝負ができる。そこで経験が積めるのだ。今だからこそのこの利点を活かして、JFAはここからの10年に勝負をかけて欲しい。犬飼氏の言う、J全チームの女子チーム創設…が先ではないと僕は思う。強制ではなく、ただの言いっ放しではなく、何らかの手当てが伴っての長期的なビジョンであれば、その方向性はあっても良いと思うが、現況競技人口の限られた女子の場合は、短期的には次世代の選ばれたタレントたちに対する、本腰を入れたエリート教育が実を結ぶような気もするが果たしてどうだろうか?
次の最終戦。
疲労困憊で身体的に立て直す事ができぬまま3決に臨まなければならないが、精神的にはドイツの方がより痛手を負っているのではないかという気もする。原歩さん、丸山桂里奈さんは、疲れも無くかなりキレのある動きを見せられているので、思い切った先発起用も考えられるかも知れない。またそうあって欲しいという気もしている。
そしてアメリカ戦と同じように、ドイツは日本の急所をGK福元美穂さんの頭上と、サイドの一対一と見込んで突いてくるだろう。ここを食い止めきれるかどうか…が、勝利に繋がるのだろう。
もし彼女たちに声をかけられるとすれば、僕にはこの一言しか思いつかない。
『悔いのないように、思い切って!』
メダルよりも、勝利よりも、彼女たちにとって納得できる、悔いのない試合になることを期待したい。
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posted by 桐谷 |11:43 |
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2008年08月16日
注文をつけるとするならば後半60分過ぎ。
選手交代を絡めて中国がこちらの最終ラインにプレッシャーをかけてきた時のことである。押し込まれ、繋げず、前線へ蹴り込むことで、コンパクトな守備ゾーンが形成できず、ドロ沼に嵌りこみそうになった時間帯が何分か続いた。
そんな、この試合唯一危うさを感じさせられた状況を、身体を張って食い止めてくれたのが澤穂希だった。捨て身の覚悟で立ちはだかってくれたのが柳田美幸だった。この二人のテクニシャンの見せてくれた、ドロ臭いボールへの執念とフォア・ザ・チームの献身が、中国に傾きかけた流れを食い止めてくれたのだと思う。
そしてこの中国にまともにサッカーをさせなかったプレス。特に前線の二人と、安藤梢をはじめとした中盤の選手たちの運動量を心から賞賛したい。今大会のベストゲームであり、このチームが世界の扉に手をかけた記念すべきゲームになったのではないかと思う。
ニッポンの持ち物、それを踏まえて論理的に紡ぎだしたコンセプトを具現化するならば、きっとこんなサッカーになるのだと僕は思う。ニッポンが、世界に伍して戦うなら、また戦おうとするならば、きっとこんなサッカーでなければならないのだと思う。現状これ以外に、有り得ないのだと僕は思う。
そして男子において女子のようにうまくいくとは限らないだろう。同じことをしても導き出され、突きつけられる答えは、また別のものなのかも知れない。
しかし、これしかないのだ。
これを追求して、さらにスピードアップさせてゆくしかないのだ…と、僕は思っている。
永里優季、そして大野忍の“線”。そのしなやかな絆は見ていてとても美しかった。
そしてその花をこんなにもキレイに咲かせてくれたのが、両サイドの献身。ニッポンサッカーの“核心”であり、中国が、中国サッカーが、見失ってしまっている価値であり、要素なのかも知れない。
それを、決して見失わないで欲しいと思う。
そしてその周辺にあるものも、良きものならば僕は見失わないで欲しい。
皆が笑顔でいられる今だからこそ、ニッポンサッカーも、そしてニッポンも、そのほんとうの価値を、しっかりと胸に刻みつけて欲しいと願っている。
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キリタニ100法『僕には子供のころの写真が半分しかない』
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posted by 桐谷 |11:41 |
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2008年08月13日
これは僕だけなのかも知れない。
このオリンピック、どうにも燃えられず、熱くもなれなかったのだ。
