2008年12月13日

遠藤は水を運ぶ人になれるのか

4つのスピード

近年のサッカーで重要なのはスピードだと言われる。
山本昌邦氏によれば、それはさらに3つに分けられる。ランスピード、シンキングスピード、パススピードである。
私は最近のサッカーではこれにファーストタッチ、ボールコントロールスピードも別個に設けた方がよいのではないかと思う。良く「1タッチで裏に抜け出す動き」と言われるヤツが分かりやすいだろうか。
ここ1~2ヶ月ほど、近年に無いほど国内リーグを見る割合が高い。その理由はスペインリーグが余り魅力的ではなくなってきたからだ(その話はまた別の機会にしよう。)
そしてたまに海外の試合を見る。すると一番驚くのはなんと言ってもそのスピード、試合展開の目まぐるしい変化の速さである。
現ガンバ大阪監督の西野氏がオリンピック代表監督を務めていた時、ブラジル五輪代表を見て「3倍速のビデオを見ているようだ」と話していたが、感覚としてはまさにそれが正しい。
私には「同じ競技とは思えない。」日本のフットボールは「違うサッカー」なのだと気付かされる。その印象は今も昔も変わらない。勿論だからJリーグは詰まらないと底の浅い事を言うつもりは無い。私のサッカー観戦仲間とも話すのだが、「欧州サッカーと違いテンポがゆっくりの方が落ち着いて見られる」と言う理由で日本サッカーを好んで見る場合すらある。別の競技としてそれはそれで楽しめるのである。
ただ両者が真剣に雌雄を決するとなると、日本人としてどうひいき目に見てもやはり分が悪い。
圧倒的な初速、判断力、キック力、ボールコントロール速度の前に、日本の選手はひたすら自らが経験してきた「サッカー」の速度差を埋めようと、無駄に脳と身体を疲れさせてしまう。ここで言う『無駄』とは、誰でも初体験の行動は気を使い疲れるように、経験さえあれば消耗せずに済むという意味だ。
そしてこの4つのスピードはオシム氏も語るように同時に行える必要が年々高まっている。
要するに、『①トップスピードで疾走しつつ、②最短最善の状況判断に基づき、③最速のパスを、④最良の位置にコントロールする選手』でないと世界のトップクラブでは居場所が無くなるという末恐ろしい話である。


スピードの次の戦い

近年のプレミアなどを見ていると、トラップ、シンキングスピードは、(以前からサッカーを見ている私には)既に人間の反応の限界に到達してしまったか、限りなく近づいている気すらしてしまう。

強豪クラブ同士の対決では、4つのスピードを持つのは既に当然。次はそれを如何に『ハイプレッシャーの中、90分間持続させるか』という過酷極まりない戦いを繰り広げている。

岡田監督が、「呼吸商」というデータを導入するのはこの「後半の集中力」の削り合いに着目している証拠ではある。方向性は勿論間違っていないが、どれだけ優秀な体力、集中力、持続力を持ち合わせようと、大事なのはその使い方である。
完璧な90分間を生む事は誰にも出来ないし、もしそんな事が可能だとしたら、プラティニの言う通り、「全ての選手が完璧なプレイをしたらスコアは永遠に0対0」で、多分サッカーは退屈なものになってしまうだろう。

雑感として、日本代表は本当の強豪、即ちビッグネームの代表がコンディションとモチベーションを整えて臨んできた試合では、大概前半30分を持たずに先制される。これは不意を突かれたと言うより、この30分でまさに失点するほど「疲れさせられた」場合すらある。更に悪い事に、気持ちの入りすぎた日本が飛ばしすぎ、30分間で自滅してしまうパターンもある。
岡田監督がどれだけ工夫を重ね、選手の集中力消耗を軽減しようと、私にはこの30分をせいぜい45分に伸ばせたら素晴らしい成果だと思う。どちらにせよ前半中には失点することに違いは無い・・・・。そして強豪国相手に先制を許せば、それはほぼ敗北が決定したと言う事である。


