2009年12月22日
『僕はもう一人のエースストライカーとGKの獲得を期待していたし、それができれば優勝争いのグループに組み込みたかったのだが、クラブの台所事情もあわせて、やはり現実はそれほど甘くはない…といったところなのかも知れない。J1といえども、広島にボールポゼッションで勝るチームなどほとんどないと思う。が、しかし、前線の助っ人外国人の質の違いもあり、カウンターの鋭さはやはりJ1とJ2とでは少し次元の異なるものだろう。どのようにして失点を抑えるか、またどのようにしてボールロスト時のリスクを限定するか、或いはまた時に敵にボールを預けて対応することができるか…。学ぶべきところの多いシーズンとなるのかも知れない。が、僕はこのサッカーに成功して欲しい。必ずJ1で何かを打ち立てて欲しい。きっと今年僕は、ヒロシマのサッカーを一番多く見ることになるだろう。このサッカーで、いずれニッポンの頂点を極めて欲しいと願っている』
上記は今年のはじめ、僕が『J1優勝争いを占う』というエントリーの中で、サンフレッチェ広島について綴った言葉である。他のクラブに関してはともかく、この見立てに関しては概ね間違っていなかったと思う。
34試合 15勝11分8敗 勝ち点56 得点53 失点44 得失点差+9 総合4位
たいへん立派な成績である。
しかし、僕は同時に少し残念にも感じるのだ。もしシーズン開幕前に、優れたGKの補強ができていたら…と。それによって、年間の失点を10減じることができていたかも知れない。であれば得失点差は+19。充分に3強の一角に食い込み、最後の最後まで緊迫した優勝争いを演じ、もしかしたら昇格初年度優勝という、Jリーグの歴史を塗り替える偉業を、成し遂げることができていたかも知れない。
今後、地方の中堅クラブがニッポンのビッククラブの一角に名乗りを上げる際には、そのぐらいインパクトのある“ストーリー性”が要求されるのではないだろうかと僕は思う。それにプラスして、そのサッカースタイル自体の個性と面白さも不可欠な要素となる。
そんな可能性を有したクラブは、このJリーグに幾つもない。今年のサンフレッチェ広島が、その大きなチャンスを逃してしまったのは、僕にとってはやや残念な出来事であったと言えなくも無い。来期に向けて移籍した柏木陽介同様、その次も、その次の次のシーズンも、今のポジションに留まる限りタレントの流出は避けられないだろう。この躍進を、短期的なサイクルによる単なる幸運の1年に終わらせてしまうか…。或いは長期的な栄光への足がかりとするか…。来期はその答えが明確になる1年であると思う。そしてその先行きは、相当に厳しいと僕は思っている。現状維持はマイナスからのスタートを意味する…と。
これは広島に限った話ではないが、もし僕がどこかのクラブの全権監督・マネージャーであるならば。或いはGMであったならば。まず一番最優先に補強を考えるポジションは、ゴールキーパーである。
なぜならば、ゴールキーパーはフォワードと共に、勝負を決するゴール前の、一番大切なポジションであり、尚且つフォワードよりも移籍による出入りが遥かに少ないポジションだからである。どんなに優れた日本人ゴールキーパーであっても、言葉の問題もあり海外移籍するような選手はほとんどいない。これがフォワードやミッドフィルダーであれば、少しの活躍で、すぐに海外移籍が取りざたされるものである。
一人の、日本代表レベルの優秀な日本人GKを備えるということが、チームの戦力的安定にとってどれだけ大きな効果があるか…大分トリニータ西川周作の獲得が決定すれば、それは今後10年、広島にとって非常に大きな財産、宝物となるだろう。