日々他人事のようにニュースでその結果だけを見ていた。誰かが金を取り、誰かがメダルを取り、誰かが大番狂わせの勝利をあげ、誰かがやはり力及ばず敗退しようとも、正直に言えば関心がなかった。
が、昨日の女子サッカーと谷本歩実さんの頑張りに、このオリンピックへの興味と関心を、また呼び覚まされたような気がするのだ。まったくの他人事であるにも関わらず、同じ日本人であるという一事で、そんな日本人があんなにも頑張っているのだという一事で、こんなにも熱く、燃えられる。バカみたいに興奮させられる。いや、バカそのものになれる。もちろん同じ日本人に限らず、すべての選手が必死に頑張っているのだが、とりわけこの両者には深く感謝をしたい。
前半の試合を見る事は出来なかったが、ダイジェストで見る限り前半のノルウェーは迫力あるチームだった。しかし後半、オウンゴールで逆転されたあたりになると、はっきり別のチームになってしまった感もあったように思う。逆転してからも攻撃的に前へ出、ゴールへ向かった日本女子の姿勢が生んだ大勝であることは間違いないが、その内容を冷静に分析し、準々決勝中国戦をふまえ、僕ら観る側がニッポンの実力を過信してしまわないことも大切だと思う。
負けた時は温かく、勝った時こそ厳しく…が、僕のモットーでもあるので敢えて言わせてもらうが、戦意喪失した後のノルウェーから、さらに2点、3点を奪うチャンスがあったと僕は思う。
奪わなねばならない必要自体はさほどなかったにも関わらず、少なからずそのような機会は他にもいくつかあり、それを単純なトラップミス、判断ミス、決断の遅れ…によっていくつかふいにしていた場面があった。大勝の影に隠れてしまいがちだが、そういうひとつひとつが、違う試合になれば“勝敗を分かつ”のだ。天国と地獄を分かつのだ。
そしてそこに至るボール回しは、勝負のパスの選択のひとつひとつは、被カウンターの、死に掛けた相手を生き返らせる失点の、リスクを孕んでいたのだ。
少ないチャンスをしっかりと得点に結びつける冷静な…或いは迷いのない判断力や技術というものと同時に、ゲーム展開の中で、迷わず背負うべきリスクと細心を注いで避けるべきリスク…というものがあることをしっかりと学べば、もっと楽な試合運びができるし、さらに磐石に勝利することができるだろう。そういうチームになることを願っている。
ひとつひとつ、局面局面の判断力は、やはりアメリカの女子選手たちは抜きん出ている。しかし、男子の強国に見られるような、全体を見通したゲーム運び、俗に言う“いやらしいサッカー”ができているチームは、女子の世界にはまだ誕生していないと僕は思う。日本女子にはそういうチームになってもらいたい。速くて上手くて、いやらしいサッカーをするチームになっていって欲しいと思う。
最後に、勉強不足で僕はあまり知らなかった選手なのだが、阪口夢穂さんの才能に目を奪われてしまった。体の使い方やボールタッチを見る限り、きっと前へ出ても仕事ができるタイプなのだと思うが、彼女は女子サッカーの世界で、コクーのような万能の優れたMFになる可能性を秘めたタレントだと思う。そのミドルパスの精度と、大人びた判断力に、ゲーム中幾度も唸らされてしまった。将来が非常に楽しみな選手である。
そしてDF面で大きな負担を背負わされながら頑張っている、永里優季さんの健闘も称えておきたい。疲れもあるだろうし、もしかしたら痛みを抱えながらのプレーなのかも知れない。そんな中で判断力が鈍り観る側に消極的に見受けられる部分もあるのかも知れないが、ポストプレーの精度は相変わらず素晴らしいものだと思う。中国戦ではサポートも減り、独力で前を向かなければならないシチュエーションも増えてくるだろうと思う。またそれができる選手でもあるし、自らの実力を証明する試合になることを期待したい。
メダルうんぬんではなく、ただ、納得できる試合、観る側として、勝っても負けても、ただ納得させられる試合が見たい。
次の中国戦も、彼女達らしい、そういう試合になることを願っている。
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2008年08月10日
残念な敗戦…であることは間違いないのだが、チームとして、選手個々として、精一杯力を出し切っての結果であったように思う。米国が先に得点したことによって導かれたゲーム内容であっただろうことは否定しないが、それにしても世界王者アメリカを充分に苦しませる事ができた。
細かくボールを繋ぎ、人数をかけてゴールへと向かう。
そんな日本サッカーらしさが充分に発揮されたゲームだった。
