2008年06月19日

●坂本博之「熱導・新世界」 小堀が世界チャンピオンに!

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 小堀が世界チャンピオンになりました! まずは小堀に心からおめでとうと言わせてください。俺が4度挑戦しても取れなかったライト級の世界タイトル、やってくれました。しかも試合を決めたパンチは左フック、俺が得意にしていたパンチだったから、本当に自分のことのように嬉しいです。ガッツ石松さん、畑山(隆則)に続いて日本人3人目の快挙だそうで、俺の代わりに小堀が3人目になってくれました。   小堀の1代前の日本、東洋スーパーフェザー級チャンピオンの本望(信人)と一緒に解説をやらせてもらったんですが、あとでビデオを見てみたら、ついつい感情的になってしまって自分は小堀寄りのコメントばかりでしたね(笑)。  お互いファイター同士だし、とにかく最初の3ラウンドが勝負だと思っていたので、そうしたら本当に3ラウンドで小堀がカウンターの左フックでダウンを取り、そのまままとめてチャンピオンのアルファロを倒してしまいました。  しかも2ラウンドでダウンを取られてからの逆転KO勝利だったから、これを乗り越えた小堀はまだまだ強くなる。試合も2人のパンチが激しく飛び交うスリリングな内容で本当に熱い試合でした。この熱をもっともっと大きくしていってもらいたい、そう思っています。  小堀は、ジムに入門した頃からいつも俺のスパーリングパートナーをやってくれたり、ともに戦ってきた大切な仲間です。左フックの打ち方を教えたこともあったし、昨年の小堀のアメリカ合宿にも同行しました。今回の試合前に小堀が腰を痛めた時は、とにかく安心させてやろうと俺と本望で声をかけたりもしました。  それに小堀は、俺が『こころの青空基金』で活動してるSRS(Skyhigh RingS)にも参加してくれて、埼玉の養護施設に行った時は日本チャンピオンのベルトを持って、「これを世界チャンピオンのベルトに変えてまた来ます」と子どもたちの前で宣言してたんです。だから試合当日の控え室では、「お前、埼玉の子どもたちに約束したよな、覚えてるな。絶対ベルト獲ってこいよ」と最後に伝えました。  試合が終わった時はなかなか実感がわかなかったけれど、小堀がベルトを持ってきてくれた時に、「本当にこいつが俺の獲れなかったベルトを獲ってくれたんだ」と、なんだか感慨深くなってしまいました。  小堀は極めて平凡な男です。持って生まれた才能もあるのかもしれませんが、小堀は地道に努力を重ね、自分の力で強くなり、そして世界の頂上を極めました。  小堀のような男が世界チャンピオンになれたことは、僕は大きな希望を与えることだと思ってます。最近は元気がないと言われる若い世代や、もちろん日本のボクサーたちにも、頑張れば何かを成し遂げることができるんだ、ということを小堀が証明してくれた気がします。  そんな小堀にはとにかくできるだけ長い間チャンピオンでい続けてほしいですね。小堀が世界の舞台で今回のような熱い試合を続けてくれれば、きっと日本のボクシング界ももっともっと盛り上がるはず。僕も微力ながらできる限りサポートしてやりたいと思っています。  小堀、今度埼玉の子どもたちにそのベルト見せてやりに行こうな!


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2008年06月17日

田中栄民の徒然なるまま日々のこと 小堀の世界戦を振り返って(2)