そしてシーズン前、僕が指摘した補強のもう1つのポイントであるFW。佐藤寿人の1年間休み無しの貢献によって、幸いにも今シーズンはこの部分がフォーカスされることはなかったが、もしシーズン開幕直後、或いは梅雨時に、負傷による長期離脱を余儀なくされていたとしたならばどうだっただろうか…。今シーズンの広島はまったく違う状況に追い込まれていたかも知れない。本来ならばGKの次に手当てしなければならないのは、このポジションである。僕ならば予算の無駄を徹底的に排して、ここに佐藤寿人のポジションを脅かす若い助っ人外国人ストライカーを補強したい。2、3年後を見据えても、今必要な対応ではないかと考える。
また、来期の広島で僕が一番危惧しているのはストヤノフの去就である。
柏木陽介の離脱は確かに痛いが、それでも森崎浩司、高萩洋次郎と、広島には彼の代役がいない訳ではない。が、ストヤノフとなると話は別である。中島浩司や森崎和幸がどれだけ頑張っても、ゴール前1対1の守備力とロングフィードの部分で、彼の不足をキッチリ埋められるものとは僕には思えない。
彼が離脱するとなれば、不完全ながらその穴を、辛うじて埋められそうなタレントは、阿部勇樹とブルーノ・クアドロスの2人ぐらいのものではないだろうか?彼が離脱するとなれば、それは来期の広島にとって、非常に大きな痛手となるだろう。
正直にいえば、僕は来期の広島は、今年以上に厳しいシーズンを送ることになるのではないだろうかと思っている。もし、ACLに出場する事にでもなれば、その厳しさはさらに苛烈なものとなることだろう。決して楽観はできないシーズン。だからこそ、今できるだけの備えを、ぬかりなく整えておいて欲しい。現場は100%のチカラを振り絞って必死に頑張った。その頑張りを生かすも殺すも、このオフシーズンの背広組み次第である。
この1年で、広島のサッカーは少年から大人になった。その魅力を損なうことなく、サッカーの楽しさとリアリズムを、ゲームの状況に応じて正しく使い分けられるようになりつつある。昨年に比べても、格段の進化を遂げたのだ。
2008年の9月、今Jリーグの中で一番面白いサッカーは、広島のサッカーである…と、僕はここへ書いた。その頃は広島のファン・サポーターの皆さんと、ほんの一部の人しか共感してくれなかっただろうそんな感覚が、この1年で多くのJリーグファンの間にも浸透してきている。これは広島にとっての、広島サッカー復権のための、またとない大きなチャンスである。2010年もこれを継続できるか、そしてそれによって何かカタチあるものを打ち立てられるか…。今在るものが永遠に在り続ける訳ではない。地方の中堅クラブであるサンフレッチェ広島にとって、もしかしたらもう二度と巡り来ないかも知れない、勝負の1年になるだろう。
いつだって、何度だって云うが、僕はこのサッカーで何かを成し遂げて欲しい。ニッポンのサッカー界に、これが進むべき正しき道であることを証明して欲しい。2010年の彼らの戦いに僕は期待している。
※関連エントリー
J1優勝争いを占う
広島のつまらない失点と、浦和のつまらないゲームの終え方
まだ蕾の浦和 七分咲きの広島
Jで今一番良いサッカー
箱根の坂と石畳の記憶
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2009年08月03日
つい一月前に、2010南アフリカへ向けての推奨メンバーを発表したばかりなのだが、やはり…というか、当たり前のように、もうすでに心変わりし始めている。石櫃洋祐や石原直樹、山瀬功治など何人かの選手にパフォーマンスの物足りなさを感じる…。そしてその逆に、彼こそは…と思う選手が次から次へと出てくるのだ。