最後、強いプレッシャーのかかるゾーンで、どうやって速く正確なパス回しと3人目、4人目までの動きの連動でゴールをこじ開けるか。その為にはさらに正確な出し手と受け手の技術が、迅速な判断力が、逞しい身体の強さが、磨き上げられた組織としての連携が求められるのだろう。
男子ほどにはこの扉は重くはないように見える。しかしそれが重いか軽いかは、こじ開けてみて初めて言えることなのかも知れない。
あと2タームぐらいの強化であり、成長が、その後の未来に大きな影響をあたえるのだと思う。この今はさほど重そうには見えないその扉は、ここから2タームの間に“扉”から“壁”に、“壁”から“異次元”に変わってしまうものなのかも知れない。次の2タームに、どれだけ真剣に全力でなでしこの強化に取り組んでゆくか…今が勝負の瞬間なのだと思う。
ケガによるコマ落ちがあったとはいえ、アメリカは王者に相応しいサッカーをしていた。男子同様、この気候には相当悩まされたことだろう。が、男子とは別次元の“威厳”であり“芯”の強さ、を持ち合わせたチームであったように思う。
彼女たちは体の当て方を知っている。
プレスの勝負どころと、見切り方…を、よく心得ている。
そして、ここぞという球際に、全身全霊を込めて立ち塞がってくる。
走力があり、スタミナにも優れ、強くもあり、また粗暴でもある。そして誰にも負けない…という気概であり、闘争心を皆で共有している。やがてそれが、歴史であり、伝統といったものを形作ってゆくものなのだろう。そして来年には新たなWUSA、女子プロリーグの再結成が企画されている…とも聞く。強いアジアの女子サッカーにも、そのような機運が盛り上がってくることを僕は期待している。
澤穂希さんの今大会のプレーは、以前の妙な重圧も消え、球離れもよく、日本のシンプルに繋ぐサッカーを良く牽引していると思う。また池田浩美さん、僕にはまだどうしても磯﨑浩美さん…の方がしっくりきてしまうのだが、素晴らしいラインコントロールと粘り強い守備を指揮してくれていたと思う。この大会、女子サッカーが“なでしこ”と呼ばれるずっと以前から代表を引っ張ってきたこの二人の活躍を、僕はとても嬉しく思っている。
なでしこリーグを支えてきてくれたたくさんの選手、関係者、そして多くのサポーターの為にも、またこの二人の偉大なリーダーたちの物語を飾るためにも、GL最後のノルウェー戦、死力を振り絞り一丸となって、勝利への執念を見せて欲しい。
結果、勝つか負けるか…ではない。
一日本人として、僕が見たいのは、ただそんな姿である。
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2008年08月07日
技術でどれだけのアドバンテージを持っていたとしても、実際のゲームの勝敗を分かつのはただそれだけではない。
それは球際の激しさであり、戦おうとする気持ちの構えであり、勝つための意思統一であり、集中であり、執念であり…。厳しいようだが、そういう部分で日本はニュージーランドに劣っていたと思う。技術でどれだけ勝っていても、またそれを用いて有効にゲームを支配し得る実践力にも欠けていた。
勝敗を分けた要素のひとつひとつをよく検証する事で、つらい作業ではあるがそれぞれの、そしてチームとしての“甘さ”や“至らなさ”も充分に認識し、それを打ち潰してゆかなければならない。男子サッカーも通ってきた道である。いつか勝つためには、強くなってゆくためには、避けて通れない“痛み”だったのだと思う。
繰り返すが技術でならば、女子は世界のトップにも大きく引けは取らないはずだ。
その技術的な部分でのアドバンテージを、順当にゲームにおけるアドバンテージとして利するつもりであれば、それを“速さ”という実存にしっかりと結びつけて表現して欲しい。少ないタッチで、正確に、速く、ボールを動かす事で打開できる状況は、これからの2つの相手を想定しても、充分に考えられるはずだ。
特にラインをあげてくるだろうアメリカを過剰に恐れてはいけないと思う。この試合とは異なり、敵が攻めてくる、敵が充分に動ける、前半こそが得点のチャンスだと思う。“速さ”を活かしてシンプルにゴール前に迫るサッカーが、最大限強みを発揮し得るシチュエーションであると思う。
勝負時をしっかりと見定めて、悔いを残さぬよう勇気を持って立ち向かっていって欲しい。
大舞台で勝敗を分かつ“経験”や“伝統”といったもの…それは自然に、当たり前のことをやれるか、やれないか…どんな状況でもそれをやり切れるか、やり切れないか…の差なのだと僕は思う。
