2006年02月15日

[インタビュー]・内館牧子

『週末婚』や『ひらり』など数々の人気ドラマの原作を手がけてきた脚本家の内館牧子さん。子供の頃から大のボクシングファンであると同時に、長年にわたる角海老宝石ボクシングジムのサポーターでもある。NHK朝の連続ドラマ小説として2000年4月から放送され、あまりの人気ぶりに異例の続編まで制作された『私の青空』ではボクサーを題材に取り上げ、その舞台となったボクシングジムのモデルが、実は大塚にある角海老ジムだったというのはあまり知られていない事実。ドラマでの付き合い以降、角海老の選手が出場する試合は皆勤賞と言えるほど観戦。またプライベートでも選手を食事に連れて行ってくれたりと、公私にわたって角海老ジムを応援し続けてくれている内館さんにお話を伺ってきた。


=ファイティング原田がアイドルだった女子中学生=

 ボクシングにはまったきっかけは今でもはっきり覚えています。中学1年生、13歳の時でした。後にフライ級とバンタム級の2階級で世界王者になったファイティング原田さんの試合を観て入れ込んでしまったんです。イケメンだったというのもあるのですが、とにかくあの休みないラッシュに魅せられてしまったんです。その頃、友人たちはビートルズだ、プレスリーだって騒いでいた時期だったんですが、なぜか私のアイドルはファイティング原田さんでした。雑誌の切り抜き写真を生徒手帳に入れたりして、親が心配するくらい変な子供で。