専門家にならざるを得ない

本日の朝日新聞には稲本を語る記事があった。欧州に渡って8年。彼は守備のスペシャリストとして、1対1に磨きをかけチームの信頼を得ていると有った。
この記事を見て思ったのは、日本人は欧州では何かに特化しないと生き残れないという事実である。在日時から稲本は守備に活力のあるプレイヤーだったかも知れないが、それに増して攻撃での活躍も彼を印象付けていた。
しかし欧州の過酷な生存競争に晒される中、日本人のレベル(フィジカルや語学、国籍ハンデなど背景全てを含む)では外国人枠という立場も有ってか、「何でも屋」オールマイティにレベルの高い選手。としては生き残れないのである。

確か今期昇格したモンテディオ山形の小林 伸二監督が
『うちでは守備も攻撃も上手い選手は獲得できない。どちらかしか出来ない選手をうまく組み合わせてチームを作るのが監督の仕事』と語っていた。
言うなれば、欧州で生き残っている日本人選手はこのレベルである。
彼ら欧州組みのパフォーマンスには敬意を払っているし、スペシャリティを身につけ助っ人として居場所を確保していることには素直に頭が下がる。
だが自分が監督として起用する立場になると、相手次第で出したり引っ込めたり、使い所の難しい選手となり必ずしも万能ではない。
稲本なら中盤でのエースキラー、中村ならセンタリング、松井ならサイドをえぐる、中田浩二なら左サイドの抑え。彼らはチームを機能させるためのパーツに過ぎず、圧倒的に必要なチームの心臓部にはなれない。

稲本を機能させるには彼の攻撃面を補えるだけ能力の高いボランチが必要だし、中村にはボールポジッションを維持できるチーム総合力と優秀なFW、松井には巧みに彼を使いこなす指揮者か、強力にバックアップできるサイドバック、中田には一人でこじ上げられるウイングか、値段のつく運動量と攻撃性を持った右サイドバック、が必要だ。


欧州組の女房役が居ない

彼らが日本代表に入ったとき、最高のパフォーマンスを出すのには、各所属クラブ以上の仕事をして貰うのが一番だ。だが、それは他選手との相性や動機、コンディションなどがピタリと一致しなければ難しい奇跡と言うものである。まずはクラブチームで彼らがこなす役割と同一のものを代表で発揮できる。そんな環境整備に注力する方が現実的である。しかし、上の4人見てもらえば分かるが誰一人として共存しないのである。彼らを使う為に必須の対となるパーツは日本には無い。もし日本にセスクが居るならば稲本は存分に存在価値を発揮できるだろうし、アネルカやアデバヨールが居れば中村の左足は報われる。
夢のような高望みを止めにしても、日本国内の選手は大半が欧州サッカーの経験が無い。欧州サッカーを知らなければ必然的に欧州組がどんな特性のパーツなのか本当には分からない。これは致し方ないことではある。Jリーグとは必要なパーツ自体が異なるのである。
だが岡田監督は普段Jリーグという「別のサッカー」での役割をこなしている彼らから欧州組の相手役を選定せざるを得ない。4つのスピードに慣れる欧州組を用いるにしてもその生かし方となると、何とも苦しすぎるのである。これが欧州組が代表にフィットしない、コンディション以外の要因である。単純計算でフィールドプレイヤー10人の半分である5人を超える欧州組が生まれれば、欧州サッカーを基本とした日本代表を作れるかと言えば、この「パーツの相性」の問題がそれを阻んでしまう。欧州組が日本サッカーと宝(必ずしもそうではないが)と仮定すれば、その女房役の欠如。これが日本サッカーの課題の一つである。代表は宝の持ち腐れを起こし、監督は苦渋の決断で必要以上に国内組を優先せざるを得ない。オシムはチーム初動期間に敢えて欧州組を招聘せず、「欧州組は私の代表では新しいパーツになれ」と所属クラブ以外の生き残りを求めた。だかこの手法は欧州組の適応能力の潜在量を的確に把握した上での洗練された融合技術であり、全ての監督が行えるベーシックな芸当ではない。
目の前の岡田ジャパン。ここはフィジカルで最もハンデのあるFWに関しては諦め、『FWだけが足りないフランス』のように「FW不足のジャパン」と呼ばれる位置を(まずは)目指すとしても、中田や稲本の守備と、中村・松井の攻撃を繋ぐ選手が必要不可欠なのである。