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 レフリーが試合を止めた時は、アドレナリンがバーっと出てきて、とにかく俺も周りもものすごい興奮状態だったな。なんせ世界初挑戦という大舞台で、最高の形でベルトを取ることができたんだから。  しかし結果論で言えばなるようになったという感じだけど、アルファロが来日して公開スパーを見た時に「行ける」と思ったんだ。アルファロはベタ足で思いきり一発一発を打ってくる、分析していた通りのボクサーだった。ただ「小堀とは打ち合わないんじゃないか」などという声もあり、果たして分析通りのボクシングをしてくるのか、それとも裏をかいてくるのか。その判断をしかねていたんだ。  けれど公開スパーでのアルファロは、愚直で武骨だった。裏をかくような器用なことができるボクサーじゃない、そう確信したんだよ。ならば自分たちのやってきたことは間違いない、これなら絶対勝てると思った。  でもね、いくら練習して完璧な作戦や戦略があったとしても、それを実行できなくては意味がない。いくら練習してきたことが正しくても、それを本番でやるのはなかなか難しいところだ。だが、小堀は練習してきたことを試合で忠実に実行できるだけの力がある。そこがあいつの凄いところでもあるんだ。   過去何戦か、特に前回の松崎戦での不甲斐ない試合をした小堀に対しては「もうピークは過ぎた」「あのままじゃ絶対に勝てない」っていうような声も多かったんだよ。それでも俺は心、技、体が揃った時の小堀の強さは本物だと確信してたし、今回の試合でそれを絶対証明してやろうと思ってたし、しっかり証明できたはずだ。  正直言うと、小堀はなるべくしてなった世界チャンピオンだと思う。自然な流れがそうさせたというかね。日本チャンピオンとして過去6度の防衛戦を経験し、その一つひとつの試合で何かしらの課題を得て、モチベーションが上がらず苦戦した過去何戦かでも最低限勝ちを拾ってきた。アメリカキャンプでは世界の実力を肌で知り、世界戦を熱望する小堀の前には強力なサポーターが現れ、ついには試合を実現してくれた。しかもアルファロという非常に小堀と相性の良いチャンピオンとのタイトルマッチ。試合前にケガをしたことまで自分の良い流れに変えてしまったように、今回小堀はそうした運、ラックまでを味方につけていたように思う。  しかし真価が問われるのはこれからだ。年内には指名挑戦者の世界ライト級1位のパウルス・モーゼス(ナミビア)との初防衛戦も決まっているし、今後やる試合はすべて世界タイトルマッチになるわけだから気が抜けないよ。どれだけあいつがチャンピオンロードを歩き続けることができるのか、俺も本当に楽しみだけどな。そして夢はやっぱりラスベガス。小堀の試合は見ていても本当に面白いし、是非ともボクシングの本場でデカイ試合をやってみたい。  とにかく応援してくれた皆さん、本当にありがとう。小堀はまだまだ強くなる。引き続き応援のほどよろしく! 


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posted by 田中栄民 |17:23 | 田中栄民の徒然なるまま日々のこと | トラックバック(0)
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2008年06月16日