それは香川真司(セレッソ大阪)であり、前田遼一(ジュビロ磐田)であり、深井正樹(ジェフ千葉)であり、そしてやはり見切ることのできなかったこのサンフレッチェ広島の佐藤寿人であり、青山敏弘である。
若手選手の成長が実感できる試合は、いつ見てもとても楽しく心踊るものである。この試合の青山敏弘のプレーは、バルサ時代のデコのそれのように僕の目を楽しませてくれた。皮肉なことに相棒が森崎和幸から中島浩司に代わったことで、逆に彼の持つ攻撃的スキルとアイディアがさらに自由に、奔放に、解放されつつあるように見受けられる。またこの試合では一枚黄色をもらったが、ここ最近はディフェンスにおけるプロフェッショナルファールの類も、ほとんどカードをもらわず、スマートにピンチの芽を摘めるようになってきている。すでにこの半年で、充分なフル代表候補の一角となってきたな…と、僕は高く評価している。
一方、前半35分、その青山敏弘からの縦パスを、素晴らしいボディシェイプとトラップからの一瞬のターンで、見事にサイドネットへ流し込んだ佐藤寿人。当たり前のように見えて、すべてのエレメントをほぼパーフェクトな次元で備えたゴールは、ある意味で彼の最も彼らしいゴールのカタチだったのではないかと思う。疲れの見えた高柳一誠の前に、選手交代を告げられたところを見ると、彼自身この時期かなりの疲労か、或いは故障を堪えてのプレーなのだと思うが、ゴール前の一瞬に、ありったけの集中力とスキルを本能でスパークさせる彼の能力は、やはり日本人ストライカーの中では傑出したものである。1チャンスを決め切る能力…といった点で、これ以上調子を落とさない限り、彼はやはり日本代表になくてはならない選手なのではないかと改めて思った。
ゲームに関しては、ナビスコの川崎戦から中二日ということもあり、序盤の30分を広島が気圧されず、慌てずに戦えれば、広島ペースの試合になるのではないか…と、思っていた。実際に、前半先に足が止まったのは鹿島であり、広島がゴールをあげた瞬間の鹿島は、いつもの鹿島ではない10分間を戦っていた。おそらく興梠慎三の故障(あれは捻挫ではないだろうか…)の影響もあったのではないかと思う。しかし、後半の後半は鹿島らしい圧力と攻撃を見せており、またそれに対して最後までゴールだけは割らせなかった広島は、ここへ来てチームとして1段ステップアップしつつあるのではないだろうか。ただ面白いだけのサッカーではなく、勝てるサッカーを体得しつつある段階なのではないかと僕の目には映っている。
鹿島にとっては、やはり前戦のナビスコ川崎戦ジュニーニョの一撃が、非常に大きなショックを残していたように思う。その戦績とは裏腹に、今年の鹿島は、ここまで決して好調ではなかった。勝った試合も、僕が見る限り楽な試合よりも、苦しい試合の方が多かった。しかし、あそこで踏ん張れるのが鹿島だった。そんな自信が打ち砕かれたショックは、やはり彼らの心理に大きな衝撃を残したのではないだろうか…。ここで中断が入るのは彼らにとっては良いタイミングである。身体と気持ちをリフレッシュさせて、後半戦へ挑んでほしい。痛そうな足を引きずりながら長時間プレーした興梠慎三の具合が気になるところではあるが、大きなケガになっていないよう願いたい。
試合後オリベイラ監督、ペトロヴィッチ監督が抱き合っているシーンがとても印象的であった。優れた選手、優れた監督たちの、優れたサッカーによる、素晴らしい試合であったと思う。1-0の面白い試合とは、互いに高い質なくしては成し得ないものである。この日両チームの見せてくれた試合は、まさにそんな試合であったと思う。
次回は、ポスト岡田への推薦状:後編を書きたいと思っている。
キリタニマニフェスト、発表!