遠藤は水を運ぶ人になれるのか

その現時点での最有力は以前当ブログで「攻撃センスなし」と書いたガンバ大阪の主役、遠藤選手である。
オシムに訳の分からぬFW起用をされている姿を見て、当時は『何故(センスの無い)遠藤を?』と思いもしたが、
Cロナウドがウイングとして地位を築いた後、更にゴールゲッターとして開花したように、オシムは年齢的には伸び白に疑問符の付く遠藤を慣れないFWで虐め抜くことで、資質を刺激していたような気がする。その甲斐あってかG大阪のFW不足か先のACLで遠藤はFWに近い役回りをこなしていた。何やらここ1・2年彼のポジションは徐々に上がっている気がする。献身的な運動量(を提供しようと言う姿勢)、流れを読む目、粘り強い精神力など彼が持つ能力は決して低くない。
ただPKに代表される動かないプレースタイル(観察眼の高さに頼りすぎるプレー)をオシムは咎めると言うか惜しんでいたのだと思う。「遠藤が動くようになれば使える」と考え、彼に黒子をさせようとプランしていたのではないだろうか。
使われる側と使う側の両方の立場を経験した彼こそ、欧州組に水を運ぶ選手となるに相応しいのかも知れない。
明日のクラブW杯、遠藤選手の活動の量と質に注目して観るのも面白い。

12/14加筆・修正しました。

posted by karakuti |07:55 | 日本サッカー | コメント(6) | トラックバック(0)
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遠藤は水を運ぶ人になれるのか

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僕は、中村俊輔は攻撃に特化した選手だったけど、それじゃあ欧州じゃ通用しないので、運動量や守備力を上げて勝ち抜いたんだと思います。そして、もう一人、欧州で活躍する長谷部も、オールマイティに色々こなせる選手です。さらにアジアナンバーワンと言えば、パクチソンだと思うんですが、彼も総合力(特に運動量)が素晴らしい。今やマンUになくてはならないくらいの存在になってしまった。

結局、何かに特化しただけじゃ、勝ち残れないんだなぁと、松井や稲本を見てると思うんですが、どうでしょうか。で、水を運ぶと言うのが、どういう意味なのかは、知らなかったりするんですけど、やっぱ中盤でゲームメイクするのは、長谷部だと思います! 以上、長谷部好きでした。。

posted by KASHIMA | 2008-12-13 12:30

コメントありがとうございます

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KASHIMAさん
中村が献身的に守備をこなそうとしている姿を見ると確かにそう思いますね。
オシムも代表に呼んで見たら中村が思いのほか走るので驚いていたようです。
パクチソンも最近怪我が多くて残念ですが、大好きな選手の一人です。
実は私も水を運ぶというのは余り意味が分かってないんですよ(笑)。
縁の下の力持ちとか裏方、黒子的な意味でしょうか。

posted by 管理人 | 2008-12-13 22:37

遠藤は水を運ぶ人になれるのか

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おひさしぶりです。

俊輔の運動量は素晴らしいと思いますが、セルティックの中心選手になった理由がそれかと言われると、少し悩んでしまいます。
ましてや守備力については、個人的には下手なままだと思いますね。
CLで守備に回った際、何回ちんちんにされるのを見たことか。
ミランには「中村は守備面の穴だから狙った」と言われるくらいですし。

俊輔がセルティックで中心選手になった理由は、やはり右サイドでのプレーに技術的にもメンタル的にも慣れたからでしょう。
その結果、右足を徐々に使えるようになったのが大きかったと思います。

セルティックに来る前はトップ下や左サイドはやっても、右サイドをやったことはなかったはず。
しかし、セルティックではトップ下ではなくスペースのある右サイドに配置されました。
そこで、ゲームメイクやクロスを上げることを覚えた。