田中栄民の徒然なるまま日々のこと「小堀の世界戦を振り返って(1)」

2008 IIHF WORLD INLINE CHAMPIONSHIP
 皆さんもご存じの通り、5月19日にWBA世界ライト級タイトルマッチに挑んだ小堀(佑介)が王者ホセ・アルファロを3回TKOで倒し、ついに世界チャンピオンのベルトを手にした。俺自身、トレーナーとしてこの運命の一戦を終えてようやく落ち着いてきたところ。色々と振り返ってみたいと思う。  これは今だから話せるちょっとした裏話なんだが、実は試合の3週間前にちょっとしたトラブルがあった。小堀が帝拳の(WBC世界フェザー級王者ホルヘ・)リナレスとのスパーの最中に左フックを空振りして腰をケガしてしまい、この大事な試合を直前にして歩くことさえおぼつかないほどの状態。本人もかなりキツそうにしてて、とにかく1週間は練習を休んで完全療養させる緊急措置を取ることにした。  さすが世界戦だけあって万全の状態でリングに上がらせてやりたいが、果たして試合までに回復するのかどうか。例え回復しなかったとしても、もうここまで来たらやるしかない。ジムのスタッフや関係者も気が気でならなかったし、小堀自身も「痛み止めを飲んででもやる」と腹をくくってたしね。小堀は割と試合前にこういうトラブルが過去にもいくつかあって、俺は「毎度のことだし大丈夫」と口では言っていたが、内心はやっぱり心配だったよ。  ところが結果的にこの休養が功を奏した。まず腰の状態がなんとか回復してくれて練習を再開できるようになった。そしてなによりも世界戦に向けて猛練習をしてきたため、この1週間の休養のおかげで溜まっていた疲れがちょうど良く抜けた。最後の1週間ではさらに激しく追い込むことができて、仕上がりにキレが出たね。一時はどうなることかと思ったが、振り返ってみれば、むしろそれさえも小堀が世界チャンピオンになるという流れの中の出来事だったのかもしれない。なぜなら、小堀は今回の試合には過去最高の状態でリングに上がることができたからね。  それでは、俺たちは肝心の試合に向けてどんな戦略を立ててきたか。チャンピオンのアルファロというボクサーは武骨なパンチャー、言ってしまえば一発屋だ。技術よりもハートと勢いでのし上がってきた選手だな。  こうしたタイプのボクサーは小堀にとっては相性の良い、戦いやすい相手だ。小堀はファイターだが、カウンターボクサーでもある。回転力を活かしてラッシュを仕掛けながら、タイミングでカウンターを取っていくというのが必勝パターンだから、とにかく打ち合いになれば滅法強い。  それでは、俺たちはどんな作戦でこの試合に挑んだのか。まず基本は常にワンツーで入っていくこと。そして向こうが打ってきたところを右ストレートから左フックのコンビネーションでカウンターを取っていく。アルファロの一発は怖いが、打ち合いとなれば小堀の方が回転は速いし、あいつはスピーディーなコンビネーションの中にも細かいフェイントを入れたり、そういう技術も持ってるからね。  とにかくチャレンジャースピリットを持って、絶対に引かないこと。打ってくる相手に下がらずに踏み込んでいくこと。これはもう具体的な作戦の前に今回の試合に向けた一番大きなポイントだった。  ただアルファロのパンチは予想以上に強かった。目と耳に一発貰っただけで切れてたからね。2回にダウンを取られたけど、小堀が過去にダウンしたのは4回戦の頃に1度だけだからね。そんな強打を持った相手に対して踏み込んでいくのはかなり勇気の入ることだったと思うけど、小堀は恐れなかった。勇気を持って踏み込んでいけたことは大きな勝因だと思う。  そして肝心の試合だが、入り方も良かったな。こっちは立ち上がりから行くつもりだったから、そういう意味では1ラウンドは完璧だったと思うよ。行くところで行ったし、しっかり練習したことが試合で出来てたからね。最初からお互い激しいパンチの応酬でお客さんも興奮したんじゃないかな。  そして2ラウンド。中盤にアルファロの左フックをカウンターでもらい、バランスを崩したところに右をもらってスタンディングダウンを取られたんだが、ただ割と早いタイミングでダウンを取ってくれたおかげで、アルファロの追撃を食わずに済んだのがラッキーだった。大したダメージもなくて後半は逆に小堀が反撃してたからね。  とにかくこのラウンドを見ていて、ダウンを取られたこと以外は完全にこっちのペースだった。アルファロの攻撃は破壊力はあるが、極めてシンプルで分析通り。カウンターのタイミングが合ってきてたし、この時点で勝利の手応えを感じ始めてたかな。コーナーに戻ってきた時に「どうだ?」って聞いたら、あいつは「全然効いてません」って言うから、3回はゴーサインを出した。思い切り行ったれとね。  3回のダウンシーンは見事だったな。あの右からのカウンターの左フックはもう死ぬほど練習してきたコンビネーションだし、これ以上ないタイミングで入ったからね。小堀のKOパンチだし、まともに食らったらさすがのアルファロでも立ってられないよ。その後は本当に小堀らしいいつものまとめ方で、本当に小堀の集大成と言っていいほどの内容だった。 (2へ続く)


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posted by 田中栄民 |13:38 | 田中栄民の徒然なるまま日々のこと | トラックバック(0)
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2008年06月08日

 「激闘 リングの覇者を目指して」(岩崎大輔著)

