韓国スポーツ考察(旧「データから見る韓国野球(2013年度版)」)

バドミントン韓国代表イ・ヨンデのドーピング問題

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☆追記
4月15日、イ・ヨンデとキム・ギジョンの選手資格停止が解除されました。

http://www.jiji.com/jc/c?g=spo_30&k=2014041500446


今年の1月、北京五輪のミックスダブルスで金メダル、ロンドン五輪の男子ダブルスで銅メダルを獲得する活躍をしたバドミントン韓国代表選手イ・ヨンデ(サムソン電機)及び同じく代表選手のキム・ギジョン(サムソン電機)がドーピング検査の手続き規定違反によって選手資格を1年間停止される出来事が起こった。大会に出場停止となるだけでなく、国家代表や所属チームでの練習も禁止されることになる。WADA(世界アンチ・ドーピング機関)によって勧告を受けたBWF(世界バドミントン連盟)によって処分が下された。
五輪メダリストのイ・ヨンデは勿論、当時男子ダブルスの世界ランキング5位だったキム・ギジョン(ペアはキム・サラン)も今年の仁川アジア競技大会でメダル獲得が期待される選手であり、大きな波紋を呼んだ。

<参考>東亜日報日本語版の記事
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2014012987478

今回の処分は違反薬物の服用によるものでなく、抜き打ち検査忌避が18ヶ月内に3度あったことが規定違反となったためであるという。国家代表選手などは競技会場以外でもドーピング検査を受ける場合があり、検査対象者登録リストに登録された選手はADAMSというWEBシステムを通じて居場所情報を提出する必要がある。居場所情報は自宅だけでなくトレーニング場所や宿泊地、競技会の情報なども入力しなければならない。
規定違反となった過程を韓国での報道内容を元に整理してみよう。

<参考記事/韓国語>
http://xportsnews.hankyung.com/?ac=article_view&entry_id=413868
http://www.mediatoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=114583

Ⅰ.2013年3月
WADAの検査官がドーピング検査のため、ソウル市の泰陵選手村を訪れるが、両選手が不在で検査を実施できず
→国内大会の日程が終わり所属チームにいたが、申告していたトレーニング場所が代表の練習施設である泰陵選手村となっていた

Ⅱ.2013年9月
居場所情報の入力が遅れたためWADAからメールで通知があった

Ⅲ.2013年11月
WADAの検査官がドーピング検査のため、ソウル市の泰陵選手村を訪れるが、両選手が不在で検査を実施できず
→韓国オープングランプリゴールド2013に出場のため全州に滞在していたが、競技会出場の情報を入力していなかったため、検査官が泰陵選手村に来た

Ⅳ.2014年1月13日
WADAから勧告を受けたBWFにより両選手が呼び出しを受け事情聴取

Ⅴ.2014年1月24日
BWFが両選手に対する処分を発表


韓国の報道にあるように、実際に違反薬物を服用していたら転戦しているどこかの大会で引っかかるだろうから、その可能性は低いとは思う。とはいえ、規定違反をしているので薬物服用を疑われても仕方が無く、WADAの勧告を受けて1年の選手資格停止を宣告したBWFの対応は適切であったと言える。この他、3月にBWFは韓国バドミントン連盟に対して選手の管理義務を怠ったことを理由に罰金4万ドルを科している。

<参考記事/韓国語>
http://www.yonhapnews.co.kr/sports/2014/03/28/1007000000AKR20140328197000007.HTML

この事態に対して2014年1月28日、韓国バドミントン協会は記者会見を開いた。
記者会見では今回の問題が発生した経緯を説明し、協会のキム・ジュンス専務理事はそれに関する釈明を行った。しかし協会側がWADA規定を根本から理解できていないことが明らかとなる結果となった。
釈明の内容を以下に記す。なお矢印以下は筆者の所感である。

<参考記事/韓国語>
http://sports.chosun.com/news/ntype.htm?id=201401290100273240017320&servicedate=20140128
http://news.donga.com/3/all/20140128/60458597/1
http://xportsnews.hankyung.com/?ac=article_view&entry_id=413868

○居場所情報の入力は選手の代わりに協会が行っており、今回のことが原因で選手たちが仁川アジア競技大会に出場できなくなったら協会の責任。

○イ・ヨンデとキム・ギジョンは多くの国際大会でドーピング検査を通過しており、禁止薬物服用の事実が摘発された訳でなく、検査を受けなかったことも意図的な検査回避ではない。大会参加の日程と抜き打ち検査が重なって起きたことだ。スポーツ仲介裁判所(CAS)に控訴する準備がある。(その後、実際に控訴)
→大会参加と抜き打ち検査が重なったのは居場所情報の入力を怠ったため。このような事態を避けるために入力が義務づけられているのを理解していない。

○3回までは余裕がある(=3度目でアウトになる)ことは知っていたが、書面による通知(=2013年9月の居場所情報未入力に対するメール)が含まれることは知らなかった。
→規定をきちんと理解していればわかる。

○夜10時に家で(韓国の女子選手が)ドーピングテストを受けた事例がある。これは選手の私生活に影響を与え不合理。BWFを通じてWADAに訴えかける必要がある。
→韓国だけでなく全ての国が同じルールの下で実施している。仮に問題があると主張するなら、以前から提起しておくべき。