福元さんも、近賀さんも、普段出来ていることであり、周りの選手も普段出ている声だったのだと思う。それがあの場でやり切れるかやり切れないか…。
チームとして2-2で充分な試合であるか、何としてでも逆転しなければならない状況であったか…普段のリーグであれば、ベレーザも浦和も湯郷ベルも、ゴール直後に当たり前のようにセンターサークルへ駆け戻っていた状況だったはずである。それがこの舞台で出来たか出来なかったか…。勝敗への関与は非常に稀薄なように見えて、それらは経験あるチームであれば、サッカーの伝統国であれば、決してやらない、ありえない“甘さ”だったのだと思う。
この苦い経験を糧に、まだ誕生したばかりの女子サッカーの常勝国、伝統国に、しっかりと喰らいつき、いつでも優勝を狙えるポジションに、もう1階級ステップアップして欲しい。
幸いにもアメリカは2点差で敗れた。そして幸いにも、初戦を勝ち点1で終えた日本は、少なくとも2つの得点をあげることができた。まだ地力で充分な可能性を有している。宮間あやのFKは、大野忍のドリブルは、そして永里優季のポストプレー・シュート力は、男子では持ち得ない、世界に通用する武器であると僕は思う。
まだチャンスは充分に残されている。
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2007年09月16日
女子サッカーの世界も急激にアスリート化、フィジカル勝負化が図られているな…というのが今回の2007女子WC中国の感想である。
そのだいぶ狭く見えるようになったピッチの中、またボコボコのピッチコンディションの中で、男子に比べても人一倍華奢な体で、厳しいフィジカルコンタクトをかいくぐりながら、更に狭くボコボコのゴール前にボールを運んでいくのは並大抵の事ではないだろう。
この厳しい戦いの中で、実力的にもギリギリの攻防の中で、なんとか踏みとどまり、予想し得るベストの結果を導き出しているこの女子代表選手達の頑張りには、本当に頭が下がるし心を打ち揺さぶられてもいる。
特にイングランドとの試合では、先般のA代表や五輪予選さながらの気迫と執念を見せてくれていたし、アルゼンチン戦におけるロスタイムの勝ち越しゴールもその強い精神力の現われであったように思う。
どちらの試合も、トップに対する中盤のサポートが不足し、アタッキングサードからの展開にぎくしゃくしたものがあったが、荒川恵理子にしろ永里優季にしろ、楔が入ったときに適正なサポートがあり三人目の動きが伴えば、このクラスでもターンしてゴールへ迫れるタレントである。
これが澤穂希のポジショニングの問題なのか、それともチームとしての約束事の問題なのか僕には量りかねるが、押し込まれる展開になる事が間違いないドイツ戦において、トップに対するサポートの重要性はさらに増すだろう。そこでしっかりした楔であり、攻撃のカタチが形勢できれば、結果的にDF陣への支えとなるはずである。
永里優季さんは、2004年の初代表時からずっと期待して見守ってきたが、このメンバーの中にあって、やはり彼女のポテンシャルは世界の基準を満たす突出したものであると思う。欧州と南米の長所を両立したようなオールラウンドのストライカーであり、そのキープ力、ボディシェイプなどは世界のトップと比肩するクオリティを有している。細かいミスを減らし、ボールを呼び込む技術を磨いて、さらに1歩フィジカル面を高めてゆけば、彼女であれば世界屈指のストライカーになる事も可能ではないだろうか。この大会をぜひその契機としてもらいたい。
TV放映を見ていて、どうもいつもと感じが違うのである。
いつもならば無意識のうちに耳に栓をしている解説の言葉が、清清しい共感を持って耳に頭に入ってくるのである。
元代表の川上直子さんの解説なのだが、それは非常に的確でロジカルなまさに“解説”なのであった。テレ朝系の客観性の欠如したノイズの類や、いつものフジ系のモゴモゴ何を言っているか分からない独り言の類に比べ、それは遥かに洗練された知性を感じさせるものだった。
ピッチ上のなでしこJAPANと共に、卒業した彼女達の頑張りにも今後目を向けてゆきたい。
次のドイツ戦、イングランド戦以上に忍耐を要求される展開が予想されるが、厳しい状況の中からなんとか勝機を見出して、少ないチャンスに賭けて欲しい。ただ勝ち点3を狙うのではなく、勝ち点1を守りながら少ないチャンスの中で勝機を探る…というとても難しい戦いである。
彼女達らしい粘り強い精神力に期待して勝負の行方を見守りたい。
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