 「激闘 リングの覇者を目指して」(岩崎大輔著)
 もっとボクシングを楽しみたい、もっとボクシングの魅力を知りたい。そんな方たちにオススメなのがボクシングを「読む」こと。ボクシングにまつわる歴史やさまざまなドラマと人間模様……。ボクシングについて書かれた活字を通して見識を広げることで、ボクシング観戦もますます楽しくなるはず。  写真週刊誌「フライデー」の現役記者・岩崎大輔氏が書いた「激闘 リングの覇者を目指して」(ソフトバンククリエイティブ刊)が話題だ。この本は、かつてボクシングが「キング・オブ・スポーツ」と呼ばれた時代から、名だたる日本人ボクサーの強豪を生んだフライ級に焦点を当てた1冊。  本書によれば、フライ級はもっとも日本人に馴染みが深く、ここ日本から多くの世界チャンピオンを輩出した階級である。戦後まもなく白井義男がフライ級で日本人初の世界チャンピオンとなって敗戦国の日本国民に大きな勇気を与えた。その後もファイティング原田、海老原博幸、青木勝利の「フライ級三羽ガラス」が日本のボクシング黄金期を支え、当時のボクシングは野球、相撲と並ぶ国民的なプロスポーツとなっていく。  そして時代は昭和から平成へ。日本人の体格が向上したこともあって、フライ級の上のスーパーフライ、バンタム級に辰吉丈一郎や薬師寺保栄、鬼塚勝也らタレントが集まるが、その後は人気にかげりが見え始め、日本のボクシングは低迷の一途を辿っていく。  しかしここ数年で、またしても「フライ級」を中心にボクシングがお茶の間の話題になり始めた。もはや説明不要、ご存じ亀田一家の登場である。長男の興毅、次男の大毅がフライ級を主戦場とし、現WBCフライ級世界チャンピオンの内藤大助は大毅との世界戦を争い、物議を醸した反則騒動もあった末に防衛に成功。「元いじめられっ子」「夫婦で月収12万円」など苦労人としての側面も手伝ってか、内藤は一躍「時の人」となる。  本書が面白いのは、時代の機敏を捉える写真週刊誌記者らしく世間を騒がず亀田家と内藤、そしてもう1人のフライ級世界チャンピオンにして亀田家と同じく協栄ジム所属の坂田健史という、平成の「フライ級三羽ガラス」を通して現在の日本のボクシング界の状況を綴っているところだろう。  一連の亀田家騒動に見る、ボクシング界にとっては難題とも言える「興行と競技」の両立の難しさを業界の内側から考え、そして幾度となく挫折を味わった内藤と坂田という2人の現役世界チャンピオンのこれまでの軌跡を辿り、ボクシングで世界の頂点に立つことの厳しさ、凄さを伝えるその目線は、著者のボクサーに対する尊敬の念が見てとれる。  ボクシングというスポーツの「光と陰」を率直に描き、そしてボクシングの奥深さを伝える1冊。ファンでなくとも純粋なスポーツノンフィクション、またはスポーツビジネス論としても面白く読めるはずだ。


posted by 角海老広報室 |14:34 | ボクシング書評 | トラックバック(0)
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2008年06月01日

『エピソードⅡ 黄色いグローブ』村木田一歩

3Rに『小堀さん』が放った左のショートフックで、『アルファロ』がダウンしたん
だけど、見ていた場所からはタテ位置だったので、何だか突然倒れてしまったように
見えた。帰宅してから「よーし、ゆっくり見てやるぞ。」と録画したものを再生して
みたら、何とこれも同じタテ位置だったもんでひっくり返ってしまった。

 

違う角度からのリプレイもなくて、消化不良気味だったけど、27日の再放送でやっ
と納得できた。

『小堀さん』の左はコンパクトに、だけどとても鋭く『アルファロ』の顎を斜めに打
ち抜いていた。

「あれで、あれほどのダメージかあ」とあらためて驚いてしまった。

パワーじゃなかった。タイミングだったのだ。

 

SKY-Aの再放送は、全く新たに編集し直してあって、『小堀さん』の会場入りの
様子や、試合直後のインタビューなども織り込まれていて、なかなか面白かった。

『田中トレーナー』がとてもとても嬉しそうだったなあ。

 

 

試合開始のゴングは後楽園ホールのものより鳴りが悪く、少しこもったような音がし
た。入場のときのスモークがまだ残っていて、リング上はアメリカの場末の酒場での
賭けボクシングの様相を呈していた。まるでメジャーデビュー前の『ロッキー・バル
ボア』の試合のようだった。

 

リングに登場してからの『小堀さん』は、いつもと同じペースと手順でルーティーン
のストレッチをこなしていた。ジムでスパーリングを始めるときと全く同じ感じだっ
た。

カメラを向けられると、いきなり意識が飛んでしまうような彼が、2000人近くがワー
ワー騒いでるこの場ではなんで平気なんだ?

どういう神経してるんだ? 