元々レフティーだから中へ切り込むことは容易だし、右サイドで左足を使ったクロスだけでなく、右足でもクロスを上げることが出来るようになったのが大きかった。

そういう意味では、俊輔は管理人さんが仰るように、専門家として生き残ったと思っています。
クロスとFKの。

ただ、専門家として存在するだけでは、CLで活躍できないのは、この4年間が示す通りです。
CLを合計約30試合経験した俊輔が、FK以外で存在感を見せたのは、2007-08シーズンのホームでのミラン戦くらい。
ただ、あのときのミランは調子最悪でしたし。

この前のホームでのビジャレアル戦も良かったですが、グループリーグ敗退が決まった後だし、ビジャレアルもベストメンバーじゃなかったしね、、、、、

長谷川は、日本だとオールマイティーな印象ですが、ブンデスリーガでは明らかに守備の専門家としての起用です。
ですから、負けてて点を取りに行くときには途中で引っ込められる。
もちろん、今後攻撃面でも特徴を発揮して欲しいし、その可能性も十分あると思いますが、いまはまだ「専門家」だと思います。

posted by ジダ | 2008-12-14 16:09

コメントありがとうございます。

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ジダさん
こちらこそお久しぶりです。こんなおさぼりブログにまた訪問頂けて嬉しい限りです。
中村と長谷部が専門家であると援護射撃?を頂きましてありがとうございます。
長谷部は見る機会が少ないのではっきりとした事が言えなくて恐縮ですが、少なくとも昨年は守備のピースとして起用されていましたね。
KASHIMAさんには悪いですが以前の記事の通り私は長谷部には疑問符を持っていますが、それだけにかえって守備力の伸びに驚いています。彼の守備力についてしっかり述べた事は無いですが、今後の活躍次第によっては記事で触れてみたくなるときが来るかも知れません。

中村に守備力関してはジダさんご指摘の通りで、私も先のコメントにありますとおり「献身的に守備をこなそうとしている姿」と述べるのが精一杯(苦笑)なのですが、少なくとも「守備への意識」に関しては上達が見られると思います。
また皆さんも思われているかもしれませんが私は「中村に守備をさせるな」位に(色んな意味で)思っています(笑)。
起用法を見るにストラカン監督もその辺は同じような心境ではないかと勝手に想像してます。
また、レフティーとして注目が強いですが仰るとおり中に切れ込むだけの選手では対策も容易ですから右足での攻撃参加は大きいですね。今度は中村の右にも注目して観ようと思います。

posted by 管理人 | 2008-12-14 18:25

遠藤は水を運ぶ人になれない

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遠藤は中盤の選手の中では、水を運ぶことに最も“適さない”選手です。(俊輔のほうがまだマシ)
遠藤選手は攻撃に専念させ、相方のボランチに「水を運ぶ」選手を配置すれば良い。

それに、「水を運ぶ」の意味も分からない管理人が、偉そうなブログを書いても説得力ゼロ

posted by やま | 2009-01-29 12:02

コメントありがとうございます。

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やまさん
遠藤に関してはクラブW杯を見ていて私もそのように実感いたしました。
説得力ゼロと来ましたか。いや手厳しい(笑)。
「水を運ぶ」という言葉の意味を、自分が分からないのだと分かっている人が
まず少ないと思いますよ。
元々日本発祥の言葉ではないでしょうし、他文化圏の人がどのような意味でこの言葉を用いているのか
私には本質の所はやはり理解できません。

でもまぁ当ブログはその辺りの評価が妥当だと思いますよ。
私の文章力ではそれが限界ですし。
分かる人にしか分からない書き方になってますし。
分かる人にだけ分かればそれで構いません。

言い訳に聞こえるかもしれませんが、
説得力があるかないかは当ブログの価値基準ではないのですよ。
なるべく読み手の為に最低限の説得力は持たせようとしていますが、
本来は説得力を持たせようとした時点で自由にものが言えなくなってしまいます。

posted by 管理人 | 2009-01-29 17:21

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