2010年02月05日

大相撲が壊れていく

野球、MLBではない話題で書くことをお許しいただきたい。

子供のころ、明けても暮れても相撲のことばかり考えていた時代があった。男と女が抱き合っているドラマを見ても、右四つか左四つかが気になったぐらいだ。
大鵬が引退して北の富士、玉の海の両横綱の時代になり、玉が急性盲腸炎で死亡し、迷走しかかった相撲界は、貴乃花、輪島という若いスターの登場でにわかに盛り上がった。外国人の高見山が優勝し、史上最年少記録を更新しながら北の湖が上がってきた。そんな時代だ。大相撲はまだ自信に満ちていた。大鵬時代には空席が目立った本場所だが、連日満員御礼になっていった。このころの相撲関係者は、一般のファンなど歯牙にも掛けないという感じで、チケットを入手するのは至難の技だった。本場所でも、花道にたむろする安い券で入った客は、親方や若者頭などから「どけ」と押しのけられていた。
それでも相撲人気は上がる一方だった。武蔵川、春日野とソロバン勘定ができる理事長が続き、蔵前から両国に国技館を移転、150億と言う建設費をぽんっと支払ったという話もあった。
大相撲は、TV桟敷の前の一般客など相手にせずとも、十分に成り立った。大きな部屋には旧財閥系をはじめとする大企業のタニマチがついていたし、地方へ行けば土地の顔役が巡業を買ってくれた。その頃は、2~3年に1人くらいは若い弟子が突然死を遂げたが、マスコミを含め誰も不審を抱かなかった。「ごっつぁんです」で、領収書のいらない金も入ってきた。後ろ盾となった自民党政権が永遠に続くとだれもが思っていた。戦前からのエスタブリッシュメントも健在だった。

そんな相撲界が変化したのは、双羽黒の廃業から若貴の時代前夜にかけてだったろうか。千代の富士によって、相撲は重心の下げっこから、パワーゲームへと変化。また、高見山、小錦に続いて外国人力士が急増し、横綱曙、武蔵丸へとつながっていく。相撲協会は、外国人力士の規制をはじめたが、日本人力士の入門者が少なくなる中で、非常に高い確率で関取まで出世する外国人力士は、引く手あまたとなった。このころには、出羽の海辺屋の伝統だった「独立を許さず」という不文律もなくなり、親方衆はどんどん独立していったが、そんな新興部屋が第一に考えたのが、外国人力士の獲得だった。新しい部屋を後援したのは、ベンチャーなど新しい企業である。こうした企業の経営者は、相撲界を長い目で見守るのではなくすぐに結果が出ることを求め、外国人力士、とりわけモンゴル人の獲得を支援した。昔、外国人力士は日本文化に馴化することを強制され、苦しい修行を強いられたが、このころから外国人力士は「お客様」「金の卵」と化した。
タニマチの質はどんどん低下していった。大企業がオーナーの手で支配された時代は去り、サラリーマン経営者の時代になった。彼らが自由になる金はなくなっていく。これに代わって相撲界を支援したのは、前述の通り出来星の企業。「大相撲の伝統」「日本文化の継承」などの言葉が、彼らから出てくるはずもない。
地方でも、「土地の顔役」的な存在は減っていった。地方の経済的な減退、そして相続税などによる資産家の小型化。巡業が少しずつ売れなくなっていった。
若貴時代、相撲界は人気絶頂にあったが、そのときすでに相撲界とそれを取り巻く環境はきしみを立てていたのだ。

飲酒運転が厳しく規制され始めたのはいつごろからだったろうか。社会は大きく変わろうとしていた。世の中には、法律とは別の『社会規範』が存在したが、それがいつの間にか消えて、「遊びのない社会」が出現していた。「相撲界だけで通用すること」など、もはやなくなっていたのだ。
破滅への道が始まっていることを、相撲界の経営者たちは全く理解していなかった。小手先の糊塗策を繰り返すうちに、相撲界は社会の信用を失いつつあった。外国人力士の台頭は、相撲の伝統を脅かした。しかし、それは外国人力士の問題と言うよりは、彼らを甘やかしてきた相撲界の問題だ。
そんな時代を経て、巡業は今や息絶える寸前になっている。本場所は閑古鳥が鳴いている。そして力士たちはスキャンダルにまみれている。ひとり土俵をささえてきたのが、朝青龍だ。日本とは縁もゆかりもない外国人が、無人の野を行くように勝ち進む中で、「何をしても良いのだ」と思ったとしても、だれが責めることができよう。「相撲の伝統を理解していない」と彼を攻撃するのは全くのお門違いだ。モンゴルの高原で通用した常識が、日本でも通用する。それが彼らの現状認識だっただろう。

昨夜、朝青龍は少し涙を浮かべながらもさばさばした表情で引退を表明した。師匠の高砂も粛然としていたが、久々に子弟は心が通ったのではないか。彼らは、自分たちがなぜこんなことになったのか理解できない、という思いだったのではないか。