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2009年05月11日
ジェフ千葉vsサンフレッチェ広島。
球際の強さとリスクマネージメント、そして運動量と何よりも闘う気持ちが、勝敗を分けたゲームであった。言葉にすれば陳腐な表現にしかならないが、僕はいまのジェフの戦いぶりに、他のどのチームよりも闘う“気持ち”の強さを感じている。少し言い方を変えれば、それは“何か”を起こしてくれそうな予感…である。
巻誠一郎を中心に、深井正樹、坂本將貴、そして斎藤大輔…。ミラー監督が信じて、使い続けている選手たちが全身全霊をこめて、100%のチカラを振り絞り闘っている。彼らの戦い方は、パスワークで相手を翻弄し、組織で崩して、ねじ伏せる…というものではないが、自らのウィークポイントを的確に踏まえたうえで、リスクの少ないところで、敵に最大限の脅威を与えるというリアリズムに根ざしたものである。
以前のように押し込まれてただ蹴る…という段階を脱し、リスクの高い中央でボールを持たず、素早くサイドに展開して預ける…という流れが、だいぶオートマティックに出来るようになってきている。ここ数試合では、そこからSBのオーバーラップも見られるようになり、ミラー監督の志向するガチガチのロジックから少し解放され、彼ら自身の持ち味を加味しつつ、徐々に良い方向へと進化させている段階なのかも知れない。6節のFC東京戦あたりまでの内容と比べれば、随分メリハリの効いた攻撃と守備ができるようになったと思う。このスタイルを貫く限り、今後気温の上昇と共に選手の消耗も激しくなってくると思われるが、このGW連戦、一度も走り負けする彼らの姿を見なかった。その運動量とメンタルは賞賛に値するものだと思う。
彼らのその戦いには、ニュートラルな立場で試合観戦に臨んでいても、人の心を掴み、引き込んでくる“熱”があるのだ。ピッチで戦っている彼らは、昨年の厳しい経験を決して無駄にはしていない。今後も苦しい状況はまだまだ続くだろうが、この気持ちを最後まで切らさないこと。ファンやサポーターの信頼に最後まで応え続けること…。それがジェフの選手たちにとって、いまも、そしてこれからも、一番大切な責任なのだと思う。
リスクマネージメント。
この日の試合は、それに対するそれぞれの監督と、選手達の認識、チームそれぞれのインテリジェンスの部分が、勝敗を分けるカギとなった試合であった。
単純に、互いがどのゾーンでボールロストしたか…を表にすれば、双方のリスク管理の意識の差が如実に現れるはずだ。直接失点に繋がらなくとも、自陣バイタルエリア付近での有り得ない横パス。最終ラインとGKとの意思疎通の欠落による危機は幾度となく散見された。そしてその危険な選択を、広島は先制点を取ってから始めている。
失点後、前半の速い段階で、千葉が広島最終ラインにまで、オールコートでプレスをかけてきた。繋ぎに窮するぐらいならば、蹴って様子をみればなんのことはないシチュエーションである。30度近い気温と強い日差し。GW連戦の最終戦。先制したのは11分である。そこから深井のゴールまでの約30分間。彼らは負う必要のまったくないリスクを、99%リターンの望めないキケンなゾーンで支払いながら、勝手に消耗し、そして勝手に自滅していった。
0-0の状況であれば、広島というチームはJで一番強いチームではないかと僕は思っている。けれども1-0(1点リード)の状況に対する対応ができていない。
その点で、彼らはJで一番稚拙なチームである。
僕はこのサッカーのスタイルがJリーグで一番美しいと思う。尊いものだと思っている。そして日本のサッカーが目指すべきスタイルとして“価値あるもの”であると信じている。だからこそまた、同時に結果も求めたい。報われなければならない…のだと思っている。
連戦の疲れの中で動けなかった。球際で負けた。柏木陽介が不調だった。ストヤノフが気負いすぎていた。そしてまたその気負いすぎていたストヤノフに、前線の運動量不足でパスコースを与えきれなかった…。敗因を探せばいくつかの不運も含めて、思いつく要素はたくさんあるだろう。が、今後、どれだけポゼッションの業と精度を磨いてゆき、アタッキングサードにおいて、どれだけ見事な連携で美しいゴールを量産しようと、1-0(1点リード)の状況、そのリスクマネージメントを学び、実践してゆかない限り、彼らはJ1において真の強者とは成り得ないと僕は思っている。