内館牧子
私はボクシングだけじゃなくて子供の頃から格闘技が好きで、相撲は一番古くて4歳の時から、5歳の時には街頭テレビで力道山を観たことがきっかけでプロレスにもはまってしまいました。だから私の中で格闘技というのは相撲、プロレス、ボクシングの3つ。なぜ格闘技が好きかと考えると、たぶん幼い頃のトラウマなのかもしれない。幼稚園の時にいつもいじめられていたのを助けてくれたのがすごく大きな男の子で、その時の思いをずっと引っ張っているんでしょうか、強い男に憧れるんです。 その中でもボクシングは子供には、特に女の子にはなかなか入りにくい格闘技だと思うんですが、私の場合は相撲とプロレスで免疫があったのか、すんなり入れました。何が強烈だったかというと、明確な体重制限の元に行われているからボクサーは体をものすごくストイックに絞り込むでしょう。小さな体で、グローブを付けて拳だけで戦うというのが相撲ともプロレスとも違う、まるで獲物を狙う動物のような、こんな凄まじい格闘技があるんだなって強烈な印象を受けました。 当時女学生が読む雑誌に「ファイティング原田物語」が連載されてたの。絶対にホントよ。私読んでたもの。その中に、家計を助けるためにお米屋さんでアルバイトをしながらボクシングをしていた話とか、減量中に水洗便所の水を飲もうと思った話とか、そうしたハングリーなドラマが出ていて。当時の日本は今のように裕福ではなかったから、ハングリースポーツはボクシングだけではなかったけれど、「減量」というボクサー特有のドラマには心を打たれましたね。 =撮影中のエピソードもボクサーならでは= それからOL時代は忙しくなって、なかなか観戦できない時期もあったんですが、今でも多い月には4?5回、最低でも2回は後楽園ホールに足を運び、ボクシング観戦を続けています。中でも角海老ボクシングジムには特別思い入れがあるんです。それはNHKの『私の青空』という連続ドラマがきっかけだったんですが、ちょうどドラマの構想を練り始めた1999年の夏ごろだったと思います。どうしてもボクサーを題材にしたドラマを描きたいと思って、協力してくれるジムを探していた時に出会ったのが角海老さんでした。オーナーの鈴木正雄さんとNHKの諏訪部章夫プロデューサーが意気投合して全面的に協力してくれることになり、脚本を書くために色々取材させてもらいました。だから『私の青空』には角海老の選手にたくさん出演してもらいましたし、ドラマの舞台となった利根川ジムのモデルは角海老宝石ボクシングジムです。撮影中、ボクサーならではのエピソードがいっぱいありましたよ。 例えば坂本(博之)君には、主人公のなずな(田畑智子)の元夫、健人(筒井道隆)の対戦相手として出演してもらったんですね。NHKのスタジオに立派なリングのセットを組んで、戦い方の台本を事前に決めていたんです。つまり殺陣です。坂本がこうストレートを打つから筒井はこうかわす、とかね。もちろん坂本君もリハーサルでは完璧でした。ところが、「本番!」って監督の声がかかり、まるで本物のリングのようにパッと照明が当てられた瞬間、突然坂本君が飛び出して筒井君に綺麗なジャブを入れてしまったんです。筒井君はふっとびましたよ。坂本君も大慌てで謝ってましたけど、監督は「イヤァ、いいシーンだ」って言って、それを使っちゃった。ライトを浴びた瞬間にスイッチが入ってしまったんだと思います。ボクサーの本能としか言いようがない、坂本君らしい出来事でした。 榎(洋之)君もドラマの撮影中に面白かったのよ。筒井君の対戦相手として榎君がリングで大の字になって負けるシーンだったんですが、撮影当日になると、なんだか彼の様子がおかしくて。「どうしたの?」って聞いたら、「内館さん、俺負けるの嫌だ」って言うんです。「芝居だから」と言っても、「芝居でも嫌だ。俺、ノックアウトされたことないのに、そんな芝居嫌だ」って聞かないんです。スタッフ一同おかしくて笑ってしまって、結局なだめてなんとか撮影しましたけど、榎君の負けず嫌いは本物だなと。 =過酷な世界で生き抜くボクサーたちの素顔とは= このドラマ以降、榎君をはじめ坂本君、本望(信人)君、イーグル(京和)君、引退してしまったけど阿部(弘幸)君、前田(宏行)君、中島(吉謙)君らとすっかり仲良くなって、角海老の選手の試合は皆勤賞と言えるくらい観に行ってます。NHKの諏訪部プロデューサーは大河ドラマ『義経』のチーフですが、彼も忙しい合間を縫って角海老の試合は皆勤です。それと、榎君は私と同じ秋田出身ということもあり、ノンフィクションの単行本『夢を叶える夢を見た』(幻冬舎)で榎君を取り上げました。その時、実家にも取材に行ったんですが、すごく素敵なお家で三人兄弟の末っ子のお坊ちゃん。何不自由ない暮らしからプロボクシングという過酷な世界に身を投じて必死で自分の夢を追いかけている。そんな彼の姿には惹かれますね。
内館牧子
最近ではその次の世代の小堀(佑介)君、木嶋(安雄)君、渡邊(一久)君、宮田(芳憲)君なんかにも注目してますよ。上の世代は食事に誘うこともあるんですが、一見ヤンチャ坊主に見えるんだけど、実はすごく真面目で素直な子たちなんですよね、角海老の選手からはそういう印象をすごく受けます。 それと、ボクシングという極めて特殊な厳しいスポーツの中で生き抜いているボクサーたちは、それぞれ様々なドラマ、バックグラウンドを抱えていて、そうしたドラマを間近で見せてもらっているというのは脚本家としても大きな力になっています。チケットでファイトマネーが支払われたり、その他のスポーツと違って破格のお金持ちになれるわけじゃないし、見返りも少ないのに命を削って一生懸命頑張っている。私には高校生の甥っ子がいるんですが、もしボクサーになりたいと相談でもされたら悩みますよ。今の世の中なら何でもできるのに、あえて辛くて厳しいことを進んでやる根性が本当にあるのか見極めないと。甘くない世界ですから。私自身、安定したOLとしての人生を捨てて脚本家になったので、ボクシングが好きで夢を掴もうとしている少年たちの姿というのは応援したいし、見ていて本当に純粋だなと思います。 私は常々思っているんですが、世の中のボクシングの認知度の低さというのは残念なことです。ボクシングで世界のトップに立つということはものすごく大変なことなのに、日本人が世界王者になっても全国紙の1面を飾ることはまずない。だから私は「とにかく一度後楽園ホールで見れば分かるから」って周りの人を観戦に連れて行くんです。そうすると、みんな必ず面白がってはまってしまうの。ボクシングの聖地と言われる後楽園ホールで観てこそボクシングの面白味が分かると思うんです。ボクサーといっても榎君、坂本君のようなハードパンチャーもいれば、イーグル君や本望君のようなスピーディーでテクニカルなタイプもいる。観客には詳しい玄人の方も多いので、見所などは積極的に聞いて色々教えて頂いています。ぜひ多くの方々に、そうやってもっとボクシングを楽しんでほしいですね。 最近では会場に行って角海老の選手が勝つと、知り合いから「おめでとうございます」と言われてしまうくらい露骨に応援しているので、選手の皆さんにはこの場を借りて「今度は黒いベルトじゃなくて緑色の世界のベルトを見せてね」と厳しいハッパをかけておきます。(談)


■プロフィール
内館牧子::脚本家
1948年9月10日生まれ、秋田市出身。武蔵野美術大学卒業後、三菱重工に入社。 13年間のOL生活を経て脚本家に。代表作には『都合のいい女』(フジテレビ)、『週末婚』(TBS)、『汚れた舌』(TBS)、『ひらり』(NHK朝の連続テレビ小説)、『私の青空』(NHK朝の連続テレビ小説)、『毛利元就』(NHK大河ドラマ)など。 93年には『ひらり』で第1回橋田寿賀子賞受賞。現在東北大学大学院文学研究科に在籍し、相撲をテーマに宗教学を専攻。また女性初となる日本相撲協会の横綱審議委員を務め、東北大学相撲部監督でもある。

posted by 角海老広報室 |21:43 | 対談・インタヴュー | コメント(0) | トラックバック(0)
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