2008年08月01日

『当て勘』村木田一歩

『当て勘』村木田一歩
今となっては面影さえないが、自分はこれでも中学時代は結構ブイブイ言わせていた。 クラス男子の半数ほどが停学経験者という恐ろしく荒れた環境の中で、 放課後になるやいなや、女子や興味を示さない男子生徒たちを追い出すように返した後、 窓にカーテンを引き、二つの出入り口に見張りを立て、机と椅子をゴッソリ後ろに移動させて、 できたスペースで自分たちはよくボクシングをした。 不動産屋のバカ息子が、ある日ボクシンググローブを二組持ってきたのが始まりだった。 いろいろな相手とやっているうちに、自分は周囲から一目置かれるようなポジションになっていった。 持久力はカラキシだが、もともと短距離走などの瞬発力勝負には自信があったし、 テレビのボクシング中継は欠かさず見ていて、夜の公園で人目に付かないようにシャドウらしきことにも熱心だったので、 評判を聞いてやって来た他のクラスの挑戦者たちもことごとく打ち負かした。 一度など、アメリカ兵と飲み屋のママとの間に生まれたっていう噂のあった、 パツキンハーフのスケ番の彼氏を10秒ほどでブチ倒した時は、 それはもうエライ騒ぎになって、校舎の裏に呼び出されて女ばかり7~8人に囲まれてしまったな。 「アタイの彼氏に何してくたのよ。」ってとこだけど、 後ろで黒人ハーフの正番長が見ていて、そいつが事情を説明してくれたもんで何とか収まった。 あの頃の横浜には米軍の居留地も近くにあって、いろんな人種がいて面白かったなあ。 ヘッドギアなんてものはなかったので、一応全力打ちはナシってことだったけど、 それでもクラスの中に青タン赤タンがやたら増えてくるし、 学校にも親達から問い合わせがバンバン来たもんで、 自分たちのボクシング教室は、結局1ヶ月ほどで消滅してしまった。 その間殴られる快感(?)も経験したし、腹を打たれて吐き気が止まらなかったこともあったが、 カウンターの気持ち良さと威力も知った。 そんなに力を込めなくても人を倒すことができること、 どのくらいの強さで手を出したらいいのか、拳をどれくらい伸ばしたときに相手に当たるイメージを持てるかが結構ポイントで、 防御と次の攻撃のために腕の引きも大事なんじゃないかとボンヤリ思ってた。 力を込めたフックより、早いストレートパンチが大好きだったな。 幼い頃の拙い経験しかないが、ボクシングって要するに攻守それぞれのリズムとタイミング、スピード、 それとパンチの当て勘が全てじゃないかと……。 そしてこれらは、その後の練習で習得されるものではなく、 各個人にそれぞれ決まったレベルで生まれ付いているものではないかと思っている。 それと、人種によってもレベルに大きな違いがあるのではないかとも思う。 狩猟系と農耕系の民族とでは、初めから持っている能力の質と量の差には、埋めがたいものがあるのではないかな。 才能と努力のそれぞれの重要性について、いろいろ議論があるところだけど、 自分はことボクシングにおけるフィジカル面は、基本的には、才能80%、努力20%ではないかと思っている。 相手のパンチをグローブでガードするか、体を動かしてやり過ごすのかの瞬間の判断は、 打ち返しを意図した上でのディフェンスのタイミング勘によるのだろうし、 最も効果的にパンチを出すタイミングと相手の急所に的確にパンチを当てる当て勘も生来のものなのではないか。 極論になるかもしれないが、ある程度のスタミナを前提とすれば、 生れつきタイミングと当て勘の優れたボクサーなら、殆ど何もしないでも6位くらいまでのランカーにはなれるんじゃないかな。 でも、それ以上を目指すなら、やっぱりレベルの高い練習と経験、それにハートだな。


posted by 村木田一歩 |17:59 | トラックバック(0)
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