上田龍の「Called Shot!」日米野球界、快&怪人物列伝

フランクリン・ルーズベルト大統領の「青信号の手紙」

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FDR
(戦時下のメジャーリーグの続行に許可を与えたアメリカ大統領フランクリン・ルーズベルト)

日本軍の真珠湾攻撃で太平洋戦争が勃発してから約1ヵ月後の1942年1月14日、当時のメジャーリーグコミッショナーだった元連邦判事ケネソー・マウンテン・ランディスは、当時のアメリカ合衆国大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルトにあてて一通の手紙をしたためました。

「ベースボール(メジャーリーグ16球団のこと)は、(1942年シーズンの)スケジュールを組み、プレーヤーたちと契約し、トレーニングキャンプに行くための膨大な手紙を作る時期にさしかかっています。大統領閣下、あなたはどうしてほしいとお思いでしょうか? もしあなたが戦争遂行のために、ベースボールの公式戦を中止すべきであるとお思いであるのなら、私たちには直ちにその意思に従う用意があります。もし、あなたがベースボールを戦時下においても続行すべきだとお考えでしたら、われわれは喜んでそうするでしょう。われわれはあなたのご指示をお待ちしております」

その2日後、ルーズベルト大統領からの返事がしたためられた手紙が、ランディスの元に届けられます。

「私は心の底から、ベースボールを続けることが、わが国にとって最良の選択であろうと考えています。(戦時下において)仕事をしていない人々はほとんどこの国にはおりませんし、すべての国民が、かつてないほどに、長時間、しかも厳しい労働を強いられています。ということは、いままで以上にすべての国民がリクリエーションの機会を持つべきですし、またいままで以上にすべての国民がそれぞれの厳しい労働の合間に休息の時間を持つべきであるということを意味するのです。ベースボールは、2時間から2時間半程度の時間しか費やさず、お金の面でも非常に手軽に人々が楽しむことのできるリクリエーションであることが立証されています。また別の見方をするならば、もし(メジャーとマイナーを含めたプロ野球の)300チームが、5000から6000人のプレーヤーを擁しているのならば、少なくとも彼らは、2000万人の市民のためのリクリエーションにおける財産となりうるでありましょう。私自身も、プロ野球選手にはその価値が十分にあると判断しております」

戦時下におけるプロ野球の続行を認めたこのルーズベルトの手紙は「グリーンライトレター(青信号の手紙)」と呼ばれ、現物はクーパースタウンの野球殿堂博物館に保管されています。この大統領によるベースボールへの「お墨付き」には、当時首都ワシントンDCを本拠地としていたセネタース(現ミネソタ・ツインズ)のオーナーだったクラーク・グリフィスの尽力もありました。甥のカルビン・グリフィスによれば、ホワイトハウスを訪ねたグリフィスに、ルーズベルトが「合衆国政府が野球に対してできることはどんなことだろう」と助言を求めたところ、グリフィスは「アメリカ国民のリクリエーションのために、(戦争中も)試合を続けられるよう、野球界に許可を与えることです」と答えたそうです。
もちろん、兵役年齢に達した選手への兵役免除などは与えられず、ジョー・ディマジオ(ヤンキース)、ハンク・グリーンバーグ(タイガース)、テッド・ウィリアムズ(レッドソックス)、ボブ・フェラー(インディアンス)といった当時のスタープレーヤーたちが次々と入隊し、1943年から45年までのメジャーリーグは「老人と子供のリーグ」とまで呼ばれ、著しくプレーや試合のレベルが低下します。輸送制限によりオールスターゲームが唯一中止になったのも、1945年のことでした。

しかし、敵国である日本の為政者たちが「欲しがりません勝つまでは」と、ひたすら国民に忍従を強いて、野球ばかりでなく多くの娯楽を禁止したり制限していたのに対し、アメリカでは大統領が「国民が戦時下で苦しい生活を送っているときだからこそ、娯楽が必要である」と、野球興行の続行を許可していました。日米の勝敗を分けたのは、軍国主義と民主主義という「大義名分」や、物量の差が大きかったのはいうまでもないことですが、もうひとつ、指導者の国民に対する「思いやり」の姿勢の差も少なからず影響したのではないかと、私は「青信号の手紙」の実物を前にして思ったものです。

こうした戦時下のアメリカ野球の苦難と復活までの道のりは、リチャード・ゴールドスタイン著「傷だらけの一頁(Spartan Seasons)」(ベースボール・マガジン社刊)に詳しく紹介されています。野球ファンならば、ぜひご一読されることをお勧めします。




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フランクリン・ルーズベルト大統領の「青信号の手紙」

”ベースボールは、時間の面でも、お金の面でも、
非常に手軽な娯楽だ”と考えて、
メジャーリーグの続行を許可したルーズベルトの対応は、
アメリカらしい合理的な判断だったように思われる。

それに対して
「欲しがりません勝つまでは」という日本政府の対応は、
精神論を重視する、
いかにも当時の日本らしいやり方だったかもしれない。

軍国主義の下、
あらゆる国民生活に及んでいた厳しい統制を緩和し、
息苦しい社会を是正し、
失われていた自由や活力を
取り戻す必要があったかもしれない。

ただし日本が、それだけ追いつめられており、
反対に、大国アメリカには、
まだ娯楽を考える余力があった、と見ることも出来るだろう。

「よく遊び、よく学べ(よく働け)」のアメリカと、
「欲しがりません勝つまでは」の日本。

娯楽に対する両政府の対応の違いから、
国民性の違いが、透けて見える。

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編集プロダクション、出版社で15年間雑誌編集者として勤務後、1998年に独立し、Baseball Contributor(野球記者・野球史研究者)として活動。2008年までスカイパーフェクTV!MLBライブに日本語コメンタリーとして出演。古今東西の野球場スコアボードをイラスト化したサイト「スコアボードノスタルジア」(http://scoreboardnostalgia.com/)に情報提供・運営協力中。同サイトでは震災復興支援のチャリティーグッズ販売も行なっています。※写真は野球殿堂入りした元フィリーズの大投手ロビン・ロバーツ氏(右)と一緒に写る筆者
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