1-0(1点リード)の状況に対応する…ということは、自らのスタイルに対する妥協でもなければ、変節でもない。サッカーの現実において、むしろそのスタイル・志向に対する、正当性の立証作業…のようなものである。そしてそこで裏付けられた“結果”以上に、重要なものなどない…という一方の現実、プロとしての免れざる価値観も、彼らには噛み締めながら戦って欲しい。ある意味で、彼らはニッポンのサッカーの可能性をも背負って戦っている。勝手ながら僕は、そう思っている。
サッカーにおける90分という時間は、それ以外の、人生における時間と同じように、彼らに対して、あらゆるもの…を要求する。そのあらゆるものに対応し得る引き出しを持つことが、今シーズンこれからの彼らの課題なのではないだろうか。そして彼らならばいつか、“勝つ”という目的ではなく手段によって、彼らのサッカーの、そのほんとうの価値を証明してくれるのではないかと、僕は期待している。その日を待ち焦がれている。
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次期民主党党首に長妻昭氏を
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2009年04月06日
降りしきる雨の中でもピッチはグシャグシャにはならずに、両チームのサッカーを、最後まで彼らのスタイルに留めてくれた。屋根もなく、雨に打たれながらの観戦というものは正直辛いものだが、あれだけの降雨の中でも、ガンバ大阪とサンフレッチェ広島のサッカーが見られた…まずはそのこと自体に感謝しなければならない。
サッカーそのものの“内容”は非常に濃く、このゲームにおいて、僕自身は見たいもの見、知りたいことを知りえた…ということについては素直に喜びたいが、その場に不自然な“結果”を齎したものは、ピッチ上22人の選手たちの奮闘でもなければ、サポーターたちの熱い声援でもない。残念ながら主審の鍋島さんであった。ゲーム自体は素晴らしいものであっただけに、ある意味冷たい雨以上に、これに水を差す結果となった審判の誤審のいくつかには非常に落胆させられた。
第三者の僕の立場から見ても、ことごとく“不利”なジャッジを突きつけられた広島の側からすれば、この試合の“内容”は良しとしても、この“結果”に対しては到底納得のできるものではないだろう。これがサッカーであり、これがJリーグなのだ…と言われれば確かにそうなのだろうが、リーグ、協会はこの現実の“深刻さ”について、そろそろ、いい加減に、真剣に、対応するべきである。そもそもがありもしない、あやふやな権威を守る事のみに彼らは必死のように見えるが、守る以前にそれを育む覚悟や努力が致命的に欠けているのだ。
立派なルールがあっても、それが守られなかったり、適正に、そして平等に、運用されないのであれば、無いのと同じである。この国では、審判を管理するためのレギュレーションやその組織自体にフェアネスの意識が欠落している。そしてこの深刻さについて、僕たち日本人自身ももっと深く受け止め、真剣に考えるべきなのだ。この不信が根本にある限り、いずれにせよサッカーの、そして物事の、本質はゆがめられ、その精神はさらに頽廃してゆくことだろう。
ゲームを支配していたのは、やはりサンフレッチェ広島であった。パスゲームをやらせたら、この日本に広島の右に出るものはいない。それに対してガンバは前からのプレスで対応しながら、ショートカウンターと助っ人外国人の個力での打開を図る。これはここ数年のJリーグにおいて有りえなかった構図であり、広島が切り拓いてくれた新しいJリーグの光景である。
しかしガンバも積極的な前からのプレスで、完全な広島のリズムは許さなかった。それが若干窮屈で拙速な柏木陽介の球出しに現れていたように思う。それにより最終ラインの裏にリスクを抱えながらも、GK藤ヶ谷陽介の飛び出しと、相手FW佐藤寿人に前を向かせない守備で、ギリギリ前に踏みとどまることができた。結果的にはその部分で、決壊寸前の流れにどうにか歯止めをかけ堪えきる事ができたように見えた。この勇気と自信がどこかで揺らいでしまっていたならば、ゲームは前半のうちに広島サッカーの力強い潮流に一気に押し流されていたかも知れない。