「もののけ姫」というアニメで、イノシシの頭目である乙事主は、眷属たちを前に、「みんな体が小さくなって、馬鹿になっちまって」と嘆く(声は森繁久弥だ。)まさに、今の相撲界の指導者がそれだ。
変わろうとする社会から目をそらして、内向きの平穏だけを求め続けた果ての今日の出来事だ。この引退の意味するところは大きい。MLBでいえば、ブラックソックススキャンダルに匹敵する打撃だ。ケネソー・マウンテン・ランディスが出ない限り、相撲界は自壊するのではないか。

良く似た体質の組織は、日本には数多く存在する。NPBもその一つだ。そして、それは日本人の劣化の象徴であるような気がしてならない。

私のブログサイトにもお越しください
NPB各球団の新外国人比較パ・リーグ
http://baseballstats.jp/?p=1756

posted by khiroott |01:52 | その他 | コメント(10) | トラックバック(0)
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「最近の若い者」は紀元前からの伝統ですが、この所いい歳をした大人までもがなんというか。
一億総白痴化を唱えた方が誰だったか思い出せまそんが慧眼だったかと…

もう相撲協会だけではなく日本という国のほとんどが期待出来ない。

posted by きょーすけ | 2010-02-05 02:34

何だか分からない悲しさ

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偶然目にして、一息に読みました。朝青龍関への批判を正面から押し戻す言葉も見つからず、つい、まわりと口をそろえて「しかたがない」といいそうになりますが、いや、待てよと思い直します。なんでしょう、この悲しさ。相撲協会は、横審は、一体何を守ろうとしたのか。そんなものがいま、どこにあるのか。

posted by Hino | 2010-02-05 04:00

大相撲が壊れていく

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伝統とはなんでしょうか。大相撲には伝統を守ってほしいと考えてます。ルールにはない部分を含めてです。どっかの大関が最多勝利を更新しましたが、予定調和の8勝7敗でずるずる大関を続けた結果でしょう。本来とっくに引退をすべき関取だと思いますが。身を引く、引き際とかも日本の伝統ではないでしょうか。タニマチ等の関係でお金も関係してやめれないとかもあるんでしょうが。せっかく現代でまげをゆい、ゆかたで外出など時代を超越しているので相撲だけではなく、日本人の美学等も守ってもらいたいのです。あと、相撲が国技とかいう人もいて日本人でも相撲に対する知識とかが希薄ですね。30年後とかもうないかもね。

posted by あきらめた | 2010-02-05 04:46

大相撲が壊れていく

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私も相撲を見始めたのが柏戸、大鵬の時代からですが、朝青龍は今まで私が大好きな横綱の三人の中の一人でした。
朝青龍の勝負にかけるものすごい気迫は、見ている私もパワーをもらいました。
今回の引退は非常に残念!!
また当分、相撲に興味がなくなってしまう。

posted by インディアン | 2010-02-05 04:57

大相撲が壊れていく

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寂しいです。
強い日本人横綱が1-2人いればこんなことにならなかったのに。
事情のはっきりしない暴行事件なのに重すぎます。

posted by 朝 | 2010-02-05 09:10

大相撲が壊れていく

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体力不足が原因で引退する横綱はおおいけど、精神力不足で引退する横綱は珍しいですね

花道で繰り返されるガッツポーズみても、余裕がないことの現れであり、精神力が低下してるんだな・・・と思っておりましたから。

posted by 谷風 | 2010-02-05 09:45

大相撲が壊れていく

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もう壊れてるでしょ。

posted by P | 2010-02-05 10:29

広い視点と深い洞察に感銘しました

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興味深く拝読しました。
時代の流れで、豪傑が生まれにくくはなっているでしょうね。
時代に合わせた相撲界に変わらねばならないところもあるのだと思います。
観客も、相撲に何を求めるのかを考えるきっかけになったかも。

posted by すずき | 2010-02-05 12:55

大相撲が壊れていく

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横綱審議委員会の面々が勝ち誇ったような顔をするのは、けしからん話だと思います。大相撲界の危機を、この老人たちに託すことはできないと思います。

posted by khiroott | 2010-02-05 23:33

大相撲が壊れていく

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日本人の心が壊れていく今だからこそ、その心をかたちとして残した伝統がますます尊くなるのではないでしょうか。

伝統と言うと老人達の陰気くさい難しい顔を思い浮かべがちですが、彼らも価値があるから守ろうとしているわけです。現在の汚濁した相撲界にも、よく見れば若々しい美しい流れを感じることもありますよ。

引退した横綱の分も頑張ると決意した白鳳の涙。

先輩横綱に感謝し恩義に報いんと決意した言葉に、日本人より日本人らしい伝統文化の心を感じました。

posted by げし | 2010-02-06 00:24

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