以上、韓国での報道を追っていったが、ひとつ疑問がある。今回の出来事を韓国バドミントン協会の不手際だけで片付けてよいのか、という点である。
今回は明らかに協会側に落ち度があったとはいえ、委任した場合であっても規定不履行の最終的な責任は選手自身が負うことになる。特に過去に2大会連続で五輪に出場してメダルを獲得しているイ・ヨンデですらこのようなミスが起こったことに対しては、これまでKADA(韓国ドーピング防止委員会)が選手に対してきちんとアンチ・ドーピング教育を施していたのかという疑問を感じる。
多くの報道では言及されていないので真相は不明であるが、中央日報(韓国語版/日本語版)では、3月と11月にWADAの検査官が訪れたことは協会が選手にも連絡したと書かれている。

<参考記事>
http://japanese.joins.com/article/191/181191.html(中央日報日本語版)
http://article.joins.com/news/article/article.asp?total_id=13763866&cloc(中央日報韓国語版)


もしそうであるとして、WADAの規定を選手が熟知しているなら、3月の段階できちんとバドミントン協会に働きかけるなり、自分でもある程度管理するよう変更するなり、何か対策の取りようがあったように思う。KADA及び協会による選手に対する教育も見直されるべきであろう。
そしてこれはバドミントンだけでなく韓国スポーツ界全体の問題でもある。韓国は2014年からWADAのアジア地域理事国のうちの1ヶ国となっている。

<参考記事>
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/11/05/2013110501767.html(朝鮮日報日本語版)

理事国であろうがなかろうが規定を守るのは当然であるが、理事国であればより責任をもってアンチ・ドーピングに取り組んで欲しい。
今回、見方によっては確かに選手は被害者であった。しかし韓国メディアは協会批判、選手擁護という論調がほとんどであり、今回の件を扱った記事で韓国がWADA理事国になったことにも言及しているものは現時点で見ていない。
WADA理事国となり、今年は仁川アジア競技大会も開催される韓国は、体育団体、選手ともにアンチ・ドーピングに対する取り組みや意識を見直し、他国の模範となるよる努力する必要があろう。メディアも今回の出来事を単なる一団体の責任で片付けるのではなく、これを契機としてアンチ・ドーピングを積極的に啓発していくことが求められるのではないだろうか。


それでは今後、具体的にはどのような取り組みが求められるのか。
ひとつモデルとなり得るのは日本のケースである。JADA(日本アンチドーピング機構)はホームページ上で漫画を交えたわかりやすい解説をしている。また知識を確認するクイズにも漫画が付けられている。未成年者であっても検査対象者となるため、それに配慮したものと見られるが、ジュニアの時代からアンチ・ドーピングに対する知識を身につけさせることは重要であろう。

もう一つ注目されるのは、これらの漫画には実在するJADAアスリート委員が登場していることである。JADAアスリート委員は五輪等に出場経験がある元選手及び現役選手12名で構成されている。JADAのホームページでは、「JADAアスリート委員は、アスリートの立場からアンチ・ドーピングの意見を提示し、かつアンチ・ドーピングのメッセージを発信する12名の委員です。アンチ・ドーピング活動に賛同し、『真のチャンピオン』を目指すアスリートを増やすため、教育啓発活動を行っています。」と説明する。
アスリートはドーピング検査の対象であるだけでなく、自身の立場から主体的にアンチ・ドーピングを啓発してもいくという姿勢を明確に示している。

<参考>JADAアスリート委員の概要と委員紹介
http://www.playtruejapan.org/guidebook/story/about/


KADAのホームページでも探せばアンチ・ドーピングのクイズがあるが、それはWADAのクイズそのものである。一問回答するごとに言語を韓国語に設定し直さなければならない。また委員として名を連ねている面々も日本のアスリート委員のような比較的現場に近い立場の人間が含まれていない。

ソウル五輪をひとつの契機として韓国スポーツ界は大いに発展してきたが、「真のチャンピオン」であるアスリートを育むための教育活動、啓発活動に関しては、日本のように努力や工夫を重ねていくべきである。

韓国スポーツ界においてイ・ヨンデは人気選手であり影響力も大きい。
できれば今回の懲戒処分によってではなく、啓発活動において彼がアンチ・ドーピングの大切さを教えてくれていたら、と残念に思う。


☆JADA(日本アンチドーピング機構)のホームページにあるわかりやすいクイズや解説
http://www.playtruejapan.org/guidebook/story/rtp/page2/
http://www.playtruejapan.org/guidebook/story/



☆お知らせ
野球に関する記事は現在「データから見る韓国野球(2014年度版)」にアップロードします。

☆4/15追記
ブログで扱った矢先、イ・ヨンデとキム・ギジョンの選手資格停止が解除になりました(笑)
ただこれ、笑い事じゃなくて、今回の騒動を機に、韓国スポーツ界はきちんとアンチ・ドーピングへの取り組みを強化すべきだと思います。

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記事カテゴリ:
ニュース、その他スポーツ等
タグ:
キム・ギジョン
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アジア競技大会
ドーピング
アンチ・ドーピング

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伊達と申します。学生時代韓国に留学したことがきっかけで韓国野球に関心をもつようになりました。
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韓国メディアが積極的に外国語で情報を発信する一方で、日本や中国のメディアなどでもそれぞれの立場から韓国スポーツの話題が積極的に取り上げるようになりました。しかしどちらも表面的な報道が多く、その本質に迫っているケースは少ないように感じます。
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