僕は昨年の後半から、ガンバのサッカーは変貌しつつある…と思っているのだが、このゲームを見ながら、あらためてその思いを強くした。美しいサッカーから、強いサッカーに、さらにステップアップしつつある。冗長で味わいのあるサッカーから、簡潔で無駄のないサッカーにチェンジしようとしている。そしてそれはJリーグにおけるビッククラブとして、常勝を期待されるクラブとして、ある意味妥当で、自然な成り行きなのではないかと思っている。その意味で、この試合はガンバ側のサイドから見ても、非常に興味深いゲームであった。
滑りやすいピッチの中でも、柏木陽介の身のこなしやクイックネスはキラキラと輝いて見えた。そしてそれを土壇場で防いでみせた明神智和の賢いポジション取りと、危険な状況へのそつのない対応には深く感心させられた。佐藤寿人の攻守にわたる献身。遠藤保仁のボールの呼び込み方と無駄のないパス捌き。ひとつひとつ羅列してゆけばキリがないが、広島高柳一誠の少し意外な煌びやかなボールテクニックも含めて、いろいろと見所の多い試合であった。
ある意味でサンフレッチェ広島のサッカーは、ニッポンサッカーの、その限界と可能性を指し示してくれているのだと僕は思っている。
日本のサッカーはここまで行けるのだ。しかし同時に今のままではここまでしかいけない…のだ。
しかし、例え結果的にJ1上位陣の壁に敗れ去ったとしても、僕はこのサッカーが単純に好きである。世界の強豪に木っ端微塵に踏み砕かれたとしても、僕はこんな日本のサッカーが見たいのである。今の時点で、ここまでのものでしかなくとも、他のどのサッカーよりも誇らしく思えば、愛着も感じている。だからこそ僕は、サンフレッチェの、広島のサポーターたちを、いま他の誰よりも羨ましく眺めているのだ。
欧州から試合前日のトンボ帰りでこの日のゲームに臨んだストヤノフは、試合終了数分前に交代を告げられあきらかに憤っていた。決してこの日の動きは良くなかったように思う。攻め上がりも少なく、随所に遠征の疲れも感じさせた。が、ピッチの去り際で、まだやれる…と彼は信じていた。交代を告げたペトロビッチに対して、怒りを表しているかのように僕には見受けられた。
降りしきる雨の中、上等なスーツを身にまとったペトロビッチは、ずっとベンチの外に立ち尽くし、ひとり上半身ズブ濡れになりながら怒っていた。試合終了後、TVカメラは拾っていなかったようだが、彼はスタッフの制止を払いのけ、タッチラインを踏み越えて主審の元へ走り出そうとしていた。他の誰よりも、強く、激しく、怒っていた。レフェリーのジャッジに、そしてこのゲームの結果に対して、いつまでも憤っていた。
きっと他のクラブであれば、とっくの昔、2年前にはお払い箱であったはずの彼らが、いま真っ赤な顔をし、ズブ濡れになりながら、この引き分けに憤っていた。彼らは負けた訳ではなく、引き分けただけである。前年度アジアチャンピオンに引き分けた彼らのチームは、2部からトップリーグに上がって、まだ4試合目のチームである。
彼らは勝者である前に、誰よりも激しく、そして雄雄しく戦おうとする戦士たちである。
それはピッチ上の眩い輝き以上に、つよく僕の胸を打つ光景であった。
ニッポンサッカーの限界と可能性。
僕はその次元に辿りつくためにも、そしてそれを乗り越えていくためにも、まだまだ僕ら自身に足りていないものがあると思っている。それはシンプルでいて、とてつもなく複雑なもののようにも見える。
それはピッチ上というひとつの世界や現実…だけではない。ピッチの外の無数の世界や現実、権威者たちのそれぞれの思惑や、僕たち自身の、個々の、それぞれの、知性、サッカーとの関わり方が、絶え間なく複雑に絡まりあって、いまのこの国のサッカーが在るのだと思っている。この国のサッカーを、カタチ作っているのだと思っている。
では、君は何かと戦っているか?
誰かにそう問い返されたときに、僕には返す言葉が無い。
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