2007年10月30日

【編集部発】ジョージワシントン合掌……

 天皇賞(秋)が行われた28日、海の向こうのアメリカでは米国競馬最大の祭典・ブリーダーズカップが開催されました。
 今年の舞台は、ニュージャージー州のモンマスパーク競馬場。今年から新たな試みとして、BCジュヴェナイルターフ、BCフィリー&メアスプリント、BCダートマイルという3つのカテゴリーを追加し、2日間に渡って開催されることになりました。

 各カテゴリーの王者を決める全11レースの中でも、やっぱり注目を集めるのが、米国競馬でのチャンピオンカテゴリーであるダート2000メートルの「クラシック」。例年、高い確率でこのレースの勝者が年度代表馬に選出されており、まさにチャンピオン決定戦と呼ぶにふさわしい大一番です。
 注目はBCジュヴェナイル、ケンタッキーダービー、BCクラシックの完全制覇という前人未到の快挙を狙っていたストリートセンス、そのケンタッキーダービー馬を米国三冠の第二冠目・プリークネスSで撃破したカーリン、前哨戦でストリートセンスに土をつけたケンタッキーダービー2着のハードスパンに、8月のGIでカーリンやハードスパンを破るなど成長著しいエニーギヴンサタデーら強力3歳馬勢。それに対抗する古馬代表として、今年GI2勝の4歳馬ローヤーロンが立ちはだかるという図式でした。

 泥んこ馬場の中、勝ったのは4番人気のカーリン。道中は中団のポジションから3~4角で一気に押し上げ、直線入り口で先頭に並びかけると、直線は力強い伸び脚で2着に逃げ粘ったハードスパンに4馬身半差をつける快勝でした。
 カーリンはプリークネスSのほか、古馬混合のジョッキークラブGCではローヤーロンを破っていますし、これで今年GI3勝目。勝ったレースの格、負かした相手関係からも、今年の年度代表馬はカーリンでほぼ決定ではないでしょうか。
 ちなみにカーリンの父スマートストライクは、今年のBCターフで凱旋門賞馬ディラントーマスを破って勝利したイングリッシュチャンネルの父でもあります。産駒が同一年のBCクラシックとターフを制覇というのも、とてつもない快挙だと思います。さらに、2003年ジャパンカップダートでアドマイヤドンをハナ差退けて優勝したフリートストリートダンサーも同馬の産駒。思えば、フリートストリートダンサーも不良馬場の中をレコード勝ちでしたし、スマートストライク産駒は不良馬場に強いのかもしれませんね。いずれにせよ、この2頭の活躍で、来年からの種付け料がグーンとアップしそうですね。

 逆に、この不良馬場に泣かされたと思われるのが、1番人気のストリートセンスです。2歳時にも不良馬場で3着に敗れていましたし、同馬としては良馬場で競馬がしたかったことでしょう。直線はまったく伸びがありませんでしたものね。
 ちなみに、ストリートセンスはこのレースを最後に、ハードスパンとともにダーレーで種牡馬入りするとのことです。

 また、このレースで大変残念な出来事がありました。

 アイルランドから遠征してきたジョージワシントンが最後の直線で故障し(右前脚の種子骨骨折など)、安楽死処分となりました。
 半兄に2002年のワールドシリーズ・レーシング・チャンピオンシップ総合優勝、ならびにカルティエ賞最優秀古馬に輝いたグランデラを持つ、デインヒル産駒の良血馬ジョージワシントンは、2005年にデビュー。世界の競馬界で、ドバイのマクトゥーム一家と肩を並べる勢力を持つクールモアスタッド所有馬としてデビューしました。
 もちろん、管理調教師となったのはクールモアお抱えの若き天才トレーナー、エイダン・オブライエン。この血統からも期待は相当大きかったことが想像されますが、ジョージワシントンは期待に応える走りを見せてくれます。
 初戦こそ3着に敗れたものの、2戦目からは圧勝の連続でGI2つを含む4連勝。カルティエ賞最優秀2歳牡馬に選出されました。

 明けて3歳、いきなりの初戦となったGI英国2000ギニー(日本では皐月賞に相当)では、後の英国ダービー馬であるサーパーシーを難なく撃破してV。続くGI愛国2000ギニーは不良馬場の影響もあって2着に敗れて、その後休養に入りましたが、休み明けのGII戦を3着(出遅れが響いた)の後、GIクイーンエリザベスII世Sでは愛2000ギニーで敗れたアラーファに雪辱するとともに、GI2つを含む5連勝中の古馬代表リブレティストを負かしての復活優勝でした。
 その後の米国BCクラシックは6着だったものの、カルティエ賞最優秀3歳牡馬を受賞して種牡馬入り。このまま2世を世に送り出しながら余生を過ごすはずでしたが、生殖能力に問題があることが分かり、今年の6月から現役にカムバックすることになったのです。

 復帰後、欧州で芝1600メートルのGIを2戦と、2000メートルのGIを1戦走ったものの3着が最高。そして、2年連続の出走となったこのBCクラシックが最後のレースとなりました。

 一度は引退したものの、生殖能力の問題により、再び現役、そして非業の死……。サラブレッドは敏感な生き物です。一度引退したわけですから、ジョージワシントン自身、もう1度戦う気持ちを呼び起こせなかったのかもしれません。その中で突然の死を迎えてしまった彼のことを思うと、言葉が見つかりません。

 クールモアグループは世界最大級の馬主・生産者グループですし、種牡馬としての働きが見込めないからと言って、現役馬に戻さなければならないほどお金に困っているはずはありません。
 「もう1度見たいと思っていたファンのために、競走馬としてジョージワシントンを復帰させます」と言えば、聞こえはいいかもしれませんが、一度引退させておいて、また復帰させるというのは、あまりにも人間側の勝手が過ぎます。

 もし、復帰させた後も変わらぬ強さで連戦連勝を続けていれば、復帰させて正解だったとなりますし、これは結果論でしかないというのは分かります。
 でも、これだけの功労馬なんですから、生殖能力に問題があると分かっても、ゆっくりと余生を過ごさせてあげることはできなかったのでしょうか。サラブレッドという生き物は、結局のところ経済動物でしかないのでしょうか。

 今はただ、ジョージワシントンが安らかに天国へ旅立っていくことを祈るばかりです。

(スポーツナビ競馬担当A)
 

posted by スポーツナビ編集部 |20:52 | 海外競馬 | コメント(0) | トラックバック(0)
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