 
『エピソードⅡ 黄色いグローブ』
【1R】 オオッ、『アルファロ』のコンビネーションがいいぞ。ボディブローやらアッパーや らいろいろ持ってるとこ見せびらかしてるぞ。 リーチは『アルファロ』の方が10cm長いってことだけど、彼の左ジャブは数字以 上に伸びてきて『小堀さん』の顔面をビシッと刺してくる。 気を付けろ! 8オンスの“レイジェス”は効くぞ。 アレッ!『小堀さん』が珍しく相手のパンチを避けようとしてるぞ。 あんなにダギングやらウィービングしてるのは見たことがないぞ。 そうか、『アルファロ』のパンチが強いんだ。 と、次の瞬間「ドヤーッ」って感じの右のロングフックが『アルファロ』の顔面に叩 き込まれた。 オーッ、『アルファロ』がよろめいたぞ。 カクカクした足運びだぞ。そうか彼は、腰と膝の柔軟性がないんだ。 二人とも、まず様子を見るって感じじゃない。 お互いに1Rから倒しにいってるぞ。 とんでもないことになってるぞ。 『小堀さん』そんなにブンブン振って大丈夫かあ。 どっちか先にクリーンヒットしたら、それでお終いだ。 みんな心臓バクバクだぞ。 【2R】 『アルファロ』に追い足がなかったもんで、助かったなあーっ。 一つ前の左はとどいておらず、最後の右も浅かったので『小堀さん』と観客全員が命 拾いした。 相打ちのような展開の中で、『アルファロ』の左が、チョットだけクリーンにヒット したもの。 KO率90%というのはダテじゃないのだ。 45秒経過時点での紙一重の行き違い。 「もはやこれまでか、やっぱ世界の壁は……。」 『小堀さん』は、「トーチャン、どうしよう。」って感じで、ニュートラルコーナー から『田中トレーナー』を見やった。 スタッフから「あと2分!あと2分だぞ!」の声が上がる。 時間があり過ぎるぞ。 あの時『小堀さん』は、瞬間「ヤバイ!」と感じて、次には「応援してくれた人に顔 向けできなくなる。」「負けたらタカトビしなくちゃ。」と思ったそうだ。 そして、負けることがとても怖くなったという。 案の定、『アルファロ』はクールな面構えで決めに掛かってきた。 だが、実はこの時『小堀さん』は、ヘロヘロではなかったのだ。 そして、あの怒涛の反撃が始まった。 ブンブン右を振っていく。右ストレートからの左フックという、今日のテーマ“逆ワ ンツー”も忘れていない。 全く引かない。手負いの鬼のようだ。「コボリー!お前は男ぞおー!」 「お前、俺のパンチが効いてないのか。」と『アルファロ』が戸惑いながら打ち合っ てた次の瞬間、残り1分50秒あたり、つまり試合再開10秒ほどのところで、『小堀さ ん』の左が“バスン”と命中。 『アルファロ』は、さっきと同じようにまたカクカクッとなった。 これは効いた。間違いなく1Rのより効いた。 場内が“ゴワーッ”と湧き立った。 『アルファロ』の攻めが一段落した。 これで一息入れられる。 「コボリー、休めー!」と自分は怒鳴った。 ボカボカの殴り合いになったら、タイトに振ってくる『アルファロ』の方に分がある と思ったから。 それぞれいいパンチを貰った者同士に、わずかばかりの休息の時間が過ぎていった。 そして、残り55秒、またしても『小堀さん』の左が炸裂した。 この夜一番のパンチだったんじゃないかな。 ハッキリとしたダメージを受けて後ずさりし始めた『アルファロ』を『小堀さん』は 追いまくった。 形勢は一瞬で逆転して、もう場内大騒ぎ! 『アルファロ』は明らかにクリンチで休みたがっていた。 『小堀さん』は脱ぎにくいセーターを、無理やり脱ぐようにもがいてクリンチを解き たがっている。 チャンスだと思っている証拠だ。ガンガン行きたがっているんだ。 試合後『アルファロ』は「2Rにもっと攻め込むべきだった。」と、インタビューに 答えていたらしいけど、それは違うと思う。 『小堀さん』の左を喰らってからは、君はそれどころではなかったはずだよ。 最後の10秒ほどは、二人とも鬼のようだった。『アルファロ』もさすがに根性のある ところを見せていた。 インターバルで『小堀さん』はいつものように頭を軽く左に傾けながら、上目使いに 『田中トレーナー』の話を聞いていた。 マイクが「ひだり」という言葉を拾っていた。 一方『アルファロ』の方は、右目の下が赤く腫れて、明らかにダメージを負っている ようだった。 左フックだ。『小堀さん』の左フックが効いてるんだ。 この時点で既に『アルファロ』は、相当まいっていたんじゃないのかな。 3Rでは『小堀さん』が「えっ、君これくらいで倒れちゃうの?」って感じだったか らね。 