2007年08月22日

坂本將貴のゴール 

プラティニが好きだった。

ジャン・ティガナの華麗なパスワークにも魅了されたし、エリック・カントナの完璧なボールコントロールとその異才っぷりに夢中になっていた時期もあった。ゲオルゲ・ハジのエレガントな球捌きにはWCが来るたびに大きな興奮を覚えたし、デポルティボ・ラコルーニャ時代のジャウミーニャのプレーは、今思い返してもサッカーの至高の輝きが凝縮されていたような気がする。

その昔、僕にとってサッカーの一番の感動とは、自分の想像力を越える技術とイマジネーションを、選ばれた一握りの傑出した才能に見せ付けられる瞬間にあったような気がする。ずっとそんなふうに僕はサッカーを見てきたのだろう。

そんな僕が、今一番好きな選手は誰か…と問われれば、ロナウジーニョでもなく、ピルロでもなく、クリスチャン・ロナウドでもなく、リベリーでもなく、坂本將貴である、と迷い無く答える。

僕は世界のあらゆるサッカーを見てきて、彼の“プレー”…ではなく、その気迫や精神にこそ、サッカーにおける最も尊く大切なもうひとつの“美”を見る思いがするのだ。そしてそんな彼を決して代表に呼び寄せることをしないオシムと、石にかじりついてでも、そのチャンスを決して諦める事無く、ピッチ上疲弊してボロボロになりながら、夢遊病者のように駆けずり回る坂本將貴の姿、その両者の無残なまでに美しいその構図に、僕は深い感動すら味わっている。


今更ながらあえて言うが、僕はACにおけるカタール戦後の阿部勇樹のプレーに本当に失望した。
あのたった一度の失敗で、FKを恐れ、ファールを恐れ、コンタクトプレーを恐れ、失敗を恐れて、DFとしての“引きずり倒してでも止める気迫”を忘れてしまった彼の消極性とその“気持ち”には、本当に歯がゆい思いをした…。
そして同時に、それでもオシムは阿部勇樹を決して見捨てないであろう…とも思っていた。なぜならば、阿部勇樹はそれ以外の“すべて”を合わせ持つ傑出したタレントだからである。

もし坂本將貴が、阿部勇樹の才能のうちのそのたったひとつの片鱗でも保持していれば、今現在彼は代表に届いていたのかも知れない。けれども、阿部勇樹が未だ持ち得ていない“たったひとつ”を除いて、やはり彼はその他の基準を持ち得ていないのかも知れない。共にプライベートではとても親しい間柄であるというこの二人を重ね合わせて、現実の厳しさと夢や信じる事のその力と素晴らしさを重ね合わせて、僕は今オシムのサッカーを見ている。

そしてだからこそ、阿部勇樹にも、坂本將貴にも、絶対に負けて欲しくはないのだ。

それぞれの勝利、そしてそれぞれのゴールは、きっと同じものではないだろう。けれどもそれが違うものだとして、きっと僕はその二つの勝利でありゴールというものを、同じ次元で感動し、そして讃え、同じ日本人、サッカーを愛する者としての“誇り”としたいのだと思う。そしてこれからもボロボロに疲弊してピッチを駆けずり回る坂本將貴の姿を、Jのピッチに見続けていたいのだと思う。

自分に負けない事…。
たとえ他人には負けたとして、自分にだけは絶対に負けない…ピッチ上の彼の姿を見て、僕はいつもそんな“強い気持ち”をこの胸にガツンっと感じる。もうすぐ30歳になる彼が、あと何年現役を続けられるのか僕には分からないが、そんな彼の、彼自身の為のゴールを、僕はその最後までしっかりと見届けたいと思う。


そしてオシムは、これからもきっと彼を選ぶ事はないのかもしれない…。
が、この夢遊病者の姿を、これからもずっと目を離さず見守り続けていてくれるような…そんな気がするのだ。


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posted by 桐谷 |06:27 | オシムJAPAN | コメント(13) | トラックバック(0)
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posted by 桐谷 | 2007-08-22 08:02

Re:坂本將貴のゴール 【キリタニ】

桐谷さんおはようございます。
私も坂本選手の人間力(山本某氏のそれとは意味が全く違います)には感服しています。
彼は常に全力を出すということがどういうことなのかを周囲の人々に伝えられます。
今の新潟の好成績も坂本効果の成果の一つでもあります。
私はA代表に選ばれるとかどうかよりも、坂本選手ができるだけ早くS級ライセンスを取得して、次の全く新しい指導者になって欲しいと思う者です。
今期、浦和に阿部選手を採りましたが坂本選手も
同時に採っていれば浦和がどのようになっていたか・・・J連覇がとっくに確定してつまらなくなってたかもしれません。
乱筆ご無礼。

posted by real Reds | 2007-08-22 09:21

Re:坂本將貴のゴール 【キリタニ】

坂本選手は非常のいい選手ですね。
自分は地元が新潟なのでアルビレックスに加入してもらった坂本選手にはプレーの質や人間力には尊敬の意を表しています。

話は変わりますが、阿部選手は元々DFとしての経験が決して多いとは言えませんから、あのようなミスをしても当然だろうと私は見ていました。
ボールにアタックするのではなく相手のコースを妨げるプレーというのはボランチの選手に良くある軽いプレーですからね。

ただスイーパーとしての能力値は日本の中では非常に高いレベルにいると思いますし、ボランチで培った玉際の強さも持っていますから、アジア杯で戦犯だなんやなんやと叩かれましたがこの経験を糧に彼には頑張って欲しいと願っています。

posted by アルビサポ | 2007-08-22 09:38

Re:坂本將貴のゴール 【キリタニ】

いつも楽しみにさせて頂いておりますが、坂本選手の話と言う事でいつも以上に興味深く読ませて頂きました。

彼が持っている精神、才能は中山選手や川口選手とはまた違う「他の選手にあと一歩を出させる」能力だと考えています。

そしてこれは現在の代表が持ちうるけれど持たない唯一の武器だと感じています。
あと3年で、闘莉王選手や中澤選手(あるいは他の誰かかもしれません)がその強靭な精神を「チームに伝播させる」事が出来るようにならなかった時、オシムは彼を必要とするのではないかと、ひそかに期待しています。

現在市原には彼が市原への感謝のために植樹したナツツバキがありますが、出来る事なら彼自身にせめてあと2年、残って選手に伝えてほしかった事があると今更ながらに思っています。

長文失礼しました。

posted by バタグリア | 2007-08-22 10:29

Re:坂本將貴のゴール 【キリタニ】

僕は代表の両サイドバックに不満を持っています。駒野と加地を完全に期待していないわけではありませんが、今の二人は他の選手を試す必要がないレベルでもないと思います。
そこで思っているのが、左に坂本、右に阿部です。僕としてはなかなか面白いと思っているのですが…。

posted by サッカーずき | 2007-08-22 12:34

Re:坂本將貴のゴール 

 今年のジェフの不調は監督のせいでしょうけど、私は坂本が抜けたのが一番痛いのではないかと思っています。
 阿部よりも精神的支柱であった坂本がが抜けたのが非常にきいていると思います。ホントに今年居てくれてれば、ここまで皆精神的に疲弊してはいないだろうと。フロントのいい加減さにあきれましたから。今年当初
 桐谷さんの言うとおり、私も坂本選手は応援したいです。

posted by ペン太郎 | 2007-08-23 06:31

real Reds さんへ

彼はジェフ千葉やアルビレックス新潟の誇りであるばかりでなく、浦和という街にとっても大きな宝ですからね。僕も今の新潟での活躍を非常に嬉しく思うと同時に、地元レッズでの彼の活躍する姿もぜひ一度観てみたかったな…って思いました。僕は彼や本田泰人のような泥臭い選手が大好きですし、彼らの第二のサッカー人生にも大きな期待をしています。

この本文に対するレッズサポーターの方からのコメント、とても嬉しく思います。

posted by 桐谷 | 2007-08-23 18:40

アルビサポさんへ

アルビサポさんにフォローされる阿部勇樹という選手は本当に幸せですね。そうやってクラブ間の思いを越えて、代表の選手を語れる環境がここでできつつある事は非常に嬉しく思います。