【3R】 アッ、『アルファロ』がまたアッパー打ってきた。必死にペースを取り戻そうとして るんだ。 始まって30秒ほどのとろで、出たっ! 『小堀さん』の例の、距離を測りながらの、グローブクルクル! これは、調子のいい時や、勝てそうだなと感じた時の、彼独特のパフォーマンスなの だ。 ということは、どうすれば相手を倒すことができるか、その答えが出たっていうこと かあ! 直後にワンツーが決まる。 オオーッ!これだー!『小堀さん』が乗ってきたぞ! 本当に倒すつもりだぞ! 残り1分15秒。来たーっ!  一つ前に薄く当てた左フックと同じ感覚で、もう一度右ストレートから返しの左 ショートフックが、今度はまともに当たった。 流れの中で決まった。 みんな半狂乱! 『アルファロ』は左手を捻りながら倒れた。これはものすごく効いてるっていう証 拠。 ニュートラルコーナーで『小堀さん』は二度『田中トレーナー』の指示を仰いだ。 「トーチャン、行っていい?」 『田中トレーナー』は多分突き上げた親指を逆さまにして、「行けっ!ぶちのめ せ!」と指示を出したに違いない。 カウントエイトで何とか立ち上がった『アルファロ』は、胸で十字を切った。 「神様、助けて!」 そこからの『小堀さん』の連打が凄かった。何がって、今までなら、「どれか当た れ」って感じのブンブン大振り大作戦だったのが、小さく回転の速いフックとスト レートを混ぜて、そのパンチの殆どを当てていたからね。あんなこともできるんだ。 感動したなあ。 往時の『ファイティング原田さん』を彷彿させるようなラッシュだった。だけど、ラ イト級だぜえ。 その間『アルファロ』は、結局ただの一発のパンチも返すことができず、レフェリー に抱きかかえられた。 FINISH ! FINE ! THE END ! 【エピローグ】 2Rのインターバルの時までは、それほどではなかったのに、試合が終わった後の 『小堀さん』の右目は見たことないほど腫れあがっていた。 いつ腫れたの? 『アルファロ』のパンチも半端じゃなかったんだ。文字通りの激闘 だったのだ。危なかったんだ。 レフェリーがストップをかけた途端、リングサイドのカメラマンたちが一斉にロープ 際に上がってしまったので、リング上がどうなってるのか全く見えなくなってしまっ た。録画で見たら、中は中で大変な事になっていたけど、場内はもっと大変だった。 本当に凄いことになっていった。 観客まるごとが、異次元へ吹っ飛んで行ってしまったようだった。 「俺もこんなにハシャグことがあるんだ。」と自分に驚いた。 控え室に続く通路で、セミファイナルで『モセス』に負けた『ヤウゲン・クルーグ リック』が『小堀さん』に「コングラッチュレーション!」と声を掛けた。『小堀さ ん』は丁寧に頭を下げていた。 ニカラグアからやって来た記者が言ってた。 「階級を上げたばかりの初戦だっていうのに、なんて奴なんだ。」 「今日貰ったパンチだったら、どの選手でも倒れる。」 この試合で、チャンピオンはブルーのグローブを選び、『小堀さん』は黄色を選ん だ。 黄色は手が長く見えて、パンチが伸びるように感じるからなんだってさ。なるほどな あ。 狂乱の結末だったせいか、新チャンピオンのグローブを外すためのハサミが紛失して しまって、その結果『小堀さん』はズーッとその黄色いグローブをはめたままだっ た。 そのせいで、本当にそのせいで、何とその黄色のグローブに巻かれてあったグローブ テープをゲットすることができた。 切断されなくて、きれいに巻き戻された後、二本をグジュグジュにしたのが無造作に 捨てられてあったのを、ツテを頼って、貰い受けたんだ。 グジュグジュのかたまりをほぐして、二本のヒモにするまでに30分以上かかった。 今、自分の部屋に下がっているんだけど、その所々にオレンジのマジックで“WB A”とサインされた痕跡が、しっかりと残っている。 見てると、今でもジーンと胸に来る。 これは一生の宝物。死んだ時、棺の中に入れてもらおうと思っている。 翌日からのあれやこれやで、23日に会ったとき『小堀さん』は、かなり参っている様 だった。 それでどうやら、しばらく一人旅に出るようだ。 どこかで『小堀さん』を見かけても、声は掛けない方がいいかも知れない。 多分『小堀さん』はボクサーじゃなくなっていると思うから。


posted by 村木田一歩 |16:51 | コラム-リングサイド | トラックバック(0)
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