僕は阿部勇樹という選手の才能を、一番高く買っているんですよ。彼こそもっとも欧州に近いトータルなポテンシャルを保持した日本人選手であると確信しています。
ただたった一つ欠けているポイントがある。それが勝負に対する“厳しさ”であり、自分自身に対する“自信”だと思っています。それは人間的には彼の人の良さでもあるのでしょうが、ピッチにおいては弱点であると考えます。だからこそ、そのカラを打ち破って、もうワンステップ前へ踏み出して欲しいと心から願っています。

今後とも阿部勇樹と坂本将貴の活躍を見守っていてください。

posted by 桐谷 | 2007-08-23 18:48

バタグリアさんへ

もしあなたの言うように、オシムジャパンであの青いユニフォームを着て走り回る坂本将貴の姿を見ることができたら本当に素晴らしいと思います。そして彼は最後の最後まで、それを夢見て頑張り続けるでしょうね。

>現在市原には彼が市原への感謝のために植樹したナツツバキがありますが、出来る事なら彼自身にせめてあと2年、残って選手に伝えてほしかった事があると今更ながらに思っています。

それに水をやり大きな枝葉をつけ育て上げることがあなたたちの仕事なのだと思います。そしていつか必ず戻ってきて欲しいですね。その日が来ることを信じて、どうかジェフの誇りを守り続けて下さい。

posted by 桐谷 | 2007-08-23 18:53

サッカーずき さんへ

あなたの言うように、僕も代表の両サイドには質の高い競争が不可欠であると考えています。だからこそ、Jでさらに高いパフォーマンスを見せつけて欲しいし、新潟には結果を出し続けて欲しいと願っています。

posted by 桐谷 | 2007-08-23 18:55

ペン太郎さんへ

ジェフとアマルの問題については、いつか日を改めて本文にて触れさせていただくかも知れませんが、ぺん太郎さんとは同じ問題意識を共有させていただいているかも知れませんね。
阿部の移籍は彼自身のステップアップであったのに対して、坂本の移籍はジェフ自身のステップダウンに繋がったと僕は思っています。坂本将貴は決して手放してはいけない選手であったと…。

今更同じサッカーをしようとしても、選手の心がついていかなければ、同じパフォーマンスはできない。アマル自身のロジックには共鳴する部分が多々ありますが、それと選手との信頼関係、人心掌握の術とは無関係である事の証左が今の結果に現れているのではないでしょうか?
僕はそんな気がしています。

posted by 桐谷 | 2007-08-23 19:03

Re:坂本將貴のゴール 

桐谷さん、はじめまして。

 たまたま記事を見つけて読ませて頂きました。かなり共感しました。なぜなら、自分が坂本に感じていたことと全く同じことが書いてあったからです。

 僕が坂本を好きなのは、桐谷さんに記事にして頂いた泥臭さともう1つ。人格者であることです。

 プロサッカー選手にとって必要な要素か分かりませんが、水本や水野といった今ジェフの中核を担っている若手は、今でも、困ったときには坂本に相談しているそうですし、アルビの若手も同じだそうです。これは、選手としてはともかく、指導者には絶対に必要な要素だと思います。

 選手としての坂本が代表やベストイレブンに選ばれることは無いかもしれませんが、私は、近い将来、指導者としての坂本が大きな仕事をするんじゃないかと思っています。それまでは、選手としての坂本を精一杯応援したいと思います。

 下らないコメント失礼致しました。

posted by winbyall | 2007-09-02 15:59

winbyallさんへ

彼がジェフに残したもの、そしてアルビレックスに残していくものは、とても大きいのでしょうね。技術的には凡庸な選手の一人に過ぎない彼が、ここまでの影響力と感動を与えられる選手に成長できたのはなぜか…周りの若い選手達もきっとそれを学んで彼に続いてくれると思っています。
ジェフの水本裕貴のように、アルビレックスにも田中亜土夢や河原和寿のような、彼の意思を引き継いでいきそうな楽しみな選手がたくさん居ますね。すべての日本人選手が彼のようなメンタリティーを持ってピッチに立つようになれば、日本のJリーグも代表も、さらに感動的なものに変わってゆくかも知れません。

これからも一緒に応援してください。
とても温かいコメントをいただきありがとうございました。

posted by 桐谷 | 2007-09-03 09:19

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